燈が灯った日
⬛︎
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あれから学園長は迷子の入学予定者を探しに行くらしく、結局一人で会場へ向かうよう指示された。展開的に恐らく監督生のことだろう。
道草を食わないよう釘を刺されたものの、いざ敷地に放り出されるとそういうわけにもいかず。
見事にオタク本能が疼いた自分が見るもの全てに飛びついていたこともあり、到着にかなりの時間を要していたようだった。
だって⋯あのツイステの世界に存在できるなんて。しかも推し達と同じ学園!
テンション上がるなって方が無理すぎんか。
──だからだろう。
背後に近づく影に気づけなかったのは。
「──キミ、何をしているんだい」
突如、降り注ぐ声。
あどけなさが残った高い声の中に、確かな厳格さが宿っている。
「集合時刻はとっくに過ぎているはずだけれど」
「ほあ?」
まさかこの声、なんて言葉は野暮だ。
自分がとれほど熱烈なツイステオタクだと思っている。
首がもげそうなほどの勢いで振り向くと、そこにはローブをまとった青年の姿。
微かに揺れたフードからはチラチラと顔が覗き、反射的に喉から声が漏れた。
──リドル・ローズハート。
「⋯ひぇ。お顔⋯かわいい⋯バブ⋯」
「全く。今日は厳粛かつ荘重な入学式だというのに、そのような弛緩した態度では新入生に示しがつかない。キミ、学年と所属寮は?」
「うす!!ワイピッカピカの1年生です!!」
「⋯新入生だって?」
リドルの問いに元気よく返答するも、彼の眉間には更なる皺が寄った。
「尚更信じられない。1年生は在校生よりも30分早く集合だと、入学案内に明記されていただろう」
「そーなんすか!?知らんかった!」
「⋯」
咎められているのに、恐縮する素振りが一切ないこちらが不快でしかないのだろう。
今度は視線のみで無言の圧をかけられる。
けどその目。こちらにとっては興奮材料にしかならないんすよ⋯
「──ひとつ忠告しよう。ここは世界屈指の名門魔法士養成学校だ。これまでキミの杜撰で軽薄な振る舞いが許されてきたのだとしても、ここでは通用しない」
一呼吸置き、リドルの纏う空気が一層張り詰める。
「規律を軽んじる行為は、即座に是正される。もし、今後このボクの前で同じ態度を取るようなことがあれば──相応の処置を覚悟するように」
「はい!!!寮長!!!ありがとうございます!!」
「は?⋯まだ寮分けは終わっていないだろう。キミの寮長になったつもりはない。無駄口を叩く前にさっさと会場へお行き」
「ふぉい!!!行ってきます!!!」
リドルの容赦ない視線と言葉を浴びて、ここまで喜びを顕にするのは恐らく自分くらいだろう。彼に向かって、勢いよく敬礼するなり会場へと駆け出す。
てかさ。
あの大きな愛らしい瞳が基本歪んでるの、最高に刺さるんだよな⋯
初期リドルのトゲトゲ具合、まじで神。
「⋯⋯」
軽やかなステップを披露するこちらの背中を、リドルは訝しげな瞳で見つめていた。
_____
結局会場に着いたのは、入学式開始ギリギリだった。それでも、間に合ったのだから良しとしよう。
列の隙間から前を覗くと、最前列に寮長達の姿が見えた。遠くからでも分かる強者オーラ。
ちなみにイデアはタブレット参加、マレウスは不在だけど⋯うん、これは原作通り。
てかみんな改めて顔面強〜〜〜素晴らしい。
まぁでも、入学式の展開は分かりきってるし。一先ず高みの見物で、推したちのご尊顔をゆっくり拝見させてもらいますか。
そんなこんなで代表挨拶、斉唱、寮分け⋯入学式は滞りなく進んだ。
けれど、結局寮分けで自分の名前は呼ばれず終了し、各自帰寮が命じられた。
え、もしや自分野宿なんか。
学園長存在忘れてる?
生徒が整列しだす中立ち尽くしていると、勇み足の学園長が会場に入ってきた。
そして、後ろには拘束されたグリムと⋯あれは!
