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「青さん、これ」
「え?あ、…あー!」
オフィスでの昼休み、目の前に突然掲げられた文庫本。それを持つ白い手から順に目で追っていくと、その先には河村さんの笑顔が一つ。
「読みたいって言ってたやつ。」
「わ、ありがと〜!」
なになに?と近くにいた山本くんが私と、その隣に腰掛けた河村さんを見る。
「前本屋大賞取ったやつ!文庫版出てから買おうと思ってそのままなのって話したら河村さんがもってるからーって!」
「青ちゃんって本読むんだあ」
「失礼な!」
アハハ、と笑う山本くんに釣られるように河村さんもくすりと笑う。少し伏せた目を彩る長いまつ毛を覗き見る。本当に、綺麗だ。
「じゃ、ちゃんと読書感想文書いて来てね。」
「えっ、アレマジなの?!」
「もちろん」
悪い顔をして私の肩に手を置いた河村さんのその表情もなんだかキュンとしてしまう、それを誤魔化すようにはあい。と間の抜けた返事をして、眉を下げて笑った。
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帰宅後、鞄の中から河村さんから借りた本を取り出して、汚れないように片付けたローテーブルへそっと置く。
熱心な読書家ではないけれど、この作者の本はコンスタントに読み続けて来たこともあって、今回の本屋大賞受賞作も仕事がひと段落したら勿論買うつもりだった。けれど、たまたま帰り道が一緒になった河村さんが既に持っていて、貸してくれるなんて言われたら一旦ステイしちゃうもんで。嗚呼、ちゃんと返したあと2冊は買うからね先生。そんな馬鹿馬鹿しいことを考えながら、家事がひと段落した後、いよいよそれに手をつける。
…引き込まれてしまえば怖いぐらいに一瞬。
先程の浮ついた気持ちもどこへやら、あっという間に残り数十ページまで。
直ぐに返すのも惜しいが、ここまで来て手を止めるのもなんだか悔しい。時刻はもうすぐ深夜1時を回ろうとしているが、仕方がない。私はゆっくりと次のページを開く。
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「よ、よかったあ…!」
今作も最高でした…先生。心の中でぐっと噛み締め、あとがきまできちんと読み干す。時刻は深夜1時30分。お礼の連絡をするには余りにも遅すぎる時刻。けれどこの感動を誰かに共有したい気もする。いやしかし、我慢我慢!
この余韻を余すことなく感じるべく、新刊の紹介ページもはらはらとめくり、最後の奥付を開いたところで、一枚の付箋の存在に気づく。
「…な、ん…?!」
淡い水色の真四角の付箋には、見慣れた河村さんの字が並ぶ。本の感想が危うく飛んでしまいそうになるそのメッセージを見つめて、今夜はもう、眠れないかもしれない。なんて思って笑った。
# 読書感想
(この本の感想は、今度一緒に食事でもしながら聞かせてくれませんか?)