あなたについた嘘 [降谷零]
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あなたについた嘘
-魔王降臨-
思えば、零さんと付き合うようになって……私、一度も伝えてないな。
淋しい…って。
デスクに積み上がってる忌々しい書類達を死んだ魚の様な目で見つめながら、思った事を口にした。幸い誰かに聞かれる事はなかったが。
幸い、というか毎度の事ながら、デスクの周りは疎か
室内に留まっている人間自体が少ない。節電期間だとかで真っ暗な室内で、パソコンだけが光を放っていて、一人取り残されたみたいな、孤独な気分になる。それがまた虚しくて……
また、携帯に手を伸ばしそうになるけど、ぐっと堪えた。
駄目だ駄目だ。零さんだって忙しいんだから、
我が儘言って困らせたくないでしよ?
きっと、私なんかに構ってる暇なんて、ない筈なんだから。今、私の一時の感情で、零さんの足を引っ張る訳にはいかないんだから。
そう言い聞かせて、伸ばした手を引っ込めた。
携帯の代わりに、カップを手に取り ぐい、と煽る。すっかり冷めてしまった、濁りなく黒一色のそれは、お世辞にも美味しいとは言えないけれど、雑念を払うには丁度いい。
『苦い……』
やっぱり、ブラックは苦手だなぁ…。
ブラックコーヒーを美味しいと思ったことなんて、…………いや、零さんの入れてくれたコーヒーは、…飲みやすくて、初めて、美味しいって…思ったな。
もう、何してても頭に浮かんでくるんだから、本当……困っちゃう。
せめて、素直に淋しいと言える、可愛い女の子なら……何か、変わったのかな。
視界がぼやけてるのは、……きっとこのコーヒーが苦すぎる所為。
大丈夫、このくらい、……何でもない。
『疲れてるのかな、…目薬、どこだっけ』
気にしないフリをして、目薬を探してバッグの中を漁る。
その時、……デスクに置いていた携帯が振動して着信を告げる。
『こんな時間に……もしかして緊急?』
私は何も考えず相手も見ずにそのまま通話ボタンを押した。
『はい、名字です』
「俺だ」
『…っ、零…さん、』
あぁ、ダメダメ、聞きたいと思ってた声を聞いたら、途端に涙が溢れそうになる。今は本当にダメだ。瞼に力を入れてないと涙腺がバカになりそう。
「……ヒロイン?何かあったのか?」
優しい声で、問い掛ける零さん。
『…ううん、今飲んだコーヒーが熱すぎて、ちょっとヤケドしちゃっただけ。それより、どうしたの?』
「いや、最近会えてないからな。……声が聴きたくなったんだ」
『……っ、』
「ヒロイン?」
声が聴きたくなった、なんて、
そんな事言われたら、嬉しいに決まってる。
でも、実際に零さんの声を聴くと、声だけじゃ足りなくなって、会いたくなる。触れて、抱き締めて、好きだと言いたい。
行かないで、一人にしないで、淋しい…って、叫んでしまいたい。
でも、……そんな事、出来る筈ない。
重荷になりたくないなら、…私が涙を呑めばいい。
頬に一筋、生暖かいものが伝う。
このくらい、……何でもない。
『私も、……久しぶりに零さんの声が聴けてよかった!…ご飯食べてる?たまにはちゃんと休まないと倒れちゃうからね?』
「…あぁ、気をつけるよ」
『…っ…、あ、ごめん、キャッチが入ったみたいだから、また電話するね』
「おい、ヒロイン、」
ぷつり、と電話を切った。多分、あのままだと泣いてるのがバレてしまうだろうから。
些か強引に切ってしまったけれど、……変に思われてなければいいな。
乾いた笑いと、ぽたりと落ちた滴。
虚しさしか、残らない。
『無理だ。今日はもう帰ろう……』
こんなぐちゃぐちゃな気持ちで、仕事に集中なんて出来ないし、……別に今日急ぎでしないといけないものでもないし、と。手早く荷物をまとめて立ち上がった。
ガランとした駐車場に響く一人分のヒールの音。
歩みを進めつつ、高い位置に纏めていた髪をしゅるり、とほどく。
顔のサイドに垂れたそれらが、私の表情を上手く隠してくれた。
愛車の元に辿り着くと、ほんの僅かにだが心が落ち着くのを感じた。
ドアを閉め、ハンドルにもたれ掛かると、一気に力が抜けていった。
『あーーー、もう、』
