《第18話》ショウダン。
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ティキは突然、ぱんっと手を叩いた。
「彼、営業なんでしょ?」
「そうだ」
「じゃあ仕事振ったら会えるよね」
クロスが嫌な予感しかしない顔をする。
「……お前」
ティキは鞄から一冊のファイルを取り出した。
「もう一本仕事しようよ」
ドサッ。
新しい案件の書類が机に置かれる。
クロスが思わず吹き出す。
「こいつの彼氏見たさに契約か?」
「そう」
即答だった。
「俺、薫ちゃんのこと大好きだからね」
「堂々と言うな」
「好きな子の彼氏って気になるじゃん」
「それだけの理由で仕事増やすな」
「いや、この案件もお願いしようと思ってたんだよ?」
「今思いついただろ」
「……半分」
「正直だな」
薫は少し困ったような表情。
ティキは悪気ゼロの笑顔。
広げた書類を薫の前へ。
「この案件、薫ちゃんの彼氏指名で」
「え?」
「営業エースなんでしょ?」
「……はい」
「じゃあお願い」
薫は書類とティキを交互に見る。
「えっと……営業担当は営業部で決めますので……」
「指名できる?」
「ご希望としてお伝えすることは可能ですが……」
「じゃあ希望!」
満面の笑み。
「彼氏さんで!」
薫の頬がみるみる赤くなる。
「……」
クロスが笑いを堪えている。
「困ってるぞ」
「え?」
「仕事と私情は分ける奴だ」
薫は小さく頷く。
「営業部長へ希望として伝達いたします」
「やった」
「ただ……」
「うん?」
「担当が変わる可能性もございます」
「えぇー」
ティキは露骨に肩を落とした。
「会いたいのに」
薫は営業スマイルを浮かべながらも、少しだけ苦笑する。
「営業部には優秀な営業がたくさんおりますので」
「でも彼氏さんがいい」
「……」
返答に困る。
クロスは完全に面白がっていた。
「お前、本当にブレないな」
「当然」
ティキは胸を張る。
「薫ちゃんが選んだ男だよ?」
「うん」
「絶対気になるじゃん」
クロスはついに笑ってしまった。
「営業部長も困るぞ、『理由:彼氏だから指名』なんて」
「いいじゃん」
「良くない」
薫は小さく額に手を当てる。
「営業部へ、そのまま理由を伝えるのは……少々恥ずかしいのですが……」
ティキはきょとん。
「え、ダメ?」
「ダメではありませんが……」
「じゃあ」
ティキはにっと笑った。
「『ティキ・ミック社長が、神田さんを高く評価してぜひ担当にと希望されています』って言っといて」
クロスがすかさず突っ込む。
「本音を180度曲げるな」
「本音は『彼氏見たい』だけど」
「知ってる」
応接室は笑いに包まれ、薫だけが「営業部にどう説明しよう……」と静かに頭を抱えるのだった。
営業部。
休憩も終わり、それぞれが午後の仕事を始めていたところへ。
コンコン。
「失礼します。」
薫が書類を抱えて入ってくる。
「お、女神」
「営業部に来るってことは仕事か」
営業部長も顔を上げる。
「どうしました?」
薫は書類を机へ置いた。
「只今ティキ・ミック社長より追加案件のご相談をいただきました」
営業部全員が一斉に見る。
「追加?」
「さっき商談終わったばっかりですよね」
「はい」
部長が書類を開く。
ページをめくった瞬間。
「……」
「部長?」
「これ……」
もう一枚。
もう一枚。
「結構大型案件だな」
営業部がざわつく。
「え?」
「マジですか」
「普通にでかい」
「これ今年でも上位じゃない?」
薫も苦笑する。
「私も驚きました」
部長は顔を上げる。
「で、担当は?」
「ご希望がございます」
「誰です?」
薫は少しだけ言いづらそうに口を開いた。
「……神田さんをご指名です」
営業部。
「…………」
一瞬、時間が止まる。
「は?」
「神田?」
「なんで?」
「ティキ社長、神田知ってたっけ?」
神田本人も静かに顔を上げる。
「……知らん」
部長も首をかしげる。
「面識ないですよね」
「ない」
全員の視線が薫へ。
「理由は?」
「……」
数秒黙る。
営業部。
(言いづらい理由なんだな)
(何だろ)
(前にどこかで仕事見たとか?)
