《第25話》ウンテン。
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営業部へ戻るなり、さっき地下駐車場にいた社員が勢いよくドアを開けた。
「聞いてください!!」
営業部全員が顔を上げる。
「なんだなんだ」
「社長帰ってきました!」
「それは知ってる」
「違うんですって!」
息を整えてから、興奮気味に言う。
「女神が社長車運転して帰ってきました!」
「…………は?」
部屋が静まり返る。
「え?」
「誰が?」
「薫さんです!」
「はぁ!?」
あちこちから素っ頓狂な声が上がる。
「しかも社長がめちゃくちゃ運転うまいってベタ褒めしてました!」
「えぇぇぇ!?」
「高級車初めてなのに普通に乗りこなしたらしいです!」
営業部は騒然。
「嘘だろ!」
「あの人運転するの!?」
「助手席専門だと思ってた!」
「いや、俺も!」
「完全に乗せてもらう側のオーラじゃん!」
ラビも口を開けたまま固まる。
「……女神、免許持ってたんさ?」
誰も答えられない。
その時、静かに書類を見ていた神田へ視線が集まる。
「神田さん」
「なんだ」
「知ってました?」
神田は珍しく少し考えるような顔をした。
「……」
数秒。
「知らない」
「えぇぇぇぇ!?」
営業部全員が叫んだ。
ラビが思わず机を叩く。
「ユウも知らなかったんさ!?」
「ああ」
「付き合ってるんさよね!?」
「そうだ」
「なんで知らないんさ!?」
神田は真顔のまま答える。
「運転の話になったことがない」
営業部一同。
「そんなことある!?」
「ある」
「いやいやいや!」
ラビが笑いながら言う。
「だってさ、あのビジュアルよ?」
「……」
「あれで運転席座るイメージ全然ないさ!」
「助手席で景色見てるタイプじゃん!」
「わかる!」
「『ユウ運転ありがとー』ってニコニコしてそう!」
「それ!」
営業部中が頷く。
神田も少しだけ考えて、
「……まあ」
「ユウまで認めた!」
「そう見える」
「だよね!」
「だから俺も知らなかった」
営業部はまた笑い出す。
「いやー、今日一番びっくりしたわ」
「社長車だぞ?」
「しかも社長が運転絶賛って」
「女神、また新しいスキル出してきたな」
ラビが腕を組む。
「女神ってさ」
「なんだ」
「資格いっぱい持ってるし、ヨガ教えるし、カクテル作るし、マナー講師するし」
「うん」
「今度は運転までうまい」
「うん」
「何ならできないんさ?」
営業部全員が神田を見る。
神田は少しだけ考え、
「……料理はうまい」
「そこ聞いてない!」
「酒もうまい」
「それも知ってる!」
「運動もできる」
「知ってる!」
「……」
少し間を置いて神田はぼそっと言った。
「俺も、まだ知らないことがあるらしい」
その一言に営業部は一瞬静かになったあと、
「珍しく神田さんが驚いてる!」
「これはレアだ!」
「女神、まだ隠しステータス持ってるぞ!」
と、また大騒ぎになるのだった。
一方、その頃の秘書課では。
午後の仕事がひと段落すると、薫のデスクの周りには人だかりができていた。
「薫ちゃん!」
「はい?」
「聞きたいことがある!」
「なんでしょう?」
先輩秘書が身を乗り出す。
「なんであんなに運転うまいの!?」
「あー」
薫は困ったように笑う。
「実家で運転してましたからねー」
「実家?」
「帰省すると運転担当になることが多いんです」
「へぇ!」
後輩が興味津々で聞く。
「何乗るんですか?」
「アル〇」
「うんうん、軽自動車ね!」
「プリ〇ス」
「ハイブリッドも?」
「デ〇カ」
「……ミニバン!?」
「はい」
みんなが「意外!」という顔をする。
薫は指を折りながら続けた。
「軽トラ」
「……」
一瞬、空気が止まる。
「……軽トラ?」
「はい」
「女神が軽トラ?」
「乗りますよ」
「荷台のついてるあれ?」
「そうです」
秘書課に笑いが広がる。
「似合わなーい!」
「想像できない!」
