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ファルコンに急に呼び出されたと思えば、新しくリリースするアプリのデバッグの依頼で。
「いったい私をなんだと思ってるの」
「優秀なプログラマっす…」
「見積もりない仕事は受けない主義ですけど。」
「言い値でいいですよもう…ポケットマネー切ります…」
もうすぐローンチ予定だったQuizKnock関連のアプリケーションの処理で難航していたらしいファルコンが
1人では到底追いつかない量の最終調整に根をあげた結果、急遽私に依頼してきたらしい。
泣きついてきた通り、やはり穴が多く結局ソース修正等繰り返して…日中は遠隔で処理していたけれど、結局隣にいた方が楽だから、と伊沢くんに許可をもらって、日付が変わる直前にオフィス入りして…気づけば時刻は夜の3時前。
「んもー、これなら構築の時点からジョインさせてよ…」
「すみません…マジ弾丸で…」
「まあね、それでこの構成なら素晴らしい。明日の朝までにはなんとかなりそうだし。」
「恐れ多いっす、すみませんほんと…」
ー…ぎい、と椅子が軋む音がする。ファルコンが大きい伸びをしていた。
流石にぶっ続けで精神をすり減らす作業を続けるのは非効率。私は休憩したーい。とわざとらしく声を上げてファルコンを見た。
「…お気遣いありがとうございます本当。じゃあ…メシ買ってきます。何がいいですか?」
「んー、牛丼とかでいいよ。オフィスで食べても怒られないもの。」
「わかりました。じゃあまあ、牛丼となんか飲み物とか。」
「あとはお給金が弾むならなんでもいいかな〜?」
「ウッ…とりあえず買ってきます」
したり顔の私とは打って変わって、渋い顔をしてオフィスを出たファルコン。親しい仲とは言えフリーランスである意味部外者の私1人をオフィスに残していいのか。とぼんやり考えながら彼の背中を見送った。
「ん」
ゆっくり伸びをして首を鳴らす、今夜は長丁場になりそうだ。
しばらく経ったのち、一度閉じたはずの玄関からぎいと鈍い音がした。忘れ物でもしたのだろうか、と思い椅子から立ち上がり音の方へ向かう。
「何?財布でも忘れ…」
「…」
目の前には驚いた表情の青年が1人。
派手な髪色と少し長い前髪、確か…カワカミくん、だっけか。
「…ど、ちら様ですか」
ほんの少し警戒した表情の彼が私に問いかける。ファルコンの奴はどこまでもタイミングが悪い。
「あ、えーと。ファルコンの友人で…御園 青、って言います。フリーランスでプログラマをやってる…。」
あ、名刺。と思い一度デスクまで戻り、慌ててカバンを漁る。使い古した革の名刺入れを取り出し、また玄関口まで戻った。
まだ信用ならないのか、彼は相変わらず玄関口に突っ立ったまま。けれど、私がおずおずと名刺を差し出すと彼は小さく頭を下げてそれを受け取った。
「青…」
独り言ちるように私の名を呟いたかと思えば、ああ!と大きな声を上げて私に視線を向ける。
「アプリの修正…をしてくださる…」
「そうそう!それですそれです。」
過去に何度かQuizKnockのwebやプログラム関連でお手伝いをしているが、基本的にはリモートワークのため実際に会ったことがあるのは伊沢くんとファルコンぐらい。ただ幸いにも名前だけは通っていたのか、やっと安心した表情でカワカミくんの目は私を捉えた。
「すみません、なんか変に警戒しちゃって。」
「いやいやこちらこそ、こんな深夜帯にお邪魔させてもらってる身分なので…」
「…ここじゃあれなんで、一旦デスクの方…行きましょうか。」
カワカミくん。もとい川上くんは動画で見ているよりかは気さくで話しやすい雰囲気で。だけど落ち着いた声のトーンや語り口調が心地いい子だった。
「じゃあ僕の2つ上なんですね」
「そうなりますね、年とったな〜。」
ファルコンと先ほど作り上げたソースを元にプレビューを起動して、川上くんとデバッグ作業。
「ごめんね。こんなこと付き合わせて。」
「いいんですよ、俺も近くで飲み会があって帰るの面倒だからオフィス来たって感じなんで。」
あ、伊沢さんには内緒ですよ。といたずらに笑う顔はまだ幼さを帯びている。
「なにより俺たちのアプリなのに…こちらこそ遅くまでありがとうございます。」
座っているのに丁寧に頭を下げてくれる川上くんに、思わず笑みがこぼれる。いい子だな。
2人のスマートフォンを並べてランダムなアクションを繰り返し、挙動の狂いがないかを何度も確認する。
「あ、青さん」
「はいはい?」
「この挙動って正常ですか?」
「あー。合ってるけどちょっと反応する範囲狭そうですね。修正対象かな。」
わ、ここのソースファルコンの書いたとこじゃん。とふざけて笑いながらPCに「要修正」とメモを打つと、くつくつと小さく笑う川上くんの声が聞こえた。不意に彼に目をやると、その口元に寄せられた手の綺麗さに視線を奪われて。
「わ」
「…どうしました?」
「川上くん、手、すっごい綺麗なんですね」
ためらいなく彼の手を取り、指をなぞる。爪先まで綺麗な手。
(デッサンしがいありそうだな)
そんなことを考えながら、くるくると彼の手をいろいろな角度から観察していると
「あ、あの」
「すいません青さん遅くなっ…て…?」
牛丼とコンビニ袋…おそらくエナジードリンクであろうそれを両手に持ったファルコンが帰ってきた。
「あ」
ファルコンの眼前には川上くんの手を握る私。
「え、あれ?青さ、え?川上と?知り合い?っていうかえ、なに?俺、えーっと」
「いや、これは川上くんの手が綺麗だなーって…」
「あ〜!!いや、あ、おれ、一旦これ!冷蔵庫とかキッチン周り置いてくるんで!全然!全然!」
慌てたように作業室から出ていくファルコン。呆気にとられる私。
「あ〜、何を勘違いしてんだか…」
「あ、の。青さん」
「あ、はい?」
「そろそろ、手…」
気まずそうな顔をした川上くんは、しっかりと握られた自身の右手を指差しながら、笑った。
「あああ!ごめん!つい!」
「いや、大丈夫です。ファルコンさん、呼んできますね、」
あらぬ誤解してそうなんで、と涼しい表情で言いながら川上くんは立ち上がり、キッチンの方へ向かった。
(…あれ?)
髪が乱れたのを直すためか、小さく頭を振った川上くん。その時ほんの少し見えた彼の耳が赤くなっている気がして。
「ファルコンさ〜ん、すいません。勘違いしてますよ〜。」
ぼんやりとファルコンを呼ぶ川上くんの声が聞こえる。
(勘違い、かなあ)
彼の手を捕まえた自分の両手をぼんやり見つめる。
少なくとも私の顔が熱いのは、気のせいってことにして。
【触れた手】
(ほんとに?本当になんもない?)
(逆にファルコンさんが買い物行ってる間に初対面2人で何するっていうんですか)
(そうだよファルコン。とりあえず牛丼食べよーよ。朝までおわんないよ?あ、川上くんも巻き添えで)
(え…!?)