薫は軽く咳払いをした。
「ティキ社長が……」
「はい」
「私に……」
「うん」
「『彼氏、営業エースなんでしょ?』と」
営業部。
「…………」
「…………」
「…………」
ラビが吹き出した。
「ぶはっ!」
「ラビ!」
「無理無理無理!」
腹を抱えて笑い始める。
「それでユウ指名!?」
薫は申し訳なさそうに頷く。
「はい……」
部長も笑いを堪えて肩を震わせる。
「理由、それですか」
「はい」
「他には?」
「『薫ちゃんが選んだ男だから会ってみたい』とのことでした」
営業部。
「ぶっ……!」
「なんだそれ!」
「あはははは!」
笑いが止まらない。
神田だけが無表情。
「……」
ラビが涙を拭く。
「ユウ」
「なんだ」
「お前、彼氏面接されるぞ」
「意味が分からん」
部長も苦笑する。
「仕事の能力じゃなくて、薫さんの彼氏だから指名……」
「はい」
「この間の他社の社長の件といい…」
薫は深々と頭を下げた。
「営業部の皆様には、ご迷惑をおかけします……」
「いやいや」
部長は手を振る。
「案件自体はありがたいです」
「そうですね」
「理由はともかく、大型案件ですから」
ラビはニヤニヤが止まらない。
「ティキ社長、本気で会いたいんだ」
「そのようです」
「ユウ」
「なんだ」
「頑張って彼氏審査受けてこい」
「営業だ」
即答。
営業部がまた笑う。
神田は書類を一枚めくり、内容を確認すると静かに頷いた。
「案件として受ける」
その一言に部長も真面目な表情へ戻る。
「よし。理由は変わってるが、仕事は仕事だ」
「神田、頼む」
「了解」
その様子を見た薫は、ほっと胸をなで下ろした。
一方その頃。
応接室ではティキが嬉しそうにコーヒーを飲みながら言っていた。
「これで会える」
クロスは呆れ顔で首を振る。
「お前、本当に目的がぶれないな」
「彼、営業なんでしょ?」
「そうだ」
「じゃあ仕事振ったら会えるよね」
クロスが嫌な予感しかしない顔をする。
「……お前」
ティキは鞄から一冊のファイルを取り出した。
「もう一本仕事しようよ」
ドサッ。
新しい案件の書類が机に置かれる。
クロスが思わず吹き出す。
「こいつの彼氏見たさに契約か?」
「そう」
即答だった。
「俺、薫ちゃんのこと大好きだからね」
「堂々と言うな」
「好きな子の彼氏って気になるじゃん」
「それだけの理由で仕事増やすな」
「いや、この案件もお願いしようと思ってたんだよ?」
「今思いついただろ」
「……半分」
「正直だな」
薫は少し困ったような表情。
ティキは悪気ゼロの笑顔。
広げた書類を薫の前へ。
「この案件、薫ちゃんの彼氏指名で」
「え?」
「営業エースなんでしょ?」
「……はい」
「じゃあお願い」
薫は書類とティキを交互に見る。
「えっと……営業担当は営業部で決めますので……」
「指名できる?」
「ご希望としてお伝えすることは可能ですが……」
「じゃあ希望!」
満面の笑み。
「彼氏さんで!」
薫の頬がみるみる赤くなる。
「……」
クロスが笑いを堪えている。
「困ってるぞ」
「え?」
「仕事と私情は分ける奴だ」
薫は小さく頷く。
「営業部長へ希望として伝達いたします」
「やった」
「ただ……」
「うん?」
「担当が変わる可能性もございます」
「えぇー」
ティキは露骨に肩を落とした。
「会いたいのに」
薫は営業スマイルを浮かべながらも、少しだけ苦笑する。
「営業部には優秀な営業がたくさんおりますので」
「でも彼氏さんがいい」
「……」
返答に困る。
クロスは完全に面白がっていた。
「お前、本当にブレないな」
「当然」
ティキは胸を張る。
「薫ちゃんが選んだ男だよ?」
「うん」
「絶対気になるじゃん」
クロスはついに笑ってしまった。
「営業部長も困るぞ、『理由:彼氏だから指名』なんて」
「いいじゃん」
