壊してくれるなら、優しくして
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しばらく経ってお互いに落ち着きを取り戻し、ソファに腰を下ろした。
低いテーブルを挟んで向かい合ったものの、私は涙で濡れたハンカチを握りしめたままで、夏未さんはそんな私をただ見つめるばかり。
そうやってしばらくの間どちらも言葉を発せずにいた。
そんな雰囲気の空気を抜いたのは夏未さんだった。
「少し待ってて」
そう言うなり部屋の隅にあるサイドボードへと歩いていった。
ガラス戸の向こうに並んだ茶器を取り出し、ポットでお湯を沸かし始める。
そして沸騰した湯をウエッジウッドのティーポットに移す。
やがてふわりと立ちのぼる湯気の残り香が私の元に流れてきて、ハッとした。
この香り…
コトリ、と音を立てて私の前には鮮やかな赤みの紅茶が一杯置かれる。
夏未さん自身の前には黄味の強い紅茶が一杯。
「泣いた後は喉が乾くでしょう?」
そう言って一口含んだのを見て、私も後追いするようにカップに口をつける。
「……ディンブラ」
「好きだったじゃない。好みが変わっていなきゃね」
この茶葉はレモンを搾ったりジンジャーをすりおろしたり、ミルクを混ぜても、持ち味のコクや渋味はそのままに美味しく仕上げることが出来る。
…そんな "染まりやすさ" に魅了された。
忘れ去られたと思っていた小さな好みを、彼女は今も覚えていてくれた。
「ええ…好きです…」
それを聞いて、夏未さんは満足気に微笑んだ。
「…私、あなたの言い分を何も聞いていないのに、責め立ててしまったわ」
「ふふ、夏未さん、そういうところは昔から変わってないですね」
「ちょっと、どういうことよ」
「なんだか懐かしくて、いつもこうやって喧嘩してはお互い泣いて解決…」
「私は泣いてないわよっ」
「うふふっ」
つい笑みがこぼれて、重苦しかった空気が少しだけ 和らぐ。
だけど胸の奥に沈んだ想いは、まだ言葉にならずに 疼いていた。
「ねぇ、夏未さん」
「何?」
「もし、…もしも、姫野が影山と関わっていたとして、私がどんな目にあっていても…調査をやめないでくださいね」
私は震える手でカップをソーサーに戻し、言葉を紡ぐ。
「…どういうこと」
「……私は姫野の捨て駒です」
私は両親の思惑を叶えるための大事な大事な…道具に過ぎない。
あの人達は、折檻と軽蔑で心を壊し、従順で逆らう力のない便利な人間を作ろうとした。
「っ、それなら、鬼道や雷門に身を隠して…」
「いいえ、姫野の内部から情報を得られるのは私しかいません。捨て駒は捨て駒なりに、一矢報いる役がお似合いですわ」
ようやく呼き出したその言葉は、ずっと胸の奥に押 し込めていたもの。
叩かれるのは、今でも怖い。
逆らうなんて、出来ることならそんなことしたくない。
それでも、夏未さんの愛する雷門を、有人さんの愛するサッカーを、守る手助けになればいい。
夏末さんはしばらく黙ったまま私を見つめていた。
やがて小さく息をつき、カップを持ち上げてひとロ
紅茶を流し込んだ。
「どうしてそこまでするの?」
「…有人さんが、サッカーをする姿をまだ見ていたいんです」
目を逸らしながらそう言った私を見て、彼女は呆れたようにため息をついた。
「はぁ…もう既に掌中の珠ってわけねぇ…」
そして、夏未さんの眉がきゅっと寄った。
「でも危険よ」
そうやって彼女は私の覚悟を確認するように問う。
「影山がどれほどの人物か、私だって全部を知って いるわけじゃない。けれど、その名が絡む限り、甘い考えで首を突っ込めば、どうなるかわからないわ」
それでも私は目を逸らさず、言葉を重ねた。
「危険でも、目を逸らす方が怖いですわ。もう何も知らないふりで、ただ言われるがままに生きるのは、嫌」
「ふうん」
興味がなさそうに返事したかと思えば、にっこりと私に笑いかけた。
「本当、変わったわね。誰の入れ知恵かしら?」
そして彼女が視線を向けたのは私ではなく、部屋の
奥…閉じられた扉の方。
どういうこと、と問いかけようとした瞬間。
「…俺だ、とでも言いたいのか?」
扉が開いて、入ってきた彼のその存在感は空気を一瞬にして塗り替えた。
「有人さん…!」
目を張る私と相対して、夏未さんはふっと口の端を吊り上げた。
「盗み聞きだなんて、行儀が悪いわね」
「自分本位に責め立てる奴よりはマシだろう」
「なんですって!?」
夏末さんが驚きと怒りを含んだ声でいがむと、有人さんはそんな彼女を横目に、笑みを浮かべている。
そんな二人の影で私は一人、冷や汗をかいていた。
そんな前から、有人さんが聞いていたってことは…
「あ、あの、私の言ったこと、忘れてくださいます…?」
「そうだな…気が向いたら検討しよう」
「そんな……」
恥ずかしさに頬が熱くなり、どうしていいか分からなくて思わず目を伏せる。
「色々聞きたいことはあるが、とりあえずこんな時間だ。一度帰ろう」
外を見やるとそこには赤と青の混ざった空。
さっきまで青々としていたのに。
