色彩の夜明け
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「ふっふっふ⋯!NRCの制服を着れるなんてなぁ⋯テンションぶち上げや」
翌日。
支給された制服に身を包み、だらしなく表情を緩める。
ただし、1番小さいサイズとはいえ男子用。予想以上に体に合わなかったため、裾という裾を折り尽くした。それでもウエストは誤魔化せず、結局サスペンダーをつけることになった。当然、ブレザーもなし。
「ゴンザレスくん⋯華奢だね」
「ぷぷーっ!ダルダルすぎてかっこ悪いんだゾ!」
制服姿を見た2人からはそれぞれ異なる反応をもらい、無論褒め言葉として受け取っておいた。
「んじゃ、早速学園にレッツゴー!」
「おい!オマエが仕切るな!オレ様についてくるんだゾ!」
「はは⋯朝から賑やかだなぁ⋯」
朝イチで清掃活動を命じられた2人と共に、オンボロ寮を後にする。
しかし、どうやら先陣を切ったのが不満だったようで、押しのけるように前に出るグリムと、その光景を保護者のように見守る監督生。
そんな3人を、太陽の光が朗らかに照らしていた。
「そもそも何でオレ様が雑用なんか⋯未来の大魔法士に対して無礼にも程があるんだゾ⋯」
「大丈夫や!グリたんの分までワイが学んでくるし!」
「うるさいんだゾ!くっそー、コイツが生徒なのが心底納得できねぇ!」
「まぁまぁ⋯」
学園へ向かう道中、ぶつぶつと文句を零すグリムにフォローを入れたつもりが逆効果だったらしい。ちっこい御御足で痛くない蹴りを入れられた。
監督生達の仕事場所であるメインストリートに着くなり、真っ先に目に飛び込んできたのはあの石像。
7人の偉人たちが誇らしげに立ち並んでいる。
うおおお!!グレート・セブンや⋯思った以上に迫力あるな。
「コイツら誰だ?みんなコワイ顔」
「うーん、僕にもさっぱり」
内心興奮しているこちらを他所に、訝しげな顔で首を傾げる監督生とグリム。
微笑ましい気持ちで2人を見つめていたからか、背後に近づく影には全く気づかなかった。
「ハートの女王を知らねーの?」
軽快で、どこか悪戯っぽい響き。
この声をよく知っている。
恐らく振り向くまでコンマ数秒もなかったはずだ。
毛先が跳ねた赤い髪、目元を彩る特徴的なスート。
思った通りの人物が視界に映った瞬間、心は既に踊らされていた。
き、来たーーーーー!!!生エースや!!
いや、正式に言うとエース・メロ男・トラッポラね。
未来の監督生のフィアンセ候補①よ!
やばい、アドレナリンが止まらん。
興奮しすぎて手が震えているのが分かる。
実際のエースは、画面で見るより何倍もイケメンで⋯とてつもなくカワイイ。
まだ猫を被っているからか、人懐っこい笑顔が眩しく光った。
「オマエ、誰だなんだゾ?」
「オレはエース。今日からピカピカの1年生。どーぞヨロシク♪」
「ふぁ〜〜〜〜」
「ゴンザレスくん⋯!?」
やっば。何そのベリーキュートなスマイル。それで何人もの人間を沼に沈めてきた自覚ある??罪な男すぎやろ。
つい喉の奥から悲鳴にも似た鳴き声が引きずり出され、隣の監督生が怯えたように肩を揺らした。
「オレ様はグリム。こっちは子分のユウと⋯⋯」
「ゴンザレスっす!!!ワイも1年!よろしく!!」
「お、おー⋯なんかすげーハイテンション」
「そいつは無視していいんだゾ」
グリムに続いてすかさず名乗りをあげる。
その勢いにエースも思わず苦笑いをこぼし、1歩後ずさった。
「やべぇよぉ⋯ここから監督生とのラブストーリーが始まるんやな⋯歴史的瞬間に立ち会えてる⋯神に感謝。てか改めて顔面つっっよ!!」
「は?」
「あはは⋯あんまり気にしない方が⋯よろしくね、エースくん」
「なぁなぁ!それより、像のヤツらのこともっと聞かせるんだゾ!」
「おっけー、んじゃ次は⋯」
自分の世界に入ってしまったこちらはさておき。
グリムが話の続きをせがむと、エースも楽しげに目を細めて口を開いた。
「ま、大体こんな感じ」
「すごい。詳しいね」
「誰しも知ってる一般ジョーシキだけどね」
