《第17話》オンセン。
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朝。
障子の隙間から差し込む柔らかな朝日が部屋をほんのり照らしていた。
薫がゆっくりと目を開ける。
「……ん」
まだ少し眠そうに瞬きをすると、すぐ目の前に神田の顔があった。
「ユウ……起きてたの?」
「ああ」
「いつから?」
「さっき」
そう言いながらも、ずっと薫を見ていたことは表情で分かる。
「……見てた?」
「見てた」
隠す気はないらしい。
「なんで」
「寝顔見てた」
「恥ずかしい……」
布団を鼻まで引き上げる薫。
神田は小さく笑う。
「もっと恥ずかしいことしてただろ」
「ねえ!それは本当に恥ずかしい!」
真っ赤になって布団に隠れる薫。
ちょこっと顔を出すと
「ユウすごすぎた」
「お前が始めたんだろ」
「それはそう」
「飲むとエロくなるのなんなんだよ」
「言わないでください」
そしてまた布団に隠れる。
落ち着いたのか、また少しすると布団から顔を出す。
「ユウおはよう」
「おはよう」
神田は薫の前髪をそっと整え、そのまま頭をぽんぽんと撫でた。
「よく寝れたか」
「もうちょっと寝たい、です」
少しだけ沈黙が流れる。
朝は苦手な薫だが、特別な日は早く起きる。
窓の外では鳥の鳴き声が聞こえ、山の朝の澄んだ空気が伝わってくる。
神田が静かに口を開いた。
「朝風呂、行くか?」
薫の目がぱっと輝く。
「行く!」
即答だった。
「やっぱり」
「朝の温泉って気持ちいいんだよね!」
「そのあと朝飯」
「朝ご飯!」
さらに目が輝く。
「……結局そこか」
「だって旅行の朝ご飯だよ?一番楽しみ!」
「昨日あれだけ食べたのに」
「一晩寝たらリセットされるの!運動もしたし」
「運動、な」
ニヤリと笑う神田。
「もう!掘り返さないで!」
薫は布団から勢いよく起き上がる。
「急いで準備しよ! 朝風呂行って、ご飯食べて、今日も楽しもう!」
神田はそんな後ろ姿を見て、小さく笑った。
「……旅行になると、本当に子どもみたいに楽しそうだな」
「だって楽しいもん!」
その一言に、神田は「そうだな」と頷き、二人は浴衣に着替えて、朝の澄んだ空気の中、湯気の立つ大浴場へ向かった。
朝風呂から戻ってきた薫は、頬をほんのり赤くして部屋へ飛び込んできた。
「ユウ!!」
ちょうど髪を乾かし終えた神田が振り返る。
「どうした」
「聞いて聞いて!」
「……薔薇風呂」
「なんで分かったの!?」
「そのテンションだから」
「すっごくきれいだったの!お湯いっぱいにバラが浮かんでて、いい香りで!」
両手を広げながら身振り手振りで話す。
「写真撮りたかったくらい!」
「風呂で写真は駄目だ」
「分かってるもん。でも本当にお姫様になった気分だった!」
神田は嬉しそうに話す薫を見て、小さく笑う。
「満足そうだな」
「うん!」
「良かった」
「ユウのほうは?」
「普通の朝風呂」
「そっかぁ」
「女湯だけだったんだろ」
「そうみたい」
薫は少し申し訳なさそうに笑った。
「今度うちのお風呂にバラ浮かべようか?」
「掃除、大変そうだな。」
現実的な返事に薫は吹き出す。
「そこ?」
「そこだ」
「夢がないなぁ」
「お前らしい感想だ」
二人で笑い合い、部屋を後にする。
「じゃあ!」
薫がお腹を押さえる。
「朝ご飯!」
「待ってましたって顔してるな」
「旅行の朝ご飯だよ?」
「知ってる」
「いっぱい食べる!」
「ほどほどにな」
「無理!」
神田は苦笑しながらエレベーターに乗った。
朝食会場。
扉が開いた瞬間、薫の目が輝く。
