sgi
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
茹だるような夏、炎天下。
ゆるいタンクトップと、ショートパンツを身に纏うと、日差しの熱と心地よい風が身体を撫ぜる。暑くて、涼しくて、気だるくて、心地よい正午。
「あぢい」
駿貴は我が物顔で私のベッドに横になり、道端で配られていたらしい小さなうちわで顔を仰いでいる。
「ほんと、あついね」
片付けきれていないワンルームに押しかける様にやってきた大学の同級生の駿貴。
俺んちのクーラーが壊れたとかなんとかで、要は私の家を避暑地としてきたらしい。
「なんでクーラーつけねえの?死ぬ」
「節約。」
私は扇風機の前を陣取って、あぐらをかいている。
別に、節約をしているわけではない。確かに日は暑いが、全開にしたベランダの窓と適当なサンダルで隙間を作った玄関から抜ける風で十分心地よいのだ。あとは、目の前の扇風機(、が心地よさの8割を形成しているのはここだけの話)
ふと横目で駿貴を見ると、玉の様な汗が額に浮かんでいる。そもそも私の家まで歩いてくる時点で避暑という目的から随分離れているんじゃないかな、なんて思いながら、もう一度扇風機と向き合う。
「信じらんね、俺が金払う、付けよう。」
「じゃあ2万」
「そりゃ無理だ〜」
駿貴はずるずるとベッドから落ちる様に降り、そのまま私の方に倒れこんできた。
「暑いんでしょ、離れなよ」
なんていいつつ、私の太ももめがけてやってきた彼の体の火照り具合が想像以上で、かかか、と音を立てて扇風機を彼の方に向けた。
「あ〜…涼しい」
駿貴は薄眼を開けて私を見上げる。俗に言う膝枕の状態だ。
しばらく涼風を受けた駿貴は突然起き上がり、今度はぴったりと私に身体を寄せる形で隣に座った。
「…今度は何」
「冷風シェア」
「理解」
私はまたかかか、と音を立てて扇風機の向きを変えた。
ちょうど私たちの方に風が向く様にすると、ふわり、私たちの髪が揺れた。
「扇風機ってすごいな」
「ほんとうに」
「でもクーラーはもっとすごい」
駿貴が至極真面目な顔でそんなことを言うから、思わずくすりと笑ってしまった。
「クーラー、つけようか?」
「…いいや」
先ほどとは打って変わって素直に受け入れた彼は、今度は身体を半分私に向けて、私の肩に顔を置いた。
「近づくなあ」
「風が受けやすいようにな」
そう言いながらぴたり、頬をくっつける。やたらと熱い、頬。
「…駿貴い」
「なにい」
2人の声が震える。これは、扇風機のせい。
「君は付き合ってもない女の子にそんなことするのかい?」
「じゃあ付き合う?」
「そーいうとこ」
「とか言って、青も離れたらいいじゃん」
「…そーいうとこ、」
できないの、わかってるくせに。
心の中で悪態をつくと、2人、示し合わせた様にゆっくりと向き合う。そのまままるで決まっていたかの様に、唇を重ねる。
駿貴の汗の味がする。私の汗かもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。やっぱり夏の暑さは、恐ろしいものなのかもしれない。
気づけば抱かれた肩に触れる手はまだまだ熱くて。そのまま滑る様に私の腰元をなぞる。
服の中に入る頃には、こんなに心地いい風が吹くのにどこかぼうっとしてしまって。
「駿貴、」
「なに」
「避暑、しにきたんでしょ?」
「そう」
「汗かくよ」
「いいの」
今日はどんな下着をつけていたかな、なんて思いながら、身体を這う彼の手を受け入れる。彼の汗で濡れた髪からほんのりとシャンプーの香りがする、確信犯め。
「でも、お前こそ、クーラーつけないでいい?」
今度は駿貴からの問いかけ。
「つけたくない」
短くそう答えると、もう一度唇を奪われた。
「声、我慢できんの?」
私の答えも聞かず、駿貴はそのままゆるゆると私を床に押し倒した。
ぽたり、玉の様な汗が私の頬を撫ぜる。扇風機は空に向かって柔らかな風を送り続けるだけだ。
「さあ、知らない。」
そう答えると、指を絡める様に手を握った駿貴は、小さく笑った。
# クーラーはいらない
(夏の風が私たちの熱を冷ます様に通り抜ける、でも、今日だけは知らんぷり)