壊してくれるなら、優しくして
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「雷門との試合がある。もしよければ、見に来ないか」
有人さんからそう言われたときは、少しだけ驚いてしまった。
彼の方から見学に誘われたことは今まで無かったから、すごく嬉しくて、二つ返事で答えた。
それに…雷門中は私にとって思い入れのある場所だから。
当日、待ちきれなくて、時間より少し早めに帝国学園を訪れた。
準備すらまだ始まっていない。
時間はたっぷりある。
見学室に荷物を置いて学園内を散策してみることにした。
お堅い校風とは聞いていたが、建物は整然としていて、無駄がなく、それでいてどこか不思議な雰囲気だった。
制服姿の生徒たちが静かに移動するその中を、浮かないように控えめに歩く。
ふと、校舎の裏手へ抜ける通路に差しかかったとき。
ギイ、ガタガタ、と金属のこすれるような音が聞こえる。
目を向けると、無言のまま数人の男たちが、工具を台車に載せて通り過ぎていった。
目が合っても何も言わず、黙々と歩いていく。
制服でもなく、スタッフの腕章もつけていない。
「整備…かしら…?」
深くは考えなかった。
この規模の学校なら、大きな整備も日常的なのだろうと。
やがて見学室に戻ると、ガラス越しに準備風景が見えた。
グラウンドに立つ雷門イレブンと帝国学園サッカー部。
サッカーというものに触れてこなかった私には、全てが新鮮だった。
それに、雷門中のベンチに見覚えのあるウェーブがかった茶髪が見えて、目を見張る。
「夏未さん…!」
雷門財閥の令嬢で、姫野製薬と共同開発事業を担っていた頃によく顔を合わせていた。
雷門中に居るとは聞いていたけれど、まさかサッカー部のマネージャーになっているとは思ってもいなくて、自分の今見たものが現実なのか一瞬分からなくなった。
確かに、昔の夏未さんも頼りになる人だったけれどスポーツに興味があったわけでも世話好きな訳でも無かったはず。
話しかけに行こうか、とも思ったけれど、他の雷門のマネージャーが慌ただしくしているのを見て身を引いた。
「あれ……?」
フィールドを見渡していて、どこか違和感があった。
アップをする選手やベンチで休憩している選手を一人一人確認する。
そこ中に、ひとりだけいない。
片っ端から探すも、どこにもいない、有人さんの姿が。
不安に眉を寄せていると、勢いよく扉が開いた。
「…なまえ!」
肩を跳ねさせて振り返ると、息を切らした有人さんが立っていた。
額に汗が浮かび、普段の冷静さとは違う、明らかに焦っている。
「影山が、雷門を潰そうとしている。試合中に何かを仕掛けた可能性がある」
「わ、罠…?」
咄嗟には意味が掴めず、聞き返すように咳く。
「学園内で何か変なものを見なかったか。些細なことでもいい」
「うーん…あ、そういえば、関係ないかもしれないですけど、校舎の裏手で、工具を持った方たちとすれ違いましたわ」
有人さんの目が鋭くなる。
「いつだ!?どこで、何人だった!?」
「ええと、40分ほど前に、裏通路で、三人…くらいだったような…?」
その瞬間、彼は何も言わずに振り返り、走り出した。
「有人さんっ!」と呼びかける声にも、振り向かずに。
よく意味がわかっていないまま、試合の時間が来てしまった。
試合は予定通り始まったけれど、私はさっきの彼が気がかりだった。
フィールドに選手が揃うとき、雷門のメンバ一だけが、なぜかセンターサークルからわずかに外れて配置されていた。
そろそろ始まる。
その瞬間だった。
空気が裂けるような轟音が響いた。
見学室のガラス窓がガタガタと震えるほどの衝撃。
目を見開いたまま立ち尽くした私の視界に、粉塵の中でゆっくりと倒れていく巨大な鉄骨があった。
それはまるで、雷門の選手たちの命を奪うため、計画されていたかのようにセンターサークルヘ落下した。
「……あ、」
喉が、ふるえた。
大きな音と衝撃に、声にならないまま、記憶の奥に閉じ込めていたものが、一気にあふれ出した。
暗い部屋の、冷たい床。
無表情な母の顔。
機嫌を損なわせると、棒で鞭打たれた。
「いや…」
何が起きたのか理解する前に、視界が白くぼやけた。
そのまま、崩れるように床に膝をつく。
「は、っ…はぁっ……!」
「姫野様!」
付き添いで来ていたメイドの声が遠くなるのを感じる。
「すぐ有人様を…!」
「っ、だめよ!!」
慌てるメイドを引き止めると、彼女はどうしていいかわからない、と言ったような顔をした。
「ですが!」
「だめ、だめなの…!試合を、止めてはいけません…っ!」
私の所為で、彼の大事なものを壊してはいけない。
どうして、どうしてそんなことを考えているんだろう。
ずっと家のために彼に好かれなければって思っていたのに、これじゃあまるで…
