《第18話》ショウダン。
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ノア組合本社。
会議室。
神田は営業担当として一人で入室する。
「本日はよろしくお願いいたします」
落ち着いた低い声。
相手側の部長や課長が挨拶を返す。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
席に着き、資料を開く。
すると。
ガチャ。
ドアが開いた。
「失礼しまーす」
ティキだった。
部長が驚く。
「社長?」
「ちょっと見学」
「本日のご予定は……」
「空けた」
「……」
ティキは神田の真正面に座る。
腕を組んで、じーっと見る。
(この人か)
(薫ちゃんの彼氏)
(顔いいな)
神田は一瞬だけ視線を向けた。
「……」
会釈だけ。
それ以上は気にせず資料へ視線を戻す。
「では、ご説明いたします」
淡々と説明を始める。
数字。
市場分析。
導入効果。
リスク。
スケジュール。
質問が飛べば即答。
「こちらの懸念点ですが──」
「現段階では三案ございます」
資料を開くことなく答える。
「費用対効果は?」
「こちらをご覧ください」
ページ番号まで正確。
必要な資料がすぐ出る。
ティキ。
(……)
(仕事モードだ)
(全然ブレない)
周りの社員も思う。
(説明うまい)
(分かりやすい)
(圧がないのに説得力ある)
ティキはいつの間にか身を乗り出していた。
「……」
じーーーっ。
神田は全く気にしない。
「こちらが導入後一年間の予測です」
「なるほど」
部長たちが頷く。
ティキだけ視線が違う。
資料じゃない。
神田。
(薫ちゃん、この人選んだのか)
(確かにイケメン)
(落ち着いてる)
(声いいな)
神田は淡々と説明を続ける。
「ご質問ございますか。」
部長が口を開く前に。
ティキが手を挙げた。
「はい!」
全員が見る。
「彼女と付き合ってどれくら──」
部長が慌てて咳払い。
「社長」
「あ」
ティキも我に返る。
「違った」
神田は表情一つ変えない。
「ご質問は案件についてでしょうか」
「……そうだった」
会議室に小さな笑いが起きる。
ティキは頭をかく。
「ごめんごめん」
神田は何事もなかったように続けた。
「他にご質問ございますか」
その落ち着きぶりに、ティキは思わず笑ってしまう。
(動じないな、この人)
商談は予定時間ぴったりで終了。
資料を閉じた神田が立ち上がる。
「本日はありがとうございました」
深く一礼。
その瞬間。
ティキも立ち上がった。
「ねえ!」
神田が振り向く。
「はい」
ティキは数秒、神田を見つめてから笑った。
「薫ちゃんが好きになるの、分かった」
会議室が静まり返る。
部長たち。
(社長!?)
(言った!)
神田は一瞬だけ目を細めたが、動揺は見せなかった。
「ありがとうございます」
それだけ返して一礼する。
ティキは吹き出した。
「そこ否定しないんだ」
「事実ですので」
短い返答。
ティキは肩をすくめて笑う。
「いい男だなぁ」
神田は照れることもなく鞄を持った。
「失礼いたします」
最後まで仕事相手としての礼節を崩さず会議室を後にする。
ドアが閉まると同時に、ティキは大きく息を吐いた。
「……勝てないわ」
部長が苦笑する。
「社長、勝負していたんですか」
「うん」
「いつからです?」
「会う前から」
部長たちは顔を見合わせて笑い、ティキは満足そうに頷いた。
「でも安心した」
「何がですか?」
「薫ちゃん、見る目あった」
商談が終わった午後。
ティキは社長室へ戻るなり、スマホを取り出した。
「もしもし、クロス?」
『珍しいな。どうした』
「お願いがある」
『聞くだけ聞こう』
ティキは真面目な声になる。
「次の打ち合わせ」
『ああ』
「神田さんに薫ちゃん帯同させて」
電話の向こうが静かになる。
数秒。
『……なんでだ』
「セットで見たい」
『……』
「絶対絵になるじゃん」
『仕事だぞ』
「もちろん仕事もするよ?」
『今の理由は100パーセント仕事じゃなかったな』
「うん」
即答。
クロスは呆れたように笑う。
『お前、本当にあいつら好きだな』
「好き」
『薫を』
「二人とも」
『ほう』
ティキは続ける。
「神田さん単体で仕事見た」
『どうだった』
「めちゃくちゃできる」
『ああ』
「でもさ」
『うん?』
「薫ちゃんと組むともっとすごいんでしょ?」
