燈が灯った日
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学園長からの話も一区切りついたところで、ふと感じていた疑問をぶつける。
「そういやワイってどこ寮所属なんすか?寮分けめっちゃスルーされたんですが」
「──ああ。貴女は敢えて寮分けの対象外とさせていただきました。イレギュラーな存在であるからこそ、一般寮に所属させるのは非常にリスクが高い。⋯万が一、問題が起きた際の処理も含めてね。加えて貴女は女性です。その点における配慮は怠りませんよ」
「ほぉ。──あ!じゃあ学園長と一緒に住めるってこと!?」
「違います」
興奮交じりに詰め寄ったものの、光の速さで否定される。
というか、それだけは絶対に避けたいという強い意志が感じられる潔さだった。
「貴女にはピッタリの場所を用意してありますのでご安心を。しかし、その前にもう1つお伝えしたいことが」
「また何かあったんすか」
「ええ、極めて重要な話です。ユウさん、入ってください」
ユウ?さっきどこかで聞いた名前だ。
考えるよりも先に、ドア越しからくぐもった声が響いた。
「し、失礼します」
ぎこちない動きで入ってきたのは、先程ぶりの監督生。
未だ緊張が解けないのか、所在なさげに視線を彷徨わせている。
かく言う自分は、彼の姿を目にした途端瞬時に思考を奪われてしまった。
入学式の時よりもずっと間近で見る監督生は想像以上の美丈夫ぷりで、つい食い入るように凝視してしまう。
そんな剥き出しの関心に晒された監督生は、おずおずとこちらへ声をかけてきた。
「⋯えっと⋯?」
「あ!!ごめんごめん!あまりの眩しさに思わず昇天しかけてた!お気になさらず!」
「は、はぁ⋯」
「ああ。その方は放っておいて問題ありませんので、話を続けますよ」
軽快に笑い飛ばすこちらを見ることもなく、淡々と場を進めようとする学園長。
なんか段々と扱いが雑になってる気が。ま、ええけど。
「ユウさん。闇の鏡の答えから予想するに、貴方は異世界から飛ばされてきた可能性が高い。しかし、これまでそのような前例はなく、元の世界に戻す方法も現状では分かりかねます。その上魔法が使えない以上、この学園に置いておくわけにもいかない」
「そんな⋯」
「ただし、異郷の地に身一つで投げ出すほど、私も鬼ではありません」
「さっすが学園長!!親切の権化!慈愛の塊!」
「──そうでしょう。私優しいので!」
「あ、あはは⋯⋯」
まるで茶番を見ているような掛け合いに、監督生は肩を竦めて苦笑いをこぼす。それも当然、まともな人間であればこんなノリにいきなりついていけるわけがない。
「私が元の世界へ帰る方法を探す間、特別に宿をお貸ししましょう。それで一先ず雨風は凌げるはずです」
「ほ、本当ですか⋯!?」
「ええ。現状無一文である貴方にとっては悪くない話でしょう」
「はい!勿論です。ありがとうございます!」
絶対絶命の中差し伸べられた光に、監督生の瞳が輝きを取り戻す。
加えて心から安堵したような表情に、こちらの妄想センサーがまたもや反応。
何て純粋無垢な、穢れを知らない眼差し⋯圧倒的光、圧倒的受け。そりゃエース達も堕ちますわ。
心の中で拝んでいれば、今度は学園長の視線がこちらへと移る。
「──ちなみに貴女は、その宿に寮生として在籍していただきます」
「ほぁ?」
「老朽化は進んでいますが建物自体は立派ですし、趣があると捉えればさして問題ありません。それに部屋数も多いので、個人のプライバシーも守られますよ」
「趣て。絶対ボロ屋敷やん」
「しっ、失礼な!歳月に磨かれた遺産と言ってください」
それっぽいことを言っているようだが、オンボロ寮の惨状を知っている身として学園長の言葉は全くもって信用できない。
彼の妙に歯切れの悪い態度が、何よりの証拠だった。
だが、別にオンボロ寮が嫌なわけではない。むしろ監督生と住めるならこちらにとってラッキーこの上ない。
「ま、でもワイは全然おっけー。君がどうかは分かんないけどさ」
「え!?い、いえ僕は全然⋯」
「あ!ちな絶対襲わんしそこは安心してな!そんなんしたら君の未来のフィアンセ達に滅されるからな」
「え、あ⋯は、はぁ⋯?」
「貴女はまた意味不明なことを⋯すみませんねぇ。とりあえずこれから共同生活を送る者同士、自己紹介から始めては?」
こちらのペースに巻き込まれる前に、監督生へ助け舟を出す学園長。
その言葉に倣って、彼は姿勢を正しながらこちらへ向き直った。
「あ、えっと⋯僕はユウと言います。年齢は15歳です。よろしくお願いします」
伺うような視線で、何とも遠慮がちな挨拶。その上礼儀正しさMAXのお辞儀つき。
うーん、カワイイ。とてつもなくカワイイ。
「ワイはゴンザレス!入学したての1年生!よろしく!」
「ご、ゴンザ⋯?」
「⋯これはまた奇怪な名前を使ってきましたね」
こちらから飛び出した名前があまりに衝撃的だったのか、監督生の動きが一瞬固まる。
その奥で聞いていた学園長も、ぼそりと苦言を漏らした。
「あの⋯失礼ですけど女性ですよね?」
「いんや、ワイはれっきとした男や!女装が趣味のな。やから同性同士気楽にいこ」
「そ、そうなんですね⋯」
「あと敬語もなしでええで。堅苦しいやろ」
「わ、分かった」
軽い調子でウインクしてみせれば、監督生は戸惑いつつも小さく頷く。
未だ理解しきれていない中、どうにか思考を追いつかせようとしているようだった。
「では顔合わせも終わったところで、早速寮へ向かいましょう」
二人のやり取りもそこそこに、学園長は満足気な表情で腰を上げた。
