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最近、妙に綺麗になった気がする。
誰に言っても伝わらないが、艶やかな髪とリップ、くるりと上を向いたまつげ、ほんの少し透ける柔らかなシフォンブラウスから見える控えめにレースがあしらわれたキャミソール…。明らかに色めき立つそれに、どうしてみんなは普通で居られるのか。
「うーん…」
「どうしたの福良」
河村の問いかけにも気付かないまま、彼女を目で追う。
「、福良ー」
「あっ、ごめん。なに?」
「河村さ…」
問いかけに答えると同時に、河村に声を掛ける彼女。
「あっ、ごめんなさ…お話中でした?」
「ううん、構わないよ。ごめん河村、青ちゃんとどうぞ。」
「ごめんね、えーと、それで?」
先日書き上げた記事の推敲を河村に頼んでいたらしい彼女は、俺に小さく頭を下げたあとその話を続けた。
(…なるほど)
恋する女の子は綺麗になる、ってこういうことなのか。その瞳が見つめる先が俺でないことはちょっと悔しいけれど、まあ仕方がない。
…と、最初は思っていた。
-
肩が触れる距離に照れ笑いしたり、他愛無い話をする2人を見かける回数が増えるたび、俺の心の中に渦巻く濁った何か。
なんだか悔しくて情けなくて気付かないフリをしていたけれど、その気持ちを認めるまでそう時間は掛からなかった。
「もー」
誰に、というわけでもなく声を溢し、ため息を吐く。
日曜のオフィスに1人きり。こんな環境なら捗って仕方のない動画の編集も今日はあまり身が入らない。
心のどこかで、彼女を自分のものにしたいと思うようになっていた。彼女の変化にいち早く気づいたのも、最初から全部ずっとそういうことだった、らしい。
「情けな…」
「…あの、」
玄関の方から声。どきりとしてそちらを向くと、俺の心を揺さぶって仕方ない彼女が、今日もまた愛らしい格好でそこにいて。
「あ、れ。青ちゃん」
「こんにちは。」
眉を下げるように笑う彼女に釣られるように笑う。
「どうしたの?」
「USB、忘れちゃって。」
俺の前に置かれた黒いUSBを指差す彼女。
「あー、記事入れてるやつ?」
「はい。無いと作業できないから…」
「ふふ、そうだね。お疲れ様」
「福良さんこそ」
出来るだけなんでもない振りをして会話を紡ぐ。
そのUSBを手に取り彼女に渡そうとした瞬間だった。
電話の呼び出し音。
「…あ、すみません」
彼女は淡いピンクのケースに包まれたそれを取り出して、廊下の方に向かう。
…すりガラスのドア越しに、彼女の姿を見つめる。
漏れ聞こえる声はどこか楽しそうで、この後の予定について話しているような雰囲気だった。
友人とでも遊びに行くのだろうか。これを取りにきただけだろうし、渡してしまえば直ぐ帰れるだろう。なんとなく手に持ったままだったUSBを持ってドアを開こうとした時だった。
「…だから、拓哉さん」
その瞬間、俺のよく知るアイツの名を呼ぶ彼女の声がして。
ゆっくりとドアを開ける俺に気づいた彼女は、困った様な、照れたような顔をして俺をみる。
「あっ、とごめん、なさい。もう一回掛け直して…」
彼女がそう言い切る前に携帯を奪い取る。
「え…?」
しー。と自分の口元に人差し指を当て笑う。不思議そうに俺を見上げる彼女に、これでもかというくらい甘く優しく微笑んで。
『…青ちゃん?』
握った携帯から、微かにアイツの声が聞こえた。
(ああ、もう、ダメだ)
心の中で、何かが崩れる音がした。
俺は通話終了のボタンを押して、彼女に噛み付くようにキスをした。微かな抵抗を感じながらも無理矢理その唇に舌をねじ込み、歯列をなぞり、荒々しく口内を荒らす。
漏れる吐息にくらりと目眩がする。
恐怖と困惑で震える身体を抱きしめるようにして何度もそれを繰り返したあと、ゆっくり唇を離すと、細い銀糸がぷつりと途切れた。
「ふ、くら…さ」
今にもこぼれ落ちそうな程涙を溜めた目で、怯えたように俺を見つめる。ちがう、そうじゃない、アイツを見つめる柔らかい眼差しで、愛して欲しいのに。
「青、ちゃん」
けれど、もう既に後戻りなんて出来ない。
俺はもう一度その柔らかさを確かめるように、彼女に深い口付けを落とした。きっと今日が、最初で最後だ。
# 苦く苦しいキスを
(俺の前で、俺じゃない人に、そんな優しい顔しないでよ)