未だ何も理解できていないといった様子で、おずおずと学園長の背中から顔を出す青年──間違いない、監督生だ。
ゲームでは顔も性別も不明なので、自分の架空イメージを作っていたのだが。
黒曜石のような大きく丸い瞳に、動くと揺れる細くて艶やかな黒髪。薄く形の良い唇は見るもの全てを虜にしてしまうだろう。
蓋を開けたらまさかの儚げ美少年が現れ、自身のオタク妄想センサーが瞬時に発動する。
あれは総受けの顔をしてんな⋯
絶対無自覚に色んなキャラをたらし込んで、情緒狂わせてる系監督生やん。
あと、グリたんも変わらず可愛いね。
毛並みモフモフだし意外とデカイ。
学園長へ促され、不安げに瞳を揺らしながら鏡の前に立つ監督生。
透明感のある柔らかい声が、静まった場内へ響き渡る。
──けれどその答えは、前代未聞になるのだ。
「⋯この者からは魔力の波長が一切感じられない。よって、どの寮もふさわしくない」
「何ですって?そんなことあるはずが⋯」
闇の鏡の言葉を聞くなり、分かりやすく狼狽える学園長。これも原作と同じだ。
この後は確か⋯グリムが暴走した挙句、リドルに魔法封じをつけられて強制退場させられるはず。
生ユニーク魔法。しかもこんな至近距離で拝めるとは、楽しみで仕方ない。
──しかし、次の瞬間。
背筋に冷たい汗が流れ、脈拍が1歩遅れる。
さっきまで見えていた景色が、急に“遠く”なった。
──何だこれ。
違和感に気づくよりも早く、目の前の視界が歪んで、音が遠のいた。
それは、まるで頭の奥を無理やりこじ開けられるような感覚。
思わず傾きかけた体を何とか立て直す。
──直感で悟った。これが予知夢なのだと。
燃え上がる魔法。
魔力がコントロールできず、暴走するグリム。
悲鳴。
倒れる生徒。
砕け散る式場の装飾。
床に転がる血。
脳内に流れ込んできたのは知らない記憶。
──こんなの、原作にない。
どういうこと?
状況を飲み込む前に視界が元に戻る。
同時に強烈な目眩に襲われ、足元がぐらついた。咄嗟にこめかみを押さえ、必死に思考を巡らせる。
⋯冗談であってほしい。
が、そうではないのだろう。
このまま行けば、負傷者が多発する大惨事まっしぐらだ。
何がどうなって原作とストーリーが食い違っているのかは分からないが、こちらがすることは既に決まっている。
グリムを止め、推し達を、みんなを守るヒーローにならなきゃならん。
──任された使命、やり遂げてみせんで!!
そう思ううちにグリムが拘束を無理やり解き、自身の魔法を披露しようとする。
しかし。放った炎の火力が想像の何倍も高く、それでいて暴力的だった。
一目見て、誰もが危険だということを察知できるほどに。
「みんな伏せて!」
「うわあああ!!!」
青い炎が天井のシャンデリアを貫き、付近にいた生徒達の側へ勢いよく落ちる。
リドルの咄嗟の声掛けで何とか被害は免れたようだが、1歩遅ければ大怪我につながっていただろう。
「何だありゃあ!!」
「⋯ちょっとやばくね?」
「んな!?魔法がコントロールできないんだゾ!!?ふな"ぁ〜〜〜!!」
混沌を極める会場内。
制御が効かないことにパニックを起こし、それでも巨大な炎を吹きまくるグリム。
予知通りこのままでは、怪我人が続出ルート一直線だ。
一刻も早くグリムを止めなければ。
「っな⋯!」
「──待ちなさい!」
考える間もなく飛び出した自分を、寮長達が驚いたような瞳で捉える。
最早、気にする余裕などなかった。
「っ⋯止まれーー!!!!!」
今思えば何の呪文を唱えたのかも覚えていないし、何なら唱えてすらいないかもしれない。
それでも、本能的に体が動いた。
自身の体に集約した熱と光がグリムに向かって伸びた後、彼の動きが封じられる。
代わりにグリムの魔法は霧散し、小さな体がパタリと倒れた。
──静寂。
誰もが何が起こったのか分からず唖然としている。しかしその視線は確かに自身へと注がれていた。
肩で息をしながらゆっくりと顔を上げる。
反動で被っていたローブのフードが脱げ、同時に自分の顔が顕になった。
ばちり、と寮長達と目が合う。
表情から感情は読み取れない。
ただ、それぞれが異なる思惑を秘め、こちらを見ているように思えた。
これが、とんでもないヒーローのお披露目だった。
道草を食わないよう釘を刺されたものの、いざ敷地に放り出されるとそういうわけにもいかず。
見事にオタク本能が疼いた自分が見るもの全てに飛びついていたこともあり、到着にかなりの時間を要していたようだった。
だって⋯あのツイステの世界に存在できるなんて。しかも推し達と同じ学園!
