迂闊な君へ [バーボン]
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ー迂闊な君へー
『(ん...?ここ、...どこ...?)』
身体を動かそうとしたけど、思うように動かない。
椅子...に座ったまま、拘束されてる...?薄い布で目隠しもされてるみたい。今わかってるのは薄暗い場所だということと、微かに甘い香りがする...ってことだけ。
ぼんやりとした意識の中で必死に考えたけど、何故自分がこんな状態なのか思い出せない。
スーパーに行って買い物した後 家に帰ろうとして...そこからの記憶がない。
普通、拘束されて閉じ込められたりしたらパニックになって暴れたり泣き叫んだりしそうなものなのに、私の口からは吐息混じりの声が漏れるだけで上手く声が出ない。
頭に靄がかかったように、何だかふわふわして...まるで夢の中にいるみたいだ。
「おや...?気が付きましたか?」
『あ...れ...?その、声......』
穏やかなその声を、私は知ってる気がする。
えっと、誰だっけ...?
ぼんやりしたまま思考が纏まらなくて首を傾げた。
「かわいそうに。まだ薬が抜けきってないんですね。」
頬に暖かいものが触れた。たぶん、薄手の手袋越しに触れられてる。
こんな状況にも関わらず、さっきの甘い香りはこの人のものだったんだなと一人で納得していた。静かだったから私一人だけだと思ったのに、この人も同じ部屋に一緒にいたらしい。
それも、凄く近くに。
人がいる気配なんて、全くしなかった。
『くすり...?』
「えぇ、少し眠くなるだけの薬なので、身体に害はないので安心して下さい。もうすぐ意識もハッキリしてくる筈ですから。」
『そう、ですか...。えっと、あなたは...』
「...僕はバーボン。もう会うことはないでしょうから、覚えなくてもいいですよ。...諸事情により、僕が直接貴女を助けることは出来ませんが助けは呼んでありますから、このまま大人しく待っていて下さい。」
頬の温もりが離れると同時に、甘い香りも離れていく。途端に不安になって指先が冷えていく。
得体の知れない人物と同じ空間にいることより、一人になる事の方が恐ろしく感じた。
『ぁ...っ、...待って、下さい。おねがい...ひとりにしないで...』
「はぁ、...助けが来るまでの間だけですからね。拘束も解きませんから。」
『はい、...ありがとうございます、バーボンさん。』
「......貴女、無用心過ぎません?こんな明らかに怪しい男を引き留めるなんて。」
『ぅ......おっしゃる通りです...』
「自分から危ない橋を渡りに行くなんて、後悔してからでは遅いんですよ?」
『は、はい...すみません...』
少しずつ、意識はハッキリしてきた。
何故か、すぐ傍にいる怪しい人物からお説教を受けてる。多分、悪い人じゃないんだろうけど。
...いや、私を拘束してここへ閉じ込めた犯人...もしくはその関係者かもしれないのに、私ったら何言ってるんだろ。
助けを呼んである、なんて...本当かどうかもわからないのに。
「全く...。これに懲りたら近道しようとして薄暗い裏路地に入り込んだりしないことですね。トラブルの元ですよ。」
『はい...。』
「本当にわかってます?貴女、方向音痴なんですから冒険しようとしないで真っ直ぐ帰って下さい。」
『はい......えっ?方向音痴...って、どうして』
「無事に帰りたいなら、詮索するのはオススメしませんよ。」
『...やっぱり、あ...ッ』
つい名前を呼びそうになって、ぐっと飲み込んだ。
たった今、詮索するなと言われたばかりなのに、思わず頭に思い浮かべてしまった。
行きつけの喫茶店で働いている、とある店員の姿を。
甘いマスクに、エキゾチックな褐色の肌。
サラサラのミルクティーブラウンの髪。
深い海のようなブルーグレーの瞳。
料理上手で話し上手。
いつも明るく爽やかな、ポアロの店員。
安室透
今と雰囲気は違えども、その声は記憶の中の彼と酷似していた。
「......自ら危険に身を投じるのが趣味なんですか?」
『い、いえ......自分から飛び込んでいくタイプではない筈なんですけど...』
「説得力皆無ですね。一度、危機感を持つ事の重要性を教えて差し上げましょうか.........ヒロインさん?」
『えっ』
名前を呼ばれたことにより、疑惑は確証に変わる。
バーボンと名乗っているのは何か理由があるんだろうか。彼の言う諸事情というやつかもしれない。
道理で、こんなシチュエーションなのに落ち着く訳だ。彼ならば、悪いようにはしないだろうという謎の安心感があった。きっと大丈夫だと。
『えっと、...あの...』
「迂闊な行動一つが、命取りになることもあるんですよ」
でも、そうも言ってられないかもしれない。
