《第26話》ハイシンジコ。
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「こんばんはー!」
いつものように配信が始まる。
後ろにはお気に入りの酒棚。
照明は少し落として、落ち着いたバーのような雰囲気だ。
「今日も一週間お疲れさまでした。」
にこっと笑って手を振る。
コメント欄。
『こんばんは!』
『待ってました!』
『今日も癒やされる』
「今日は、お家でも作りやすいカクテル」
材料を並べる。
「ウォッカ、ライム、ジンジャーエール。この三つで作る、モスコミュールです!」
コメント。
『定番!』
『居酒屋でよく飲む!』
「実はお店によって味が全然違うんだよ。」
氷をたっぷり入れた銅製マグを取り出す。
「本当はこの銅のマグで飲むのが有名。金属だから冷たさが長持ちするんだって。もちろん普通のグラスでも美味しいよ」
ウォッカを量り、ライムを搾る。
「ライムはぎゅーっと」
最後にジンジャーエールを静かに注ぐ。
マドラーで一度だけ混ぜる。
ライムを添えて完成。
「はい!」
カメラへ近づける。
「いただきます。」
一口。
「ん〜!」
嬉しそうに目を細める。
「ジンジャーエールの爽やかさが夏にぴったり。」
コメント欄。
『飲みたくなる!』
『お店みたい!』
『毎回盛り付けがおしゃれ』
「ありがとう」
少し照れながら笑う。
「じゃあ、今日のカクテル言葉」
小さなカードを見る。
「モスコミュールのカクテル言葉は──」
少し間を置く。
「仲直り」
コメント欄。
『へぇー!』
『初めて知った!』
『喧嘩した友達に送りたい笑』
「いい言葉だよね。」
「喧嘩しても、ちゃんと仲直りできる関係って素敵だなって思います。私はあんまり人と喧嘩しないけど……」
コメント。
『優しそうだもんね』
『怒ることあるの?』
「あるよ?」
くすっと笑う。
「でも寝たら忘れちゃうタイプ」
『かわいい笑』
『それは平和だ』
そのとき。
キッチンの外から、
コン。
と、小さくノックの音。
薫は「あっ」と振り返る。
「ちょっと待ってね」
席を立ち、画面の外へ。
マイク越しに小さな声だけが聞こえる。
「ありがと」
「……ん」
短いやり取り。
数秒後、戻ってくる。
手には小さなお皿。
「おつまみ持ってきた」
コメント欄。
『誰!?』
『今の声?』
『家族?』
『誰かいた!?』
薫は一瞬きょとんとしてから笑う。
「あ、気にしないでー。ちょっと差し入れもらっただけ」
何事もなかったようにクラッカーをつまむ。
「これ、モスコミュールに合うんだよ」
コメント欄はまだざわざわ。
『声イケボだった』
『彼氏?』
『兄弟?』
『スタッフ説』
薫は苦笑いしながら、
「はいはい。今日はモスコミュールが主役です。」
話題をきれいに戻す。
「ということで、乾杯」
グラスをカメラへ向ける。
「今日も見に来てくれてありがとうございました。また次回のお家バーでお会いしましょう。」
コメント欄は最後まで、
『結局あの人誰!?』
というコメントで埋め尽くされていた。
配信後、ソファでくつろぐ二人。
ヒロインはスマホでアーカイブのコメントを眺めながら、小さく笑った。
「ねえ、ユウ」
「なんだ」
「今日の配信……」
神田はテレビもつけず、コーヒーを飲んでいる。
「ユウのこと、わかっちゃったかな?」
「何が」
「声」
神田は少し考えてから答えた。
「……あれくらいならわかんないだろ」
「そう?」
「ああ」
薫はコメント欄を見せる。
「『彼氏?』『お兄さん?』『スタッフ?』だって」
神田は一瞥して鼻で笑う。
「ほら」
「確かに、みんなバラバラだね」
「特定できてねぇ」
「そっか」
ほっとしたように笑う薫。
「でもイケボっていっぱい言われてたよ?」
「どうでもいい」
「褒められてるのに?」
「興味ねぇ」
「もったいない」
神田はカップを置いて、ちらりと薫を見る。
「お前が気にするな」
「うん」
「配信は配信だ」
「そうだね」
薫はにこっと笑ってスマホを置く。
「じゃあ次も安心して配信できる」
「ああ」
「でも今度はもうちょっと静かに歩いてね?」
「……善処する」
「ふふっ、『善処する』なんだ」
神田は軽く肩をすくめる。
「今度はノックもしねぇ」
「それはそれで急に入ってこられたらびっくりするよ?」
「じゃあノックする」
「結局するんだ」
二人で顔を見合わせて笑った。
まだ配信の視聴者にとっては、「あの日、一瞬だけ聞こえた低い声の人」は正体不明のまま。
