壊してくれるなら、優しくして
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学校の準備をして、朝食を済ませた後でも、まだ心はあの時の続きにいた。
今朝のことを思い出すだけで、心がふわりと浮き足立つような心地になる。
「夢のようね…」
ぽつりと咳いて微笑んだ自分を、鏡が映している。
ふと、何気なく髪を整えていた指が止まった。
こんなにいい事ばかりだと、悪いことも起こってしまいそう…なんてことを考えてしまって、ふるふると首を振る。
「そんな事ないわ…!こんなに幸せなのに」
そう、鏡の中の自分に問いかけ、胸元にリボンをつけた。
私の学校は有人さんよりも遠いので一足先に邸宅を出る。
サンルームでコーヒーを飲んでいた有人さんは何か深く考え事をしていたようだったが、声をかけるとすぐにこちらへ意識を向けてくれた。
「お先に、行ってきますね」
「……なまえ」
「はい?」
「この間、練習を見に来ただろう?」
「…あぁ、あの時。すぐに見つかってしまいましたけれど」
あの光景がふいに蘇って、自分の行動に思わずくすっと笑ってしまった。
今になって、なんて大胆なことをしたんだろうと思う。
「どうせ来るなら、影に隠れていないで近くで見ていればいい」
「…え」
彼の顔は真剣で、とても冗談とは思えなかった。
「監督とキャプテンには話を通してある」
「でも…その、有人さんの邪魔になりません…?」
「逆だ。…俺が来て欲しいんだ」
そう言うと有人さんはコーヒーカップを置いて、私に手を差し出した。
「どこまでも着いてくるんだろう?」
「…!」
ぱっ、と視界が明るくなって目の前が揺れる。
この手を取らないなんて私には思いつかなかった。
「勿論…!」
まるでずっと探していた宝物を見つけたかのよう な、そんな満ち足りた気持ちだった。
これ以上ないくらいたくさんの感情が溢れてこの瞬間が永遠に続けばいいのに、と願わずにはいられない。
「…放課後、待っている」
そう言って有人さんは私の手に口付けていたずらに笑った。
元々、朝の事で緊張していたのにこんなことをされては表情が作れない。
「っ、ゆ、有人さん…!」
「最近は新しい顔を見せてくれるな」
「有人さんの所為ですわ…!」
気持ちを隠すように頬に手を当てると、その熱さに少し驚いた。
「姫野様…!そろそろ…」
随分と話し込んでしまったようで、待ちくたびれた運転手が私を呼んでいる。
ハッとしてそちらを振り向く。
「ご、ごめんなさい!今行きます」
そう背後に声をかけて、有人さんに一瞥を送ると彼は優しげに笑っていた。
私も笑い返して、急ぎ足でサンルームを出ると運転手に会釈をして車へ乗り込んだ。
静かに発進したのをきっかけに車窓から外を眺めてぼーっと思いにふける。
眺めている景色と同じように、今までの記憶が頭の中を濁流みたいに流れていく。
前までこうやって考え込む時間はあまり生産性が無いので嫌いだった。
こんな瞬間があっても良いのかも、と自分を許してあげられることが何よりも嬉しい。
キュッとブレーキ音をたてて車が校門前に静かに止まる。
運転手が素早く降りて、私の乗る後部座席のドアを開けた。
「姫野様、本日もお気をつけて」
「ありがとう」
軽く礼をして車を降り、リボンを整えながら門をくぐると、待っていましたと言わんばかりに同じ学年の子が4、5人ほど私を出迎えた。
「姫野さん、ごきげんよう」
「え、ええ、ごきげんよ…」
「姫野さんっ、最近どうなんです??」
「あっ、私もその話聞かせてください…!」
周りが一斉に話しかけるものだから困惑して笑顔が引きつってしまう。
「さ、最近…?」
「鬼道家と姫野家の縁談が上手く進んでいるってお父様が言っていましたわ」
「私も聞きました!ここのところ噂になっていますよ」
…婚約とはまだ名ばかり。
結婚出来る年齢までお互い慣れるための…言ってしまえばお試し期間のようなものだから、結納が済むまで公にしない話だった。
けれど、この界隈での情報網は侮れない。
それにこの歳で縁談というのはざらにあるものではないから、やはりこうやってどこからか漏れてしまう。
「……」
彼女達は笑顔だが、その裏には禍々しい嫉妬や対抗心が渦巻いているよう。
あまり刺激するようなことは言えない…
「そんな、大袈裟ですわ。彼には他にもお話が来ていると思いますし…」
姫野家は確かに大手製薬会社の名門ではあるけれど、それは100年というあまりにも最近の話。
財閥家の末裔でもないし、根を張った代々の旧家でもない。
そんな姫野が鬼道と繋がるかもしれない。
その意味が、この場にいる彼女達は痛いほどわかっているのだろう。
「…行きましょう。ショートに遅れてしまいます」
そう言うと周りは一斉に口を噤む。
今までの会話がまるで無かったかのようにお互いが顔を合わせて同調し、教室へ向かった。
ああ、苦しい。
今までこの世界をどう生きてきたのか、わからなくなってきている。