「オシャレなSUVとかじゃなくて!?」
薫はけろっとしている。
「普通ですよ?」
「普通じゃないから!」
「実家農家なのでうちだと普通です」
「青森すごい……」
すると別の先輩が恐る恐る聞く。
「他には?」
薫は少し考えて、
「あと、トラクターかなー」
「……」
「…………」
「………………」
数秒、誰も反応できない。
「は?」
「え?」
「なんて?」
薫は首をかしげる。
「トラクター」
「農業用の?」
「そうです」
「でっかいやつ?」
「でかいやつです」
「はああああああ!?」
秘書課中に悲鳴が響く。
「トラクター乗れるの!?」
「乗れますよ」
「え、あのタイヤが人の身長くらいあるやつ!?」
「そうそう」
「『そうそう』じゃないのよ!」
「畑耕すやつ!?」
「耕します」
「耕すの!?」
「実家で手伝いますし」
後輩が頭を抱える。
「待って待って待って」
「はい?」
「今、女神がトラクターで畑走ってる映像が頭に流れてる」
「私も」
「なのに声に出すと違和感しかない!全然想像つかない!」
薫は笑いながら答える。
「慣れですよ」
「いや慣れない!」
「ハンドル重くないんですか?」
「最近のはパワステ付いてますよ」
「そこじゃない!」
「じゃあ何が気になります?」
「全部!」
また大爆笑になる。
そこへ、営業部へ書類を届けに来たラビがちょうど通りかかった。
「失礼しまー……」
秘書課の騒ぎに足を止める。
「何事さ?」
先輩秘書が振り返る。
「あ、ラビくん!」
「女神、トラクター乗れるんだって」
「…………」
ラビの思考が止まる。
「……は?」
「しかも軽トラも」
「は?」
ラビはゆっくり薫を見る。
「……女神」
「なに?」
「トラクター?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんと」
「畑の?」
「畑の」
「……」
ラビはびっくりした表情で営業部へ駆け出した。
「ユウーーー!!大変さーーー!!」
秘書課には、その後ろ姿を見送る笑い声がいつまでも響いていた。
「聞いてください!!」
営業部全員が顔を上げる。
「なんだなんだ」
「社長帰ってきました!」
「それは知ってる」
「違うんですって!」
息を整えてから、興奮気味に言う。
「女神が社長車運転して帰ってきました!」
「…………は?」
部屋が静まり返る。
「え?」
「誰が?」
「薫さんです!」
「はぁ!?」
あちこちから素っ頓狂な声が上がる。
「しかも社長がめちゃくちゃ運転うまいってベタ褒めしてました!」
「えぇぇぇ!?」
「高級車初めてなのに普通に乗りこなしたらしいです!」
営業部は騒然。
「嘘だろ!」
「あの人運転するの!?」
「助手席専門だと思ってた!」
「いや、俺も!」
「完全に乗せてもらう側のオーラじゃん!」
ラビも口を開けたまま固まる。
「……女神、免許持ってたんさ?」
誰も答えられない。
その時、静かに書類を見ていた神田へ視線が集まる。
「神田さん」
「なんだ」
「知ってました?」
神田は珍しく少し考えるような顔をした。
「……」
数秒。
「知らない」
「えぇぇぇぇ!?」
営業部全員が叫んだ。
ラビが思わず机を叩く。
「ユウも知らなかったんさ!?」
「ああ」
「付き合ってるんさよね!?」
「そうだ」
「なんで知らないんさ!?」
神田は真顔のまま答える。
「運転の話になったことがない」
営業部一同。
「そんなことある!?」
「ある」
「いやいやいや!」
ラビが笑いながら言う。
「だってさ、あのビジュアルよ?」
「……」
「あれで運転席座るイメージ全然ないさ!」
「助手席で景色見てるタイプじゃん!」
「わかる!」
「『ユウ運転ありがとー』ってニコニコしてそう!」
「それ!」
営業部中が頷く。
神田も少しだけ考えて、
「……まあ」
「ユウまで認めた!」
「そう見える」
「だよね!」
「だから俺も知らなかった」
営業部はまた笑い出す。