二人も、それで十分だと思っていた。
いつものように配信が始まる。
後ろにはお気に入りの酒棚。
照明は少し落として、落ち着いたバーのような雰囲気だ。
「今日も一週間お疲れさまでした。」
にこっと笑って手を振る。
コメント欄。
『こんばんは!』
『待ってました!』
『今日も癒やされる』
「今日は、お家でも作りやすいカクテル」
材料を並べる。
「ウォッカ、ライム、ジンジャーエール。この三つで作る、モスコミュールです!」
コメント。
『定番!』
『居酒屋でよく飲む!』
「実はお店によって味が全然違うんだよ。」
氷をたっぷり入れた銅製マグを取り出す。
「本当はこの銅のマグで飲むのが有名。金属だから冷たさが長持ちするんだって。もちろん普通のグラスでも美味しいよ」
ウォッカを量り、ライムを搾る。
「ライムはぎゅーっと」
最後にジンジャーエールを静かに注ぐ。
マドラーで一度だけ混ぜる。
ライムを添えて完成。
「はい!」
カメラへ近づける。
「いただきます。」
一口。
「ん〜!」
嬉しそうに目を細める。
「ジンジャーエールの爽やかさが夏にぴったり。」
コメント欄。
『飲みたくなる!』
『お店みたい!』
『毎回盛り付けがおしゃれ』
「ありがとう」
少し照れながら笑う。
「じゃあ、今日のカクテル言葉」
小さなカードを見る。
「モスコミュールのカクテル言葉は──」
少し間を置く。
「仲直り」
コメント欄。
『へぇー!』
『初めて知った!』
『喧嘩した友達に送りたい笑』
「いい言葉だよね。」
「喧嘩しても、ちゃんと仲直りできる関係って素敵だなって思います。私はあんまり人と喧嘩しないけど……」
コメント。
『優しそうだもんね』
『怒ることあるの?』
「あるよ?」
くすっと笑う。
「でも寝たら忘れちゃうタイプ」
『かわいい笑』
『それは平和だ』
そのとき。
キッチンの外から、
コン。
と、小さくノックの音。
薫は「あっ」と振り返る。
「ちょっと待ってね」
席を立ち、画面の外へ。
マイク越しに小さな声だけが聞こえる。
「ありがと」
「……ん」
短いやり取り。
数秒後、戻ってくる。
手には小さなお皿。
「おつまみ持ってきた」
コメント欄。
『誰!?』
『今の声?』
『家族?』
『誰かいた!?』
薫は一瞬きょとんとしてから笑う。
「あ、気にしないでー。ちょっと差し入れもらっただけ」
何事もなかったようにクラッカーをつまむ。
「これ、モスコミュールに合うんだよ」
コメント欄はまだざわざわ。
『声イケボだった』
『彼氏?』
『兄弟?』
『スタッフ説』
薫は苦笑いしながら、
「はいはい。今日はモスコミュールが主役です。」
話題をきれいに戻す。
「ということで、乾杯」
グラスをカメラへ向ける。
「今日も見に来てくれてありがとうございました。また次回のお家バーでお会いしましょう。」
コメント欄は最後まで、
『結局あの人誰!?』
というコメントで埋め尽くされていた。
配信後、ソファでくつろぐ二人。
ヒロインはスマホでアーカイブのコメントを眺めながら、小さく笑った。
「ねえ、ユウ」
「なんだ」
「今日の配信……」
神田はテレビもつけず、コーヒーを飲んでいる。
「ユウのこと、わかっちゃったかな?」
「何が」
「声」
神田は少し考えてから答えた。
「……あれくらいならわかんないだろ」
「そう?」
「ああ」
薫はコメント欄を見せる。
「『彼氏?』『お兄さん?』『スタッフ?』だって」
神田は一瞥して鼻で笑う。
「ほら」
「確かに、みんなバラバラだね」
「特定できてねぇ」
「そっか」
ほっとしたように笑う薫。
「でもイケボっていっぱい言われてたよ?」
「どうでもいい」
「褒められてるのに?」
「興味ねぇ」
「もったいない」
神田はカップを置いて、ちらりと薫を見る。
「お前が気にするな」
「うん」
「配信は配信だ」
「そうだね」
薫はにこっと笑ってスマホを置く。
「じゃあ次も安心して配信できる」
「ああ」
「でも今度はもうちょっと静かに歩いてね?」
「……善処する」
「ふふっ、『善処する』なんだ」
神田は軽く肩をすくめる。
「今度はノックもしねぇ」
「それはそれで急に入ってこられたらびっくりするよ?」
「じゃあノックする」
「結局するんだ」
二人で顔を見合わせて笑った。
まだ配信の視聴者にとっては、「あの日、一瞬だけ聞こえた低い声の人」は正体不明のまま。
二人も、それで十分だと思っていた。