《第26話》ハイシンジコ。
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「こんばんはー!」
いつものキッチンの前。
「今日は暑い日だったねぇ」
氷をたっぷり入れたグラスを二つ並べる。
そのまま自然な手つきで、ジンを量り、ライムを搾り、炭酸水を注いでいく。
コメント欄。
『ジンリッキーだ!』
『夏に最高!』
薫はいつものように説明を続ける。
「甘くないから、ご飯にも合わせやすいカクテルなんだよ」
二つとも同じように仕上げて、ライムを飾る。
そこで手が止まった。
「あ」
コメント欄。
『ん?』
『どうした?』
薫はグラスを見比べる。
「あはは」
照れ笑い。
「癖で二人分作っちゃった」
コメント欄が一瞬静まり、
次の瞬間、一気に流れ始める。
『え、二人分!?』
『誰かいるの!?』
『誰の分!?』
『まさか彼氏!?』
薫は「あっ」という顔をして口元を押さえる。
「えっと……」
少しだけ考えてから笑った。
「同居人の分です」
コメント欄。
『同居人!?』
『初情報!』
『一緒に住んでる人いるんだ!』
薫は慌てて手を振る。
「いやいや、大した話じゃなくて。部屋が広いから」
コメント。
『ルームシェア?』
『シェアハウスみたいな感じ?』
『家族?』
「んー」
薫は少し言葉を選ぶ。
「ルームシェア……みたいなものかな」
嘘ではない。
けれど本当のことも言っていない。
コメント欄は勝手に盛り上がる。
『都会はそういうのあるよね!』
『家賃高いもんね!』
『確かに広い部屋だったし!』
「そうそう」
苦笑しながら話を合わせる。
「一人だと広すぎるからね」
ちょうどその時。
スマホの隣から、黒いTシャツ姿の神田が、顔は映らない位置から手だけ伸ばす。
薫は何も言わず、作ったもう一つのグラスを渡す。
神田は小さく頷いて受け取り、
「……ありがと」
低い声だけ残してソファに戻る。
コメント欄。
『今の誰!?』
『同居人!?』
『男の人!?』
『声だけ聞こえた!』
薫は一瞬固まったあと、
「あはは……」
乾いた笑い。
「配信中なの忘れてた」
コメント欄はさらに加速する。
『やっぱりルームシェア!?』
『仲良さそう!』
『兄妹?』
『幼なじみ?』
薫は慌てて話題を戻す。
「はい! 気を取り直して!」
グラスを掲げる。
「ジンリッキーはライムの香りが爽やかで、本当に夏におすすめです!」
コメント欄にはカクテルの感想と、
『同居人が気になる』
というコメントが最後まで混ざり続けていた。
「では改めて、ジンリッキーの説明をします!」
グラスを持ち上げる。
「ジンとライムと炭酸だけで作る、とってもシンプルなカクテルです」
「甘くないから、お食事にも合わせやすくて──」
コメント欄。
『誰!?』
『説明入ってこない笑』
『同居人さん気になる』
『さっきの声の人!?』
薫は苦笑い。
「聞いて聞いて」
「ジンの香りをそのまま楽しめるのが魅力で──」
『誰の分作ってたの?』
『男の人だったよね?』
『配信初登場じゃん』
「えっと……」
「ライムはフレッシュを使うと──」
『それどころじゃない!』
『説明が頭に入らない!』
『めっちゃ気になる!!』
薫は思わず吹き出す。
「あははは!」
「今日はみんなジンリッキーより同居人なんだね」
コメント欄はさらに勢いを増す。
『そうです!』
『気になります!』
『紹介して!』
『同居人さんも乾杯しましょう!』
「えー?」
困ったように笑う。
「嫌ですよ。」
『なんでー!』
『声だけでも!』
「本人が嫌がると思う」
『本人!?』
『男確定!?』
『照れ屋さん?』
「……まあ、そういうことにしておいて」
話を戻そうとする。
「それでね、ジンリッキーは炭酸が抜けないように──」
『同居人さん、お酒好き?』
『いつも一緒に飲んでるの?』
『料理も食べてる人?』
薫は額に手を当てて笑う。
「質問が全部同居人なの」
コメント欄。
『気になるもん!』
『急に生活感出てきた笑』
『安心した。ちゃんとご飯食べる人いて』
「安心するところそこ?」
思わず笑ってしまう。
「ちゃんと食べてますよ」
『同居人さんも?』
「うん」
『優しい!』
『仲良さそう!』
薫はグラスを持ち直す。
「はい、今日はジンリッキーが主役です!同居人トークはここまで!」
コメント欄。
『えーーー!』
『また今度教えて!』
『同居人さんも乾杯だけ!』
薫は笑いながらカメラにグラスを向けた。
「それじゃあ。見てくださってる皆さんも、飲んでる方はご一緒に。乾杯!」
画面の向こうでコメントが流れ続ける。
『乾杯!』
『同居人さんも乾杯ー!』
『絶対今隣で飲んでるでしょ笑』
薫は画面の外へちらりと視線を向け、小さく笑ってから、自分のグラスに口をつけた。
