《第34話》チュウトニュウシャ。
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翌日の昼休み。
営業部と秘書課の中途入社組が集まっていた。
昨日、神田に告白して玉砕した女性社員もいる。
彼女はしばらく黙っていたが、ぽつり。
「……みんなに言っておきたいことがある」
「何ですか?」
「神田さん……彼女いるって」
「え!?」
中途入社組が一斉に顔を上げる。
「しかも……」
女性社員が、昨日見た光景を思い出す。
「秘書課の女神さん」
「…………」
「神田さんと、付き合ってる」
「………………え?」
一瞬。
誰も喋らない。
「いやいやいや」
「待って」
「女神さんって……あの女神さん?」
「そう」
「営業部の魔王と?」
「そう」
「……マジ?」
「マジ」
その瞬間。
薫に密かに想いを寄せていた男性社員たちの顔色が変わった。
「…………」
「…………」
「…………」
昨日まで、
『今度、食事に誘おうかな』
『連絡先聞いてみようかな』
『彼氏いるか聞いてみようかな』
なんて話していた男たち。
全員、無言。
そして一人が震える声で。
「……俺、この前……女神さんに仕事終わり、食事誘おうとして……」
「俺も」
「俺なんて……この前プレゼント渡そうとしてた」
「…………」
全員、固まる。
「……待って」
「何?」
「ってことは俺ら……」
「…………」
「魔王の彼女にアプローチしようとしてたってこと?」
「………………」
「終わった」
「殺される」
「いや殺されねえよ」
「でも魔王だぞ!?」
「怖いっていう噂の?」
「そうだよ!!」
営業部の先輩社員が横から口を挟む。
「お前ら」
「はい!」
「神田は仕事と私情を混ぜるような奴じゃないから、別に何もしない」
「……本当ですか?」
「ああ」
「よかった……」
ほっとする中途入社組。
先輩社員は続ける。
「ただし」
「ただし?」
「女神に馴れ馴れしくしてるところを見られたら、めちゃくちゃ怖いぞ」
「…………」
「あと、女神本人が嫌がってるのにしつこくしたら――」
「したら?」
「神田じゃなくても、俺らが止める」
「…………はい」
その頃、秘書課。
「おはようございます」
「おはようございます、女神さん!」
いつも通り笑顔で入ってくる薫。
中途入社の男性社員たち。
「…………」
「…………」
「…………」
目が合う。
「?」
薫がにこっと笑う。
「おはようございます」
「お、おはようございます!」
「……っ」
全員、目を逸らす。
薫は首を傾げる。
「……?」
その様子を見ていた先輩社員たちは、必死に笑いを堪えている。
そして営業部では――
「神田さん、おはようございます」
「……おう」
いつも通り怖い顔で入ってくる神田。
中途入社の女性社員。
「…………」
昨日告白した相手。
気まずそうに視線を逸らす。
神田は気にも留めない。
そのまま自分の席へ向かう。
しばらくして、スマホを見る。
薫からメッセージ。
『今日お昼一緒に食べよー』
神田の口元がほんの少し緩む。
「……おう」
小さく呟く。
それを見た先輩社員。
「……あーあ」
「何ですか?」
「お前ら、これからもっと驚くぞ」
「え?」
「魔王、女神の前だと別人だから」
中途入社組。
「…………見てみたい」
「……でも怖い」
「いや、ちょっと見たい」
その日の昼。
二人が並んで歩いてくる。
「ユウ、お待たせ」
「ああ」
「今日何食べる?」
「お前が食いたいもんでいい」
「じゃあパスタ!」
「分かった」
――中途入社組、全員絶句。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あれが魔王?」
「……女神にだけ優しいって噂、本当だったんだ」
そして薫は何も知らずに笑っている。
「ユウ、今日帰り一緒に帰ろ」
「ああ」
中途入社組の男たちは、そっと目を伏せた。
――告白する前で、本当によかった。
昼休み。
