ko-chan
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「…青さん、なんですかこれ?」
「あー、っと」
だれかぁ〜、という間の抜けた声が聞こえて玄関へ向かうと、大量の紙袋を持った青さんの姿。
「いや、今年はヤバい…重たかった…」
「え、ええ、なに…?」
いつも通り美しいが、心なしかげっそりした表情の青さん。どすん、と廊下に紙袋が置かれた音でオフィスに居た何人かが玄関までやって来る。
「こうちゃん、取り敢えずこれ…リビング運んで…」
「いやだからこれ…」
「今日…なんの日?」
「あぁ…?あぁ!」
携帯を取り出して、2/14の文字に声を上げる。赤白ピンクのラッピングが目立つそれらは恐らく…そういうことで。
「青さん、が、渡す…分?」
「あー、いや、貰った分…」
「うひょー、青は相変わらずすげー量貰ってくんな」
「青ちゃんのお陰で雪山で遭難しても暫く生きていけそうだね」
後ろからケラケラと笑い声が聞こえて振り向くと、伊沢さんと福良さんが当たり前のようにその紙袋を持ち上げ笑う。
「さ、リビング持って行きますか」
伊沢さんにそう言われて、俺も慌てて紙袋を掴んだ。
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「なるほど」
つい数ヶ月前、福良さんと伊沢さんの紹介でクイズノックに加入した青さん。女性の割に高い背と、短く切りそろえられた髪、そして得意ジャンルが「スポーツ」である彼女は、院生と同時に外部のバスケチームの一員らしく。
「そ、ホント…毎年ありがたいことなんだけど…」
そりゃあこれだけ美人でカッコいい人を周りが放っておくはずない。ほんの少し自分の胸がちりちりと痛むのを無視して、俺は彼女をみた。
(しかしまあ、男だけでもライバルだらけだろうに女の子までとは…)
爽やかな見た目ながらも、伏せた長いまつげからは色香すら漂うその横顔に思わずドキッとしながら、リビングテーブルに所狭しと置かれた紙袋をみて青さんは深いため息。
「毎年伊沢とか福良とか…いろんな子に分けてたんだけど…アイツらも結構もらってるみたいだし。しかも私もクイズノック入ったからか更に貰うようになっちゃった…はぁぁ」
美味しいんだけど食べきれないし、手作りはちょっと怖いし…ねえ。困ったように笑う青さんにつられて笑う。
「ま、手作りは仕方ないけど処分して、食べられる限りはみんなで分けて食べよう。オフィス全員で分けられるぐらいはありそうだしね。」
福良さんはそういうと、じゃ、青ちゃん面倒かもだけど仕分けよろしくね。と言い撮影部屋に戻った。
「こうちゃん今日撮影じゃなかったよな?手伝ってやって〜」
伊沢さんもひらひらと手を振り追うように撮影部屋に入る。
「仕分け…?」
「そ、誰から貰ったかの把握とか賞味期限とかね。貰ったものは貰った人が仕分けるのが私たちのルールなの」
「…なるほど」
「こうちゃんもいっぱい貰ったんじゃないの?」
いたずらに笑って青さんは俺の顔を覗き込む。貰ってないわけではないけれど、彼女とは比べ物にならない微々たる量で、思わず狼狽る。
「ま、まあ、ちょっとは…」
その後、妙な間。貰った包みを紙袋から取り出して並べていたけれど、ふと気になって青さんを見るとなぜか神妙な面持ちで。
「どうしました?」
「いや、えーっと」
「はい?」
「本命的なのも…、あったり?」
なんとなく、冗談めいているはずのその言葉がやけに鮮明に耳に流れ込んできて、少し驚いた表情で青さんを見る。
「た、ぶん…ない、です」
「…そ、っか」
ふふふ、と安心したように笑う青さんに釣られて笑う。
意味ありげな質問だ、なんて夢想は払って、「…そんな意地悪言わないでくださいよ〜」と普段の調子で切り返す。少し間が空いてしまったけれど、及第点だろう。
そんな一喜一憂を悟られたくなくて、そこに立ち尽くす青さんを見る。
「青さん、そろそろリュック下ろして仕分けしましょうよ〜」
なんとなく張り詰めた雰囲気にドキドキして、俺はなんの気無しに彼女に座るよう促した。
「…こうちゃん」
急に声を潜めて俺の名前を呼ぶもんだから、思わずフリーズする。
「…絶対、伊沢達には内緒にしてほしいんだけど」
彼女は大きなリュックを下ろして、それのファスナーをゆっくりと開く。
一番上には、淡いピンクの包装紙が掛かった小箱がひとつ。
「これ…?!」
「しっ!」
「あっ、すみませ…」
思わず大きな声を出してしまい、謝る。
「えっ、え、てことは、え…?」
「あ〜もう!今すぐしまって!中身は家で見て!」
先程までの凛々しい姿が嘘みたいに、耳まで真っ赤に染めて、小声ながらも慌てて言葉を紡ぐ青さんがそこにいて。
「こうちゃん〜、ちょっとこっちきて〜」
福良さんの声と共に開きそうになった撮影部屋のドアを勢いよく閉める。
「わかりましたすぐ行くのでちょっと待ってください!!!」
今日一番の大声でそういったあと、本当に小さな声で「ありがとうございます」と青さんに呟く。
なんだよびっくりするな〜家壊さないでよ〜という福良さんの声を背中に聞きながら、大きく深呼吸。
焦った俺が相当面白かったらしく、女の子らしくふにゃりと笑う青さんを見て、夢じゃないかと自分の頬をつねると、青さんはまた声を殺して笑った。
かくいう俺も恐らく耳まで真っ赤なのだろう。火照った身体を誤魔化すようにその辺りに置きっぱなしだった自分のバッグをひったくり、潰れないように、丁寧にその小箱を仕舞った。記念日はいつにしよう。なんてことを考えながら。
甘味日和
(帰宅して蓋を開けると"本命です。"なんていう短いメモと、すこし不揃いなトリュフチョコ。ああ、夢みたいに甘い!)