《第25話》ウンテン。
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定時になり、ロビーで待ち合わせをしていた神田と薫は、そのまま地下駐車場へ向かった。
神田のレク〇スの前で、薫がいつものように助手席へ向かおうとする。
すると神田が鍵を手にしたまま口を開いた。
「お前」
「うん?」
「運転できたんだな」
薫は「ああ、その話か」と笑う。
「そうだよー」
「……」
神田は助手席側ではなく、薫をじっと見た。
「なんで言わなかった」
「聞かれなかったから」
あまりにも自然な返事だった。
神田は小さく息をつく。
「免許はいつ取った」
「高校3年生」
「そんな前か」
「うん」
「……知らなかった」
「言う機会なかったもん」
神田は鍵を薫へ差し出した。
「……運転するか?」
薫は一瞬きょとんとしてから、首を横に振る。
「やだ」
神田が少し眉を上げる。
「なんで」
薫はにこっと笑った。
「ユウの運転が好き」
「……」
「私は隣にいたい」
その一言で、神田の動きが止まる。
「助手席が私の定位置」
そう言って当然のように助手席のドアを開けて座る。
シートベルトを締め、神田を見上げて笑う。
「運転お願いします、ユウ。」
神田は数秒黙ったまま立っていた。
「ユウ?」
「……ずるいな」
「え?」
「そういうこと、さらっと言うの」
薫は首をかしげる。
「本当のことだよ?」
「……」
神田は小さくため息をつきながら運転席へ回る。
エンジンをかけると、静かな車内に心地よい音が響く。
車がゆっくりと駐車場を出た。
少し走ったところで神田がぽつりと言う。
「今日、会社で大騒ぎだった」
「あはは、みたいだね」
「ラビが『トラクター乗れるんさ!?』って叫んでた」
薫は思わず吹き出した。
「そこそんな驚く?」
「驚くだろ」
「実家じゃ普通なのに」
「東京じゃ普通じゃない」
「そうなんだ」
神田は前を向いたまま続ける。
「社長車も運転した」
「緊急だったからね」
「うまかったらしいな」
「褒めてもらった」
「……俺も見てみたかった」
薫は少し嬉しそうに笑う。
「今度、青森帰ったら助手席乗る?」
「軽トラか」
「軽トラ」
「トラクターは」
「乗せるよ?」
「……遠慮する」
「なんでー」
「畑はお前の仕事だ」
「じゃあユウは見学ね」
「それならいい」
薫は窓の外を眺めながら、ふっと笑う。
「でもね」
「なんだ」
「運転はできるけど、東京ではユウが運転して」
「……」
「助手席でこうやっておしゃべりしてる時間が好きだから」
神田は信号待ちで車を止めると、照れ隠しのように軽く頭をかいた。
「……そうか」
「うん」
「じゃあ、ずっと俺が運転する」
薫は満面の笑みを浮かべる。
「やった」
信号が青に変わる。
神田は静かにアクセルを踏み込んだ。
隣では薫が嬉しそうに鼻歌を口ずさむ。
その横顔をちらりと見た神田は、小さく笑みをこぼした。
(……やっぱり、こいつは助手席で笑ってるのが一番しっくりくる)
そう思いながら、いつもの帰り道を二人で走っていく。
今日一日の出来事を思い返しながら、神田が何気なく聞いた。
「実家で何乗るんだ」
薫は指折り数え始める。
「アル〇」
「軽自動車か」
「プリ〇ス」
「ハイブリッドもあるのか」
「デリカ」
神田が一瞬黙る。
「……は?」
「あと軽トラと」
「待て待て」
薫が首をかしげる。
「ん?」
「お前、実家は親父さんとばあちゃんしかいないって言ってなかったか?」
「そうだよー」
「なんでそんなに車あるんだ」
薫は真剣な顔で考え始める。
「…………」
「…………」
「……わかんない」
「わからない?」
「昔からいっぱいあるし」
神田は思わず吹き出しそうになる。
「理由知らないのか」
「考えたことなかった」
「で?」
「用途で使い分けてる」
「用途」
「うん」