中途入社組は、昨日聞かされた衝撃の事実
「神田さんと女神さんは付き合っている」
を、まだ引きずっていた。
「……でもさ」
「ん?」
「本当に付き合ってるなら、もっとこう……分かりやすくない?」
「俺も思った」
「会社では普通に『神田さん』『中田』だよな?」
「そうそう」
秘書課の先輩社員が笑う。
「まあ、あの二人は会社では仕事と私情を完全に分けてるからな」
「え……?」
ちょうどその時。
「神田さん、この資料なんですが」
「……ん。ここ、数字が一つ違う」
「あ、本当だ。ありがとうございます」
「直しておけ」
「はい」
「中田、この資料頼む」
「分かりました」
いつも通り。
淡々と仕事をする二人。
中途入社組がじっと見る。
「……普通だ」
「めちゃくちゃ普通」
「本当に付き合ってるの?」
先輩社員が吹き出す。
「だから、見てれば分かるって」
「どこがですか!?」
数時間後。
営業部から神田が秘書課へ資料を持ってくる。
「中田」
「はい」
薫が顔を上げる。
「これ、社長確認済みだ」
「ありがとうございます」
「あと、これも」
「わ、助かります」
「……忙しそうだな」
「ちょっとだけ。でも大丈夫ですよ」
「そうか」
それだけ。
神田は戻っていく。
「…………」
中途入社組、無言。
「今のどこが?」
先輩社員がニヤニヤ。
「よく見てみ」
「?」
「神田、他の人にあんな柔らかい声出すか?」
「…………」
「出さない」
「確かに……」
「あと薫さんも、他の営業にはもっと事務的だろ?」
「……あ」
薫が別の社員に資料を渡す。
「こちらお願いします」
「はい、ありがとうございます!」
「よろしくお願いします」
その直後、神田に向き直る。
「神田さん、さっきの資料、本当にありがとうございました」
「……ああ」
ほんの少しだけ、笑う。
「……?」
「今、笑いました?」
「え?」
「神田さんが」
「…………」
「笑った……?」
営業部の先輩が肩を震わせる。
「そういうとこだよ」
「いやいやいや!」
中途入社の男性社員が首を振る。
「そんなの分かんないですよ!」
「分かるって」
「だって呼び方も普通じゃないですか!」
「それもそう」
「『神田さん』『中田』ですよ!?」
先輩社員たち、顔を見合わせる。
そして笑う。
「あれで付き合ってるとかわかんないですよ」
「うん、まあ最初はな」
「じゃあ、どうやって分かるんですか?」
先輩社員が二人の方を見る。
「見てればわかるよ」
「どこを?」
「……空気」
「空気?」
「あの二人さ」
神田が薫のデスクの横を通る。
薫が顔を上げる。
目が合う。
「……」
「……」
ほんの一瞬。
二人とも、ふっと表情が柔らかくなる。
それだけ。
けれど、次の瞬間には何事もなかったように仕事へ戻る。
「ほら」
「…………」
「分かった?」
中途入社組は黙る。
「……なんとなく」
「だろ?」
「でも……」
男性社員が苦笑する。
「めちゃくちゃ微妙な差ですよ」
「それが分かるようになるんだよ」
「慣れると?」
「そう」
先輩社員が笑う。
「毎日見てると、『あ、今のは恋人同士の顔だ』って分かるようになる」
中途入社組。
「…………奥深い」
「ちなみに」
「はい?」
「神田が薫さんのデスクの前を通る回数、数えてみ」
「え?」
「仕事上必要な回数より、ちょっと多いから」
「…………」
全員が神田を見る。
神田がまた秘書課へ向かっている。
「……」
「……」
「……本当だ」
先輩社員たちが爆笑する。
「な?魔王、分かりやすいだろ?」
「いや、全然分かりませんよ!」
「女神さんも同じくらい分かりにくいぞ」
「え?」
「神田が来ると、ほんのちょっと嬉しそうになる」
「…………」
中途入社組は、二人を交互に見る。
そしてようやく。
「……あ」
「分かった?」
「……なんか、二人とも他の人と話す時より、ちょっとだけ優しい」
「それそれ」
「でも、会社では絶対にベタベタしない」
「そこは徹底してる」
「……なるほど」