一通り説明し終わると、監督生が感心したように息を漏らす。
そんな彼に対し、エースもどことなく得意げな表情を向けた。
「やば⋯見つめあってるやん。絶対エース恋に落ちるやん。てかさ、こんな純粋無垢な瞳に見つめられて落ちないわけなくない?無意識一目惚れ⋯ちゃんと目に焼き付けとかな!!」
「コイツさっきからなんなの?」
「いや⋯これが通常運転というかなんと言うか⋯」
「いつも意味不明なことブツブツ言ってるんだゾ」
「⋯ふーん、変なヤツ」
妄想の中といざ目の当たりにするのではレベルが違う。
瞳を輝かせて意味不明なワードを並べるこちらに、2つの冷めたような視線が突き刺さっていた。
「でもさ、やっぱ改めて話してて感じたわ。グレート・セブンってクールだよな。
────どっかの狸と違って」
「ふな゛っ!?」
不意に、彼の声がワントーン低くなる。
明らかに先程までの友好的な雰囲気からは一変して、細められた瞳には確かな見下しの色が含まれていた。
「あはははは!!マジ笑えんだけど。2人まとめて雑用係とか、だっせー」
「なんだと!?失礼なヤツなんだゾ!」
「何かさっきと態度が違うんだけど⋯」
そうそうこれこそエース。
初期のクソガキ感がまたいーんだよな〜〜〜
だからこそ後半のスパダリっぷりが映えるってもんだ。
生意気な笑顔でしか得られない栄養があるんや⋯
腹を抱えて笑い出したエースを、菩薩のような笑みで迎える。
傍から見たら異常者だ。
「じゃ、オレは君らと違って授業あるんで!精々掃除頑張ってね。おふたりさん♪」
「コイツ⋯⋯言わせておけば⋯!もう怒ったゾ!!」
「ちょ!グリム!?」
エースに煽りにまんまと引っかかったグリムが、勢い任せに炎をぶっ放す。
こうなれば、監督生の制止なども効かないだろう。
「うわっ!あぶね!何すんだよ!」
「オレ様を馬鹿にするからだ!」
その言葉を皮切りに、闘いのゴングが鳴ったのが分かった。
勢いが全てのグリムの攻撃を、冷静な判断で避けるエース。
自分も使ったとはいえ、改めて人間から魔法が発されると現実離れ感が半端ない。
「あわわわ⋯!どうしよう⋯!」
「2人の熱いバトル⋯!!こんな間近で見れるなんてついてんなー!ワイ!」
「ゴンザレスくん!?感動してないで止めて!」
激しい魔法のぶつかり合いを前に、ただただ狼狽える監督生。
当然止める気ゼロのこちらに、切羽詰まったツッコミを飛ばした。
しかし、終わりは唐突に訪れた。
「あ゛ーっ!やべっ!ハートの女王の石像が黒焦げに!」
「こらー!!!なんの騒ぎです!」
グリムの炎がエースによって逸らされ、その先にあったハートの女王の石像に直撃する。
その上、運悪く騒ぎを聞きつけた学園長に見つかる始末だ。
「げっ!学園長!」
「ふなっ!?」
その後呆気なく愛のムチに縛られたグリムとエース、完全に巻き添えを食らった監督生が罰則として窓の清掃を命じられる。
項垂れる彼らを横目に、今度は学園長の視線がこちらへ移った。
勿論、喜んで連帯責任を負うつもりだ。
「ゴンザレスくん。貴方はこの件に関係ありません。授業後は速やかに帰寮するように」
「え!!?いやワイもやりたいっす!!やらせてください!」
「ダメです。さっさと授業へ行きなさい」
「そんなぁ!!」
彼から告げられたまさかの悲報に食い下がるものの、容赦ない態度で一蹴される。
マブタチの出会いの瞬間に立ち会えないなんて、この人鬼畜すぎんか。
結局崩れ落ちたこちらに構うことなく、学園長はさっさとその場から立ち去ってしまった。
と同時に始業前のチャイムが鳴り響く。
一先ず監督生達に手を振り、いつの間にか先に歩き出していたエースの背中を追いかけた。
「おーい!エースクン!ワイと一緒に行こうや!」
「は?何で?」
「だって、せっかく同じ1年なんやし仲良くしたいやん!」
「⋯あのさ。オレ、アンタみたいなタイプ苦手なんだよね。しかもあの雑用係とも仲良いみたいだし。悪いけど仲良くする気なんかねーから」
「つれないなー!!そゆとこも魅力的☆」
「マジでなんなの?はぁ⋯付き合ってらんねー」
