《第18話》ショウダン。
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ノア組合本社。
大会議室。
ティキ側は社長に加え、専務、常務、営業部長、開発部長まで勢ぞろい。
「本日はよろしくお願いいたします」
神田が一礼する。
その隣で。
「よろしくお願いいたします」
薫も社長秘書として挨拶する。
ティキは内心ガッツポーズ。
(きた)
(セットだ)
(本当にセットだ)
(絵になる……)
クロスに心の中で感謝した。
商談開始。
神田が話し始める。
「まず現状の課題を整理いたします」
資料を映す。
数字を簡潔に説明。
途中で神田が一瞬だけ視線を薫へ向ける。
「先日のヒアリング内容ですが」
「はい」
薫はすぐ資料を一枚差し出す。
「こちらです」
「ありがとうございます」
受け取ると、そのまま説明を続ける。
無駄な言葉がない。
無駄な動きもない。
役員たちが目を見開く。
(今、何も打ち合わせしてないよな)
(タイミングぴったりだ)
質問が飛ぶ。
「この数字の根拠は?」
神田が答えようとした瞬間。
薫が別資料を開いていた。
神田は見もしない。
「3ページ目です。」
薫はすでに3ページを開いて神田の横へ置く。
「ありがとうございます」
そのまま説明。
神田は資料を見る時間すら最小限。
役員たち。
(え)
(息合いすぎだろ)
今度は薫。
「恐れ入ります」
静かに口を開く。
「先ほどのご質問ですが、補足がございます」
要点だけ。
一分もかからない。
神田は頷く。
「その通りです」
すぐ本題へ戻る。
役員たち。
(説明が重ならない)
(補足だけして引く)
(完璧だ)
ティキ。
(これか)
(クロスが言ってたの)
(神田さん一人でもすごい)
(でも薫ちゃんいると仕事の精度上がってる)
二人とも笑わない。
いちゃつかない。
視線も必要最低限。
完全に仕事モード。
それなのに。
必要な資料。
必要な補足。
質問の意図。
全部先回りしている。
40分後。
神田が資料を閉じた。
「以上です」
静かに一礼。
役員たちは沈黙。
「……」
「……」
「……」
ティキが口を開く。
「じゃ」
全員を見る。
「これで進めようか」
専務。
「異議ありません」
常務。
「ありません」
営業部長。
「問題ございません」
開発部長。
「ぜひ」
神田。
「ありがとうございます」
薫。
「ありがとうございます」
二人で頭を下げる。
ドアが閉まる。
神田と薫が退室。
部屋に残った役員たち。
数秒間、誰も喋らない。
専務がぽつり。
「……え?」
営業部長も資料を見る。
「今……」
常務。
「何があった?」
開発部長。
「普通、大型案件って2、3回は詰めますよね」
「ですよね」
「今日、1回目ですよね」
「はい」
専務が苦笑する。
「気づいたらまとまってた」
営業部長も頷く。
「しかも押し切られた感じじゃない」
「納得して決めてた」
「自然に」
ティキは椅子にもたれ、大満足の笑みを浮かべた。
「言ったでしょ」
役員たちが見る。
「セットで見たかった理由」
「……これですか」
ティキは何度も頷く。
「神田さんだけでもすごい」
「うん」
「薫ちゃんだけでも優秀」
「うん」
「でも二人になると」
少し笑って言った。
「一人が話して、一人が空気を読んで先回りする。説明してる人が止まらない。質問が途切れない。会議のテンポが落ちない。」
専務が感心して腕を組む。
「だから、気づいたら終わってるんですね」
ティキは満足そうに笑う。
「そう」
そしてぽつり。
「仕事してる二人、めちゃくちゃ格好いいな」
そう言うと会議室を出るティキ。
廊下を歩く二人に声をかける。
「ねえ、ちょっと社長室寄っていきなよ」
神田と薫は顔を見合せ、仕方なく頷く。
社長室。
「いらっしゃーい!」
満面の笑みのティキ。
ソファを指差す。
「どうぞどうぞ」
神田と薫は向かいに腰掛けた。
コーヒーが運ばれてくる。