気が抜けたのか、涙腺がおかしくなったのか、涙が次々にポロポロと溢れて止まらなくなった。
バッグの中に手を突っ込んで乱暴に掴んだハンカチを頬に当てると、水気を吸ったそれは少しだけ湿った。
『うぅ…っ…とまってくれない……』
泣き虫……。
こんなところ、誰にも見せられない。
……特に、零さん。
『……?』
……あ、電話、
バッグの中で震える携帯。
視界が滲んでるけど、手探りでそれを見付けて確認したら、予想通りの名前がそこにあった。
『れい、さん……』
今の状態で電話に出たりしたら、間違いなく泣いてる事がバレる。零さん相手に誤魔化しなんて利かない。
それに、
今、また、零さんの声を聴いてしまったら、……きっと、我慢出来なくなって弱音を吐いてしまう。そんなの絶対嫌だ。めんどくさい女だなんて、思われたくない。
震え続ける携帯を見ないようにして、そっとバッグの中へと戻した。少しだけ、休んだら……家に帰ろう。
ゆっくりお風呂に入って、ぐっすり寝て、明日には何もなかった事にして、また頑張ればいい。……零さんには明日の朝、メールで連絡入れよう。
そこまで考えて、再びハンドルに身体を預けた。
その、すぐ後だった、
『……っ?!』
ただならぬ気配に背筋がぞくりとして、一瞬身体が固まる。こういう時の予感は嫌なくらいよく当たる。
顔を上げて、……思わず息を飲んだ。
そこには、
背後に禍々しい雰囲気を纏った、零さんの姿が…。
コツコツ、と窓を小さくノックして、零さんが満面の黒い笑みで口を開く。その口唇の動きを読めば、
“今すぐ開けないとお前の愛車が廃車になるぞ?”
『ひぇっ……!』
“ は や く し ろ ”
考えるよりも早く、私の手はロックを外してドアを開けていた。
「ばか。……遅いんだよ」
『え?……わっ!』
ドアが開いた瞬間引っ張り出された私は、
『れい、さん…?』
次の瞬間には、零さんの腕の中にいた。
強すぎるくらいの力で抱き締められて、零さんの香りに包まれる。
携帯越しじゃなくて、直に聴こえる零さんの声が心地よく鼓膜を揺らして、また、…じわりと涙が滲んだ。
「前に言ったろ?…一人で我慢するな……って。」
『…っ、……うん…、』
「一人で泣くなって、…言ったよな?」
『う、……はい…』
「さっきも、泣いてただろ」
『……どうしてわかったの?』
「少し声が震えてたし、…そもそも、猫舌のお前が熱々のコーヒーを飲む事はないだろ?」
『あ、…』
でっち上げた理由こそが、決め手になるだなんて。
「俺は、……そんなに頼りないか?」
『ちが、そんな訳っ……、零さんは…頼りになりすぎるくらいだよ。だから弱る度に頼りたくなっちゃうし、甘えたく、なっちゃうから………でも、めんどくさい女って、思われたくなくて、…』
そこまで言って言葉を切れば、ゆっくりと離れる二人の身体。不安になって仰ぎ見れば、
見上げた私と、屈んだ零さんの額同士が
コツン、とくっついた。
「もっともっと…頼ればいい、甘えればいい。それで、」
“俺がいないと、ダメになってしまえばいい、”
そう言って、零さんは私の口唇を、自分のそれで塞いだ。
それはまるで、…甘い毒を注ぎ込むように。
『っん、』
「俺以外に、そんな顔見せたりしたら、許さないからな」
許さない、なんて言いながらも、
その声は 酷く甘ったるくて、優しいものでした。
(これでも怒ってるんだからな?)(う、…ごめんなさい…)(悪いと思ってるなら、もっと俺に甘えてくれ)
ーfinー
-魔王降臨-
思えば、零さんと付き合うようになって……私、一度も伝えてないな。
淋しい…って。
デスクに積み上がってる忌々しい書類達を死んだ魚の様な目で見つめながら、思った事を口にした。幸い誰かに聞かれる事はなかったが。
幸い、というか毎度の事ながら、デスクの周りは疎か
室内に留まっている人間自体が少ない。節電期間だとかで真っ暗な室内で、パソコンだけが光を放っていて、一人取り残されたみたいな、孤独な気分になる。それがまた虚しくて……
また、携帯に手を伸ばしそうになるけど、ぐっと堪えた。
駄目だ駄目だ。零さんだって忙しいんだから、
我が儘言って困らせたくないでしよ?
