fkr
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
騒がしくて楽しくて、なのにどうしようもなくいたたまれなくなる。何かがほろほろと崩れ落ちるような感覚が急にして、わたしはベランダに出た。
(…まずいやつだ)
20年以上も私として生きると自分の機嫌の波ぐらいはわかるようになって。どこかの飲み屋から適当にもらってきたライターでタバコに火をつける。
「このご時世にまだ紙巻?」
「…」
後ろの喧騒から、確実に私に向けられた声がして振り返る。
ガラガラ、と少し立て付けの悪い音を立ててベランダに出てきたその人は、当たり前のように私の隣に並ぶ。
「そっち、風下だから」
「…ありがと」
彼と入れ替わるようにして、もう一度タバコの煙を肺に溜める。
「まずいやつ、でしょ」
なにもかも見透かすような綺麗な瞳で私を見つめる彼は、どことなく嬉しそうで。
「お前のことがなんでもわかる俺、って?」
「ふふ、図星じゃん」
「福良、いつからそんなヤな男になったの」
私の問いには答えず夜風を受けるその横顔に向かって煙を吐く。けれど、風向きのせいでそれは私の方に流れて消えた。
「飲み会中、ベランダでタバコ吸う時はいっつもメンタルがまずいとき。だもんね?」
「…はいはい」
「何があったの?」
少しあどけない、けれど男の顔で微笑む彼にはどうも調子が狂う。
「や、別に。単純な疲れだと思う。」
「嘘つきだなあ」
そう言って彼はとんとん、と自分の首元を叩く。
「…誰の?」
自分の首元に手を這わす。
確か、拓司が付けたところだけれどそれも随分前の話だ。ということは。…アイツ、キスマークは付けるなと言ったのに。
「…ナイショ」
「そっか、山本か~。そんなに楽しいの?二股」
いつものトーンでそういう福良の目は笑っていない。気まずさに目を背けタバコの火を消した。
「伊沢に、言いつけてあげようか?」
伊沢の彼女は素行がよろしくないよ、って。福良は笑った。
素行がよろしくない拓司のせいでこうなった、なんていうと言い訳だけれど、私だってこうして彼の浮気に目を瞑るために必死なのだ。ダメになっていってることなんて、私自身が一番わかっている…つもり、だ。
「こんなのばっかりしてたら、伊沢も山本も…青ちゃんもそのうちおかしくなっちゃうよ」
冗談っぽく言うくせに、その目に嘘はない。
「…青ちゃん」
「お説教は聞き飽きた。」
部屋に戻ろうとする私の手首を掴み、半分閉まったカーテンの裏側…部屋からの死角に私を引き摺り込む。
「伊沢も、山本も大事なんだよね?」
「…」
「じゃあ、両方捨てちゃいなよ」
「…は?」
福良は相変わらず笑顔のままで、ゆっくりと私の頬を撫でる。
「その関係の終わりに喜びなんてどこにもないよ、どっちも好きなら、両方と別れた方がいい」
至極真っ当な、けれどとても威圧的にも感じるその言葉に息が詰まる。
「そんでもって」
福良はふふ、と小さく笑って私を抱き寄せる。先程指摘されたキスマークの辺りに、ちりと小さな痛みが走る。3度目の上書きは、そろそろ本当のアザになりそうだ。
「青ちゃんの全部、俺にちょうだいよ」
なんてね、なんて笑うその目に心拍が上がるのは恐怖か、それとも他の何かか。
これ以上、私をダメにさせないで。そう告げるより先に降る口づけに、私は情けなく目を閉じた。
# 3度目の上書き
(あ、青ちゃん、まだキスマーク残ってる)
("誰かさん"が強く付けるから、ね)
(…まずいやつだ)
20年以上も私として生きると自分の機嫌の波ぐらいはわかるようになって。どこかの飲み屋から適当にもらってきたライターでタバコに火をつける。
「このご時世にまだ紙巻?」
「…」
後ろの喧騒から、確実に私に向けられた声がして振り返る。
ガラガラ、と少し立て付けの悪い音を立ててベランダに出てきたその人は、当たり前のように私の隣に並ぶ。
「そっち、風下だから」
「…ありがと」
彼と入れ替わるようにして、もう一度タバコの煙を肺に溜める。
「まずいやつ、でしょ」
なにもかも見透かすような綺麗な瞳で私を見つめる彼は、どことなく嬉しそうで。
「お前のことがなんでもわかる俺、って?」
「ふふ、図星じゃん」
「福良、いつからそんなヤな男になったの」
私の問いには答えず夜風を受けるその横顔に向かって煙を吐く。けれど、風向きのせいでそれは私の方に流れて消えた。
「飲み会中、ベランダでタバコ吸う時はいっつもメンタルがまずいとき。だもんね?」
「…はいはい」
「何があったの?」
少しあどけない、けれど男の顔で微笑む彼にはどうも調子が狂う。
「や、別に。単純な疲れだと思う。」
「嘘つきだなあ」
そう言って彼はとんとん、と自分の首元を叩く。
「…誰の?」
自分の首元に手を這わす。
確か、拓司が付けたところだけれどそれも随分前の話だ。ということは。…アイツ、キスマークは付けるなと言ったのに。
「…ナイショ」
「そっか、山本か~。そんなに楽しいの?二股」
いつものトーンでそういう福良の目は笑っていない。気まずさに目を背けタバコの火を消した。
「伊沢に、言いつけてあげようか?」
伊沢の彼女は素行がよろしくないよ、って。福良は笑った。
素行がよろしくない拓司のせいでこうなった、なんていうと言い訳だけれど、私だってこうして彼の浮気に目を瞑るために必死なのだ。ダメになっていってることなんて、私自身が一番わかっている…つもり、だ。
「こんなのばっかりしてたら、伊沢も山本も…青ちゃんもそのうちおかしくなっちゃうよ」
冗談っぽく言うくせに、その目に嘘はない。
「…青ちゃん」
「お説教は聞き飽きた。」
部屋に戻ろうとする私の手首を掴み、半分閉まったカーテンの裏側…部屋からの死角に私を引き摺り込む。
「伊沢も、山本も大事なんだよね?」
「…」
「じゃあ、両方捨てちゃいなよ」
「…は?」
福良は相変わらず笑顔のままで、ゆっくりと私の頬を撫でる。
「その関係の終わりに喜びなんてどこにもないよ、どっちも好きなら、両方と別れた方がいい」
至極真っ当な、けれどとても威圧的にも感じるその言葉に息が詰まる。
「そんでもって」
福良はふふ、と小さく笑って私を抱き寄せる。先程指摘されたキスマークの辺りに、ちりと小さな痛みが走る。3度目の上書きは、そろそろ本当のアザになりそうだ。
「青ちゃんの全部、俺にちょうだいよ」
なんてね、なんて笑うその目に心拍が上がるのは恐怖か、それとも他の何かか。
これ以上、私をダメにさせないで。そう告げるより先に降る口づけに、私は情けなく目を閉じた。
# 3度目の上書き
(あ、青ちゃん、まだキスマーク残ってる)
("誰かさん"が強く付けるから、ね)