kwmr
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何度身体を重ねても、”重ならない”と思う。
最初は不慣れだったこの行為も、彼女の柔肌を知り、甘い声を知り、より一層熱を帯びるようになったというのに。
「愛して、ます」
溺れている瞬間だけは柄にもない言葉を吐いても許されるような気がして、その焦燥を埋めるように何度も囁くのに、僕の顎先から落ちる汗とこの言葉はどうして柔肌には染み込まずに弾かれて落ちてしまうのだろうか。
「あ、や、もっ、だめ…」
「青、さん…っ!」
(け、ん)
果てる直前、彼女の唇は俺のよく知る名前を艶めかしくなぞることなんてずっと判っていた。
けれど、余りにも許し難くて、苦しくて。今だけは僕を見てくれはしないだろうか、そんな叶わない想いを込めて噛みつくように口付けるしか出来ないのだ。
ー
「…ごめん、今日はもう出ないと」
汗で張り付いた前髪をかき上げて、彼女は眉を下げて微笑む。
「青さん」
「ん、なに?拓哉くん」
「…いいえ」
聞きたいことも言いたいことも、山程ある。
けれどこれがままごとだということも悟った今はそれすらも馬鹿馬鹿しくて。
それなら、騙されて騙している方が、よっぽど生産的なのだ。
「拓哉、くん」
掬うように、救われるように、柔い唇が僕に重なる。
その眼差しは、確実に僕越しの誰かさんにピントを合わせようとし続ける癖に。
ー
僕の家に来た時と同じ服と同じ匂いを纏った彼女は、その細い指で僕の頬を一度撫で、「いってきます」と短い声を残して玄関のノブに手を掛ける。
「青、ちゃん」
アイツを真似るように彼女の名前を呼んで微笑む。
それだけで、視界の中の彼女の顔がほんの少し歪むのを感じる。
「…、好きだよ。」
先ほどよりもほんの少し心の近づいた深いキス。
僕じゃない誰かとの口付けの記憶を、彼女の脳裏にリフレインさせる、魔法の言葉。
…惜しむように、急くように部屋を出る彼女のムスクの香りだけが玄関に残る。
わかっている、からこそ「お互い様」なのだ。
僕によく似た彼と重ねて僕を愛するあなたと、あなたを愛したくて誰かのふりをする僕。深入りできないあなたと離れない為には、騙して騙されている方が、よっぽど生産的なのだ。
(なんて、本当は、)
何かの弾みで僕を見つめてくれないかなんてまだ、期待している。
# ならば愛の道化師で
(愛されないならば、愛された振りをする。あなただけの道化師で居させて。)