ティキは嬉しそうに手を組んだ。
「いやぁ、最高だった」
「ありがとうございます」
薫が頭を下げる。
「仕事ももちろんだけど」
ティキはニヤニヤする。
「雑談しよう」
神田が即答する。
「失礼します」
立ち上がろうとする。
「待って待って待って!」
ティキが慌てて止めた。
「帰らないで!」
神田は座り直した。
「何でしょう」
「付き合ったきっかけ!」
「プライベートです」
薫がにこやかに返す。
「初デート!」
「プライベートです」
「普段どこ行くの?」
「プライベートです」
「休日何してる?」
「プライベートです」
「手繋ぐ?」
「プライベートです」
「キス──」
「プライベートです」
一切隙がない。
ティキは笑ってしまう。
「息ぴったりじゃん!」
神田は真顔。
「業務外のことですので」
「冷たい!」
「仕事は終わりました」
「だから雑談したいんだって」
薫は苦笑する。
「社長……」
ティキは腕を組み、しばらく考えたあと、にっこり笑った。
「答えないと帰さないよ」
「……」
「……」
二人とも黙る。
ティキはそのまま笑顔。
「今日は予定空けてあるから」
「本気ですか」
薫が小さくため息をつく。
神田が横を見る。
「……どうする」
薫も小声で返す。
「少しだけ、お話ししますか」
「任せる」
神田は止めなかった。
薫はティキへ向き直る。
「本当に少しだけですよ?」
「やった!」
ティキが子どものように身を乗り出す。
「付き合ったきっかけは?」
薫は少し照れ笑いを浮かべた。
「彼?いや、私?から…」
「やっぱり!」
ティキが机を叩く。
「クロスの言ってた通り!」
「社長……」
「なんで好きになったの?」
薫は神田をちらっと見る。
神田は静かにコーヒーを飲んでいる。
「……並んだら絵になるなって」
「ぶっ!理由顔?!」
「大きいです」
「薫ちゃんも美人だからね」
「あと、安心できるんです」
ティキが神田を見る。
「無口なのに?」
神田が答える。
「無口だからです」
薫が頷く。
「必要なことはちゃんと言ってくれるので」
「なるほど」
ティキは満足そうにメモを取る真似をする。
「初デートは?」
「ジムです」
「は?」
「ジム」
「詳しく」
「それはプライベートです」
「そこはダメかぁ」
薫が笑う。
「すみません」
「休日は?」
「一緒に買い物へ行ったり、ご飯を食べたり」
「普通だ!」
「普通ですね」
「神田さん、デートで喋る?」
神田は少し考えた。
「仕事よりは」
薫がくすっと笑う。
「ちゃんと喋りますよ」
「本当?」
「私が話して、ユウが聞いてくれます」
「ユウ」
ティキがその呼び方に反応する。
「普段ユウって呼んでるんだ」
ヒロインは「あ」と口を押さえる。
しまった、という顔。
神田は横で少しだけ口元を緩めた。
ティキは満足げに笑う。
「なるほどねぇ」
そして二人を交互に見て頷く。
「商談見てて思ったけどさ」
「はい」
「仕事中は完璧にビジネスパートナー」
「はい」
「なのに今は普通の恋人」
薫が少し照れながら笑う。
「切り替えはしています」
ティキは腕を組み、しみじみと言った。
「だからあんなに仕事しやすいんだ」
神田が短く答える。
「公私混同はしません」
「うん」
ティキは大きく頷いた。
「でも、その切り替えができるからこそ、お互いを信頼して仕事を任せられるんだね」
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
「そうですね」
「そうだな」
ティキは満足そうにソファにもたれた。
「よし」
「はい?」
「今日はこのくらいで勘弁してあげる」
神田が静かに立ち上がる。
「助かります」
薫も立ち上がって一礼した。
「ありがとうございました」
二人が社長室を出ていくと、ドアが閉まる直前、ティキがぽつりとつぶやいた。
「……次はダブルデートに誘ってみようかな。」
廊下にいた神田は聞こえたらしく、足を止めずに一言だけ返した。
