壊してくれるなら、優しくして
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「…ふぅ」
白いドレッサーの前で髪にオイルを塗ってブラシを通す。
お風呂に入ってから、巻いていた髪がほどけて、波のように肩へ落ちていく。
いつもはメイドが夜の身支度を手伝ってくれるけれど、今夜は一人になりたいと私からせがんだ。
鏡の中の自分が、どこかぼんやりと笑っていることに気づく。
理由は、もうわかっていた。
「……俺の役に立ってる………ふふっ」
思い出しただけで、表情がくだける。
あんなふうに……頭を撫でてくれて……
頬がじんわりと熱くなって、指先までじわっと何かが伝わってくる。
「わたし……いま、すごく……」
その先を言おうとして、口をつぐんだ。
感情の名前が、やっと形になって浮かび上がった気がした。
でも、それを声に出すのがまだ少し怖い。
だから、そっと胸に手を当ててみた。
どくん、どくん。
確かに、感じてる。
この気持ち、嫌じゃない。
むしろ、有人さんのもっと近くで、もっと彼の声が聞きたいと思ってる。
窓の外を見ると、レースカーテン越しに月が丸く浮かんでいた。
明日も、見に行ってもいいでしょうか…
心の中で問いかける。
誰にでもなく、そっと。
布団に潜り込むと、まだ頭がふわふわとしていて、 眠れる気がしなかった。
それでも、目を閉じる…
「おやすみなさい、有人さん」
その小さな声は、夜の闇に溶けていった。
ーー
【鬼道有人】
「…有人さん」
控えめにノックされたあと、そっと扉が開かれる。
薄明かりの中、俺はまだモニターを眺めていた。
「…なまえ…こんな時間にどうかしたのか」
なまえは、ネグリジェの上にふわりとガウンを羽織っている。
寝起きのような、でもどこか熱のある目をしてこちらを見つめていた。
「なんだか、怖い夢を見ましたの…それから眠れなくて」
「ああ……」
「お隣いいですか?」
俺が無言で頷くと、なまえはそっと横に座った。
「有人さん、寝ないんですか?」
「世宇子中の試合分析で今日は寝られそうにないな」
パチパチと、モニターから発する光だけが部屋を照ら す。
「世宇子中…?聞いた事ありませんね」
手元に書類を手繰り寄せて、なまえにも見えるように立てる。
彼女はよく見えるように、こちらに近寄った。
ふわりと甘い香りがする。
香水か、けれどキツくなくて彼女らしい。
「…帝国学園が一回戦で負けた相手だ」
「ああ、その時の…」
「恐らく裏には影山がいる…やり口がアイツのそれだ。これを見れば……」
話の途中で、なまえがこちらに倒れ込んでくる。
目線を横に移すと、規則的な寝息を立てて彼女は目を瞑っていた。
「……寝たのか」
無防備に眠る少女の横顔はいつもの完壁な表情を脱ぎ捨てたように、あどけなかった。
その頼にそっと手を伸ばしかけて、やめる。
触れてしまえば壊れてしまいそうなものだったから。
そしてもう一度、書類に視線を戻す。
だが、指先は資料に触れたまま止まってしまい、遅々として進まなかった。
ーー
【姫野なまえ】
カーテンの隙間から、朝の光が一筋。
その柔らかさを超えるほどの、熱を帯びた日差しが顔に降りた。
「…ん……」
暖かい、まどろみの中でゆっくりと意識がもどってきた。
とく、とく、と、心地良い音がする…
「…………!?」
自分が、有人さんの胸の上で眠っていたことに、気づいた瞬間身を引こうとする。
けれども、彼の腕が私の腰にしっかり手が回っていて上手く動けなかった。
それに気づいたのか、彼の呼吸が変わる。
「……起きたか」
胸の振動と、彼の声が同時に伝わってきた。
顔をあげると、ゴーグルをしていない有人さんと、まっすぐに目が合う。
すうっと一瞬息が止まる。
顔、 こんなに近くで見たこと、あったっけ?