きっと、私なんかに構ってる暇なんて、ない筈なんだから。今、私の一時の感情で、零さんの足を引っ張る訳にはいかないんだから。
そう言い聞かせて、伸ばした手を引っ込めた。
携帯の代わりに、カップを手に取り ぐい、と煽る。すっかり冷めてしまった、濁りなく黒一色のそれは、お世辞にも美味しいとは言えないけれど、雑念を払うには丁度いい。
『苦い……』
やっぱり、ブラックは苦手だなぁ…。
ブラックコーヒーを美味しいと思ったことなんて、…………いや、零さんの入れてくれたコーヒーは、…飲みやすくて、初めて、美味しいって…思ったな。
もう、何してても頭に浮かんでくるんだから、本当……困っちゃう。
せめて、素直に淋しいと言える、可愛い女の子なら……何か、変わったのかな。
視界がぼやけてるのは、……きっとこのコーヒーが苦すぎる所為。
大丈夫、このくらい、……何でもない。
『疲れてるのかな、…目薬、どこだっけ』
気にしないフリをして、目薬を探してバッグの中を漁る。
その時、……デスクに置いていた携帯が振動して着信を告げる。
『こんな時間に……もしかして緊急?』
私は何も考えず相手も見ずにそのまま通話ボタンを押した。
『はい、名字です』
「俺だ」
『…っ、零…さん、』
あぁ、ダメダメ、聞きたいと思ってた声を聞いたら、途端に涙が溢れそうになる。今は本当にダメだ。瞼に力を入れてないと涙腺がバカになりそう。
「……ヒロイン?何かあったのか?」
優しい声で、問い掛ける零さん。
『…ううん、今飲んだコーヒーが熱すぎて、ちょっとヤケドしちゃっただけ。それより、どうしたの?』
「いや、最近会えてないからな。……声が聴きたくなったんだ」
『……っ、』
「ヒロイン?」
声が聴きたくなった、なんて、
そんな事言われたら、嬉しいに決まってる。
でも、実際に零さんの声を聴くと、声だけじゃ足りなくなって、会いたくなる。触れて、抱き締めて、好きだと言いたい。
行かないで、一人にしないで、淋しい…って、叫んでしまいたい。
でも、……そんな事、出来る筈ない。
重荷になりたくないなら、…私が涙を呑めばいい。
頬に一筋、生暖かいものが伝う。
このくらい、……何でもない。
『私も、……久しぶりに零さんの声が聴けてよかった!…ご飯食べてる?たまにはちゃんと休まないと倒れちゃうからね?』
「…あぁ、気をつけるよ」
『…っ…、あ、ごめん、キャッチが入ったみたいだから、また電話するね』
「おい、ヒロイン、」
ぷつり、と電話を切った。多分、あのままだと泣いてるのがバレてしまうだろうから。
些か強引に切ってしまったけれど、……変に思われてなければいいな。
乾いた笑いと、ぽたりと落ちた滴。
虚しさしか、残らない。
『無理だ。今日はもう帰ろう……』
こんなぐちゃぐちゃな気持ちで、仕事に集中なんて出来ないし、……別に今日急ぎでしないといけないものでもないし、と。手早く荷物をまとめて立ち上がった。
ガランとした駐車場に響く一人分のヒールの音。
歩みを進めつつ、高い位置に纏めていた髪をしゅるり、とほどく。
顔のサイドに垂れたそれらが、私の表情を上手く隠してくれた。
愛車の元に辿り着くと、ほんの僅かにだが心が落ち着くのを感じた。
ドアを閉め、ハンドルにもたれ掛かると、一気に力が抜けていった。
『あーーー、もう、』
気が抜けたのか、涙腺がおかしくなったのか、涙が次々にポロポロと溢れて止まらなくなった。
