kwmr
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…」
休憩時間、ソファーの上で明らかに眉間にシワを寄せて本を読む青さんを見つめる。
「…なに読んでるんですか?」
「んひぃ?!」
色気のいの字もない顔でこちらをみる青さんは今にも泣き出しそうな顔をしていて。
「か、河村さん…」
「ホラー?」
「や…伊沢さんが持ってて…表紙が可愛いから貸してもらったんだけど…」
花柄のブックカバーを外すと、全面がオレンジ色の薄い文庫本。タイトルが箔押しでよく見えないが…
「あー、フランツカフカの変身」
「え?知ってるの?」
「や、これ新潮文庫のプレミアムカバーシリーズ。名作ばっかりだよ」
「…?」
頭にはてなを浮かべた彼女の隣に座る。なんにせよ、感受性の高すぎる彼女には確かにこの本は向いていなさそうだ。
「どんなお話だったの?」
分かっていながらも、彼女がどう読み取ったのを知るべく問いかける。
「なんか、頑張って家族を支えてた男の人がある日突然虫になっちゃって」
「…そうだね」
「すごい頑張ってたのに、そのせいで急に家族から嫌われちゃって…」
大きな瞳にはどんどん涙が溜まる。
「こんな不条理なこと、辛いけど…ひきこもりとか、事故で体が動かなくなったりとかしたら…大好きだった人から疎まれたりって…もしかしたら、今にも通ずるものがあるんだろうなあって…」
長い睫毛がふるりと震えて大粒の涙が落ちる
.
伊沢め、分かっていて貸したな。そう思いながら隣で震える彼女の涙を柔らかく拭うと、ふと目が合った。
「…例えば、」
不安げな顔で僕をみる幼い顔に、小さく微笑みかける。
「青さんは僕が動けなくなったら、事故に遭ったら、見放してしまうかな?」
「…ううん、」
「もちろんそこから…金銭的な問題が出たりして…どうしても離れざるを得ないこともあるかもしれない」
想像したのかまた眉間にシワがより、ほろり。綺麗な涙が流れた。
「でも、気持ちまでが離れてしまうかな…それでも本当は一緒に居たい、って思ってくれるんじゃない?」
柔らかく覗き込むと、ブンブンと首を縦に振る彼女。
「この本はきっと、その悲しさや怖さに目を向けるだけじゃなくて、青さんが誰かを思う気持ちを再確認させてくれるもの…なのかもしれないよ?」
もちろん僕もおんなじ気持ちだし。そう言って少し戯けて笑うと、青さんはくしゃりと顔を歪めてまた泣き出した。どこまでもかわいい人だ。
「…想像して泣いちゃうほど、僕のことを想ってくれてるんですね」
こっそりと耳元でそう告げる。
「うう、河村さん」
ぽんぽんとその頭を撫でると、ほんの少し安心した顔になる。
「あ、河村さん!青ちゃん泣かしてんの?!」
隅の方での僕らのやりとりに気づいた伊沢が嬉しそうに声を上げる。分かっててやったろう、お前のせいだ。と言うべく立ち上がろうとすると。
「、拓哉さん」
きゅっと服の裾を掴まれて振り返ると、今にも消えそうな声で…2人きりの時だけの呼び名で僕を呼ぶ彼女。
「何があっても好きでいるけど…虫には、ならないでね…」
至極真面目な顔でそんなことを言ってまたぐすんぐすんと泣く…多足類が苦手な彼女。
その全てが余りにも可愛くて、僕はクスリと笑ってから、人目も憚らず愛しい彼女をぎゅっと抱きしめた。
(泣かせた次はイチャつくんかい!)
(伊沢、次貸す時はせめて「ティファニーで朝食を」とかにしてね)
--たとえ君が変身しても
2018年 新潮文庫 プレミアムカバー
フランツ・カフカ「変身」
休憩時間、ソファーの上で明らかに眉間にシワを寄せて本を読む青さんを見つめる。
「…なに読んでるんですか?」
「んひぃ?!」
色気のいの字もない顔でこちらをみる青さんは今にも泣き出しそうな顔をしていて。
「か、河村さん…」
「ホラー?」
「や…伊沢さんが持ってて…表紙が可愛いから貸してもらったんだけど…」
花柄のブックカバーを外すと、全面がオレンジ色の薄い文庫本。タイトルが箔押しでよく見えないが…
「あー、フランツカフカの変身」
「え?知ってるの?」
「や、これ新潮文庫のプレミアムカバーシリーズ。名作ばっかりだよ」
「…?」
頭にはてなを浮かべた彼女の隣に座る。なんにせよ、感受性の高すぎる彼女には確かにこの本は向いていなさそうだ。
「どんなお話だったの?」
分かっていながらも、彼女がどう読み取ったのを知るべく問いかける。
「なんか、頑張って家族を支えてた男の人がある日突然虫になっちゃって」
「…そうだね」
「すごい頑張ってたのに、そのせいで急に家族から嫌われちゃって…」
大きな瞳にはどんどん涙が溜まる。
「こんな不条理なこと、辛いけど…ひきこもりとか、事故で体が動かなくなったりとかしたら…大好きだった人から疎まれたりって…もしかしたら、今にも通ずるものがあるんだろうなあって…」
長い睫毛がふるりと震えて大粒の涙が落ちる
.
伊沢め、分かっていて貸したな。そう思いながら隣で震える彼女の涙を柔らかく拭うと、ふと目が合った。
「…例えば、」
不安げな顔で僕をみる幼い顔に、小さく微笑みかける。
「青さんは僕が動けなくなったら、事故に遭ったら、見放してしまうかな?」
「…ううん、」
「もちろんそこから…金銭的な問題が出たりして…どうしても離れざるを得ないこともあるかもしれない」
想像したのかまた眉間にシワがより、ほろり。綺麗な涙が流れた。
「でも、気持ちまでが離れてしまうかな…それでも本当は一緒に居たい、って思ってくれるんじゃない?」
柔らかく覗き込むと、ブンブンと首を縦に振る彼女。
「この本はきっと、その悲しさや怖さに目を向けるだけじゃなくて、青さんが誰かを思う気持ちを再確認させてくれるもの…なのかもしれないよ?」
もちろん僕もおんなじ気持ちだし。そう言って少し戯けて笑うと、青さんはくしゃりと顔を歪めてまた泣き出した。どこまでもかわいい人だ。
「…想像して泣いちゃうほど、僕のことを想ってくれてるんですね」
こっそりと耳元でそう告げる。
「うう、河村さん」
ぽんぽんとその頭を撫でると、ほんの少し安心した顔になる。
「あ、河村さん!青ちゃん泣かしてんの?!」
隅の方での僕らのやりとりに気づいた伊沢が嬉しそうに声を上げる。分かっててやったろう、お前のせいだ。と言うべく立ち上がろうとすると。
「、拓哉さん」
きゅっと服の裾を掴まれて振り返ると、今にも消えそうな声で…2人きりの時だけの呼び名で僕を呼ぶ彼女。
「何があっても好きでいるけど…虫には、ならないでね…」
至極真面目な顔でそんなことを言ってまたぐすんぐすんと泣く…多足類が苦手な彼女。
その全てが余りにも可愛くて、僕はクスリと笑ってから、人目も憚らず愛しい彼女をぎゅっと抱きしめた。
(泣かせた次はイチャつくんかい!)
(伊沢、次貸す時はせめて「ティファニーで朝食を」とかにしてね)
--たとえ君が変身しても
2018年 新潮文庫 プレミアムカバー
フランツ・カフカ「変身」