新たな居場所
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そこからは、この劇団を取り巻く色々な「事情」を聞くこととなった。
立花さんのお父さんは今は行方不明で、この劇団が栄華を誇っていた時の監督だったこと。
しかし彼が失踪し、劇団もどんどん廃れてしまっていづみさんが来た時には潰れる寸前だったこと。
お父さんが大切にしていたこの劇場を存続するためには「春」「夏」「秋」「冬」それぞれの組で5人ずつ集めて公演を行い、成功させなければならないこと。
つい最近、何とか集まった「春組」が無事公演を終え、大成功を収めたこと。
そして、次は「夏組」集めなければならないこと…
いづみさんの話を真剣に聞きながら、この劇団が現状崖っぷちであるのだと認識する。私の知ってるMANKAIカンパニーは、きっといづみさんのお父さんがいたその全盛期とやらの時期だったのだろう。私の父もよくチケットが当たらないと嘆いていたのを記憶の片隅で覚えている。
その時とはまるで正反対の現状に、両親が死んでから随分時間が経ってしまったのだと少しだけ切なくなった。
けれど彼女と集まった「春組」は、必死にこの劇団を守ろうとしている。私もここで生活していくのだから、微力ではあるが出来ることなら何でもしたいと偉そうなことを考えた。
「私も、いづみさんのお父さんが作ったこの場所を守りたいです。できることがあれば、なんでも言ってください。…演劇のことは……正直全然分からないけど…でも!勉強します!それに、家事は得意だから、本当に何なりと使ってください!」
「… 愛華ちゃん…、なんで良い子なの…!ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。一緒に頑張っていこうね」
「はっ、はい!」
話を聞いて思った自分の考えを素直に言葉にすると、それを聞いたいづみさんの瞳にはみるみる涙が溜まっていく。一緒にがんばる、自分だけじゃない主語に言いようのない幸福感が生まれ、俄然やる気が湧いてきた。
「ところで聞いてばかりなんですが…」
「うんうん、何でも聞いて?」
「ここに来てから人の気配が一切ないんですが、その…団員の人は今日はいないんですか?」
「あ、さっきも話したけどちょうど春組の公演が終わったばかりでね、当分公演はないんだけど...今日は自主練してるよ!多分もうすぐ帰って来る頃かな?」
「そ、そうだったんですか。じゃあご挨拶しないとですね……あ、でもそろそろ帰らないとだ」
なるほど、人の気配がなかったのは自主練をしていたからか…
ていうか、公演が終わったばかりなのにもう練習なんて、演劇に対するストイックさが窺える。
もしかしたら今日は会わないで済むかもしれないという私の浅はかな考えはあっさり打ち砕かれ、少しだけ心の中で落胆する。後から入ってきた分際でなんて奴なんだ。
とは言え私も施設に一度帰らなければならないし、これ以上帰りが遅いと今日は本当に顔を合わせないかもしれない。
いづみさんにそろそろ帰ることを告げれば、少し驚いた後「本当に帰るの?大丈夫?電話で済ませて良いんだよ。わざわざ顔を合わせなくても…」と心配そうに話す。けれど、私も最後にケジメをつけたかったので、その優しさに感謝しながらも首を横に振った。
「…それでも、やっぱりあそこが私の帰る場所でもあったし、楽しいこともあったのは事実ですから。最後にみんなに伝えたくて、ありがとうって」
「愛華ちゃん……」
「大丈夫です。ちゃんといづみさんが待っててくれるって思ったら、すごく心強いし…」
いづみさんは私の意志が固いものだと悟ったのか、それ以上何か言うのをやめて私の言い分を受け入れてくれた。
「じゃあ、帰ってきた時には愛華ちゃんの歓迎会するからさ、ご馳走たくさん用意して待ってるね」
「……!はい、ありがとうございます」
まだ少しだけ心配そうな瞳を揺らしながらも笑顔を見せるいづみさんに、私も頬を緩めて返事をした。
外を見ればだいぶ空が薄暗くなっている。流石にそろそろ出たほうが良いかもしれない、と改めていづみさんに声をかけようとした瞬間____玄関から扉の開く音が聞こえた。