クロスは少し黙る。
『……まあな』
「見たい」
『ただの見学じゃないか』
「勉強」
『嘘つけ』
「7割」
「残り3割は?」
「見たい」
クロスは吹き出した。
『正直者め』
しばらく考え込む。
指で机をトントン叩く。
(神田一人でも十分まとまる。)
(薫を帯同させる必要は本来ない。)
(だが……)
クロスの口元がゆっくり上がる。
(面白そうだ)
『よし』
「え」
『薫つける』
ティキが勢いよく立ち上がる。
「やった!」
『ただし』
「うん」
『遊びじゃない』
「もちろん」
『薫は社長秘書として同行する』
「了解」
『神田は営業として商談する』
「うん」
『お前が茶化したら終わりだ』
ティキは敬礼でもしそうな勢いで返事をする。
「真面目に見る!」
『信用ならんな』
「いやいや!」
笑いながら否定するティキ。
「ちゃんと仕事してる二人を見たいんだ」
『……』
その一言だけは嘘がなかった。
クロスもそれが分かった。
『分かった。段取りはこちらで組む』
「ありがとう!」
電話が切れる。
クロスは受話器を置き、一人で笑った。
「ティキも物好きだ」
そのまま内線を取る。
「薫、ちょっと来い」
数分後。
「失礼します」
薫が社長室へ入る。
「何でしょう」
クロスはニヤリと笑った。
「次のティキの商談」
「はい」
「神田に帯同」
「……私もですか?」
「ティキの希望だ」
薫はきょとんとする。
「私も?」
「ああ」
「なぜでしょう」
クロスは肩をすくめた。
「『セットで見たい』だそうだ」
薫は数秒沈黙し、小さく苦笑した。
「……展示物ではないのですが」
クロスは堪えきれず笑う。
「俺もそう言った」
「仕事はきちんといたします」
「ああ。それでいい」
クロスは楽しそうに椅子にもたれた。
「ティキがどんな顔するか、今から楽しみだ」
会議室。
神田は営業担当として一人で入室する。
「本日はよろしくお願いいたします」
落ち着いた低い声。
相手側の部長や課長が挨拶を返す。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
席に着き、資料を開く。
すると。
ガチャ。
ドアが開いた。
「失礼しまーす」
ティキだった。
部長が驚く。
「社長?」
「ちょっと見学」
「本日のご予定は……」
「空けた」
「……」
ティキは神田の真正面に座る。
腕を組んで、じーっと見る。
(この人か)
(薫ちゃんの彼氏)
(顔いいな)
神田は一瞬だけ視線を向けた。
「……」
会釈だけ。
それ以上は気にせず資料へ視線を戻す。
「では、ご説明いたします」
淡々と説明を始める。
数字。
市場分析。
導入効果。
リスク。
スケジュール。
質問が飛べば即答。
「こちらの懸念点ですが──」
「現段階では三案ございます」
資料を開くことなく答える。
「費用対効果は?」
「こちらをご覧ください」
ページ番号まで正確。
必要な資料がすぐ出る。
ティキ。
(……)
(仕事モードだ)
(全然ブレない)
周りの社員も思う。
(説明うまい)
(分かりやすい)
(圧がないのに説得力ある)
ティキはいつの間にか身を乗り出していた。
「……」
じーーーっ。
神田は全く気にしない。
「こちらが導入後一年間の予測です」
「なるほど」
部長たちが頷く。
ティキだけ視線が違う。
資料じゃない。
神田。
(薫ちゃん、この人選んだのか)
(確かにイケメン)
(落ち着いてる)
(声いいな)
神田は淡々と説明を続ける。
「ご質問ございますか。」
部長が口を開く前に。
ティキが手を挙げた。
「はい!」
全員が見る。
「彼女と付き合ってどれくら──」
部長が慌てて咳払い。
「社長」
「あ」
ティキも我に返る。
「違った」
神田は表情一つ変えない。
「ご質問は案件についてでしょうか」
「……そうだった」
会議室に小さな笑いが起きる。
ティキは頭をかく。
「ごめんごめん」
神田は何事もなかったように続けた。
「他にご質問ございますか」
その落ち着きぶりに、ティキは思わず笑ってしまう。
(動じないな、この人)
商談は予定時間ぴったりで終了。
資料を閉じた神田が立ち上がる。
「本日はありがとうございました」
深く一礼。
その瞬間。
ティキも立ち上がった。
「ねえ!」
神田が振り向く。
「はい」
ティキは数秒、神田を見つめてから笑った。
「薫ちゃんが好きになるの、分かった」
会議室が静まり返る。
部長たち。
(社長!?)
