壊してくれるなら、優しくして
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物心ついた頃からこれが普通だった。
少し外へ出るのにも親の了承が必要なことも、友達を作っても姫野家に釣り合わなければ袂を分かたれたことも。
私が小学2年生に上がった頃、姫野家と雷門財閥が共同出資で事業をすることになり、話し合いで都合が良いからという理由で雷門中によく訪問していた。
関係の無い私が連れていかれたのは将来の勉強のため……というのは建前であり、恐らく雷門総一郎の一人娘である雷門夏未に取り入らせる為だったのだろう。
私は父が用意した雷門財閥についての資料を読み込んで、言う通り雷門夏未に近づいた。
「はじめまして。姫野なまえです」
「あなたがなまえ?うれしい!あいたかった!」
罪悪感なんて無かった。
ただ、自分のやることをこなしているだけ。
だった。
「ねえ、いっしょにぬけ出しちゃいましょう!」
「え、でも」
お互いの親は隣の部屋で話し合いをしており、私たちはこの部屋で大人しくしているようにと言いつけられていた。
両親の言いつけを破るなんて私にはもってのほか。
「大丈夫!二人なら、きっとうまくやれる」
腕を引く彼女の手を、私は振り払わなかった。
物音をたてないように扉を開けて廊下へと飛び出し、どこへ行くでもなく駆け出す。
ふと父の顔が頭をよぎって後ろを見やると、その真意に気づいた夏未さんが私の頭を優しく撫でた。
彼女は何も言わなかったけれど、なぜか、この人にならついて行っても怖くないって思った。
「ついてきて!学校を案内してあげる!」
大きな体育館に、たくさんの教室、正門前のイナズママークはこの学校にぴったり。
音楽室に置いてあった最新モデルのピアノに見とれていたら、夏未さんが「さわっていいわよ!」って言ってくれて胸が高鳴った。
音を鳴らさないように鍵盤をなぞる。
ずっとスタインウェイを使ってきていたから、ヤマハのピアノはあまり触ったことがなくて、自然と心が踊る。
そんな私を眺めていた夏未さんが、私に近づいてくる。
それに気づいて彼女の表情を見ると、今までのとはまるで違う、真剣なものだった。
「ねえ、ほんとうは仲良くなるつもりなんてなかったんでしょ?」
びくっと鍵盤に触れていた手が止まる。
「え…?」
「わかるわよ、ずっとそんな作った笑いかたをされたら」
「…そんなこと、ないです」
「うそよ。だって…」
彼女の言葉は音楽室の扉が勢いよく開く音でかき消された。
そこに立っていたのは私の父親であった。
急にいなくなったことへの心配…ではない、怒りの表情を浮かべて私を見つめている。
謝らなきゃって思ったけれどもう遅くて、目の前に来た父は私の頬を躊躇なく引っぱたいた。
その勢いで体が傾きピアノの譜面台に頭をぶつけてガンッと大きな音が音楽室に響く。
キーンと深い音が聴覚を支配して、手で頭を抑える。
「何やってるんだ!!!!親の言うことも聞けないのか!!!!」
そう言いながら動けない私の腕を無理やり引っ張って連れ出そうとしてくる。
「痛い!痛い!ごめんなさい!」
さっき、夏未さんが手を引いてくれた時とはまるで違う、痛みと恐怖。
「やめてください!!」
そんな声と同時に痛くなくなった、と思えば、目の前には夏未さんが居て、私の手を引く父の腕を力いっぱい掴んでいた。
「つれ出したのは、わたしです」
「夏未さん…っ」
「いくらなまえのお父様だからって、お友達に乱暴するのはゆるせません!」
父は、夏未さんのロから「友達」という単語が発せられた瞬間、まるで別人のように顔色を変えた。
怒りに染まっていた目が、ぱっと柔和な色を帯びる。
「…そうだったのか」
すぐに取り繕ったような笑みを浮かべて、父は私の手を離した。
血の巡りを取り戻した腕に、じんわりと痛みが分散していく。
「ごめんなぁ、なまえ。痛くないか?」
それは家で聞き慣れている冷徹なものではなく、周囲に人がいるときに使う、善人を装った父の声だった。
その豹変ぶりに思わず顔を上げると、すぐ前にいる父と目が合った。
大丈夫だ、と言え、この目はそう告げている。
「……大丈夫です」
それを聞いた父は満足そうに高らかに声を上げた。
「そうかそうか!まだお父さんたちは仕事があるから、夏未ちゃんと仲良くやるんだぞ」
重い木製の扉が閉まる音が響き、音楽室の中に静寂が落ちる。
私は胸の奥がぎゅっと縮こまるのを感じながら、俯いた。
息が抜けるのと同時に、忘れていた頭の痛みがまた襲ってきて、小さい声を上げて頭を片手で抑える。
色んな感情が全部全部全部、混ざり合って胃が重たい。
「いつもあんな感じなの?」
「…いえ」
条件反射のようにロから出たのは、否定の言葉。
「またうそをつくの?」
「……」
咄嗟に反論の言葉を探したけれど、何も出てこない。
そんな私を見て、夏未さんはゆっくり歩み寄ってきた。
そして、頭を抑える私の顔をのぞきこみながら、静かに言った。
「あなた、うそをつく時、いつも同じ顔をしてる」
そうだった、彼女はその時からわかってた。