立花さんのお父さんは今は行方不明で、この劇団が栄華を誇っていた時の監督だったこと。
しかし彼が失踪し、劇団もどんどん廃れてしまっていづみさんが来た時には潰れる寸前だったこと。
お父さんが大切にしていたこの劇場を存続するためには「春」「夏」「秋」「冬」それぞれの組で5人ずつ集めて公演を行い、成功させなければならないこと。
つい最近、何とか集まった「春組」が無事公演を終え、大成功を収めたこと。
そして、次は「夏組」集めなければならないこと…
いづみさんの話を真剣に聞きながら、この劇団が現状崖っぷちであるのだと認識する。私の知ってるMANKAIカンパニーは、きっといづみさんのお父さんがいたその全盛期とやらの時期だったのだろう。私の父もよくチケットが当たらないと嘆いていたのを記憶の片隅で覚えている。
その時とはまるで正反対の現状に、両親が死んでから随分時間が経ってしまったのだと少しだけ切なくなった。
けれど彼女と集まった「春組」は、必死にこの劇団を守ろうとしている。私もここで生活していくのだから、微力ではあるが出来ることなら何でもしたいと偉そうなことを考えた。
「私も、いづみさんのお父さんが作ったこの場所を守りたいです。できることがあれば、なんでも言ってください。…演劇のことは……正直全然分からないけど…でも!勉強します!それに、家事は得意だから、本当に何なりと使ってください!」
「… 愛華ちゃん…、なんで良い子なの…!ありがとう。気持ちだけでも嬉しいよ。一緒に頑張っていこうね」
「はっ、はい!」
話を聞いて思った自分の考えを素直に言葉にすると、それを聞いたいづみさんの瞳にはみるみる涙が溜まっていく。一緒にがんばる、自分だけじゃない主語に言いようのない幸福感が生まれ、俄然やる気が湧いてきた。
「ところで聞いてばかりなんですが…」
「うんうん、何でも聞いて?」
「ここに来てから人の気配が一切ないんですが、その…団員の人は今日はいないんですか?」
「あ、さっきも話したけどちょうど春組の公演が終わったばかりでね、当分公演はないんだけど...今日は自主練してるよ!多分もうすぐ帰って来る頃かな?」
「そ、そうだったんですか。じゃあご挨拶しないとですね……あ、でもそろそろ帰らないとだ」
なるほど、人の気配がなかったのは自主練をしていたからか…
ていうか、公演が終わったばかりなのにもう練習なんて、演劇に対するストイックさが窺える。
もしかしたら今日は会わないで済むかもしれないという私の浅はかな考えはあっさり打ち砕かれ、少しだけ心の中で落胆する。後から入ってきた分際でなんて奴なんだ。
とは言え私も施設に一度帰らなければならないし、これ以上帰りが遅いと今日は本当に顔を合わせないかもしれない。
いづみさんにそろそろ帰ることを告げれば、少し驚いた後「本当に帰るの?大丈夫?電話で済ませて良いんだよ。わざわざ顔を合わせなくても…」と心配そうに話す。けれど、私も最後にケジメをつけたかったので、その優しさに感謝しながらも首を横に振った。
「…それでも、やっぱりあそこが私の帰る場所でもあったし、楽しいこともあったのは事実ですから。最後にみんなに伝えたくて、ありがとうって」
「愛華ちゃん……」
「大丈夫です。ちゃんといづみさんが待っててくれるって思ったら、すごく心強いし…」
いづみさんは私の意志が固いものだと悟ったのか、それ以上何か言うのをやめて私の言い分を受け入れてくれた。
「じゃあ、帰ってきた時には愛華ちゃんの歓迎会するからさ、ご馳走たくさん用意して待ってるね」
「……!はい、ありがとうございます」
まだ少しだけ心配そうな瞳を揺らしながらも笑顔を見せるいづみさんに、私も頬を緩めて返事をした。
外を見ればだいぶ空が薄暗くなっている。流石にそろそろ出たほうが良いかもしれない、と改めていづみさんに声をかけようとした瞬間____玄関から扉の開く音が聞こえた。
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