薫は当たり前のように説明し始める。
「アル〇は近所のお買い物」
「なるほど」
「プリ〇スは街まで行くとき」
「ああ」
「デリカは人数多いときとか荷物多いとき」
「……」
「軽トラは畑」
「まあ、わかる」
「トラクターは畑耕すとき」
「それは車じゃない」
「乗り物」
「そうだな」
神田は少し考える。
「デリカは誰が乗る」
「お父さん。帰れば私も運転してるし」
「お前も?」
「うん」
「でかくないのか」
「車高高いから逆に運転しやすいよー。なんなら今日の社長車の方が大変だった」
そう言って薫は笑う。
「軽トラは」
「私も乗るし、お父さんも乗る。軽トラはおばあちゃん一番乗ってるかもー」
「……」
神田はハンドルを握りながら苦笑した。
「農家だな」
「農家だよ?」
「いや、お前から農家感がしない」
薫は笑う。
「会社じゃスーツだしね」
「そういう問題じゃない」
「青森帰ると長靴履くよ」
「……」
「帽子かぶって」
「……」
「軍手して」
「……」
「ニンニク掘る」
神田はとうとう吹き出した。
「会社で女神って呼ばれてるやつがか」
「うん」
「長靴」
「うん」
「軍手」
「うん」
「軽トラ」
「うん」
「トラクター」
「うん」
「全部本当」
薫は楽しそうに笑う。
「本当」
神田は首を横に振る。
「ギャップがひどい」
「そう?」
「会社じゃ秘書で、マナー講師もやって」
「うん」
「帰省したら軽トラで畑」
「そう」
「……意味がわからん」
薫はくすくす笑いながら窓の外を見る。
「でもね」
「なんだ」
「私はどっちも私だから」
その一言に神田は少しだけ表情を和らげた。
「そうだな」
「会社では秘書」
「うん」
「実家では娘」
「うん」
「畑も手伝う」
「当たり前だよ」
神田は静かに頷く。
「そういうところが、お前らしい」
薫は嬉しそうに微笑んだ。
「今度帰省したら、軽トラ乗ってるとこ見せてあげる」
「……見学だけにしとく」
「助手席乗る?」
「軽トラの助手席か」
「うん」
神田は少し笑って答えた。
「それはそれで、面白そうだ。」
神田のレク〇スの前で、薫がいつものように助手席へ向かおうとする。
すると神田が鍵を手にしたまま口を開いた。
「お前」
「うん?」
「運転できたんだな」
薫は「ああ、その話か」と笑う。
「そうだよー」
「……」
神田は助手席側ではなく、薫をじっと見た。
「なんで言わなかった」
「聞かれなかったから」
あまりにも自然な返事だった。
神田は小さく息をつく。
「免許はいつ取った」
「高校3年生」
「そんな前か」
「うん」
「……知らなかった」
「言う機会なかったもん」
神田は鍵を薫へ差し出した。
「……運転するか?」
薫は一瞬きょとんとしてから、首を横に振る。
「やだ」
神田が少し眉を上げる。
「なんで」
薫はにこっと笑った。
「ユウの運転が好き」
「……」
「私は隣にいたい」
その一言で、神田の動きが止まる。
「助手席が私の定位置」
そう言って当然のように助手席のドアを開けて座る。
シートベルトを締め、神田を見上げて笑う。
「運転お願いします、ユウ。」
神田は数秒黙ったまま立っていた。
「ユウ?」
「……ずるいな」
「え?」
「そういうこと、さらっと言うの」
薫は首をかしげる。
「本当のことだよ?」
「……」
神田は小さくため息をつきながら運転席へ回る。
エンジンをかけると、静かな車内に心地よい音が響く。
車がゆっくりと駐車場を出た。
少し走ったところで神田がぽつりと言う。
「今日、会社で大騒ぎだった」
「あはは、みたいだね」
「ラビが『トラクター乗れるんさ!?』って叫んでた」
薫は思わず吹き出した。
「そこそんな驚く?」
「驚くだろ」
「実家じゃ普通なのに」
「東京じゃ普通じゃない」
「そうなんだ」
神田は前を向いたまま続ける。
「社長車も運転した」
「緊急だったからね」
「うまかったらしいな」