「却下です」
社長室の中から、ティキの「即答かーい!」という笑い声が響いた。
大会議室。
ティキ側は社長に加え、専務、常務、営業部長、開発部長まで勢ぞろい。
「本日はよろしくお願いいたします」
神田が一礼する。
その隣で。
「よろしくお願いいたします」
薫も社長秘書として挨拶する。
ティキは内心ガッツポーズ。
(きた)
(セットだ)
(本当にセットだ)
(絵になる……)
クロスに心の中で感謝した。
商談開始。
神田が話し始める。
「まず現状の課題を整理いたします」
資料を映す。
数字を簡潔に説明。
途中で神田が一瞬だけ視線を薫へ向ける。
「先日のヒアリング内容ですが」
「はい」
薫はすぐ資料を一枚差し出す。
「こちらです」
「ありがとうございます」
受け取ると、そのまま説明を続ける。
無駄な言葉がない。
無駄な動きもない。
役員たちが目を見開く。
(今、何も打ち合わせしてないよな)
(タイミングぴったりだ)
質問が飛ぶ。
「この数字の根拠は?」
神田が答えようとした瞬間。
薫が別資料を開いていた。
神田は見もしない。
「3ページ目です。」
薫はすでに3ページを開いて神田の横へ置く。
「ありがとうございます」
そのまま説明。
神田は資料を見る時間すら最小限。
役員たち。
(え)
(息合いすぎだろ)
今度は薫。
「恐れ入ります」
静かに口を開く。
「先ほどのご質問ですが、補足がございます」
要点だけ。
一分もかからない。
神田は頷く。
「その通りです」
すぐ本題へ戻る。
役員たち。
(説明が重ならない)
(補足だけして引く)
(完璧だ)
ティキ。
(これか)
(クロスが言ってたの)
(神田さん一人でもすごい)
(でも薫ちゃんいると仕事の精度上がってる)
二人とも笑わない。
いちゃつかない。
視線も必要最低限。
完全に仕事モード。
それなのに。
必要な資料。
必要な補足。
質問の意図。
全部先回りしている。
40分後。
神田が資料を閉じた。
「以上です」
静かに一礼。
役員たちは沈黙。
「……」
「……」
「……」
ティキが口を開く。
「じゃ」
全員を見る。
「これで進めようか」
専務。
「異議ありません」
常務。
「ありません」
営業部長。
「問題ございません」
開発部長。
「ぜひ」
神田。
「ありがとうございます」
薫。
「ありがとうございます」
二人で頭を下げる。
ドアが閉まる。
神田と薫が退室。
部屋に残った役員たち。
数秒間、誰も喋らない。
専務がぽつり。
「……え?」
営業部長も資料を見る。
「今……」
常務。
「何があった?」
開発部長。
「普通、大型案件って2、3回は詰めますよね」
「ですよね」
「今日、1回目ですよね」
「はい」
専務が苦笑する。
「気づいたらまとまってた」
営業部長も頷く。
「しかも押し切られた感じじゃない」
「納得して決めてた」
「自然に」
ティキは椅子にもたれ、大満足の笑みを浮かべた。
「言ったでしょ」
役員たちが見る。
「セットで見たかった理由」
「……これですか」
ティキは何度も頷く。
「神田さんだけでもすごい」
「うん」
「薫ちゃんだけでも優秀」
「うん」
「でも二人になると」
少し笑って言った。
「一人が話して、一人が空気を読んで先回りする。説明してる人が止まらない。質問が途切れない。会議のテンポが落ちない。」
専務が感心して腕を組む。
「だから、気づいたら終わってるんですね」
ティキは満足そうに笑う。
「そう」
そしてぽつり。
「仕事してる二人、めちゃくちゃ格好いいな」
そう言うと会議室を出るティキ。
廊下を歩く二人に声をかける。
「ねえ、ちょっと社長室寄っていきなよ」
神田と薫は顔を見合せ、仕方なく頷く。
社長室。
「いらっしゃーい!」
満面の笑みのティキ。
ソファを指差す。
「どうぞどうぞ」
神田と薫は向かいに腰掛けた。
コーヒーが運ばれてくる。
ティキは嬉しそうに手を組んだ。
「いやぁ、最高だった」
「ありがとうございます」