「わあぁ……!」
焼きたてのパン、和食のおかず、焼き魚、オムレツ、地元野菜のサラダ、ヨーグルト、フルーツ。
さらに岩手らしい郷土料理まで並んでいる。
「ユウ! 見て見て! あそこパンいっぱい!」
「落ち着け」
「ヨーグルトもある!」
「聞いてる」
「デザートもある!」
「全部持ってくる気か」
「もちろん!」
トレーを持ったまま目を輝かせる薫は、あれもこれもと少しずつ盛り付けていく。
「パン二種類……いや三種類!」
「その皿、もう乗らないぞ。」
「和食は別のお皿!」
「最初から二枚使う気だったな」
「旅行だから!」
ようやく席に着くと、テーブルいっぱいに朝食が並んだ。
神田はその光景を見て思わず笑う。
「……朝から豪華だな」
「いただきます!」
まずは焼きたてのクロワッサンをひと口。
「ん~~~!」
幸せそうに頬を押さえる。
「おいしい!」
続いてひっつみ汁をひと口。
「これもおいしい! 体にしみる~!」
「忙しいな」
「だって全部おいしいんだもん!」
神田も焼き魚を口に運びながら頷く。
「確かにうまい」
「でしょ!」
嬉しそうに笑う薫は、朝から幸せいっぱいの表情で、花巻温泉最後の朝食を心ゆくまで楽しんでいた。
朝食を食べ終え、チェックアウトまで少し時間がある。
二人はお土産コーナーへやって来た。
会社用、ジム用のお菓子は
「これでいいね」
「決まりだな」
南部せんべいやクッキーの詰め合わせをさっとカゴへ。
「会社はこれくらいあれば足りるかな」
「ジムはこれ」
「うん、終わり!」
ものの5分で終了。
神田が笑う。
「早かったな」
「配る用は悩まないもん」
「じゃあ帰るか」
「待って」
薫がぴたりと足を止めた。
お酒売り場。
ずらりと並ぶ日本酒、ワイン、地ビール。
「……」
真剣な顔になる。
「日本酒は買うでしょ?」
一本手に取る。
「うん」
次に視線が隣へ。
「……待って?」
岩手ワイン。
赤、白、ロゼ。
「岩手ってワインも有名なの?」
一本一本ラベルを見始める。
「山ぶどう……りんごワイン……え、これも気になる」
神田は腕を組んで見守る。
「日本酒一本で終わると思った」
「終わらない」
即答だった。
「だって気になるじゃん!」
「全部買うのか」
「いや、選べないの!」
また別の棚へ。
「クラフトジンまである!」
「増えたな」
「わんこラベルかわいい……」
「さっきから十本くらい見てる」
「だって全部飲んでみたいんだもん」
神田は小さく笑う。
「お前、自分の土産になると優柔不断だな」
「そうなの」
困った顔で振り返る。
「会社のお菓子は一瞬で決まったのに」
「他人の物は決められる。自分のは決められない」
「知ってる」
薫は一本持っては戻し、また一本持つ。
「日本酒一本」
戻す。
「いや、日本酒二本?」
戻す。
「ワインも一本?」
戻す。
「全部?」
「それは却下」
神田が即座に突っ込む。
「家まで車ならもっと買うのに」
「帰り、新幹線だぞ。全部は無理だ」
「うーん……」
5分。
10分。
まだ悩んでいる。
神田は棚から一本の純米酒を手に取り、薫へ渡した。
「これは?」
「飲み比べで飲んで美味かったやつ」
「これ?」
「これ」
次に、一本の白ワインを取る。
「こっちは」
「飲んだことあるの?」
「ない」
「ないのに薦めるの?」
「気になるんだろ?」
薫はラベルを見て、にこっと笑う。
「……うん」
「じゃあ買えばいい」
「いい?」
「旅行なんだから」
少し考えてから、薫は頷く。
「じゃあ、日本酒一本とワイン一本!」
「決まりか」
「決まり!」
ようやくカゴに入れる。