先輩社員は笑いながら一言。
「だから言っただろ?」
「見てればわかるよ」
営業部と秘書課の中途入社組が集まっていた。
昨日、神田に告白して玉砕した女性社員もいる。
彼女はしばらく黙っていたが、ぽつり。
「……みんなに言っておきたいことがある」
「何ですか?」
「神田さん……彼女いるって」
「え!?」
中途入社組が一斉に顔を上げる。
「しかも……」
女性社員が、昨日見た光景を思い出す。
「秘書課の女神さん」
「…………」
「神田さんと、付き合ってる」
「………………え?」
一瞬。
誰も喋らない。
「いやいやいや」
「待って」
「女神さんって……あの女神さん?」
「そう」
「営業部の魔王と?」
「そう」
「……マジ?」
「マジ」
その瞬間。
薫に密かに想いを寄せていた男性社員たちの顔色が変わった。
「…………」
「…………」
「…………」
昨日まで、
『今度、食事に誘おうかな』
『連絡先聞いてみようかな』
『彼氏いるか聞いてみようかな』
なんて話していた男たち。
全員、無言。
そして一人が震える声で。
「……俺、この前……女神さんに仕事終わり、食事誘おうとして……」
「俺も」
「俺なんて……この前プレゼント渡そうとしてた」
「…………」
全員、固まる。
「……待って」
「何?」
「ってことは俺ら……」
「…………」
「魔王の彼女にアプローチしようとしてたってこと?」
「………………」
「終わった」
「殺される」
「いや殺されねえよ」
「でも魔王だぞ!?」
「怖いっていう噂の?」
「そうだよ!!」
営業部の先輩社員が横から口を挟む。
「お前ら」
「はい!」
「神田は仕事と私情を混ぜるような奴じゃないから、別に何もしない」
「……本当ですか?」
「ああ」
「よかった……」
ほっとする中途入社組。
先輩社員は続ける。
「ただし」
「ただし?」
「女神に馴れ馴れしくしてるところを見られたら、めちゃくちゃ怖いぞ」
「…………」
「あと、女神本人が嫌がってるのにしつこくしたら――」
「したら?」
「神田じゃなくても、俺らが止める」
「…………はい」
その頃、秘書課。
「おはようございます」
「おはようございます、女神さん!」
いつも通り笑顔で入ってくる薫。
中途入社の男性社員たち。
「…………」
「…………」
「…………」
目が合う。
「?」
薫がにこっと笑う。
「おはようございます」
「お、おはようございます!」
「……っ」
全員、目を逸らす。
薫は首を傾げる。
「……?」
その様子を見ていた先輩社員たちは、必死に笑いを堪えている。
そして営業部では――
「神田さん、おはようございます」
「……おう」
いつも通り怖い顔で入ってくる神田。
中途入社の女性社員。
「…………」
昨日告白した相手。
気まずそうに視線を逸らす。
神田は気にも留めない。
そのまま自分の席へ向かう。
しばらくして、スマホを見る。
薫からメッセージ。
『今日お昼一緒に食べよー』
神田の口元がほんの少し緩む。
「……おう」
小さく呟く。
それを見た先輩社員。
「……あーあ」
「何ですか?」
「お前ら、これからもっと驚くぞ」
「え?」
「魔王、女神の前だと別人だから」
中途入社組。
「…………見てみたい」
「……でも怖い」
「いや、ちょっと見たい」
その日の昼。
二人が並んで歩いてくる。
「ユウ、お待たせ」
「ああ」
「今日何食べる?」
「お前が食いたいもんでいい」
「じゃあパスタ!」
「分かった」
――中途入社組、全員絶句。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あれが魔王?」
「……女神にだけ優しいって噂、本当だったんだ」
そして薫は何も知らずに笑っている。
「ユウ、今日帰り一緒に帰ろ」
「ああ」
中途入社組の男たちは、そっと目を伏せた。
――告白する前で、本当によかった。
昼休み。
中途入社組は、昨日聞かされた衝撃の事実
「神田さんと女神さんは付き合っている」