それでも、今朝の彼の言葉を一つ一つ咀嚼して、喉の奥ヘと飲み込むことで、消えてしまいそうな感情を自分の中へ押し戻した。
今朝のことを思い出すだけで、心がふわりと浮き足立つような心地になる。
「夢のようね…」
ぽつりと咳いて微笑んだ自分を、鏡が映している。
ふと、何気なく髪を整えていた指が止まった。
こんなにいい事ばかりだと、悪いことも起こってしまいそう…なんてことを考えてしまって、ふるふると首を振る。
「そんな事ないわ…!こんなに幸せなのに」
そう、鏡の中の自分に問いかけ、胸元にリボンをつけた。
私の学校は有人さんよりも遠いので一足先に邸宅を出る。
サンルームでコーヒーを飲んでいた有人さんは何か深く考え事をしていたようだったが、声をかけるとすぐにこちらへ意識を向けてくれた。
「お先に、行ってきますね」
「……なまえ」
「はい?」
「この間、練習を見に来ただろう?」
「…あぁ、あの時。すぐに見つかってしまいましたけれど」
あの光景がふいに蘇って、自分の行動に思わずくすっと笑ってしまった。
今になって、なんて大胆なことをしたんだろうと思う。
「どうせ来るなら、影に隠れていないで近くで見ていればいい」
「…え」
彼の顔は真剣で、とても冗談とは思えなかった。
「監督とキャプテンには話を通してある」
「でも…その、有人さんの邪魔になりません…?」
「逆だ。…俺が来て欲しいんだ」
そう言うと有人さんはコーヒーカップを置いて、私に手を差し出した。
「どこまでも着いてくるんだろう?」
「…!」
ぱっ、と視界が明るくなって目の前が揺れる。
この手を取らないなんて私には思いつかなかった。
「勿論…!」
まるでずっと探していた宝物を見つけたかのよう な、そんな満ち足りた気持ちだった。
これ以上ないくらいたくさんの感情が溢れてこの瞬間が永遠に続けばいいのに、と願わずにはいられない。
「…放課後、待っている」
そう言って有人さんは私の手に口付けていたずらに笑った。
元々、朝の事で緊張していたのにこんなことをされては表情が作れない。
「っ、ゆ、有人さん…!」
「最近は新しい顔を見せてくれるな」
「有人さんの所為ですわ…!」
気持ちを隠すように頬に手を当てると、その熱さに少し驚いた。
「姫野様…!そろそろ…」
随分と話し込んでしまったようで、待ちくたびれた運転手が私を呼んでいる。
ハッとしてそちらを振り向く。
「ご、ごめんなさい!今行きます」
そう背後に声をかけて、有人さんに一瞥を送ると彼は優しげに笑っていた。
私も笑い返して、急ぎ足でサンルームを出ると運転手に会釈をして車へ乗り込んだ。
静かに発進したのをきっかけに車窓から外を眺めてぼーっと思いにふける。
眺めている景色と同じように、今までの記憶が頭の中を濁流みたいに流れていく。
前までこうやって考え込む時間はあまり生産性が無いので嫌いだった。
こんな瞬間があっても良いのかも、と自分を許してあげられることが何よりも嬉しい。
キュッとブレーキ音をたてて車が校門前に静かに止まる。
運転手が素早く降りて、私の乗る後部座席のドアを開けた。
「姫野様、本日もお気をつけて」
「ありがとう」
軽く礼をして車を降り、リボンを整えながら門をくぐると、待っていましたと言わんばかりに同じ学年の子が4、5人ほど私を出迎えた。
「姫野さん、ごきげんよう」
「え、ええ、ごきげんよ…」
「姫野さんっ、最近どうなんです??」
「あっ、私もその話聞かせてください…!」
周りが一斉に話しかけるものだから困惑して笑顔が引きつってしまう。
「さ、最近…?」
「鬼道家と姫野家の縁談が上手く進んでいるってお父様が言っていましたわ」
「私も聞きました!ここのところ噂になっていますよ」
…婚約とはまだ名ばかり。
結婚出来る年齢までお互い慣れるための…言ってしまえばお試し期間のようなものだから、結納が済むまで公にしない話だった。
けれど、この界隈での情報網は侮れない。
それにこの歳で縁談というのはざらにあるものではないから、やはりこうやってどこからか漏れてしまう。
「……」
彼女達は笑顔だが、その裏には禍々しい嫉妬や対抗心が渦巻いているよう。
あまり刺激するようなことは言えない…
「そんな、大袈裟ですわ。彼には他にもお話が来ていると思いますし…」
姫野家は確かに大手製薬会社の名門ではあるけれど、それは100年というあまりにも最近の話。
財閥家の末裔でもないし、根を張った代々の旧家でもない。
そんな姫野が鬼道と繋がるかもしれない。
その意味が、この場にいる彼女達は痛いほどわかっているのだろう。
「…行きましょう。ショートに遅れてしまいます」
そう言うと周りは一斉に口を噤む。
今までの会話がまるで無かったかのようにお互いが顔を合わせて同調し、教室へ向かった。
ああ、苦しい。
今までこの世界をどう生きてきたのか、わからなくなってきている。
それでも、今朝の彼の言葉を一つ一つ咀嚼して、喉の奥ヘと飲み込むことで、消えてしまいそうな感情を自分の中へ押し戻した。