視聴者はその何気ない視線にも気づき、「やっぱり近くにいるんだ」とますます盛り上がるのだった。
いつものキッチンの前。
「今日は暑い日だったねぇ」
氷をたっぷり入れたグラスを二つ並べる。
そのまま自然な手つきで、ジンを量り、ライムを搾り、炭酸水を注いでいく。
コメント欄。
『ジンリッキーだ!』
『夏に最高!』
薫はいつものように説明を続ける。
「甘くないから、ご飯にも合わせやすいカクテルなんだよ」
二つとも同じように仕上げて、ライムを飾る。
そこで手が止まった。
「あ」
コメント欄。
『ん?』
『どうした?』
薫はグラスを見比べる。
「あはは」
照れ笑い。
「癖で二人分作っちゃった」
コメント欄が一瞬静まり、
次の瞬間、一気に流れ始める。
『え、二人分!?』
『誰かいるの!?』
『誰の分!?』
『まさか彼氏!?』
薫は「あっ」という顔をして口元を押さえる。
「えっと……」
少しだけ考えてから笑った。
「同居人の分です」
コメント欄。
『同居人!?』
『初情報!』
『一緒に住んでる人いるんだ!』
薫は慌てて手を振る。
「いやいや、大した話じゃなくて。部屋が広いから」
コメント。
『ルームシェア?』
『シェアハウスみたいな感じ?』
『家族?』
「んー」
薫は少し言葉を選ぶ。
「ルームシェア……みたいなものかな」
嘘ではない。
けれど本当のことも言っていない。
コメント欄は勝手に盛り上がる。
『都会はそういうのあるよね!』
『家賃高いもんね!』
『確かに広い部屋だったし!』
「そうそう」
苦笑しながら話を合わせる。
「一人だと広すぎるからね」
ちょうどその時。
スマホの隣から、黒いTシャツ姿の神田が、顔は映らない位置から手だけ伸ばす。
薫は何も言わず、作ったもう一つのグラスを渡す。
神田は小さく頷いて受け取り、
「……ありがと」
低い声だけ残してソファに戻る。
コメント欄。
『今の誰!?』
『同居人!?』
『男の人!?』
『声だけ聞こえた!』
薫は一瞬固まったあと、
「あはは……」
乾いた笑い。
「配信中なの忘れてた」
コメント欄はさらに加速する。
『やっぱりルームシェア!?』
『仲良さそう!』
『兄妹?』
『幼なじみ?』
薫は慌てて話題を戻す。
「はい! 気を取り直して!」
グラスを掲げる。
「ジンリッキーはライムの香りが爽やかで、本当に夏におすすめです!」
コメント欄にはカクテルの感想と、
『同居人が気になる』
というコメントが最後まで混ざり続けていた。
「では改めて、ジンリッキーの説明をします!」
グラスを持ち上げる。
「ジンとライムと炭酸だけで作る、とってもシンプルなカクテルです」
「甘くないから、お食事にも合わせやすくて──」
コメント欄。
『誰!?』
『説明入ってこない笑』
『同居人さん気になる』
『さっきの声の人!?』
薫は苦笑い。
「聞いて聞いて」
「ジンの香りをそのまま楽しめるのが魅力で──」
『誰の分作ってたの?』
『男の人だったよね?』
『配信初登場じゃん』
「えっと……」
「ライムはフレッシュを使うと──」
『それどころじゃない!』
『説明が頭に入らない!』
『めっちゃ気になる!!』
薫は思わず吹き出す。
「あははは!」
「今日はみんなジンリッキーより同居人なんだね」
コメント欄はさらに勢いを増す。
『そうです!』
『気になります!』
『紹介して!』
『同居人さんも乾杯しましょう!』
「えー?」
困ったように笑う。
「嫌ですよ。」
『なんでー!』
『声だけでも!』
「本人が嫌がると思う」
『本人!?』
『男確定!?』
『照れ屋さん?』
「……まあ、そういうことにしておいて」
話を戻そうとする。
「それでね、ジンリッキーは炭酸が抜けないように──」
『同居人さん、お酒好き?』
『いつも一緒に飲んでるの?』
『料理も食べてる人?』
薫は額に手を当てて笑う。
「質問が全部同居人なの」
コメント欄。
『気になるもん!』
『急に生活感出てきた笑』
『安心した。ちゃんとご飯食べる人いて』
「安心するところそこ?」
思わず笑ってしまう。
「ちゃんと食べてますよ」
『同居人さんも?』
「うん」
『優しい!』
『仲良さそう!』
薫はグラスを持ち直す。
「はい、今日はジンリッキーが主役です!同居人トークはここまで!」
コメント欄。
『えーーー!』
『また今度教えて!』
『同居人さんも乾杯だけ!』
薫は笑いながらカメラにグラスを向けた。
「それじゃあ。見てくださってる皆さんも、飲んでる方はご一緒に。乾杯!」
画面の向こうでコメントが流れ続ける。
『乾杯!』
『同居人さんも乾杯ー!』
『絶対今隣で飲んでるでしょ笑』
薫は画面の外へちらりと視線を向け、小さく笑ってから、自分のグラスに口をつけた。
視聴者はその何気ない視線にも気づき、「やっぱり近くにいるんだ」とますます盛り上がるのだった。