「良くない」
薫は小さく額に手を当てる。
「営業部へ、そのまま理由を伝えるのは……少々恥ずかしいのですが……」
ティキはきょとん。
「え、ダメ?」
「ダメではありませんが……」
「じゃあ」
ティキはにっと笑った。
「『ティキ・ミック社長が、神田さんを高く評価してぜひ担当にと希望されています』って言っといて」
クロスがすかさず突っ込む。
「本音を180度曲げるな」
「本音は『彼氏見たい』だけど」
「知ってる」
応接室は笑いに包まれ、薫だけが「営業部にどう説明しよう……」と静かに頭を抱えるのだった。
営業部。
休憩も終わり、それぞれが午後の仕事を始めていたところへ。
コンコン。
「失礼します。」
薫が書類を抱えて入ってくる。
「お、女神」
「営業部に来るってことは仕事か」
営業部長も顔を上げる。
「どうしました?」
薫は書類を机へ置いた。
「只今ティキ・ミック社長より追加案件のご相談をいただきました」
営業部全員が一斉に見る。
「追加?」
「さっき商談終わったばっかりですよね」
「はい」
部長が書類を開く。
ページをめくった瞬間。
「……」
「部長?」
「これ……」
もう一枚。
もう一枚。
「結構大型案件だな」
営業部がざわつく。
「え?」
「マジですか」
「普通にでかい」
「これ今年でも上位じゃない?」
薫も苦笑する。
「私も驚きました」
部長は顔を上げる。
「で、担当は?」
「ご希望がございます」
「誰です?」
薫は少しだけ言いづらそうに口を開いた。
「……神田さんをご指名です」
営業部。
「…………」
一瞬、時間が止まる。
「は?」
「神田?」
「なんで?」
「ティキ社長、神田知ってたっけ?」
神田本人も静かに顔を上げる。
「……知らん」
部長も首をかしげる。
「面識ないですよね」
「ない」
全員の視線が薫へ。
「理由は?」
「……」
数秒黙る。
営業部。
(言いづらい理由なんだな)
(何だろ)
(前にどこかで仕事見たとか?)
薫は軽く咳払いをした。
「ティキ社長が……」
「はい」
「私に……」
「うん」
「『彼氏、営業エースなんでしょ?』と」
営業部。
「…………」
「…………」
「…………」
ラビが吹き出した。
「ぶはっ!」
「ラビ!」
「無理無理無理!」
腹を抱えて笑い始める。
「それでユウ指名!?」
薫は申し訳なさそうに頷く。
「はい……」
部長も笑いを堪えて肩を震わせる。
「理由、それですか」
「はい」
「他には?」
「『薫ちゃんが選んだ男だから会ってみたい』とのことでした」
営業部。
「ぶっ……!」
「なんだそれ!」
「あはははは!」
笑いが止まらない。
神田だけが無表情。
「……」
ラビが涙を拭く。
「ユウ」
「なんだ」
「お前、彼氏面接されるぞ」
「意味が分からん」
部長も苦笑する。
「仕事の能力じゃなくて、薫さんの彼氏だから指名……」
「はい」
「この間の他社の社長の件といい…」
薫は深々と頭を下げた。
「営業部の皆様には、ご迷惑をおかけします……」
「いやいや」
部長は手を振る。
「案件自体はありがたいです」
「そうですね」
「理由はともかく、大型案件ですから」
ラビはニヤニヤが止まらない。
「ティキ社長、本気で会いたいんだ」
「そのようです」
「ユウ」
「なんだ」
「頑張って彼氏審査受けてこい」
「営業だ」
即答。
営業部がまた笑う。
神田は書類を一枚めくり、内容を確認すると静かに頷いた。
「案件として受ける」
その一言に部長も真面目な表情へ戻る。
「よし。理由は変わってるが、仕事は仕事だ」
「神田、頼む」
「了解」
その様子を見た薫は、ほっと胸をなで下ろした。
一方その頃。
応接室ではティキが嬉しそうにコーヒーを飲みながら言っていた。
「これで会える」
クロスは呆れ顔で首を振る。
「お前、本当に目的がぶれないな」