(言った!)
神田は一瞬だけ目を細めたが、動揺は見せなかった。
「ありがとうございます」
それだけ返して一礼する。
ティキは吹き出した。
「そこ否定しないんだ」
「事実ですので」
短い返答。
ティキは肩をすくめて笑う。
「いい男だなぁ」
神田は照れることもなく鞄を持った。
「失礼いたします」
最後まで仕事相手としての礼節を崩さず会議室を後にする。
ドアが閉まると同時に、ティキは大きく息を吐いた。
「……勝てないわ」
部長が苦笑する。
「社長、勝負していたんですか」
「うん」
「いつからです?」
「会う前から」
部長たちは顔を見合わせて笑い、ティキは満足そうに頷いた。
「でも安心した」
「何がですか?」
「薫ちゃん、見る目あった」
商談が終わった午後。
ティキは社長室へ戻るなり、スマホを取り出した。
「もしもし、クロス?」
『珍しいな。どうした』
「お願いがある」
『聞くだけ聞こう』
ティキは真面目な声になる。
「次の打ち合わせ」
『ああ』
「神田さんに薫ちゃん帯同させて」
電話の向こうが静かになる。
数秒。
『……なんでだ』
「セットで見たい」
『……』
「絶対絵になるじゃん」
『仕事だぞ』
「もちろん仕事もするよ?」
『今の理由は100パーセント仕事じゃなかったな』
「うん」
即答。
クロスは呆れたように笑う。
『お前、本当にあいつら好きだな』
「好き」
『薫を』
「二人とも」
『ほう』
ティキは続ける。
「神田さん単体で仕事見た」
『どうだった』
「めちゃくちゃできる」
『ああ』
「でもさ」
『うん?』
「薫ちゃんと組むともっとすごいんでしょ?」
クロスは少し黙る。
『……まあな』
「見たい」
『ただの見学じゃないか』
「勉強」
『嘘つけ』
「7割」
「残り3割は?」
「見たい」
クロスは吹き出した。
『正直者め』
しばらく考え込む。
指で机をトントン叩く。
(神田一人でも十分まとまる。)
(薫を帯同させる必要は本来ない。)
(だが……)
クロスの口元がゆっくり上がる。
(面白そうだ)
『よし』
「え」
『薫つける』
ティキが勢いよく立ち上がる。
「やった!」
『ただし』
「うん」
『遊びじゃない』
「もちろん」
『薫は社長秘書として同行する』
「了解」
『神田は営業として商談する』
「うん」
『お前が茶化したら終わりだ』
ティキは敬礼でもしそうな勢いで返事をする。
「真面目に見る!」
『信用ならんな』
「いやいや!」
笑いながら否定するティキ。
「ちゃんと仕事してる二人を見たいんだ」
『……』
その一言だけは嘘がなかった。
クロスもそれが分かった。
『分かった。段取りはこちらで組む』
「ありがとう!」
電話が切れる。
クロスは受話器を置き、一人で笑った。
「ティキも物好きだ」
そのまま内線を取る。
「薫、ちょっと来い」
数分後。
「失礼します」
薫が社長室へ入る。
「何でしょう」
クロスはニヤリと笑った。
「次のティキの商談」
「はい」
「神田に帯同」
「……私もですか?」
「ティキの希望だ」
薫はきょとんとする。
「私も?」
「ああ」
「なぜでしょう」
クロスは肩をすくめた。
「『セットで見たい』だそうだ」
薫は数秒沈黙し、小さく苦笑した。
「……展示物ではないのですが」
クロスは堪えきれず笑う。
「俺もそう言った」
「仕事はきちんといたします」
「ああ。それでいい」
クロスは楽しそうに椅子にもたれた。
「ティキがどんな顔するか、今から楽しみだ」