バッグの中に手を突っ込んで乱暴に掴んだハンカチを頬に当てると、水気を吸ったそれは少しだけ湿った。
『うぅ…っ…とまってくれない……』
泣き虫……。
こんなところ、誰にも見せられない。
……特に、零さん。
『……?』
……あ、電話、
バッグの中で震える携帯。
視界が滲んでるけど、手探りでそれを見付けて確認したら、予想通りの名前がそこにあった。
『れい、さん……』
今の状態で電話に出たりしたら、間違いなく泣いてる事がバレる。零さん相手に誤魔化しなんて利かない。
それに、
今、また、零さんの声を聴いてしまったら、……きっと、我慢出来なくなって弱音を吐いてしまう。そんなの絶対嫌だ。めんどくさい女だなんて、思われたくない。
震え続ける携帯を見ないようにして、そっとバッグの中へと戻した。少しだけ、休んだら……家に帰ろう。
ゆっくりお風呂に入って、ぐっすり寝て、明日には何もなかった事にして、また頑張ればいい。……零さんには明日の朝、メールで連絡入れよう。
そこまで考えて、再びハンドルに身体を預けた。
その、すぐ後だった、
『……っ?!』
ただならぬ気配に背筋がぞくりとして、一瞬身体が固まる。こういう時の予感は嫌なくらいよく当たる。
顔を上げて、……思わず息を飲んだ。
そこには、
背後に禍々しい雰囲気を纏った、零さんの姿が…。
コツコツ、と窓を小さくノックして、零さんが満面の黒い笑みで口を開く。その口唇の動きを読めば、
“今すぐ開けないとお前の愛車が廃車になるぞ?”
『ひぇっ……!』
“ は や く し ろ ”
考えるよりも早く、私の手はロックを外してドアを開けていた。
「ばか。……遅いんだよ」
『え?……わっ!』
ドアが開いた瞬間引っ張り出された私は、
『れい、さん…?』
次の瞬間には、零さんの腕の中にいた。
強すぎるくらいの力で抱き締められて、零さんの香りに包まれる。
携帯越しじゃなくて、直に聴こえる零さんの声が心地よく鼓膜を揺らして、また、…じわりと涙が滲んだ。
「前に言ったろ?…一人で我慢するな……って。」
『…っ、……うん…、』
「一人で泣くなって、…言ったよな?」
『う、……はい…』
「さっきも、泣いてただろ」
『……どうしてわかったの?』
「少し声が震えてたし、…そもそも、猫舌のお前が熱々のコーヒーを飲む事はないだろ?」
『あ、…』
でっち上げた理由こそが、決め手になるだなんて。
「俺は、……そんなに頼りないか?」
『ちが、そんな訳っ……、零さんは…頼りになりすぎるくらいだよ。だから弱る度に頼りたくなっちゃうし、甘えたく、なっちゃうから………でも、めんどくさい女って、思われたくなくて、…』
そこまで言って言葉を切れば、ゆっくりと離れる二人の身体。不安になって仰ぎ見れば、
見上げた私と、屈んだ零さんの額同士が
コツン、とくっついた。
「もっともっと…頼ればいい、甘えればいい。それで、」
“俺がいないと、ダメになってしまえばいい、”
そう言って、零さんは私の口唇を、自分のそれで塞いだ。
それはまるで、…甘い毒を注ぎ込むように。
『っん、』
「俺以外に、そんな顔見せたりしたら、許さないからな」
許さない、なんて言いながらも、
その声は 酷く甘ったるくて、優しいものでした。
(これでも怒ってるんだからな?)(う、…ごめんなさい…)(悪いと思ってるなら、もっと俺に甘えてくれ)
ーfinー
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