燈が灯った日
⬛︎
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───その日は突然訪れた。
目を開けると見知らぬ天井。
視界の端から漏れる光につられて体を横に向けると、理解不能な言葉で書かれた魔法陣のようなものが見えた。
なんじこりゃ。
「──目が覚めましたか」
どこか耳馴染みのある声が聞こえ、視線をそちらへ寄越す。
すると、目の前にいたのは画面で何度も見た仮面の男。
表情は読めないものの、口元に薄笑いを浮かべているのだけは分かった。
「⋯やはり状況が理解出来ていないようですね。無理もない。貴女は◾︎番目の───」
「え!!?!!?学園長!?」
え??生クロウリー?これ現実か?てか背たか!声渋!
最早本能とも言えるような反射速度で彼の言葉を遮り、その体を勢いよく起こす。
「⋯⋯」
予想外の反応を受け、学園長は一瞬面食らったように押し黙った。
警戒したようにこちらを測る視線、即座に自分の行動が裏目だったと悟る。
「⋯ほう、私のことをご存知で?」
いやそりゃ知ってるに決まってるやろ!!え!なにここツイステの世界!?まさかの異世界に来ちゃった系!?
脳内で盛大なツッコミをいれたものの、これ以上墓穴を掘るわけにはいかない。
静かな彼の問いに大きく首を振ってみせた。
「いやぁーハハッ、全然!なんか見た目的にそうかなーって」
「⋯そうですか」
我ながら苦し紛れの言い訳だっだが、学園長は案外あっさりと引き下がった。
全然納得はされてない雰囲気だけど。
現状において、然程彼にとって重要なことでもないのだろう。
「ていうか⋯やっぱテンションぶち上がるんですけど!?夢なら醒めないでくれー!」
「⋯随分と賑やかな方を召喚してしまったようですね」
墓穴は掘らないと言ったが、だからといって衝動を抑えられるわけでもなく。
興奮でその場をぐるぐる回る自分を前に、学園長はこめかみを押さえて一度咳払いをした。
「⋯仕切り直しましょう」
真顔になった学園長が、こちらをまっすぐに見据える。自分も思わず、姿勢を正してみせた。
「私の名はディア・クロウリー。ここ、ナイトレイブンカレッジで学園長を務めております。
そして──貴女は選ばれし者。この時のために、私がどれほどの時間を費やしたか⋯きっちり使命は果たしてもらいますよ」
「え??なに?ワイなんか運命背負っちゃった系?勇者任されちゃったやつ?いけっかなーもうちょい筋肉つけときゃ良かった」
「一旦黙っていただけますか?」
「はい、スミマセン」
心の中でボヤいていたはずが、つい外へ漏れ出ていたらしい。学園長より即座に緘口令が敷かれ、素直に口を噤む。
彼の視線は異物を見るように冷たかったが、こちらにとっては十分すぎるご褒美だった。
「貴女をここに呼んだ理由は一つ。この学園で、いずれ“取り返しのつかない悲劇”が起こるからです」
悲劇?え、それってオバブロ事件のこと?
それなら予知能力なんかなくても、全部知ってるんやけど⋯ま、言うだけ野暮か。
それに、また口を開こうものなら今度は力づくで黙らされる気がする。
「私はそれを何としてでも食い止めたい。次世代を照らす原石達の未来を守りたいのです」
「さっすが学園長!教育者の鏡!」
「──ええ、ええ。そうでしょう。何せ私は、誇り高き名門校の学園長なのですから」
軽い気持ちで合いの手をいれたつもりが、思わぬ方向で調子に乗らしてしまったようだ。
まんまと機嫌を良くした学園長は、胸に手を当て演技めいた宣言を零す。
「でもさ、ワイにそんな力ないと思うで?ごくフツーの人間やし」
「──いいえ、貴女にはもう備わっています」
「はい??」
「ここに召喚する際、貴女にはとある能力を授けました。その力を使えるものは、この世界でも限られた人間しかいない。しかし、貴女にはそれらを受け入れるだけの器があったのです」
「よー分からんけど⋯なんかチート能力が手に入ったってこと?自分では思い当たらんな」
咄嗟に自身の体を見返してみるも、どこも変化はあるように思えない。ムキムキになってるとか、能力つきの指輪とかはめてたら激アツだったんだけど。そう思うと、どちらかといえば内部的なものなのかもしれない。
「貴女の使命は単純です。この学園に起こる悲劇を、付与した能力──未来視によって未然に防ぎ、ナイトレイブンカレッジ、ひいては世界を守る存在になること。了承していただけますか?」
「───おけ!」
「返事軽すぎません!?本当にわかってるんですか!?」
「とりあえずワイには未来を予知する力が備わってて、それを使ってみんなを守るヒーローになれってことでしょ!理解理解!この手のジャンルは履修済やから任せてくださいよ!」
「確かに間違ってはいませんが⋯そこまであっさり受け入れられると返って不自然というか、不気味というか⋯」
「へっへー。なんせワイは順応性の高いオタクですから!」