ほんのり甘さを含んだ紅茶の香りと爽やかな柑橘系のそれがふわっと鼻腔を擽った。
足音も無く、近付いた香りに...ピクリと肩を震わせる。
『...っん、』
スリ...と耳朶をなぞる、すべらかな手袋の感触に身体が固まった。そもそも、両手両足は拘束されて椅子に固定されているのだから身動きは出来ないのだが。
今更ながら、この逃げられない状況を理解して心臓がドクンドクンと激しく音を立てる。まるで警告音のように。
「こういう時は、見ざる聞かざる言わざる。...悪影響を及ぼす事柄からは遠ざかるべきだと、僕は思いますけどね」
激しく頷いて同意したいところだが、耳朶から頬へと触れる温もりの所為でドキドキが爆発しそうで動けない。視界が遮られているから余計に意識してしまう。
今のところ、私の口は災いしか招いてない。
これ以上余計な事を言うとまずいんじゃないか。
...いや、もう手遅れかもしれない。
「まぁ、少し...手助けして差し上げましょうか。見えない状態はクリアしてるので、...耳を塞いで、口も...塞いでしまおうか」
手袋越しの温もりに両耳を覆われて、音がこもって僅かに聴こえる。それは戸惑った私の声。
『手助け...?一体何を...んんッ?!』
それを遮るようにして 少し冷たくて、柔らかいものが私の口唇を塞いだ。
『んっ、...ふ、ぁ...っ...んんっ』
触れ合う内に私の体温が移ったのか、重ねられた口唇は先程よりも熱を帯びている。
くちゅり、と 些か強引に捩じ込まれたのは恐らく舌先。逃げようとした私の舌を絡め取って、ジュッと吸われる。何も言葉を紡がせてくれない、呼吸すらままならない意地悪な口付け。
両耳を塞がれているからダイレクトに淫靡な水音が響いて更に心が乱されてゆく。
何で、どうして。
こんな所で...私、安室さんに...キス、されてるの?
いや、今はバーボンだっけ...って、そんな事考えてる場合じゃない。
それなりに恋愛経験はあるつもりだったけど、こんな濃厚なキスは経験したことなくて。
キスはただ口唇同士が触れ合うものだと認識していた私は内心大慌てで...呼吸の仕方も忘れる程だった。
『やっ、...やらっ、...ふ、ぁッ...』
「おや、呂律が回らなくなる程良かったですか?」
『なっ!そんな訳っ......っん、』
反論は許さないとばかりに、また口を塞がれた。
視界を遮られ、耳を塞がれた今、それ以外の感覚が鋭くなってるみたい。
口の中がこんなに敏感だなんて、初めて知った。こんな所で知りたくなかった。
くらくらするのは酸欠からか、それともこの強引で意地悪な口付けによるものなのか。
『...っは、...んぅ、...っ、んっ、...ふ、』
涙が滲む。恐怖や嫌悪感ではなくて、ただ苦しくて。
こんなに乱暴で一方的なのに、嫌とは思わなかった自分に戸惑った。
でもせめて目隠しも拘束もされてない時が良かった。いきなりマニアックプレイ過ぎて私には難易度が高すぎた。そういう問題じゃない?そんな事は私が一番よくわかってるっつーの!
『もっ、...くるし、...っん、...ゃ......んくっ、』
苦しさから逃れようと顔を背けようとした時、舌先で小さな粒状の何かを喉の奥に押し込まれた。反射的にその異物をこくん...と飲み込んでしまった。
あ、これ錠剤だ。
『...っは、...嘘、...飲ん...じゃった...』
「折角薬の効果が薄まったところで申し訳ないんですが...また少しの間眠っていてもらいますね。ヒロインさんは...危なっかしいので。ちゃんと僕が安全な所へ送り届けますから大丈夫ですよ。」
“これ以上は、...僕も我慢できなくなりそうですし”
そんな物騒な台詞が、聴こえた気がした。
楽し気な声色だったのは、...きっと気の所為。
心臓に悪いので、幻聴か何かであって欲しい。
先程までの声の主が安室さんであっても、そうじゃなかったとしても...気まずい事に変わりない。
もうあの喫茶店、行けないかも。
お気に入りだったのに。
ここ最近事件が増えてて 気を付けなきゃ...って思ってた筈なのに。きっと自分は大丈夫、なんていう考えがあったのかもしれない。
もう絶対、夜に裏路地なんて通らないし、防犯対策もギチギチにしようと心に誓った。
でも、迂闊な行動取っちゃったのはちょこっと悪かったかもしれないけど、一番悪いのは私を拘束して閉じ込めた奴だし。拘束された状態の私にキステロ仕掛けてきたバーボンさんも悪い。
散々私を翻弄してくれちゃって、不安や恐怖なんかよりも別の気持ちに塗り替えてくれちゃって。...腹立つ。うん、ちょっとくらい罵倒したっていいよね。
『バーボンさんの...バカ。』
彼に聴こえるように呟いた。
再びぼやけてきた意識の中、彼が優しく触れるだけのキスを落として「ごめんね」と小さく呟いた気がするけど...
