壊してくれるなら、優しくして
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【鬼道有人】
目の前には、自分と同じか、少し下くらいの歳の少女。
「姫野なまえです。お世話になります」
まるで台本をなぞるように、少しも感情の起伏がない声。
その名前に、眉がほんのわずかに動いた。
姫野、創業100周年を超える製薬会社を経営する、格式ある名門。
鬼道の名には届かないが、十分な良家だ。
だがそれは、ただの家でしかない。
俺にとっても、きっと彼女にとっても。
上品で清楚なワンピースと、艶やかに巻かれた髪は一見して隙のない、金甌無欠な令嬢だった。
名を名乗ったロ元に穏やかな微笑みをたたえている。
でも俺は気づいた。
その瞳が、まったく笑っていないこと。
目の奥に宿るはずの光が、ない。
それは誰よりも感情を理性で制御してきた自分自身が、最も敏感な部分だったから。
「有人、案内してやれ。こっちはこっちでやることがある」
そう言って互いの両親は談話室に向かっていく。
姫野の親は恭しくしているが、なにかを期待している心が見え見えだ。
笑いながら大人たちが去っていく。
誰もいない空間で、人形のような少女と二人きり。
言葉が見つからず、ただ目を合わせた。
「…こっちだ。案内する」
「ありがとうございます」
東棟に続く道を歩き出すと、彼女は俺の二歩程後ろを歩いて、重厚なカーペットの上に二人分の足音がやわらかく重なっていく。
会話を切り出すでもなく、振り返って彼女様子を伺った。
何も目もくれず、まっすぐ前を見て歩いている。
その凛とした佇まいは年不相応な十全さに思えた。
だが、すれ違った使用人が軽く頭を下げたとき、ほんの一瞬だけ、彼女の肩がぴくりと揺れたのを、見逃さなかった。
過敏すぎる。反射的な恐れ、だ。
「この婚約、お前はどう思っている」
彼女は立ち止まった。
そして、笑った。
また、さっきのように作られた笑顔で。
「父に言われた通りに動いているだけなので」
「嫌ではないのか」
「うーん、嫌という感情は…あまり考えたことがありませんわ」
悪びれることなく、言い切るようなその声。
「……」
違和感よりも先に、興味が湧いた。
なにをしたらそんな風になるんだ?
けれどそれは、聞くベきことではない。
初対面の相手に向ける言葉として、適切ではない。
「それで本当に、幸せなのか」
彼女の長いまつげが、かすかに揺れた。
それでも、微笑んだままだった。
「幸せって、人それぞれです」
そう言うのと同時に、遠くの何かを諦めるような顔をしてから口元が動く。
「両親の幸せが、私の幸せです」
どこか、それを突き崩してみたいと思ってしまう自分がいた。
目の前には、自分と同じか、少し下くらいの歳の少女。
「姫野なまえです。お世話になります」
まるで台本をなぞるように、少しも感情の起伏がない声。
その名前に、眉がほんのわずかに動いた。
姫野、創業100周年を超える製薬会社を経営する、格式ある名門。
鬼道の名には届かないが、十分な良家だ。
だがそれは、ただの家でしかない。
俺にとっても、きっと彼女にとっても。
上品で清楚なワンピースと、艶やかに巻かれた髪は一見して隙のない、金甌無欠な令嬢だった。
名を名乗ったロ元に穏やかな微笑みをたたえている。
でも俺は気づいた。
その瞳が、まったく笑っていないこと。
目の奥に宿るはずの光が、ない。
それは誰よりも感情を理性で制御してきた自分自身が、最も敏感な部分だったから。
「有人、案内してやれ。こっちはこっちでやることがある」
そう言って互いの両親は談話室に向かっていく。
姫野の親は恭しくしているが、なにかを期待している心が見え見えだ。
笑いながら大人たちが去っていく。
誰もいない空間で、人形のような少女と二人きり。
言葉が見つからず、ただ目を合わせた。
「…こっちだ。案内する」
「ありがとうございます」
東棟に続く道を歩き出すと、彼女は俺の二歩程後ろを歩いて、重厚なカーペットの上に二人分の足音がやわらかく重なっていく。
会話を切り出すでもなく、振り返って彼女様子を伺った。
何も目もくれず、まっすぐ前を見て歩いている。
その凛とした佇まいは年不相応な十全さに思えた。
だが、すれ違った使用人が軽く頭を下げたとき、ほんの一瞬だけ、彼女の肩がぴくりと揺れたのを、見逃さなかった。
過敏すぎる。反射的な恐れ、だ。
「この婚約、お前はどう思っている」
彼女は立ち止まった。
そして、笑った。
また、さっきのように作られた笑顔で。
「父に言われた通りに動いているだけなので」
「嫌ではないのか」
「うーん、嫌という感情は…あまり考えたことがありませんわ」
悪びれることなく、言い切るようなその声。
「……」
違和感よりも先に、興味が湧いた。
なにをしたらそんな風になるんだ?
けれどそれは、聞くベきことではない。
初対面の相手に向ける言葉として、適切ではない。
「それで本当に、幸せなのか」
彼女の長いまつげが、かすかに揺れた。
それでも、微笑んだままだった。
「幸せって、人それぞれです」
そう言うのと同時に、遠くの何かを諦めるような顔をしてから口元が動く。
「両親の幸せが、私の幸せです」
どこか、それを突き崩してみたいと思ってしまう自分がいた。