《第20話》コンシンカイ。
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話が一段落したところで、薫が立ち上がる。
「ちょっとお手洗い行ってきます」
「いってらっしゃい」
「転ぶなよ」
「転びません」
笑いながら席を立つ。
歩き始めた、その瞬間だった。
「……あ」
ふわっ、と視界が揺れる。
さっきまで平気だったのに、立ち上がった途端、一気にアルコールが回る。
「……」
壁に軽く手をつく。
「思ったより飲んだかも」
それでも歩けないほどではない。
ゆっくり廊下へ向かう。
営業部のテーブル。
ラビがふと気付く。
「あれ」
神田を見る。
「女神、結構飲んでたよな」
神田も視線を向ける。
ちょうど薫が廊下へ出ていくところだった。
歩き方が、ほんの少しだけいつもよりゆっくり。
「……」
神田は立ち上がる。
「少し見てくる」
「おう」
廊下。
薫は洗面台で冷たい水で手を冷やしていた。
「ふぅ……」
そこへ。
「大丈夫か」
聞き慣れた低い声。
薫が振り向く。
「……ユウ」
神田の姿を見た瞬間、張っていた気が一気に抜けた。
にへら、と安心したように笑う。
「ユウー」
一歩近づこうとして。
ふらっ。
「あ」
神田がすぐ肩を支える。
「飲みすぎだ」
「んー……」
へにゃっと笑う。
「昔話してるのー」
「そうか」
「みんなね」
「うんうんって聞いてくれて」
神田は静かに頷く。
「今度」
薫が神田の腕にもたれながら笑う。
「ユウにもしてあげるね」
「……」
「昔話」
「全部」
「言ってないのいっぱいあるもん」
神田は小さく笑った。
「ああ」
「聞く」
薫は満足そうに頷く。
「約束」
「約束だ」
そのまま少し目を閉じる。
「……」
「少し休むか」
「うん」
神田は無理に席へ戻そうとはせず、廊下の端にあるベンチへ連れて行く。
二人並んで腰を下ろす。
薫は壁にもたれ、小さく息をつく。
「ふぅ……」
「気持ち悪いか」
「ううん」
首を横に振る。
「眠い」
「そうか」
しばらく沈黙。
店内の賑やかな声だけが廊下まで聞こえてくる。
薫はぼんやり神田を見上げた。
「ユウ」
「ん」
「迎えに来てくれた」
「ああ」
「えへへ」
嬉しそうに笑う。
「安心した」
神田は照れもせず、その頭をぽん、と一度だけ優しく撫でた。
「落ち着いたら戻ろう」
「……うん」
そう返事をしながらも、薫はしばらく神田の隣から動かず、静かな廊下で二人だけの休憩時間を過ごしていた。
少し酔いが落ち着いてきた薫が、神田を見上げる。
「ねえ、ユウ」
「なんだ」
「……ちゅーしたい」
神田は即答した。
「ダメだ」
「ちゅーしたい」
「ダメ」
「ちゅー」
神田は周囲をちらりと見回してから、小さくため息をつく。
「場所考えろ」
「むう……」
頬を膨らませる薫。
神田は少しだけ表情を和らげる。
「家まで我慢しろ」
「今ちゅーしたいんだもん」
「ダメ」
数秒の沈黙。
薫はじっと神田を見つめる。
「…………」
そして、不意に神田のシャツの裾をくいっと引っ張る。
「ん?」
神田が少しかがんだ、その瞬間。
ちゅっ。
ほんの一瞬、軽く唇を重ねる。
すぐに離れて、薫は満面の笑み。
「えへへへへ」
神田は一拍遅れて固まる。
「……おい」
「勝ったー」
「勝ち負けじゃない」
照れ隠しのように額を押さえる神田だったが、怒っている様子はない。
そのとき。
廊下の角から飲み物を取りに来ていた秘書課の新人が、ちょうどその場面を見てしまう。
「……!」
目が丸くなる。
(み、見ちゃった……!)