全てを理解してすぐ、もう何も聞こえなくなった。
全身が冷えていくのを感じる。
あの頃の記憶へ引き戻されるように。
有人さんからそう言われたときは、少しだけ驚いてしまった。
彼の方から見学に誘われたことは今まで無かったから、すごく嬉しくて、二つ返事で答えた。
それに…雷門中は私にとって思い入れのある場所だから。
当日、待ちきれなくて、時間より少し早めに帝国学園を訪れた。
準備すらまだ始まっていない。
時間はたっぷりある。
見学室に荷物を置いて学園内を散策してみることにした。
お堅い校風とは聞いていたが、建物は整然としていて、無駄がなく、それでいてどこか不思議な雰囲気だった。
制服姿の生徒たちが静かに移動するその中を、浮かないように控えめに歩く。
ふと、校舎の裏手へ抜ける通路に差しかかったとき。
ギイ、ガタガタ、と金属のこすれるような音が聞こえる。
目を向けると、無言のまま数人の男たちが、工具を台車に載せて通り過ぎていった。
目が合っても何も言わず、黙々と歩いていく。
制服でもなく、スタッフの腕章もつけていない。
「整備…かしら…?」
深くは考えなかった。
この規模の学校なら、大きな整備も日常的なのだろうと。
やがて見学室に戻ると、ガラス越しに準備風景が見えた。
グラウンドに立つ雷門イレブンと帝国学園サッカー部。
サッカーというものに触れてこなかった私には、全てが新鮮だった。
それに、雷門中のベンチに見覚えのあるウェーブがかった茶髪が見えて、目を見張る。
「夏未さん…!」
雷門財閥の令嬢で、姫野製薬と共同開発事業を担っていた頃によく顔を合わせていた。
雷門中に居るとは聞いていたけれど、まさかサッカー部のマネージャーになっているとは思ってもいなくて、自分の今見たものが現実なのか一瞬分からなくなった。
確かに、昔の夏未さんも頼りになる人だったけれどスポーツに興味があったわけでも世話好きな訳でも無かったはず。
話しかけに行こうか、とも思ったけれど、他の雷門のマネージャーが慌ただしくしているのを見て身を引いた。
「あれ……?」
フィールドを見渡していて、どこか違和感があった。
アップをする選手やベンチで休憩している選手を一人一人確認する。
そこ中に、ひとりだけいない。
片っ端から探すも、どこにもいない、有人さんの姿が。
不安に眉を寄せていると、勢いよく扉が開いた。
「…なまえ!」
肩を跳ねさせて振り返ると、息を切らした有人さんが立っていた。
額に汗が浮かび、普段の冷静さとは違う、明らかに焦っている。
「影山が、雷門を潰そうとしている。試合中に何かを仕掛けた可能性がある」
「わ、罠…?」
咄嗟には意味が掴めず、聞き返すように咳く。
「学園内で何か変なものを見なかったか。些細なことでもいい」
「うーん…あ、そういえば、関係ないかもしれないですけど、校舎の裏手で、工具を持った方たちとすれ違いましたわ」
有人さんの目が鋭くなる。
「いつだ!?どこで、何人だった!?」
「ええと、40分ほど前に、裏通路で、三人…くらいだったような…?」
その瞬間、彼は何も言わずに振り返り、走り出した。
「有人さんっ!」と呼びかける声にも、振り向かずに。
よく意味がわかっていないまま、試合の時間が来てしまった。
試合は予定通り始まったけれど、私はさっきの彼が気がかりだった。
フィールドに選手が揃うとき、雷門のメンバ一だけが、なぜかセンターサークルからわずかに外れて配置されていた。
そろそろ始まる。
その瞬間だった。
空気が裂けるような轟音が響いた。
見学室のガラス窓がガタガタと震えるほどの衝撃。
目を見開いたまま立ち尽くした私の視界に、粉塵の中でゆっくりと倒れていく巨大な鉄骨があった。
それはまるで、雷門の選手たちの命を奪うため、計画されていたかのようにセンターサークルヘ落下した。
「……あ、」
喉が、ふるえた。
大きな音と衝撃に、声にならないまま、記憶の奥に閉じ込めていたものが、一気にあふれ出した。
暗い部屋の、冷たい床。
無表情な母の顔。
機嫌を損なわせると、棒で鞭打たれた。
「いや…」
何が起きたのか理解する前に、視界が白くぼやけた。
そのまま、崩れるように床に膝をつく。
「は、っ…はぁっ……!」
「姫野様!」
付き添いで来ていたメイドの声が遠くなるのを感じる。
「すぐ有人様を…!」
「っ、だめよ!!」
慌てるメイドを引き止めると、彼女はどうしていいかわからない、と言ったような顔をした。
「ですが!」
「だめ、だめなの…!試合を、止めてはいけません…っ!」
私の所為で、彼の大事なものを壊してはいけない。
どうして、どうしてそんなことを考えているんだろう。
ずっと家のために彼に好かれなければって思っていたのに、これじゃあまるで…
全てを理解してすぐ、もう何も聞こえなくなった。
全身が冷えていくのを感じる。
あの頃の記憶へ引き戻されるように。