嬉しそうにカゴを抱える薫を見て、神田は苦笑しながらレジへ向かった。
障子の隙間から差し込む柔らかな朝日が部屋をほんのり照らしていた。
薫がゆっくりと目を開ける。
「……ん」
まだ少し眠そうに瞬きをすると、すぐ目の前に神田の顔があった。
「ユウ……起きてたの?」
「ああ」
「いつから?」
「さっき」
そう言いながらも、ずっと薫を見ていたことは表情で分かる。
「……見てた?」
「見てた」
隠す気はないらしい。
「なんで」
「寝顔見てた」
「恥ずかしい……」
布団を鼻まで引き上げる薫。
神田は小さく笑う。
「もっと恥ずかしいことしてただろ」
「ねえ!それは本当に恥ずかしい!」
真っ赤になって布団に隠れる薫。
ちょこっと顔を出すと
「ユウすごすぎた」
「お前が始めたんだろ」
「それはそう」
「飲むとエロくなるのなんなんだよ」
「言わないでください」
そしてまた布団に隠れる。
落ち着いたのか、また少しすると布団から顔を出す。
「ユウおはよう」
「おはよう」
神田は薫の前髪をそっと整え、そのまま頭をぽんぽんと撫でた。
「よく寝れたか」
「もうちょっと寝たい、です」
少しだけ沈黙が流れる。
朝は苦手な薫だが、特別な日は早く起きる。
窓の外では鳥の鳴き声が聞こえ、山の朝の澄んだ空気が伝わってくる。
神田が静かに口を開いた。
「朝風呂、行くか?」
薫の目がぱっと輝く。
「行く!」
即答だった。
「やっぱり」
「朝の温泉って気持ちいいんだよね!」
「そのあと朝飯」
「朝ご飯!」
さらに目が輝く。
「……結局そこか」
「だって旅行の朝ご飯だよ?一番楽しみ!」
「昨日あれだけ食べたのに」
「一晩寝たらリセットされるの!運動もしたし」
「運動、な」
ニヤリと笑う神田。
「もう!掘り返さないで!」
薫は布団から勢いよく起き上がる。
「急いで準備しよ! 朝風呂行って、ご飯食べて、今日も楽しもう!」
神田はそんな後ろ姿を見て、小さく笑った。
「……旅行になると、本当に子どもみたいに楽しそうだな」
「だって楽しいもん!」
その一言に、神田は「そうだな」と頷き、二人は浴衣に着替えて、朝の澄んだ空気の中、湯気の立つ大浴場へ向かった。
朝風呂から戻ってきた薫は、頬をほんのり赤くして部屋へ飛び込んできた。
「ユウ!!」
ちょうど髪を乾かし終えた神田が振り返る。
「どうした」
「聞いて聞いて!」
「……薔薇風呂」
「なんで分かったの!?」
「そのテンションだから」
「すっごくきれいだったの!お湯いっぱいにバラが浮かんでて、いい香りで!」
両手を広げながら身振り手振りで話す。
「写真撮りたかったくらい!」
「風呂で写真は駄目だ」
「分かってるもん。でも本当にお姫様になった気分だった!」
神田は嬉しそうに話す薫を見て、小さく笑う。
「満足そうだな」
「うん!」
「良かった」
「ユウのほうは?」
「普通の朝風呂」
「そっかぁ」
「女湯だけだったんだろ」
「そうみたい」
薫は少し申し訳なさそうに笑った。
「今度うちのお風呂にバラ浮かべようか?」
「掃除、大変そうだな。」
現実的な返事に薫は吹き出す。
「そこ?」
「そこだ」
「夢がないなぁ」
「お前らしい感想だ」
二人で笑い合い、部屋を後にする。
「じゃあ!」
薫がお腹を押さえる。
「朝ご飯!」
「待ってましたって顔してるな」
「旅行の朝ご飯だよ?」
「知ってる」
「いっぱい食べる!」
「ほどほどにな」
「無理!」
神田は苦笑しながらエレベーターに乗った。
朝食会場。
扉が開いた瞬間、薫の目が輝く。
「わあぁ……!」
焼きたてのパン、和食のおかず、焼き魚、オムレツ、地元野菜のサラダ、ヨーグルト、フルーツ。