夢か現実か、私にはわからない。
どっちにしても腹立つな。
これ以上私の心を乱さないで欲しい。
次に目を覚ました時、私は病院のベッドの上だった。
病室を訪れた警察の人からは「事件の詳細は既に伺ってますので、検査に異常がなければお送りします」と言われて検査後、家まで送ってもらった。怪我も無く、薬の副作用もなかったらしい。良かった。
どうやら私は事件現場付近で犯人に遭遇しちゃって、倉庫に閉じ込められてたらしい。その犯人は親切な通報者のお陰ですぐに捕まったんだとか。
親切な通報者、ねぇ。
あんな目に遭ったというのに、まるで夢でも見てたみたいに現実味がない。トラウマにならなくて良かったけど、...なんかちょっとモヤモヤする。
まぁ、もう私から関わる事はないだろうし、犯人も捕まったらしいし。一件落着...なのかな。
そう思っていた。
「おや、ヒロインさん...奇遇ですねぇ」
スーパーでピカピカ笑顔の安室さんに遭遇するまでは。
(あ、あはは...人違いでs)
(ヒロインさん、荷物重そうですね。手伝いますよ。心配なので家まで送らせて下さい)
(...ある人に危機感を持つように言われたので、遠慮しときます。あむぴファンのJK達に誤解されても困りますし)
(ポアロまでならどうでしょう?酸欠にさせたお詫びに季節限定パフェ、ご馳走させて下さい)
(隠す気ゼロじゃないですか...もう。...パフェ、食べたら帰りますからね)
決してパフェに釣られた訳じゃない。
安室さんに釣られた訳でも......多分、ない。
その後、頻繁に遭遇するようになったのも...偶然、だよね...?
ーfinー
『(ん...?ここ、...どこ...?)』
身体を動かそうとしたけど、思うように動かない。
椅子...に座ったまま、拘束されてる...?薄い布で目隠しもされてるみたい。今わかってるのは薄暗い場所だということと、微かに甘い香りがする...ってことだけ。
ぼんやりとした意識の中で必死に考えたけど、何故自分がこんな状態なのか思い出せない。
スーパーに行って買い物した後 家に帰ろうとして...そこからの記憶がない。
普通、拘束されて閉じ込められたりしたらパニックになって暴れたり泣き叫んだりしそうなものなのに、私の口からは吐息混じりの声が漏れるだけで上手く声が出ない。
頭に靄がかかったように、何だかふわふわして...まるで夢の中にいるみたいだ。
「おや...?気が付きましたか?」
『あ...れ...?その、声......』
穏やかなその声を、私は知ってる気がする。
えっと、誰だっけ...?