「なまえ、気をつけるのよ。無理してはダメ」
「ええ、心得ていますわ」
低いテーブルを挟んで向かい合ったものの、私は涙で濡れたハンカチを握りしめたままで、夏未さんはそんな私をただ見つめるばかり。
そうやってしばらくの間どちらも言葉を発せずにいた。
そんな雰囲気の空気を抜いたのは夏未さんだった。
「少し待ってて」
そう言うなり部屋の隅にあるサイドボードへと歩いていった。
ガラス戸の向こうに並んだ茶器を取り出し、ポットでお湯を沸かし始める。
そして沸騰した湯をウエッジウッドのティーポットに移す。
やがてふわりと立ちのぼる湯気の残り香が私の元に流れてきて、ハッとした。
この香り…
コトリ、と音を立てて私の前には鮮やかな赤みの紅茶が一杯置かれる。
夏未さん自身の前には黄味の強い紅茶が一杯。
「泣いた後は喉が乾くでしょう?」
そう言って一口含んだのを見て、私も後追いするようにカップに口をつける。
「……ディンブラ」
「好きだったじゃない。好みが変わっていなきゃね」
この茶葉はレモンを搾ったりジンジャーをすりおろしたり、ミルクを混ぜても、持ち味のコクや渋味はそのままに美味しく仕上げることが出来る。
…そんな "染まりやすさ" に魅了された。
忘れ去られたと思っていた小さな好みを、彼女は今も覚えていてくれた。
「ええ…好きです…」
それを聞いて、夏未さんは満足気に微笑んだ。
「…私、あなたの言い分を何も聞いていないのに、責め立ててしまったわ」
「ふふ、夏未さん、そういうところは昔から変わってないですね」
「ちょっと、どういうことよ」
「なんだか懐かしくて、いつもこうやって喧嘩してはお互い泣いて解決…」
「私は泣いてないわよっ」
「うふふっ」
つい笑みがこぼれて、重苦しかった空気が少しだけ 和らぐ。
だけど胸の奥に沈んだ想いは、まだ言葉にならずに 疼いていた。
「ねぇ、夏未さん」
「何?」
「もし、…もしも、姫野が影山と関わっていたとして、私がどんな目にあっていても…調査をやめないでくださいね」
私は震える手でカップをソーサーに戻し、言葉を紡ぐ。
「…どういうこと」
「……私は姫野の捨て駒です」
私は両親の思惑を叶えるための大事な大事な…道具に過ぎない。
あの人達は、折檻と軽蔑で心を壊し、従順で逆らう力のない便利な人間を作ろうとした。
「っ、それなら、鬼道や雷門に身を隠して…」
「いいえ、姫野の内部から情報を得られるのは私しかいません。捨て駒は捨て駒なりに、一矢報いる役がお似合いですわ」
ようやく呼き出したその言葉は、ずっと胸の奥に押 し込めていたもの。
叩かれるのは、今でも怖い。
逆らうなんて、出来ることならそんなことしたくない。
それでも、夏未さんの愛する雷門を、有人さんの愛するサッカーを、守る手助けになればいい。
夏末さんはしばらく黙ったまま私を見つめていた。
やがて小さく息をつき、カップを持ち上げてひとロ
紅茶を流し込んだ。
「どうしてそこまでするの?」
「…有人さんが、サッカーをする姿をまだ見ていたいんです」
目を逸らしながらそう言った私を見て、彼女は呆れたようにため息をついた。
「はぁ…もう既に掌中の珠ってわけねぇ…」
そして、夏未さんの眉がきゅっと寄った。
「でも危険よ」
そうやって彼女は私の覚悟を確認するように問う。
「影山がどれほどの人物か、私だって全部を知って いるわけじゃない。けれど、その名が絡む限り、甘い考えで首を突っ込めば、どうなるかわからないわ」
それでも私は目を逸らさず、言葉を重ねた。
「危険でも、目を逸らす方が怖いですわ。もう何も知らないふりで、ただ言われるがままに生きるのは、嫌」
「ふうん」
興味がなさそうに返事したかと思えば、にっこりと私に笑いかけた。
「本当、変わったわね。誰の入れ知恵かしら?」
そして彼女が視線を向けたのは私ではなく、部屋の
奥…閉じられた扉の方。
どういうこと、と問いかけようとした瞬間。
「…俺だ、とでも言いたいのか?」
扉が開いて、入ってきた彼のその存在感は空気を一瞬にして塗り替えた。
「有人さん…!」
目を張る私と相対して、夏未さんはふっと口の端を吊り上げた。
「盗み聞きだなんて、行儀が悪いわね」
「自分本位に責め立てる奴よりはマシだろう」
「なんですって!?」
夏末さんが驚きと怒りを含んだ声でいがむと、有人さんはそんな彼女を横目に、笑みを浮かべている。
そんな二人の影で私は一人、冷や汗をかいていた。
そんな前から、有人さんが聞いていたってことは…
「あ、あの、私の言ったこと、忘れてくださいます…?」
「そうだな…気が向いたら検討しよう」
「そんな……」
恥ずかしさに頬が熱くなり、どうしていいか分からなくて思わず目を伏せる。
「色々聞きたいことはあるが、とりあえずこんな時間だ。一度帰ろう」
外を見やるとそこには赤と青の混ざった空。
さっきまで青々としていたのに。
「なまえ、気をつけるのよ。無理してはダメ」
「ええ、心得ていますわ」
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