薫が頭を下げる。
「仕事ももちろんだけど」
ティキはニヤニヤする。
「雑談しよう」
神田が即答する。
「失礼します」
立ち上がろうとする。
「待って待って待って!」
ティキが慌てて止めた。
「帰らないで!」
神田は座り直した。
「何でしょう」
「付き合ったきっかけ!」
「プライベートです」
薫がにこやかに返す。
「初デート!」
「プライベートです」
「普段どこ行くの?」
「プライベートです」
「休日何してる?」
「プライベートです」
「手繋ぐ?」
「プライベートです」
「キス──」
「プライベートです」
一切隙がない。
ティキは笑ってしまう。
「息ぴったりじゃん!」
神田は真顔。
「業務外のことですので」
「冷たい!」
「仕事は終わりました」
「だから雑談したいんだって」
薫は苦笑する。
「社長……」
ティキは腕を組み、しばらく考えたあと、にっこり笑った。
「答えないと帰さないよ」
「……」
「……」
二人とも黙る。
ティキはそのまま笑顔。
「今日は予定空けてあるから」
「本気ですか」
薫が小さくため息をつく。
神田が横を見る。
「……どうする」
薫も小声で返す。
「少しだけ、お話ししますか」
「任せる」
神田は止めなかった。
薫はティキへ向き直る。
「本当に少しだけですよ?」
「やった!」
ティキが子どものように身を乗り出す。
「付き合ったきっかけは?」
薫は少し照れ笑いを浮かべた。
「彼?いや、私?から…」
「やっぱり!」
ティキが机を叩く。
「クロスの言ってた通り!」
「社長……」
「なんで好きになったの?」
薫は神田をちらっと見る。
神田は静かにコーヒーを飲んでいる。
「……並んだら絵になるなって」
「ぶっ!理由顔?!」
「大きいです」
「薫ちゃんも美人だからね」
「あと、安心できるんです」
ティキが神田を見る。
「無口なのに?」
神田が答える。
「無口だからです」
薫が頷く。
「必要なことはちゃんと言ってくれるので」
「なるほど」
ティキは満足そうにメモを取る真似をする。
「初デートは?」
「ジムです」
「は?」
「ジム」
「詳しく」
「それはプライベートです」
「そこはダメかぁ」
薫が笑う。
「すみません」
「休日は?」
「一緒に買い物へ行ったり、ご飯を食べたり」
「普通だ!」
「普通ですね」
「神田さん、デートで喋る?」
神田は少し考えた。
「仕事よりは」
薫がくすっと笑う。
「ちゃんと喋りますよ」
「本当?」
「私が話して、ユウが聞いてくれます」
「ユウ」
ティキがその呼び方に反応する。
「普段ユウって呼んでるんだ」
ヒロインは「あ」と口を押さえる。
しまった、という顔。
神田は横で少しだけ口元を緩めた。
ティキは満足げに笑う。
「なるほどねぇ」
そして二人を交互に見て頷く。
「商談見てて思ったけどさ」
「はい」
「仕事中は完璧にビジネスパートナー」
「はい」
「なのに今は普通の恋人」
薫が少し照れながら笑う。
「切り替えはしています」
ティキは腕を組み、しみじみと言った。
「だからあんなに仕事しやすいんだ」
神田が短く答える。
「公私混同はしません」
「うん」
ティキは大きく頷いた。
「でも、その切り替えができるからこそ、お互いを信頼して仕事を任せられるんだね」
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
「そうですね」
「そうだな」
ティキは満足そうにソファにもたれた。
「よし」
「はい?」
「今日はこのくらいで勘弁してあげる」
神田が静かに立ち上がる。
「助かります」
薫も立ち上がって一礼した。
「ありがとうございました」
二人が社長室を出ていくと、ドアが閉まる直前、ティキがぽつりとつぶやいた。
「……次はダブルデートに誘ってみようかな。」
廊下にいた神田は聞こえたらしく、足を止めずに一言だけ返した。
「却下です」
社長室の中から、ティキの「即答かーい!」という笑い声が響いた。