テンション上がるなって方が無理すぎんか。
──だからだろう。
背後に近づく影に気づけなかったのは。
「──キミ、何をしているんだい」
突如、降り注ぐ声。
あどけなさが残った高い声の中に、確かな厳格さが宿っている。
「集合時刻はとっくに過ぎているはずだけれど」
「ほあ?」
まさかこの声、なんて言葉は野暮だ。
自分がとれほど熱烈なツイステオタクだと思っている。
首がもげそうなほどの勢いで振り向くと、そこにはローブをまとった青年の姿。
微かに揺れたフードからはチラチラと顔が覗き、反射的に喉から声が漏れた。
──リドル・ローズハート。
「⋯ひぇ。お顔⋯かわいい⋯バブ⋯」
「全く。今日は厳粛かつ荘重な入学式だというのに、そのような弛緩した態度では新入生に示しがつかない。キミ、学年と所属寮は?」
「うす!!ワイピッカピカの1年生です!!」
「⋯新入生だって?」
リドルの問いに元気よく返答するも、彼の眉間には更なる皺が寄った。
「尚更信じられない。1年生は在校生よりも30分早く集合だと、入学案内に明記されていただろう」
「そーなんすか!?知らんかった!」
「⋯」
咎められているのに、恐縮する素振りが一切ないこちらが不快でしかないのだろう。
今度は視線のみで無言の圧をかけられる。
けどその目。こちらにとっては興奮材料にしかならないんすよ⋯
「──ひとつ忠告しよう。ここは世界屈指の名門魔法士養成学校だ。これまでキミの杜撰で軽薄な振る舞いが許されてきたのだとしても、ここでは通用しない」
一呼吸置き、リドルの纏う空気が一層張り詰める。
「規律を軽んじる行為は、即座に是正される。もし、今後このボクの前で同じ態度を取るようなことがあれば──相応の処置を覚悟するように」
「はい!!!寮長!!!ありがとうございます!!」
「は?⋯まだ寮分けは終わっていないだろう。キミの寮長になったつもりはない。無駄口を叩く前にさっさと会場へお行き」
「ふぉい!!!行ってきます!!!」
リドルの容赦ない視線と言葉を浴びて、ここまで喜びを顕にするのは恐らく自分くらいだろう。彼に向かって、勢いよく敬礼するなり会場へと駆け出す。
てかさ。
あの大きな愛らしい瞳が基本歪んでるの、最高に刺さるんだよな⋯
初期リドルのトゲトゲ具合、まじで神。
「⋯⋯」
軽やかなステップを披露するこちらの背中を、リドルは訝しげな瞳で見つめていた。
_____
結局会場に着いたのは、入学式開始ギリギリだった。それでも、間に合ったのだから良しとしよう。
列の隙間から前を覗くと、最前列に寮長達の姿が見えた。遠くからでも分かる強者オーラ。
ちなみにイデアはタブレット参加、マレウスは不在だけど⋯うん、これは原作通り。
てかみんな改めて顔面強〜〜〜素晴らしい。
まぁでも、入学式の展開は分かりきってるし。一先ず高みの見物で、推したちのご尊顔をゆっくり拝見させてもらいますか。
そんなこんなで代表挨拶、斉唱、寮分け⋯入学式は滞りなく進んだ。
けれど、結局寮分けで自分の名前は呼ばれず終了し、各自帰寮が命じられた。
え、もしや自分野宿なんか。
学園長存在忘れてる?
生徒が整列しだす中立ち尽くしていると、勇み足の学園長が会場に入ってきた。
そして、後ろには拘束されたグリムと⋯あれは!