慌てて踵を返し、小走りで席へ戻る。
「はぁ、はぁ……!」
リナリーが首をかしげる。
「どうしたの? 顔真っ赤だけど」
新人は興奮で声が震える。
「あ、あの、あの……!」
営業部も秘書課も一斉に見る。
「女神と魔王が……」
ごくり。
「キスしてました……!」
一瞬、静まり返る。
「…………」
そして次の瞬間。
「えええええぇぇぇ!?」
「見ちゃったの!?」
「本当に!?」
新人は何度も頷く。
「は、はい……! 神田さん最初は『ダメだ』って言ってたのに、女神が服引っ張って……ちゅって……!」
ラビが吹き出す。
「あー、ついに押し切られたか」
アレンも苦笑い。
「神田さんらしいですね。ダメって言いながら結局受け入れてる」
リナリーは両手で口元を押さえる。
「かわいい……」
営業部の一人が笑う。
「魔王陥落」
「いや、あれは奇襲だろ」
「女神強すぎ」
そこへ少し遅れて神田と薫が戻ってくる。
薫はにこにこ。
神田はどこか気まずそう。
その様子だけで、さっきの目撃談が事実だと全員悟る。
ラビがにやにやしながら声をかける。
「ユウ」
「……なんだ」
「家まで我慢できなかったらしいな」
神田は一瞬薫を見る。
薫は悪びれもせず、えへへ、と笑う。
神田は小さくため息をついて答えた。
「……奇襲だ」
その一言で店中が笑いに包まれ、薫は満足そうに神田の腕へ、そっと寄り添った。
「ちょっとお手洗い行ってきます」
「いってらっしゃい」
「転ぶなよ」
「転びません」
笑いながら席を立つ。
歩き始めた、その瞬間だった。
「……あ」
ふわっ、と視界が揺れる。
さっきまで平気だったのに、立ち上がった途端、一気にアルコールが回る。
「……」
壁に軽く手をつく。
「思ったより飲んだかも」
それでも歩けないほどではない。
ゆっくり廊下へ向かう。
営業部のテーブル。
ラビがふと気付く。
「あれ」
神田を見る。
「女神、結構飲んでたよな」
神田も視線を向ける。
ちょうど薫が廊下へ出ていくところだった。
歩き方が、ほんの少しだけいつもよりゆっくり。
「……」
神田は立ち上がる。
「少し見てくる」
「おう」
廊下。
薫は洗面台で冷たい水で手を冷やしていた。
「ふぅ……」
そこへ。
「大丈夫か」
聞き慣れた低い声。
薫が振り向く。
「……ユウ」
神田の姿を見た瞬間、張っていた気が一気に抜けた。
にへら、と安心したように笑う。
「ユウー」
一歩近づこうとして。
ふらっ。
「あ」
神田がすぐ肩を支える。
「飲みすぎだ」
「んー……」
へにゃっと笑う。
「昔話してるのー」
「そうか」
「みんなね」
「うんうんって聞いてくれて」
神田は静かに頷く。
「今度」
薫が神田の腕にもたれながら笑う。
「ユウにもしてあげるね」
「……」
「昔話」
「全部」
「言ってないのいっぱいあるもん」
神田は小さく笑った。
「ああ」
「聞く」
薫は満足そうに頷く。
「約束」
「約束だ」
そのまま少し目を閉じる。
「……」
「少し休むか」
「うん」
神田は無理に席へ戻そうとはせず、廊下の端にあるベンチへ連れて行く。
二人並んで腰を下ろす。
薫は壁にもたれ、小さく息をつく。
「ふぅ……」
「気持ち悪いか」
「ううん」
首を横に振る。
「眠い」
「そうか」
しばらく沈黙。
店内の賑やかな声だけが廊下まで聞こえてくる。
薫はぼんやり神田を見上げた。
「ユウ」
「ん」
「迎えに来てくれた」
「ああ」
「えへへ」
嬉しそうに笑う。
「安心した」
神田は照れもせず、その頭をぽん、と一度だけ優しく撫でた。
「落ち着いたら戻ろう」
「……うん」
そう返事をしながらも、薫はしばらく神田の隣から動かず、静かな廊下で二人だけの休憩時間を過ごしていた。
少し酔いが落ち着いてきた薫が、神田を見上げる。
「ねえ、ユウ」
「なんだ」
「……ちゅーしたい」
神田は即答した。
「ダメだ」
「ちゅーしたい」
「ダメ」
「ちゅー」
神田は周囲をちらりと見回してから、小さくため息をつく。
「場所考えろ」
「むう……」
頬を膨らませる薫。
神田は少しだけ表情を和らげる。
「家まで我慢しろ」
「今ちゅーしたいんだもん」
「ダメ」
数秒の沈黙。
薫はじっと神田を見つめる。
「…………」
そして、不意に神田のシャツの裾をくいっと引っ張る。
「ん?」
神田が少しかがんだ、その瞬間。
ちゅっ。
ほんの一瞬、軽く唇を重ねる。
すぐに離れて、薫は満面の笑み。
「えへへへへ」
神田は一拍遅れて固まる。
「……おい」
「勝ったー」
「勝ち負けじゃない」
照れ隠しのように額を押さえる神田だったが、怒っている様子はない。
そのとき。
廊下の角から飲み物を取りに来ていた秘書課の新人が、ちょうどその場面を見てしまう。
「……!」
目が丸くなる。
(み、見ちゃった……!)
慌てて踵を返し、小走りで席へ戻る。
「はぁ、はぁ……!」
リナリーが首をかしげる。
「どうしたの? 顔真っ赤だけど」
新人は興奮で声が震える。
「あ、あの、あの……!」
営業部も秘書課も一斉に見る。
「女神と魔王が……」
ごくり。
「キスしてました……!」
一瞬、静まり返る。
「…………」
そして次の瞬間。
「えええええぇぇぇ!?」
「見ちゃったの!?」
「本当に!?」
新人は何度も頷く。
「は、はい……! 神田さん最初は『ダメだ』って言ってたのに、女神が服引っ張って……ちゅって……!」
ラビが吹き出す。
「あー、ついに押し切られたか」
アレンも苦笑い。
「神田さんらしいですね。ダメって言いながら結局受け入れてる」
リナリーは両手で口元を押さえる。
「かわいい……」
営業部の一人が笑う。
「魔王陥落」
「いや、あれは奇襲だろ」
「女神強すぎ」
そこへ少し遅れて神田と薫が戻ってくる。
薫はにこにこ。
神田はどこか気まずそう。
その様子だけで、さっきの目撃談が事実だと全員悟る。
ラビがにやにやしながら声をかける。
「ユウ」
「……なんだ」
「家まで我慢できなかったらしいな」
神田は一瞬薫を見る。
薫は悪びれもせず、えへへ、と笑う。
神田は小さくため息をついて答えた。
「……奇襲だ」
その一言で店中が笑いに包まれ、薫は満足そうに神田の腕へ、そっと寄り添った。