「あー!!待ってや!!」
後ろから声をかけると、分かりやすく眉根を寄せて睨みつけられる。
まぁ当然ちゃ当然か。でもむしろ冷たい視線は大好物や。
そんな反応に臆することなく、エースの歩幅に足並みを揃えた。
「やっぱ中は広いんやなー!あ!あの肖像画動いてる!」
「⋯⋯」
「え!てか今の2人距離近くなかった!?もしやただならぬ関係⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「なーなー!エースクンはさ、純粋天使系が好き?それとも無自覚小悪魔系?ま、ユウきゅんはどっちも持ち合わせてるんやけどな」
「⋯⋯⋯⋯⋯あーもー!うぜぇんだけど!アンタ空気とか読めないわけ?」
学園内でも周囲を見渡しては、次から次へと言葉を並べ続ける。
エースはエースで無視を決め込んでいたが、あまりの騒がしさに痺れを切らしたらしい。
立ち止まったかと思うと、不快感満載の表情で怒鳴られる。
「ごめんごめん!ワイ思ったこと全部口に出しちゃう性分でして」
「だからさぁ、オレ暑苦しいヤツ嫌なんだって。人の話も聞かねーし。分かったら近づいてくんなよ」
「なっ⋯!まさか早くも監督生との仲を邪魔する存在だと察知されてる⋯!?大丈夫やって!ワイはむしろ応援する側やし!」
「はぁ?もう一旦黙れっての!」
結局教室に着くまで、噛み合わないままの攻防戦は続いた。
_______
チャイムと共に教室に滑り込む。
どうやらギリギリ間に合ったようだ。
同じクラスだと分かった途端、あからさまに嫌な顔をしたエースには距離を取って座られてしまったけど。
まぁ良い。まずは我がクラス担任を、余すことなく拝ませていただこう。
「1年A組を担任するデイヴィス・クルーウェルだ。気軽にクルーウェル様と呼んでいいぞ。
仔犬共、まずは入学おめでとうと言っておこう。
だが勘違いするな。ここは優しいだけの学園じゃない。努力も礼儀も知らない駄犬に与える餌はないからな」
言い終えながら持っていた指示棒で己の掌を打つツートンカラーの男。
そんな彼からは厳しさと妖艶さ(?)が滲み出ていた。
ひぇ⋯⋯先生顔面国宝すぎ⋯腰細⋯こりゃ何人かの性癖狂わせてるわ⋯
どうも、HRは全員の自己紹介から始まるらしい。
クルーウェルの綺麗すぎる顔面を眺め、余韻に浸っているうちに自身の番が回ってきた。
意気揚々と席を立つ。
「はいっ!!ゴンザレスです!得意なことは妄想!夢は推しカプを見守る壁になることです!!」
「推しカプ⋯?何だそれ」
「なんか女みてーな顔だな」
「しかもテンションたっか⋯」
何とも我ながら完璧すぎる挨拶。
しかし、周りからは奇異の視線が集まっていた。
「あ!ちなみにワイ、女装が趣味なだけのれっきとした男なんで!そこんとこヨロシク!」
最後にそう付け加え、頬の前でピースサインしてみせる。
これで女子だと勘ぐられる心配もない。
「随分と威勢の良い仔犬だな。ただし、躾のなっていない犬ほど見苦しいものはない。首輪をつけられたくなければ、精々お利口さんにしておくことだな」
「うぃっす!!!よろしくお願いします!!」
「キャンキャン喚くな。頭に響く」
クルーウェルからは冷ややかな視線を浴びたものの、むしろご褒美でしかない。
ただ、周りからの不審の目が強まったことだけは間違いないだろう。
まぁ、全く気にしていないのだが。
そんなこんなで自己紹介は流れていき、ついにエースに次ぐお目当ての彼の番が回ってきた。
「デュース・スペード。ハーツラビュル寮所属です。よろしくお願いします」
緊張しているのか、少しぎこちなく頭を下げる彼───デュース。
遠くからでも分かる。
その輝きは誰よりも勝っていた。
ふおおおお!!!デュースだ!
やっば顔整いすぎちゃう?王道イケメンの輝き半端ないな⋯
まだ立派に優等生感出してるの可愛ええええ。
「⋯⋯?」
貴重な初期デュースを逃すまいと、身を乗り出して彼を凝視する。
しかしただならぬ圧を感じたのか、本当に全く気づいていないのか定かではないものの、視線が交わることはなかった。