まばたきをも忘れて彼を見つめていると、有人さんの瞳がやわらかくなった。
「朝からそんな顔するな」
そして、まるで犬や猫をあやすように、彼の手がふ わりと私の頭に伸びた。
撫でられる感触に、心も身体も解けていく。
そのまま手が降りて頬に触れる。
誰にも許したことのない距離。
誰にも触れさせたことのない場所。
なのに今、この人の手だけは心地いいと思った。
「……んっ、」
つい、その手に擦り寄ってしまう。
しばらく有人さんのあたたかさを堪能していると、その手は机にある携帯に伸びていった。
寂しさを埋めるために、また彼の胸に顔を埋める。
「なまえ、もう8時だ」
「ええ!?!?」
私が声を上げながらすぐに顔を上げると、有人さんはにやりと笑っていた。
「冗談だ」
彼の手にある携帯には5時、と書いてあった。
「酷いですわ…!」
なんだか悔しくて、むっ、と彼を睨みつける。
「はははっ、怒った顔は初めて見たな」
「…もうっ…!……ふふっ」
笑う彼につられて、私も笑みがこぼれる。
こんなに楽しい朝は初めて。
前までは、目を開けても一人だったから。
今日はいい日になりそうな気がした。
白いドレッサーの前で髪にオイルを塗ってブラシを通す。
お風呂に入ってから、巻いていた髪がほどけて、波のように肩へ落ちていく。
いつもはメイドが夜の身支度を手伝ってくれるけれど、今夜は一人になりたいと私からせがんだ。
鏡の中の自分が、どこかぼんやりと笑っていることに気づく。
理由は、もうわかっていた。
「……俺の役に立ってる………ふふっ」
思い出しただけで、表情がくだける。
あんなふうに……頭を撫でてくれて……
頬がじんわりと熱くなって、指先までじわっと何かが伝わってくる。
「わたし……いま、すごく……」
その先を言おうとして、口をつぐんだ。
感情の名前が、やっと形になって浮かび上がった気がした。
でも、それを声に出すのがまだ少し怖い。
だから、そっと胸に手を当ててみた。
どくん、どくん。
確かに、感じてる。
この気持ち、嫌じゃない。
むしろ、有人さんのもっと近くで、もっと彼の声が聞きたいと思ってる。
窓の外を見ると、レースカーテン越しに月が丸く浮かんでいた。
明日も、見に行ってもいいでしょうか…
心の中で問いかける。
誰にでもなく、そっと。
布団に潜り込むと、まだ頭がふわふわとしていて、 眠れる気がしなかった。
それでも、目を閉じる…
「おやすみなさい、有人さん」
その小さな声は、夜の闇に溶けていった。
ーー
【鬼道有人】
「…有人さん」
控えめにノックされたあと、そっと扉が開かれる。
薄明かりの中、俺はまだモニターを眺めていた。
「…なまえ…こんな時間にどうかしたのか」
なまえは、ネグリジェの上にふわりとガウンを羽織っている。
寝起きのような、でもどこか熱のある目をしてこちらを見つめていた。
「なんだか、怖い夢を見ましたの…それから眠れなくて」
「ああ……」
「お隣いいですか?」
俺が無言で頷くと、なまえはそっと横に座った。
「有人さん、寝ないんですか?」
「世宇子中の試合分析で今日は寝られそうにないな」
パチパチと、モニターから発する光だけが部屋を照ら す。
「世宇子中…?聞いた事ありませんね」
手元に書類を手繰り寄せて、なまえにも見えるように立てる。
彼女はよく見えるように、こちらに近寄った。
ふわりと甘い香りがする。
香水か、けれどキツくなくて彼女らしい。
「…帝国学園が一回戦で負けた相手だ」
「ああ、その時の…」
「恐らく裏には影山がいる…やり口がアイツのそれだ。これを見れば……」
話の途中で、なまえがこちらに倒れ込んでくる。
目線を横に移すと、規則的な寝息を立てて彼女は目を瞑っていた。
「……寝たのか」
無防備に眠る少女の横顔はいつもの完壁な表情を脱ぎ捨てたように、あどけなかった。
その頼にそっと手を伸ばしかけて、やめる。
触れてしまえば壊れてしまいそうなものだったから。
そしてもう一度、書類に視線を戻す。
だが、指先は資料に触れたまま止まってしまい、遅々として進まなかった。
ーー
【姫野なまえ】
カーテンの隙間から、朝の光が一筋。
その柔らかさを超えるほどの、熱を帯びた日差しが顔に降りた。
「…ん……」
暖かい、まどろみの中でゆっくりと意識がもどってきた。
とく、とく、と、心地良い音がする…
「…………!?」
自分が、有人さんの胸の上で眠っていたことに、気づいた瞬間身を引こうとする。
けれども、彼の腕が私の腰にしっかり手が回っていて上手く動けなかった。
それに気づいたのか、彼の呼吸が変わる。
「……起きたか」
胸の振動と、彼の声が同時に伝わってきた。
顔をあげると、ゴーグルをしていない有人さんと、まっすぐに目が合う。
すうっと一瞬息が止まる。
顔、 こんなに近くで見たこと、あったっけ?
まばたきをも忘れて彼を見つめていると、有人さんの瞳がやわらかくなった。
「朝からそんな顔するな」
そして、まるで犬や猫をあやすように、彼の手がふ わりと私の頭に伸びた。
撫でられる感触に、心も身体も解けていく。
そのまま手が降りて頬に触れる。
誰にも許したことのない距離。
誰にも触れさせたことのない場所。
なのに今、この人の手だけは心地いいと思った。
「……んっ、」
つい、その手に擦り寄ってしまう。
しばらく有人さんのあたたかさを堪能していると、その手は机にある携帯に伸びていった。
寂しさを埋めるために、また彼の胸に顔を埋める。
「なまえ、もう8時だ」
「ええ!?!?」
私が声を上げながらすぐに顔を上げると、有人さんはにやりと笑っていた。
「冗談だ」
彼の手にある携帯には5時、と書いてあった。
「酷いですわ…!」
なんだか悔しくて、むっ、と彼を睨みつける。
「はははっ、怒った顔は初めて見たな」
「…もうっ…!……ふふっ」
笑う彼につられて、私も笑みがこぼれる。
こんなに楽しい朝は初めて。
前までは、目を開けても一人だったから。
今日はいい日になりそうな気がした。