五月雨、恋催い
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姫野さんは去年の4月に引っ越してきた。
彼女が挨拶に来た時、単純に、美人だなと思った。
あの時点ではただの第一印象のつもりであったが、今思えばあれは一目惚れだったのだと思う。
今更、否定しようとしてもきっと無駄だ。
スポーツ推薦で大学に入った俺は朝練で早朝から家を出る。
その時間が彼女も出勤する時間のようで、エントランスでばったり会うことが日常茶飯事だった。
いつもふわふわな髪に、明るい色のリップをして俺の前に現れる。
「豪炎寺くん、おはよう」
それだけの挨拶なのに、彼女はいつもにこにこしている。
光の当たり方まで味方しているみたいに、いつだって綺麗だった。
毎朝会うたびに目で追ってしまう自分を、何度ごまかしてきたかわからない。
そして今日、タ方からぽつぽつと降り始めた雨のせいで、いつもより早めに練習が終わった。
そのままの足で帰宅したら、オートロックの扉の前で座り込む小さな影があった。
その後ろ姿を一目見て、誰かはわかった。
それはうずくまって俯いている姫野さんで、この雨の中、濡れるのもいとわずその場から動かない。
まるで、世界に一人だけ取り残されたみたいに、どこにも行き場のない空気をまとっている。
いつも笑顔でキラキラしている姫野さんはどこにもいなかった。
声をかけると、こちらを見上げた彼女の頬は雨に濡れていたけれど、きっと泣いていたんだと思う。
鍵をなくして入れないと語った彼女を見て、放っておくことは出来なかった。
「嫌じゃなきゃ、うち、来ます?」
放っておけない……それもそうだが…
…けれどもっと姫野さんの事を知りたいという本心もあったと思う。
彼女に触れるきっかけを、欲しがっていたのかもれない。
部屋に入った彼女は戸惑いながらもタオルを抱えて微笑んだ。
どこか力の抜けたその表情は見たことの無い一面で、家に入れて良かったとしみじみと感じた。
彼女が俺の部屋で、俺の貸した服を着てシャワーを浴びる。
それだけで、なんだか現実感が薄れていった。
戻ってきたときの姿も忘れられない。
濡れた髪を乾かしきれずにタオルで拭いながら、照れくさそうに笑って。
サイズぴったりの妹の服が、やけに似合っていた。
…。
なのに、彼氏がいると聞いて、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
予想してなかったわけじゃない。
こんな綺麗な人を世間が放っておくなんてあるわけがない。
けれどそれを彼女本人の口から告げられると、酷く苦いものだった。
「彼氏、いるんですか?」
問い詰めるつもりなんてなかった。ましてや赤の他人の自分が。
でも、彼女の目は曇っていて、すぐにうつむいた。
姫野さんの彼氏は、浮気っぽくて、喧嘩してそのまま鍵を持って出て行くような男らしい。
どうしようもない男の話のはずなのに、彼女はどこか で自分を責めているようだった。
「バカみたいだよね」って自虐した彼女に、「バカじゃないですよ」って返した時の自分の声は、思ったよりも真剣で、ああ、ダメだなって思った。
完全に惹かれてる。それも、少しじゃない。
彼女の隣にいるだけで、気持ちが波打つ。
手元で髪を弄んでる仕草さえ愛おしく感じるなんて俺にはどうしようもなかった。
「豪炎寺くんは優しいね」
「…そうですか」
姫野さんにだけです。
と、口を滑らせそうになるのを堪える。
そんなことを言ってしまえばきっと彼女を困らせてしまうから、向いていた視線をふと逸らした。
でも、頭のどこかで考えてしまう。
そんな男と一緒にいるくらいなら、俺が……
なんて邪心を、胸の奥でこっそり握りしめた。
彼女が挨拶に来た時、単純に、美人だなと思った。
あの時点ではただの第一印象のつもりであったが、今思えばあれは一目惚れだったのだと思う。
今更、否定しようとしてもきっと無駄だ。
スポーツ推薦で大学に入った俺は朝練で早朝から家を出る。
その時間が彼女も出勤する時間のようで、エントランスでばったり会うことが日常茶飯事だった。
いつもふわふわな髪に、明るい色のリップをして俺の前に現れる。
「豪炎寺くん、おはよう」
それだけの挨拶なのに、彼女はいつもにこにこしている。
光の当たり方まで味方しているみたいに、いつだって綺麗だった。
毎朝会うたびに目で追ってしまう自分を、何度ごまかしてきたかわからない。
そして今日、タ方からぽつぽつと降り始めた雨のせいで、いつもより早めに練習が終わった。
そのままの足で帰宅したら、オートロックの扉の前で座り込む小さな影があった。
その後ろ姿を一目見て、誰かはわかった。
それはうずくまって俯いている姫野さんで、この雨の中、濡れるのもいとわずその場から動かない。
まるで、世界に一人だけ取り残されたみたいに、どこにも行き場のない空気をまとっている。
いつも笑顔でキラキラしている姫野さんはどこにもいなかった。
声をかけると、こちらを見上げた彼女の頬は雨に濡れていたけれど、きっと泣いていたんだと思う。
鍵をなくして入れないと語った彼女を見て、放っておくことは出来なかった。
「嫌じゃなきゃ、うち、来ます?」
放っておけない……それもそうだが…
…けれどもっと姫野さんの事を知りたいという本心もあったと思う。
彼女に触れるきっかけを、欲しがっていたのかもれない。
部屋に入った彼女は戸惑いながらもタオルを抱えて微笑んだ。
どこか力の抜けたその表情は見たことの無い一面で、家に入れて良かったとしみじみと感じた。
彼女が俺の部屋で、俺の貸した服を着てシャワーを浴びる。
それだけで、なんだか現実感が薄れていった。
戻ってきたときの姿も忘れられない。
濡れた髪を乾かしきれずにタオルで拭いながら、照れくさそうに笑って。
サイズぴったりの妹の服が、やけに似合っていた。
…。
なのに、彼氏がいると聞いて、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
予想してなかったわけじゃない。
こんな綺麗な人を世間が放っておくなんてあるわけがない。
けれどそれを彼女本人の口から告げられると、酷く苦いものだった。
「彼氏、いるんですか?」
問い詰めるつもりなんてなかった。ましてや赤の他人の自分が。
でも、彼女の目は曇っていて、すぐにうつむいた。
姫野さんの彼氏は、浮気っぽくて、喧嘩してそのまま鍵を持って出て行くような男らしい。
どうしようもない男の話のはずなのに、彼女はどこか で自分を責めているようだった。
「バカみたいだよね」って自虐した彼女に、「バカじゃないですよ」って返した時の自分の声は、思ったよりも真剣で、ああ、ダメだなって思った。
完全に惹かれてる。それも、少しじゃない。
彼女の隣にいるだけで、気持ちが波打つ。
手元で髪を弄んでる仕草さえ愛おしく感じるなんて俺にはどうしようもなかった。
「豪炎寺くんは優しいね」
「…そうですか」
姫野さんにだけです。
と、口を滑らせそうになるのを堪える。
そんなことを言ってしまえばきっと彼女を困らせてしまうから、向いていた視線をふと逸らした。
でも、頭のどこかで考えてしまう。
そんな男と一緒にいるくらいなら、俺が……
なんて邪心を、胸の奥でこっそり握りしめた。