壊してくれるなら、優しくして
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一通り家の中を見回って、最後の部屋の扉を開く。
真ん中には華美な装飾が施されている長テーブルが堂々と鎮座している。
その上に銀のカトラリーが整然と並ベられていた。
グリルされた肉料理に色とりどりの副菜。
香草の香りが上品に広がる。
それは一般的には贅沢、でもここでは日常的な一皿だった。
足早に席に着いて、まだ扉の近くにいるなまえに目配せをする。
「今日から親交を深めるために二人で食事をとるようにと、父が言っていた」
それを聞いたなまえはゆっくりと着席し、皿の上の料理を見つめた。
その目が、ほんのわずかに揺れた。
「こんなに、いただいてもいいんですか?」
静かな声だったが、その言葉に一瞬、手を止めた。
戸惑った表情の彼女は、心からそう思っているんだろう。
「特別なものじゃない。俺にとっては普段の夕食と変わらない」
「そうですか…」
なまえはナイフとフォークを手に取ったものの、すぐには動かさなかった。
肉の切れ目に沿って一度なぞるようにして、それから、まるで食べ方を思い出すようにゆっくりと切った。
食事を進めながらも、彼女の様子を無意識に観察していた。
ナイフとフォークの持ち方は完壁。姿勢も崩れない。
けれど、その手元には、なにか恐れのようなものがあった。
「食べ慣れないのか?」
無遠慮な問いだったかもしれない。
だが、なまえは少しだけ目を伏せて、小さく首を振った。
「いえ…ただ、こうして好きな量をいただくことは、あまり」
言い終える前に、なまえは口を閉ざした。
それはまるで言ってはいけないことに気づいたかのような、沈黙。
「そうか」
それ以上、踏み込まなかった。
だが心のどこかで、はっきりとした違和感を感じ取っていた。
切った食材を口に入れると、なまえの瞳が一瞬だけ揺れた。
「美味しい、のね。こういうのって」
それは呟きのような言葉だった。
俺は黙って、それを聞いていた。
食事が半分ほど減ったところでなまえの手が止まった。
「ごめんなさい、あまりたくさん食べられなくて…」
バツの悪そうな顔をしてから、ナイフとフォークを揃えて皿の右下に置いた。
それからナプキンを畳み机に置くと、静かに椅子を引いて立ち上がった。
その所作は終始非の打ち所がなく、まるで絵に描いたような令嬢の立ち居振る舞い。
けれど、どこか張り詰めたものも感じるのは気のせいか。
「では、わたしはこれで失礼いたします。もう夜遅いから、寝る支度をしないと」
夜遅い、とは言うが、まだ時計は8を指している。
最近の女子は、美容に気を使って早めに寝るというやつか…?
なまえは背後に控えていた専属のメイドと共に廊下へと姿を消した。
それを見届けて、自分も席を立った。
俺の部屋は、東棟の一角。
そこは東棟で2番目に広い部屋。
その部屋の壁際に設置された大型モニターの前で腕を組む。
モニターに映っていたのは、昨日の帝国学園の試合映像。
冷静に自分たちのフォーメーションを見直しながら、ときおり映像を止めて、戦術面の確認を進めていく。
…ディフェンスラインの押し上げが遅れている。
佐久間には明日、もう一度確認させるべきだ。
集中していたそのとき、ふと、ノックの音がした。
「どうぞ」
扉が静かに開かれる。
そこに立っていたのは、巻いていた髪をストレートに下ろして、カーディガンをルームワンピースの上に羽織ったなまえだった。
ふわりと香る、石鹸とラベンダーの微かな香り。
だが、彼女の表情はどこかぎこちなく、目元の笑みはあいかわらずどこか空虚だった。
「先に、休ませていただきますね」
「ああ。無理はするな。慣れない場所だろ」
「大丈夫です。今夜は、きっとよく眠れます」
なまえは優しく目を細めて一礼する。
そのとき、彼女の後ろに控えていたメイドの表情が曇っているのが見えた。
青ざめた顔で、視線を地面に落とすように下げたまま、決して俺と目を合わせようとはしない。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのような、恐怖の色。