を、まだ引きずっていた。
「……でもさ」
「ん?」
「本当に付き合ってるなら、もっとこう……分かりやすくない?」
「俺も思った」
「会社では普通に『神田さん』『中田』だよな?」
「そうそう」
秘書課の先輩社員が笑う。
「まあ、あの二人は会社では仕事と私情を完全に分けてるからな」
「え……?」
ちょうどその時。
「神田さん、この資料なんですが」
「……ん。ここ、数字が一つ違う」
「あ、本当だ。ありがとうございます」
「直しておけ」
「はい」
「中田、この資料頼む」
「分かりました」
いつも通り。
淡々と仕事をする二人。
中途入社組がじっと見る。
「……普通だ」
「めちゃくちゃ普通」
「本当に付き合ってるの?」
先輩社員が吹き出す。
「だから、見てれば分かるって」
「どこがですか!?」
数時間後。
営業部から神田が秘書課へ資料を持ってくる。
「中田」
「はい」
薫が顔を上げる。
「これ、社長確認済みだ」
「ありがとうございます」
「あと、これも」
「わ、助かります」
「……忙しそうだな」
「ちょっとだけ。でも大丈夫ですよ」
「そうか」
それだけ。
神田は戻っていく。
「…………」
中途入社組、無言。
「今のどこが?」
先輩社員がニヤニヤ。
「よく見てみ」
「?」
「神田、他の人にあんな柔らかい声出すか?」
「…………」
「出さない」
「確かに……」
「あと薫さんも、他の営業にはもっと事務的だろ?」
「……あ」
薫が別の社員に資料を渡す。
「こちらお願いします」
「はい、ありがとうございます!」
「よろしくお願いします」
その直後、神田に向き直る。
「神田さん、さっきの資料、本当にありがとうございました」
「……ああ」
ほんの少しだけ、笑う。
「……?」
「今、笑いました?」
「え?」
「神田さんが」
「…………」
「笑った……?」
営業部の先輩が肩を震わせる。
「そういうとこだよ」
「いやいやいや!」
中途入社の男性社員が首を振る。
「そんなの分かんないですよ!」
「分かるって」
「だって呼び方も普通じゃないですか!」
「それもそう」
「『神田さん』『中田』ですよ!?」
先輩社員たち、顔を見合わせる。
そして笑う。
「あれで付き合ってるとかわかんないですよ」
「うん、まあ最初はな」
「じゃあ、どうやって分かるんですか?」
先輩社員が二人の方を見る。
「見てればわかるよ」
「どこを?」
「……空気」
「空気?」
「あの二人さ」
神田が薫のデスクの横を通る。
薫が顔を上げる。
目が合う。
「……」
「……」
ほんの一瞬。
二人とも、ふっと表情が柔らかくなる。
それだけ。
けれど、次の瞬間には何事もなかったように仕事へ戻る。
「ほら」
「…………」
「分かった?」
中途入社組は黙る。
「……なんとなく」
「だろ?」
「でも……」
男性社員が苦笑する。
「めちゃくちゃ微妙な差ですよ」
「それが分かるようになるんだよ」
「慣れると?」
「そう」
先輩社員が笑う。
「毎日見てると、『あ、今のは恋人同士の顔だ』って分かるようになる」
中途入社組。
「…………奥深い」
「ちなみに」
「はい?」
「神田が薫さんのデスクの前を通る回数、数えてみ」
「え?」
「仕事上必要な回数より、ちょっと多いから」
「…………」
全員が神田を見る。
神田がまた秘書課へ向かっている。
「……」
「……」
「……本当だ」
先輩社員たちが爆笑する。
「な?魔王、分かりやすいだろ?」
「いや、全然分かりませんよ!」
「女神さんも同じくらい分かりにくいぞ」
「え?」
「神田が来ると、ほんのちょっと嬉しそうになる」
「…………」
中途入社組は、二人を交互に見る。
そしてようやく。
「……あ」
「分かった?」
「……なんか、二人とも他の人と話す時より、ちょっとだけ優しい」
「それそれ」
「でも、会社では絶対にベタベタしない」
「そこは徹底してる」
「……なるほど」
先輩社員は笑いながら一言。
「だから言っただろ?」
「見てればわかるよ」