「褒めてもらった」
「……俺も見てみたかった」
薫は少し嬉しそうに笑う。
「今度、青森帰ったら助手席乗る?」
「軽トラか」
「軽トラ」
「トラクターは」
「乗せるよ?」
「……遠慮する」
「なんでー」
「畑はお前の仕事だ」
「じゃあユウは見学ね」
「それならいい」
薫は窓の外を眺めながら、ふっと笑う。
「でもね」
「なんだ」
「運転はできるけど、東京ではユウが運転して」
「……」
「助手席でこうやっておしゃべりしてる時間が好きだから」
神田は信号待ちで車を止めると、照れ隠しのように軽く頭をかいた。
「……そうか」
「うん」
「じゃあ、ずっと俺が運転する」
薫は満面の笑みを浮かべる。
「やった」
信号が青に変わる。
神田は静かにアクセルを踏み込んだ。
隣では薫が嬉しそうに鼻歌を口ずさむ。
その横顔をちらりと見た神田は、小さく笑みをこぼした。
(……やっぱり、こいつは助手席で笑ってるのが一番しっくりくる)
そう思いながら、いつもの帰り道を二人で走っていく。
今日一日の出来事を思い返しながら、神田が何気なく聞いた。
「実家で何乗るんだ」
薫は指折り数え始める。
「アル〇」
「軽自動車か」
「プリ〇ス」
「ハイブリッドもあるのか」
「デリカ」
神田が一瞬黙る。
「……は?」
「あと軽トラと」
「待て待て」
薫が首をかしげる。
「ん?」
「お前、実家は親父さんとばあちゃんしかいないって言ってなかったか?」
「そうだよー」
「なんでそんなに車あるんだ」
薫は真剣な顔で考え始める。
「…………」
「…………」
「……わかんない」
「わからない?」
「昔からいっぱいあるし」
神田は思わず吹き出しそうになる。
「理由知らないのか」
「考えたことなかった」
「で?」
「用途で使い分けてる」
「用途」
「うん」
薫は当たり前のように説明し始める。
「アル〇は近所のお買い物」
「なるほど」
「プリ〇スは街まで行くとき」
「ああ」
「デリカは人数多いときとか荷物多いとき」
「……」
「軽トラは畑」
「まあ、わかる」
「トラクターは畑耕すとき」
「それは車じゃない」
「乗り物」
「そうだな」
神田は少し考える。
「デリカは誰が乗る」
「お父さん。帰れば私も運転してるし」
「お前も?」
「うん」
「でかくないのか」
「車高高いから逆に運転しやすいよー。なんなら今日の社長車の方が大変だった」
そう言って薫は笑う。
「軽トラは」
「私も乗るし、お父さんも乗る。軽トラはおばあちゃん一番乗ってるかもー」
「……」
神田はハンドルを握りながら苦笑した。
「農家だな」
「農家だよ?」
「いや、お前から農家感がしない」
薫は笑う。
「会社じゃスーツだしね」
「そういう問題じゃない」
「青森帰ると長靴履くよ」
「……」
「帽子かぶって」
「……」
「軍手して」
「……」
「ニンニク掘る」
神田はとうとう吹き出した。
「会社で女神って呼ばれてるやつがか」
「うん」
「長靴」
「うん」
「軍手」
「うん」
「軽トラ」
「うん」
「トラクター」
「うん」
「全部本当」
薫は楽しそうに笑う。
「本当」
神田は首を横に振る。
「ギャップがひどい」
「そう?」
「会社じゃ秘書で、マナー講師もやって」
「うん」
「帰省したら軽トラで畑」
「そう」
「……意味がわからん」
薫はくすくす笑いながら窓の外を見る。
「でもね」
「なんだ」
「私はどっちも私だから」
その一言に神田は少しだけ表情を和らげた。
「そうだな」
「会社では秘書」
「うん」
「実家では娘」
「うん」
「畑も手伝う」
「当たり前だよ」
神田は静かに頷く。
「そういうところが、お前らしい」
薫は嬉しそうに微笑んだ。
「今度帰省したら、軽トラ乗ってるとこ見せてあげる」
「……見学だけにしとく」
「助手席乗る?」
「軽トラの助手席か」
「うん」
神田は少し笑って答えた。
「それはそれで、面白そうだ。」