どうやら学園長もここまで軽薄な返事をされると思っていなかったらしい。
暫く腑に落ちない様子で唸っていたが、やがて自身を言い聞かせるように小さく頷いた。
「──まぁ、何がともあれ早々にこの事実を理解していただけたなら話は早い。予知能力の発動する条件は未だ不明瞭なことも多いですが、使う人間によって確実性や発現速度は異なります。いわば貴女自身の素質にかかっているということですね」
「なる!ま、何事も体験してみな分からんしなー。楽しみにしとくってことで」
「⋯非常に前向きでよろしい。ただし、膨大な力には代償もつきものです。本来、魔力耐性のない異界の者が使えば、その身は持たないでしょう。しかし。貴女はどういうわけか、この世界で有数の魔法士レベルの魔力保有量を保持している。力を使うには十分な適性があるということです。──ですが、だからといって何もリスクがないわけではない」
「ほぉーん。どんなデメリットがあるんすか?」
神妙な面持ちの学園長に対し、相変わらずこちらの空気はまるで緊張感がない。温度差で風邪をひきそうなほど。
「主に使用後の副作用です。嘔吐、頭痛、めまいなど⋯ 使えば使うほど、確実に体へ反動がきます」
「なるほど。ま、徐々になれてくるっしょ!!大丈夫大丈夫!」
能力系の創作物で、この手の設定はお約束だ。それにわりと我慢が得意な自分にとっては、さして不安要素でもなかった。
大きな口を開けて笑い飛ばす私を見て、学園長は呆れた様子で息をつく。
「どこまでも楽観的な方ですね⋯まぁいいでしょう。
──それともう1つ。極めて重要な注意事項があります」
「お?まだあるんすか」
その瞬間、僅かに彼の纏う温度が鋭くなる。
無意識に背筋が栗立つのが分かった。
「この学園で生活する以上、貴女には“名前”を名乗る必要があるでしょう。
ですが──本来の名前は、決して明かしてはなりません」
「⋯え?」
「理由は問いません。覚えておきなさい。もし、“本当の名”がこの世界の人間に知られた場合── 貴女は、この世界に存在できなくなります」
一段低く響いた彼の声に、辺りの空気が僅かに張り詰める感覚。
まるで、自覚をこちらに埋め込むように。
何故かその言葉だけは、冗談に聞こえなかった。笑い飛ばせば良いはずなのに、喉の奥がひりつく。
「詳細は説明できません。⋯ですが、それは“確実”な結果です」
「⋯」
「ですから、偽名を使いなさい。決して、本名を口にしてはいけない」
一瞬、2人の間に沈黙が流れる。
自分は肩を震わせ、ゆっくりと口を開いた。
「⋯⋯マジか!!せっかく推しと同じ空気を吸えるってのに早々に脱落とか絶対嫌なんやけど!?まだ生カプも拝めてないし!」
「うっかり口を滑らさなければ問題ありません」
「りょ!何が何でも隠し通しますわ!ワイ妄想力高いから何にでも擬態できるし!」
「頼みますよ。私としても、今貴女に消えられては困りますので」
ワイの見当違いな発言に、最早いちいち突っ込む気力もなくなったのだろう。
学園長は頭を抱えて喚く自分へ、淡々と言葉を返した。
「さて。これから貴女には、この学園の生徒として過ごしてしていただくことになるのですが⋯今から入学式がありますので、貴方も新入生として参加してもらいます」
「⋯うおおお!早速初対面イベント来た!」
「くれぐれも目立つ行動は控えてください。⋯ちなみに貴女、性別は女性ですね?」
「そうっすね。ピチピチのJKやってたんで」
学園長からの吉報を受け、大きく拳を振り上げる。早くも原作展開に立ち会えるとは運が良いものだ。
しかし、こちらを値踏みするように眺めた学園長は困ったように顎に手を当てた。
「ここは男子校なので、女性が在籍することを公にすれば後々面倒を被る可能性が⋯魔法で見た目を男性に変えるのが手っ取り早いのですが」
「いや、女装男子設定ってことでいけるでしょ」
「⋯はい?」
こちらの奇想天外すぎる提案に、学園長の気の抜けた声が響く。
同時に「コイツ、正気か?」って言わんばかりの瞳がこちらを射抜いた。
「大丈夫!だってこの学園は、女子顔負けの美形揃いのはず!ワイみたいなのがいても何らおかしくないって!」
「⋯まぁ。その風変わりな挙動を見れば、納得されそうではありますね。良いでしょう。ただし、絶対に見抜かれないよう徹底してください」
「余裕余裕!ワイ、老若男女を変幻自在に演じれるから!」
「⋯改めて言います。できる限り目立つ言動は避けてくださいね」
了承はしたものの、未だ不安そうに考えむ学園長に思っきりピースをしてみせる。
最早こちらに何を言っても意味はない、そう彼に思わせる決定打だった。
「⋯本当に大丈夫なんでしょうか。──何がともあれ、入学式まで時間がありません。急いで会場に向かいますよ」
結局学園長は最後まで疑念の色を残したまま、半ば諦めた様子でこちらを入学式会場へと促した。
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