「いやー、今日一番びっくりしたわ」
「社長車だぞ?」
「しかも社長が運転絶賛って」
「女神、また新しいスキル出してきたな」
ラビが腕を組む。
「女神ってさ」
「なんだ」
「資格いっぱい持ってるし、ヨガ教えるし、カクテル作るし、マナー講師するし」
「うん」
「今度は運転までうまい」
「うん」
「何ならできないんさ?」
営業部全員が神田を見る。
神田は少しだけ考え、
「……料理はうまい」
「そこ聞いてない!」
「酒もうまい」
「それも知ってる!」
「運動もできる」
「知ってる!」
「……」
少し間を置いて神田はぼそっと言った。
「俺も、まだ知らないことがあるらしい」
その一言に営業部は一瞬静かになったあと、
「珍しく神田さんが驚いてる!」
「これはレアだ!」
「女神、まだ隠しステータス持ってるぞ!」
と、また大騒ぎになるのだった。
一方、その頃の秘書課では。
午後の仕事がひと段落すると、薫のデスクの周りには人だかりができていた。
「薫ちゃん!」
「はい?」
「聞きたいことがある!」
「なんでしょう?」
先輩秘書が身を乗り出す。
「なんであんなに運転うまいの!?」
「あー」
薫は困ったように笑う。
「実家で運転してましたからねー」
「実家?」
「帰省すると運転担当になることが多いんです」
「へぇ!」
後輩が興味津々で聞く。
「何乗るんですか?」
「アル〇」
「うんうん、軽自動車ね!」
「プリ〇ス」
「ハイブリッドも?」
「デ〇カ」
「……ミニバン!?」
「はい」
みんなが「意外!」という顔をする。
薫は指を折りながら続けた。
「軽トラ」
「……」
一瞬、空気が止まる。
「……軽トラ?」
「はい」
「女神が軽トラ?」
「乗りますよ」
「荷台のついてるあれ?」
「そうです」
秘書課に笑いが広がる。
「似合わなーい!」
「想像できない!」
「オシャレなSUVとかじゃなくて!?」
薫はけろっとしている。
「普通ですよ?」
「普通じゃないから!」
「実家農家なのでうちだと普通です」
「青森すごい……」
すると別の先輩が恐る恐る聞く。
「他には?」
薫は少し考えて、
「あと、トラクターかなー」
「……」
「…………」
「………………」
数秒、誰も反応できない。
「は?」
「え?」
「なんて?」
薫は首をかしげる。
「トラクター」
「農業用の?」
「そうです」
「でっかいやつ?」
「でかいやつです」
「はああああああ!?」
秘書課中に悲鳴が響く。
「トラクター乗れるの!?」
「乗れますよ」
「え、あのタイヤが人の身長くらいあるやつ!?」
「そうそう」
「『そうそう』じゃないのよ!」
「畑耕すやつ!?」
「耕します」
「耕すの!?」
「実家で手伝いますし」
後輩が頭を抱える。
「待って待って待って」
「はい?」
「今、女神がトラクターで畑走ってる映像が頭に流れてる」
「私も」
「なのに声に出すと違和感しかない!全然想像つかない!」
薫は笑いながら答える。
「慣れですよ」
「いや慣れない!」
「ハンドル重くないんですか?」
「最近のはパワステ付いてますよ」
「そこじゃない!」
「じゃあ何が気になります?」
「全部!」
また大爆笑になる。
そこへ、営業部へ書類を届けに来たラビがちょうど通りかかった。
「失礼しまー……」
秘書課の騒ぎに足を止める。
「何事さ?」
先輩秘書が振り返る。
「あ、ラビくん!」
「女神、トラクター乗れるんだって」
「…………」
ラビの思考が止まる。
「……は?」
「しかも軽トラも」
「は?」
ラビはゆっくり薫を見る。
「……女神」
「なに?」
「トラクター?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんと」
「畑の?」
「畑の」
「……」
ラビはびっくりした表情で営業部へ駆け出した。
「ユウーーー!!大変さーーー!!」
秘書課には、その後ろ姿を見送る笑い声がいつまでも響いていた。