ドキドキ大作戦 [安室透]
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「ヒロインお姉さま!着いたわよっ!」
『着いたって...ここ、ポアロだよ?』
「そう、ポアロよ。ここへ来る為に下準備したんだから!ほらほら、入った入った!」
園子ちゃんに背中を押されるがままに、ドアを開けると、来客を告げるベルが軽やかに鳴った。
「いらっしゃいませ!何名さま...です、か?」
あれ?安室さんが笑顔で振り向いたかと思えば、目を丸くして固まってしまった。
一体どうしたんだろう?安室さんのこんな驚いた表情、初めて見た。
「安室さーん?バレンタインのチョコの代わりに、お届けものでーす!!」
『バレン...タイン......あーーーっっ!!!!』
「その様子じゃ、お姉さまったらやっぱりバレンタインの存在忘れてたみたいね。でもそれも作戦通りよ!安室さんには甘~いチョコよりも欲しいものがあるだろうから...ねっ!」
「園子さん...これは僕からのサービスです」
「ラッキー!バレンタイン限定のチョコレートケーキ!!流石安室さん!わかってる~!」
展開についていけない。
ねえ、園子ちゃん?チョコレートケーキが美味しいのはわかるけど、頬張ってないで解説してー!!
「あぁ、もうこんな時間だ。」
え?何ですか、その棒読み。
「僕、もう上がりなんですよ。園子さん、ゆっくりしていって下さいね。...あぁ、そうそう、この贈り物はありがたく頂いていきますね」
「どーぞどーぞ。力作なんですけど、どうでした?」
「...控え目に言って最高です」
そんなやり取りをする二人をぼーっと眺めながら、どういう事なんだろう...と、私も椅子に腰掛けようとした。
けれど、それは叶わなくて。
ふわっと引き寄せられたかと思えば私の腰には安室さんの逞しい腕が回されていた。
「駄目ですよ。こんな可愛らしい格好でここに留まるつもりですか?」
『へ?』
「ヒロインさんは今から僕とデートです。さ、行きますよ」
『え?え?...園子ちゃん、』
園子ちゃんに助けを求めようと振り返ったけど、満面の笑みで「いってらっしゃ~い!」と手を振られただけだった。いつの間にか園子ちゃんの隣に梓さんもいて、笑顔の二人に見送られた。
安室さんはいつの間にエプロン外して準備を終えたんだろう。全然気付かなかった。
そこに一番驚いた。
手を引かれるままに駐車場へと向かう。何だかいつもよりも少しだけ...ぎこちない気がした。
「ちゃんと前を向かないと転びますよ?」
『え?...あっ!』
「...っと、」
ガクンと、身体が傾いて思わず目をギュッと閉じた。でも、衝撃が訪れることはなくて...
「ほら、言ったでしょう?」
目を開けると至近距離に安室さんが、いて、
しっかりと支えてくれていた。
『あ、り、がとう...』
“どっきりドキドキ大作戦” のはずなのに、私の方がドキドキしてどうするのよ!
でも不意討ちには、まだ全然慣れないから、平静を装うのは難しい。
落ち着こうと思えば思うほどに...頬が段々と熱くなっていくのが、わかった。
そのまま動けずに固まってたら、安室さんも同じように固まってしまって...
『えっと、あの、安室さん?』
声を掛けるとハッとして、そのまま無言で車まで誘導された。どうしたんだろう...?
エスコートされて車の助手席に乗り込めば、
「はぁ~...」
安室さんは車のハンドルに凭れるようにして脱力してた。何事?!
『あの、』
「...ヒロインさんは僕をどうしたいんですか?」
『...?』
突っ伏した状態はそのままに、視線だけこちらに向けて問い掛ける安室さん。
あれ?車内なのに、まだ安室さんモード?
まさか盗聴されてる訳じゃないでしょうし、...万が一その危険があるなら事前に言ってくれるし、いつもなら車の中やセーフハウスの中にいる時は安室さんモードじゃなくて零さんに戻るのに。
「無視しないで下さいよ」
『え、いや、』
無視したつもりはなくて、単に動揺してただけなんですけど...
「淋しくなります」
『さ、さみし、い?』
「突然、こんな...綺麗に髪を巻いてみたり、普段着ない系統の服を着てみたり...メイクだって、いつもと違いますし......安室透を演じてないと、ポーカーフェイスを保つことすら出来なくなるくらいには動揺してるんです。それなのに、」
伸びてきた安室さんの大きな手が、私の手に重なって、
「貴女はつれない態度」
『...っ、』
指と指が絡まって、
心臓が早鐘を打つ。
『わ、私だって......さみしい』
絡まった指に、きゅっと、小さく力を込めて、
『零さんに会いたい』
見つめれば、
「もう、本当に、...俺の言ってた事、ちゃんと聞いてた? “安室透” がストッパーだって、言ったろ?」
困ったように、でも、優しくて、熱の籠った強い視線に、変わる
『服もメイクも、ドキドキして欲しくて...でも、やっぱり安室さんじゃなくて、私は零さんに見て欲しいから、』
「バカ。ドキドキなんて、......いつもしてる」
絡まった指がほどけて、
代わりに身体ごと引き寄せられて、
気付けば、零さんの腕の中。
『ふふ、...じゃあ、今回の作戦は大成功ってことかな?』
「作戦?」
『園子ちゃん発案の “どっきりドキドキ大作戦”』
「いや?まだ終わってないだろ?」
『え?』
「デートはこれからなんだから、な?」
『...っん、』
耳元で、息を吹き込むように囁かれて、思わず肩が震えた。
「ヒロインがストッパーを外したんだから、...夜は覚悟しておくように。」
これだけでも、腰が砕けてしまいそうなのに...
心臓に悪い、なんて思いながらも、
胸は高鳴り、瞳はその先の期待で潤んだ
(じゃあ朝まで一緒にいてくれる...?)(...煽るとどうなるか、わかってるか?)
(え?駄目なの...?)(...嫌って言っても帰さないからな)
チョコレートに負けないくらい、甘い夜をあなたに。
─fin─
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