ぼんやりしたまま思考が纏まらなくて首を傾げた。
「かわいそうに。まだ薬が抜けきってないんですね。」
頬に暖かいものが触れた。たぶん、薄手の手袋越しに触れられてる。
こんな状況にも関わらず、さっきの甘い香りはこの人のものだったんだなと一人で納得していた。静かだったから私一人だけだと思ったのに、この人も同じ部屋に一緒にいたらしい。
それも、凄く近くに。
人がいる気配なんて、全くしなかった。
『くすり...?』
「えぇ、少し眠くなるだけの薬なので、身体に害はないので安心して下さい。もうすぐ意識もハッキリしてくる筈ですから。」
『そう、ですか...。えっと、あなたは...』
「...僕はバーボン。もう会うことはないでしょうから、覚えなくてもいいですよ。...諸事情により、僕が直接貴女を助けることは出来ませんが助けは呼んでありますから、このまま大人しく待っていて下さい。」
頬の温もりが離れると同時に、甘い香りも離れていく。途端に不安になって指先が冷えていく。
得体の知れない人物と同じ空間にいることより、一人になる事の方が恐ろしく感じた。
『ぁ...っ、...待って、下さい。おねがい...ひとりにしないで...』
「はぁ、...助けが来るまでの間だけですからね。拘束も解きませんから。」
『はい、...ありがとうございます、バーボンさん。』
「......貴女、無用心過ぎません?こんな明らかに怪しい男を引き留めるなんて。」
『ぅ......おっしゃる通りです...』
「自分から危ない橋を渡りに行くなんて、後悔してからでは遅いんですよ?」
『は、はい...すみません...』
少しずつ、意識はハッキリしてきた。
何故か、すぐ傍にいる怪しい人物からお説教を受けてる。多分、悪い人じゃないんだろうけど。
...いや、私を拘束してここへ閉じ込めた犯人...もしくはその関係者かもしれないのに、私ったら何言ってるんだろ。
助けを呼んである、なんて...本当かどうかもわからないのに。
「全く...。これに懲りたら近道しようとして薄暗い裏路地に入り込んだりしないことですね。トラブルの元ですよ。」
『はい...。』
「本当にわかってます?貴女、方向音痴なんですから冒険しようとしないで真っ直ぐ帰って下さい。」
『はい......えっ?方向音痴...って、どうして』
「無事に帰りたいなら、詮索するのはオススメしませんよ。」
『...やっぱり、あ...ッ』
つい名前を呼びそうになって、ぐっと飲み込んだ。
たった今、詮索するなと言われたばかりなのに、思わず頭に思い浮かべてしまった。
行きつけの喫茶店で働いている、とある店員の姿を。
甘いマスクに、エキゾチックな褐色の肌。
サラサラのミルクティーブラウンの髪。
深い海のようなブルーグレーの瞳。
料理上手で話し上手。
いつも明るく爽やかな、ポアロの店員。
安室透
今と雰囲気は違えども、その声は記憶の中の彼と酷似していた。
「......自ら危険に身を投じるのが趣味なんですか?」
『い、いえ......自分から飛び込んでいくタイプではない筈なんですけど...』
「説得力皆無ですね。一度、危機感を持つ事の重要性を教えて差し上げましょうか.........ヒロインさん?」
『えっ』
名前を呼ばれたことにより、疑惑は確証に変わる。
バーボンと名乗っているのは何か理由があるんだろうか。彼の言う諸事情というやつかもしれない。
道理で、こんなシチュエーションなのに落ち着く訳だ。彼ならば、悪いようにはしないだろうという謎の安心感があった。きっと大丈夫だと。
『えっと、...あの...』
「迂闊な行動一つが、命取りになることもあるんですよ」
でも、そうも言ってられないかもしれない。
ほんのり甘さを含んだ紅茶の香りと爽やかな柑橘系のそれがふわっと鼻腔を擽った。
足音も無く、近付いた香りに...ピクリと肩を震わせる。
『...っん、』
スリ...と耳朶をなぞる、すべらかな手袋の感触に身体が固まった。そもそも、両手両足は拘束されて椅子に固定されているのだから身動きは出来ないのだが。
今更ながら、この逃げられない状況を理解して心臓がドクンドクンと激しく音を立てる。まるで警告音のように。
「こういう時は、見ざる聞かざる言わざる。...悪影響を及ぼす事柄からは遠ざかるべきだと、僕は思いますけどね」
激しく頷いて同意したいところだが、耳朶から頬へと触れる温もりの所為でドキドキが爆発しそうで動けない。視界が遮られているから余計に意識してしまう。
今のところ、私の口は災いしか招いてない。
これ以上余計な事を言うとまずいんじゃないか。
...いや、もう手遅れかもしれない。
「まぁ、少し...手助けして差し上げましょうか。見えない状態はクリアしてるので、...耳を塞いで、口も...塞いでしまおうか」
手袋越しの温もりに両耳を覆われて、音がこもって僅かに聴こえる。それは戸惑った私の声。
『手助け...?一体何を...んんッ?!』
それを遮るようにして 少し冷たくて、柔らかいものが私の口唇を塞いだ。
『んっ、...ふ、ぁ...っ...んんっ』
触れ合う内に私の体温が移ったのか、重ねられた口唇は先程よりも熱を帯びている。
くちゅり、と 些か強引に捩じ込まれたのは恐らく舌先。逃げようとした私の舌を絡め取って、ジュッと吸われる。何も言葉を紡がせてくれない、呼吸すらままならない意地悪な口付け。
両耳を塞がれているからダイレクトに淫靡な水音が響いて更に心が乱されてゆく。
何で、どうして。
こんな所で...私、安室さんに...キス、されてるの?