さらに岩手らしい郷土料理まで並んでいる。
「ユウ! 見て見て! あそこパンいっぱい!」
「落ち着け」
「ヨーグルトもある!」
「聞いてる」
「デザートもある!」
「全部持ってくる気か」
「もちろん!」
トレーを持ったまま目を輝かせる薫は、あれもこれもと少しずつ盛り付けていく。
「パン二種類……いや三種類!」
「その皿、もう乗らないぞ。」
「和食は別のお皿!」
「最初から二枚使う気だったな」
「旅行だから!」
ようやく席に着くと、テーブルいっぱいに朝食が並んだ。
神田はその光景を見て思わず笑う。
「……朝から豪華だな」
「いただきます!」
まずは焼きたてのクロワッサンをひと口。
「ん~~~!」
幸せそうに頬を押さえる。
「おいしい!」
続いてひっつみ汁をひと口。
「これもおいしい! 体にしみる~!」
「忙しいな」
「だって全部おいしいんだもん!」
神田も焼き魚を口に運びながら頷く。
「確かにうまい」
「でしょ!」
嬉しそうに笑う薫は、朝から幸せいっぱいの表情で、花巻温泉最後の朝食を心ゆくまで楽しんでいた。
朝食を食べ終え、チェックアウトまで少し時間がある。
二人はお土産コーナーへやって来た。
会社用、ジム用のお菓子は
「これでいいね」
「決まりだな」
南部せんべいやクッキーの詰め合わせをさっとカゴへ。
「会社はこれくらいあれば足りるかな」
「ジムはこれ」
「うん、終わり!」
ものの5分で終了。
神田が笑う。
「早かったな」
「配る用は悩まないもん」
「じゃあ帰るか」
「待って」
薫がぴたりと足を止めた。
お酒売り場。
ずらりと並ぶ日本酒、ワイン、地ビール。
「……」
真剣な顔になる。
「日本酒は買うでしょ?」
一本手に取る。
「うん」
次に視線が隣へ。
「……待って?」
岩手ワイン。
赤、白、ロゼ。
「岩手ってワインも有名なの?」
一本一本ラベルを見始める。
「山ぶどう……りんごワイン……え、これも気になる」
神田は腕を組んで見守る。
「日本酒一本で終わると思った」
「終わらない」
即答だった。
「だって気になるじゃん!」
「全部買うのか」
「いや、選べないの!」
また別の棚へ。
「クラフトジンまである!」
「増えたな」
「わんこラベルかわいい……」
「さっきから十本くらい見てる」
「だって全部飲んでみたいんだもん」
神田は小さく笑う。
「お前、自分の土産になると優柔不断だな」
「そうなの」
困った顔で振り返る。
「会社のお菓子は一瞬で決まったのに」
「他人の物は決められる。自分のは決められない」
「知ってる」
薫は一本持っては戻し、また一本持つ。
「日本酒一本」
戻す。
「いや、日本酒二本?」
戻す。
「ワインも一本?」
戻す。
「全部?」
「それは却下」
神田が即座に突っ込む。
「家まで車ならもっと買うのに」
「帰り、新幹線だぞ。全部は無理だ」
「うーん……」
5分。
10分。
まだ悩んでいる。
神田は棚から一本の純米酒を手に取り、薫へ渡した。
「これは?」
「飲み比べで飲んで美味かったやつ」
「これ?」
「これ」
次に、一本の白ワインを取る。
「こっちは」
「飲んだことあるの?」
「ない」
「ないのに薦めるの?」
「気になるんだろ?」
薫はラベルを見て、にこっと笑う。
「……うん」
「じゃあ買えばいい」
「いい?」
「旅行なんだから」
少し考えてから、薫は頷く。
「じゃあ、日本酒一本とワイン一本!」
「決まりか」
「決まり!」
ようやくカゴに入れる。
嬉しそうにカゴを抱える薫を見て、神田は苦笑しながらレジへ向かった。