未だ何も理解できていないといった様子で、おずおずと学園長の背中から顔を出す青年──間違いない、監督生だ。
ゲームでは顔も性別も不明なので、自分の架空イメージを作っていたのだが。
黒曜石のような大きく丸い瞳に、動くと揺れる細くて艶やかな黒髪。薄く形の良い唇は見るもの全てを虜にしてしまうだろう。
蓋を開けたらまさかの儚げ美少年が現れ、自身のオタク妄想センサーが瞬時に発動する。
あれは総受けの顔をしてんな⋯
絶対無自覚に色んなキャラをたらし込んで、情緒狂わせてる系監督生やん。
あと、グリたんも変わらず可愛いね。
毛並みモフモフだし意外とデカイ。
学園長へ促され、不安げに瞳を揺らしながら鏡の前に立つ監督生。
透明感のある柔らかい声が、静まった場内へ響き渡る。
──けれどその答えは、前代未聞になるのだ。
「⋯この者からは魔力の波長が一切感じられない。よって、どの寮もふさわしくない」
「何ですって?そんなことあるはずが⋯」
闇の鏡の言葉を聞くなり、分かりやすく狼狽える学園長。これも原作と同じだ。
この後は確か⋯グリムが暴走した挙句、リドルに魔法封じをつけられて強制退場させられるはず。
生ユニーク魔法。しかもこんな至近距離で拝めるとは、楽しみで仕方ない。
──しかし、次の瞬間。
背筋に冷たい汗が流れ、脈拍が1歩遅れる。
さっきまで見えていた景色が、急に“遠く”なった。
──何だこれ。
違和感に気づくよりも早く、目の前の視界が歪んで、音が遠のいた。
それは、まるで頭の奥を無理やりこじ開けられるような感覚。
思わず傾きかけた体を何とか立て直す。
──直感で悟った。これが予知夢なのだと。
燃え上がる魔法。
魔力がコントロールできず、暴走するグリム。
悲鳴。
倒れる生徒。
砕け散る式場の装飾。
床に転がる血。
脳内に流れ込んできたのは知らない記憶。
──こんなの、原作にない。
どういうこと?
状況を飲み込む前に視界が元に戻る。
同時に強烈な目眩に襲われ、足元がぐらついた。咄嗟にこめかみを押さえ、必死に思考を巡らせる。
⋯冗談であってほしい。
が、そうではないのだろう。
このまま行けば、負傷者が多発する大惨事まっしぐらだ。
何がどうなって原作とストーリーが食い違っているのかは分からないが、こちらがすることは既に決まっている。
グリムを止め、推し達を、みんなを守るヒーローにならなきゃならん。
──任された使命、やり遂げてみせんで!!
そう思ううちにグリムが拘束を無理やり解き、自身の魔法を披露しようとする。
しかし。放った炎の火力が想像の何倍も高く、それでいて暴力的だった。
一目見て、誰もが危険だということを察知できるほどに。
「みんな伏せて!」
「うわあああ!!!」
青い炎が天井のシャンデリアを貫き、付近にいた生徒達の側へ勢いよく落ちる。
リドルの咄嗟の声掛けで何とか被害は免れたようだが、1歩遅ければ大怪我につながっていただろう。
「何だありゃあ!!」
「⋯ちょっとやばくね?」
「んな!?魔法がコントロールできないんだゾ!!?ふな"ぁ〜〜〜!!」
混沌を極める会場内。
制御が効かないことにパニックを起こし、それでも巨大な炎を吹きまくるグリム。
予知通りこのままでは、怪我人が続出ルート一直線だ。
一刻も早くグリムを止めなければ。
「っな⋯!」
「──待ちなさい!」
考える間もなく飛び出した自分を、寮長達が驚いたような瞳で捉える。
最早、気にする余裕などなかった。
「っ⋯止まれーー!!!!!」
今思えば何の呪文を唱えたのかも覚えていないし、何なら唱えてすらいないかもしれない。
それでも、本能的に体が動いた。
自身の体に集約した熱と光がグリムに向かって伸びた後、彼の動きが封じられる。
代わりにグリムの魔法は霧散し、小さな体がパタリと倒れた。
──静寂。
誰もが何が起こったのか分からず唖然としている。しかしその視線は確かに自身へと注がれていた。
肩で息をしながらゆっくりと顔を上げる。
反動で被っていたローブのフードが脱げ、同時に自分の顔が顕になった。
ばちり、と寮長達と目が合う。
表情から感情は読み取れない。
ただ、それぞれが異なる思惑を秘め、こちらを見ているように思えた。
これが、とんでもないヒーローのお披露目だった。