本心を隠す私の顔を。
だから、あの言葉が嘘じゃないことを理解していて、夏未さんは泣いていたんだ。
少し外へ出るのにも親の了承が必要なことも、友達を作っても姫野家に釣り合わなければ袂を分かたれたことも。
私が小学2年生に上がった頃、姫野家と雷門財閥が共同出資で事業をすることになり、話し合いで都合が良いからという理由で雷門中によく訪問していた。
関係の無い私が連れていかれたのは将来の勉強のため……というのは建前であり、恐らく雷門総一郎の一人娘である雷門夏未に取り入らせる為だったのだろう。
私は父が用意した雷門財閥についての資料を読み込んで、言う通り雷門夏未に近づいた。
「はじめまして。姫野なまえです」
「あなたがなまえ?うれしい!あいたかった!」
罪悪感なんて無かった。
ただ、自分のやることをこなしているだけ。
だった。
「ねえ、いっしょにぬけ出しちゃいましょう!」
「え、でも」
お互いの親は隣の部屋で話し合いをしており、私たちはこの部屋で大人しくしているようにと言いつけられていた。
両親の言いつけを破るなんて私にはもってのほか。
「大丈夫!二人なら、きっとうまくやれる」
腕を引く彼女の手を、私は振り払わなかった。
物音をたてないように扉を開けて廊下へと飛び出し、どこへ行くでもなく駆け出す。
ふと父の顔が頭をよぎって後ろを見やると、その真意に気づいた夏未さんが私の頭を優しく撫でた。
彼女は何も言わなかったけれど、なぜか、この人にならついて行っても怖くないって思った。
「ついてきて!学校を案内してあげる!」
大きな体育館に、たくさんの教室、正門前のイナズママークはこの学校にぴったり。
音楽室に置いてあった最新モデルのピアノに見とれていたら、夏未さんが「さわっていいわよ!」って言ってくれて胸が高鳴った。
音を鳴らさないように鍵盤をなぞる。
ずっとスタインウェイを使ってきていたから、ヤマハのピアノはあまり触ったことがなくて、自然と心が踊る。
そんな私を眺めていた夏未さんが、私に近づいてくる。
それに気づいて彼女の表情を見ると、今までのとはまるで違う、真剣なものだった。
「ねえ、ほんとうは仲良くなるつもりなんてなかったんでしょ?」
びくっと鍵盤に触れていた手が止まる。
「え…?」
「わかるわよ、ずっとそんな作った笑いかたをされたら」
「…そんなこと、ないです」
「うそよ。だって…」
彼女の言葉は音楽室の扉が勢いよく開く音でかき消された。
そこに立っていたのは私の父親であった。
急にいなくなったことへの心配…ではない、怒りの表情を浮かべて私を見つめている。
謝らなきゃって思ったけれどもう遅くて、目の前に来た父は私の頬を躊躇なく引っぱたいた。
その勢いで体が傾きピアノの譜面台に頭をぶつけてガンッと大きな音が音楽室に響く。
キーンと深い音が聴覚を支配して、手で頭を抑える。
「何やってるんだ!!!!親の言うことも聞けないのか!!!!」
そう言いながら動けない私の腕を無理やり引っ張って連れ出そうとしてくる。
「痛い!痛い!ごめんなさい!」
さっき、夏未さんが手を引いてくれた時とはまるで違う、痛みと恐怖。
「やめてください!!」
そんな声と同時に痛くなくなった、と思えば、目の前には夏未さんが居て、私の手を引く父の腕を力いっぱい掴んでいた。
「つれ出したのは、わたしです」
「夏未さん…っ」
「いくらなまえのお父様だからって、お友達に乱暴するのはゆるせません!」
父は、夏未さんのロから「友達」という単語が発せられた瞬間、まるで別人のように顔色を変えた。
怒りに染まっていた目が、ぱっと柔和な色を帯びる。
「…そうだったのか」
すぐに取り繕ったような笑みを浮かべて、父は私の手を離した。
血の巡りを取り戻した腕に、じんわりと痛みが分散していく。
「ごめんなぁ、なまえ。痛くないか?」
それは家で聞き慣れている冷徹なものではなく、周囲に人がいるときに使う、善人を装った父の声だった。
その豹変ぶりに思わず顔を上げると、すぐ前にいる父と目が合った。
大丈夫だ、と言え、この目はそう告げている。
「……大丈夫です」
それを聞いた父は満足そうに高らかに声を上げた。
「そうかそうか!まだお父さんたちは仕事があるから、夏未ちゃんと仲良くやるんだぞ」
重い木製の扉が閉まる音が響き、音楽室の中に静寂が落ちる。
私は胸の奥がぎゅっと縮こまるのを感じながら、俯いた。
息が抜けるのと同時に、忘れていた頭の痛みがまた襲ってきて、小さい声を上げて頭を片手で抑える。
色んな感情が全部全部全部、混ざり合って胃が重たい。
「いつもあんな感じなの?」
「…いえ」
条件反射のようにロから出たのは、否定の言葉。
「またうそをつくの?」
「……」
咄嗟に反論の言葉を探したけれど、何も出てこない。
そんな私を見て、夏未さんはゆっくり歩み寄ってきた。
そして、頭を抑える私の顔をのぞきこみながら、静かに言った。
「あなた、うそをつく時、いつも同じ顔をしてる」
そうだった、彼女はその時からわかってた。
本心を隠す私の顔を。
だから、あの言葉が嘘じゃないことを理解していて、夏未さんは泣いていたんだ。