いや、今はバーボンだっけ...って、そんな事考えてる場合じゃない。
それなりに恋愛経験はあるつもりだったけど、こんな濃厚なキスは経験したことなくて。
キスはただ口唇同士が触れ合うものだと認識していた私は内心大慌てで...呼吸の仕方も忘れる程だった。
『やっ、...やらっ、...ふ、ぁッ...』
「おや、呂律が回らなくなる程良かったですか?」
『なっ!そんな訳っ......っん、』
反論は許さないとばかりに、また口を塞がれた。
視界を遮られ、耳を塞がれた今、それ以外の感覚が鋭くなってるみたい。
口の中がこんなに敏感だなんて、初めて知った。こんな所で知りたくなかった。
くらくらするのは酸欠からか、それともこの強引で意地悪な口付けによるものなのか。
『...っは、...んぅ、...っ、んっ、...ふ、』
涙が滲む。恐怖や嫌悪感ではなくて、ただ苦しくて。
こんなに乱暴で一方的なのに、嫌とは思わなかった自分に戸惑った。
でもせめて目隠しも拘束もされてない時が良かった。いきなりマニアックプレイ過ぎて私には難易度が高すぎた。そういう問題じゃない?そんな事は私が一番よくわかってるっつーの!
『もっ、...くるし、...っん、...ゃ......んくっ、』
苦しさから逃れようと顔を背けようとした時、舌先で小さな粒状の何かを喉の奥に押し込まれた。反射的にその異物をこくん...と飲み込んでしまった。
あ、これ錠剤だ。
『...っは、...嘘、...飲ん...じゃった...』
「折角薬の効果が薄まったところで申し訳ないんですが...また少しの間眠っていてもらいますね。ヒロインさんは...危なっかしいので。ちゃんと僕が安全な所へ送り届けますから大丈夫ですよ。」
“これ以上は、...僕も我慢できなくなりそうですし”
そんな物騒な台詞が、聴こえた気がした。
楽し気な声色だったのは、...きっと気の所為。
心臓に悪いので、幻聴か何かであって欲しい。
先程までの声の主が安室さんであっても、そうじゃなかったとしても...気まずい事に変わりない。
もうあの喫茶店、行けないかも。
お気に入りだったのに。
ここ最近事件が増えてて 気を付けなきゃ...って思ってた筈なのに。きっと自分は大丈夫、なんていう考えがあったのかもしれない。
もう絶対、夜に裏路地なんて通らないし、防犯対策もギチギチにしようと心に誓った。
でも、迂闊な行動取っちゃったのはちょこっと悪かったかもしれないけど、一番悪いのは私を拘束して閉じ込めた奴だし。拘束された状態の私にキステロ仕掛けてきたバーボンさんも悪い。
散々私を翻弄してくれちゃって、不安や恐怖なんかよりも別の気持ちに塗り替えてくれちゃって。...腹立つ。うん、ちょっとくらい罵倒したっていいよね。
『バーボンさんの...バカ。』
彼に聴こえるように呟いた。
再びぼやけてきた意識の中、彼が優しく触れるだけのキスを落として「ごめんね」と小さく呟いた気がするけど...
夢か現実か、私にはわからない。
どっちにしても腹立つな。
これ以上私の心を乱さないで欲しい。
次に目を覚ました時、私は病院のベッドの上だった。
病室を訪れた警察の人からは「事件の詳細は既に伺ってますので、検査に異常がなければお送りします」と言われて検査後、家まで送ってもらった。怪我も無く、薬の副作用もなかったらしい。良かった。
どうやら私は事件現場付近で犯人に遭遇しちゃって、倉庫に閉じ込められてたらしい。その犯人は親切な通報者のお陰ですぐに捕まったんだとか。
親切な通報者、ねぇ。
あんな目に遭ったというのに、まるで夢でも見てたみたいに現実味がない。トラウマにならなくて良かったけど、...なんかちょっとモヤモヤする。
まぁ、もう私から関わる事はないだろうし、犯人も捕まったらしいし。一件落着...なのかな。
そう思っていた。
「おや、ヒロインさん...奇遇ですねぇ」
スーパーでピカピカ笑顔の安室さんに遭遇するまでは。
(あ、あはは...人違いでs)
(ヒロインさん、荷物重そうですね。手伝いますよ。心配なので家まで送らせて下さい)
(...ある人に危機感を持つように言われたので、遠慮しときます。あむぴファンのJK達に誤解されても困りますし)
(ポアロまでならどうでしょう?酸欠にさせたお詫びに季節限定パフェ、ご馳走させて下さい)
(隠す気ゼロじゃないですか...もう。...パフェ、食べたら帰りますからね)
決してパフェに釣られた訳じゃない。
安室さんに釣られた訳でも......多分、ない。
その後、頻繁に遭遇するようになったのも...偶然、だよね...?
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