バタン、とドアが閉まる音。
その余韻のなかで背もたれに身を預け、 頭を巡らせた。
真ん中には華美な装飾が施されている長テーブルが堂々と鎮座している。
その上に銀のカトラリーが整然と並ベられていた。
グリルされた肉料理に色とりどりの副菜。
香草の香りが上品に広がる。
それは一般的には贅沢、でもここでは日常的な一皿だった。
足早に席に着いて、まだ扉の近くにいるなまえに目配せをする。
「今日から親交を深めるために二人で食事をとるようにと、父が言っていた」
それを聞いたなまえはゆっくりと着席し、皿の上の料理を見つめた。
その目が、ほんのわずかに揺れた。
「こんなに、いただいてもいいんですか?」
静かな声だったが、その言葉に一瞬、手を止めた。
戸惑った表情の彼女は、心からそう思っているんだろう。
「特別なものじゃない。俺にとっては普段の夕食と変わらない」
「そうですか…」
なまえはナイフとフォークを手に取ったものの、すぐには動かさなかった。
肉の切れ目に沿って一度なぞるようにして、それから、まるで食べ方を思い出すようにゆっくりと切った。
食事を進めながらも、彼女の様子を無意識に観察していた。
ナイフとフォークの持ち方は完壁。姿勢も崩れない。
けれど、その手元には、なにか恐れのようなものがあった。
「食べ慣れないのか?」
無遠慮な問いだったかもしれない。
だが、なまえは少しだけ目を伏せて、小さく首を振った。
「いえ…ただ、こうして好きな量をいただくことは、あまり」
言い終える前に、なまえは口を閉ざした。
それはまるで言ってはいけないことに気づいたかのような、沈黙。
「そうか」
それ以上、踏み込まなかった。
だが心のどこかで、はっきりとした違和感を感じ取っていた。
切った食材を口に入れると、なまえの瞳が一瞬だけ揺れた。
「美味しい、のね。こういうのって」
それは呟きのような言葉だった。
俺は黙って、それを聞いていた。
食事が半分ほど減ったところでなまえの手が止まった。
「ごめんなさい、あまりたくさん食べられなくて…」
バツの悪そうな顔をしてから、ナイフとフォークを揃えて皿の右下に置いた。
それからナプキンを畳み机に置くと、静かに椅子を引いて立ち上がった。
その所作は終始非の打ち所がなく、まるで絵に描いたような令嬢の立ち居振る舞い。
けれど、どこか張り詰めたものも感じるのは気のせいか。
「では、わたしはこれで失礼いたします。もう夜遅いから、寝る支度をしないと」
夜遅い、とは言うが、まだ時計は8を指している。
最近の女子は、美容に気を使って早めに寝るというやつか…?
なまえは背後に控えていた専属のメイドと共に廊下へと姿を消した。
それを見届けて、自分も席を立った。
俺の部屋は、東棟の一角。
そこは東棟で2番目に広い部屋。
その部屋の壁際に設置された大型モニターの前で腕を組む。
モニターに映っていたのは、昨日の帝国学園の試合映像。
冷静に自分たちのフォーメーションを見直しながら、ときおり映像を止めて、戦術面の確認を進めていく。
…ディフェンスラインの押し上げが遅れている。
佐久間には明日、もう一度確認させるべきだ。
集中していたそのとき、ふと、ノックの音がした。
「どうぞ」
扉が静かに開かれる。
そこに立っていたのは、巻いていた髪をストレートに下ろして、カーディガンをルームワンピースの上に羽織ったなまえだった。
ふわりと香る、石鹸とラベンダーの微かな香り。
だが、彼女の表情はどこかぎこちなく、目元の笑みはあいかわらずどこか空虚だった。
「先に、休ませていただきますね」
「ああ。無理はするな。慣れない場所だろ」
「大丈夫です。今夜は、きっとよく眠れます」
なまえは優しく目を細めて一礼する。
そのとき、彼女の後ろに控えていたメイドの表情が曇っているのが見えた。
青ざめた顔で、視線を地面に落とすように下げたまま、決して俺と目を合わせようとはしない。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのような、恐怖の色。
バタン、とドアが閉まる音。
その余韻のなかで背もたれに身を預け、 頭を巡らせた。