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「おはよ〜」
「あれ、福良さん早いじゃん」
リビングの扉を開くと、須貝さんがよ、と軽く右手を上げてこちらを見た。その向こうにはウンウンと唸りながらパソコンを見つめる河村。
「やー、急遽朝から打ち合わせ入っちゃって。今日のこっちでの動きの確認と急ぎの仕事ないか確認してから出ようと思って。」
トートバッグを適当なところに置き、河村の方を見る。
「ね、今日って特に急ぎのものなかったよね」
「うーん…」
すっかり集中モードの河村は生返事を返すばかり。ちらと須貝さんを見ると態とらしく肩をすくめて笑った。
「ま、とりあえず手洗いうがいしてくるかあ」
「おー」
須貝さんも軽く返事をしてくれて、俺はんん、と小さく伸びをして洗面所に向かった。
「…え?」
「あ」
俺がドアに手をかける瞬間、遠くから2人の奇妙な声がした。河村がやっと自分の世界から帰ってきたのだろうか。
「ま、ふく、福良!」
河村の慌てる声、開いた扉の向こうには。
「…」
濡れそぼった綺麗な金色の髪からわずかに滴る水滴。
ほんのりと蒸気した頬、切れ長の瞳が俺をはっきりと捉える。
そのままゆっくりと視線を下げていくと、白い肌に映えるレースのあしらわれた黒のブラジャー、そして、ローライズのショーツの後ろ側にあるのは心許ない細い線が、ひとつ。これっ、て俗にいう…。
(Tバッ…、えっ、え…?!?)
無意識のうちに彼女の頭の天辺から爪先までじっとりとした視線を投げていることに気づき、俺は慌てて声を上げた。
「ご、ごめん!」
扉が壊れるんじゃないかと思う程の勢いで閉めると、リビングから大きな足音と河村と須貝さんの叫び声が聞こえた。
「な、なんにも見てないから!」
咄嗟に出たあからさまな嘘と共に、俺は情けなくその場にしゃがみ込んだ。
-
ドライヤーとメイクを済ませた青ちゃんが気まずい空気のリビングに戻ってきた。まだ頬が少し上気しているのは、シャワーのせいか、それとも…。
「…なんか、私のせいですみません」
「や、俺が悪いの。ほんっと、ほんっとうにごめん」
「福良は知らなかったんだよね」
「俺らが止めれなかったのが1番わりーよ、ほんと」
青さんが出社前に朝イチランニング行ってること、シャワーを浴びてること、ちゃんと伝えるべきだった。と言う河村は申し訳なさそうな、複雑そうな顔をしていて。
「僕がちょっと集中しすぎてて…すぐに止められなかったから…」
「や、それ言うなら俺もだから、青ちゃん、ほんっとスマン」
須貝さんも、このとおり!と顔の前で大きな両手を合わせて頭を下げている。
「おっす〜、ってなになに〜?どした?」
「伊沢、や、ちょっとした事故というか…」
リビングにやって来た伊沢は、その微妙な雰囲気を察して、俺たちを見渡す。
-
「なるほど、福良さんがラッキースケベしちゃった訳か」
「伊沢、言い方!」
須貝さんが声を荒げると、すまんすまんと伊沢は大笑いした。事故とはいえ、これは笑い事ではなくれっきとしたセクハラに当たるのだけれども…。
「でもいんじゃね?福良さんだったら」
「は?」
「!」
「なんならワザとだったりして?」
「い、伊沢さ…!?」
今まで静かにソファに座っていた青ちゃんがはくはくと口を動かしながら伊沢を見る。その耳はまた真っ赤に染まっていき。
「嘘嘘、ジョーダン。でもま、今回はお咎めなしで大丈夫じゃね?」
にっ、と白い歯をむけて青ちゃんに微笑みかける伊沢はどこか悪い顔をしていて。
「福良さんそーいやもうそろそろ出ないと打ち合わせ間に合わないんじゃない?今回の件は事故みたいなもんだし不問!青ちゃんもそれでいーよね?」
「…!」
あからさまに伊沢を睨む青ちゃんに思わずごくりと唾を飲む。しかし、彼女は小さくため息をつくと、視線も合わせずぽつりと呟いた。
「、ケーキ…」
「…え?」
「打ち合わせ終わり、ケーキ買って来てくれたら許します。」
「あ、え、あ、…うん、?」
いつも通り切れ長の鋭い目を伏せたクールな表情、なのに顔中真っ赤に染め上げた彼女があまりにもいじらしくて、可愛い、なんてこの場に全く相応しくない言葉が溢れそうになり思わず口を噤む。
さ、福良さん。行った行った!と俺のトートバッグを投げて伊沢は笑う。空気を読んだ河村と須貝さんがゆっくりと俺の方を見る。その目に灯る妙な好奇心に居た堪れなくなった俺は促されるままに玄関に向かった。
多分、こんな時間に出たんじゃ随分早く打ち合わせ先の会社に着いてしまうけれど、あの状況でもう一度戻るわけにもいかず、靴紐を結ぶ。
(俺だったらいい、って)
(あんな、耳、真っ赤にして)
俺だって鈍感ではない。
蘇る彼女の表情に、はあ、と深いため息を吐く。
靴紐を結んだあと、携帯を取り出してリマインダーを起動する。ケーキ。という短いメモを一つ残し、俺はもう一度ため息を吐いて立ち上がった。
「ホント…!」
彼女の柔肌が脳裏を掠めたけれど、重ねるように伊沢の腹立たしい程の笑顔を思い浮かべる。アイツはいつだって狡い奴だ!
ムカつくはずなのに、思わず溢れる笑みを隠すように口元を拭ってから、俺は玄関を開いた。
# 否、僕は何かを見てしまったようです
(伊沢さん!!)
(ごーめんって、でも、事実でしょ?)
(もう、ほんと!最低!)
(なーるほど)
(そこ2人ももっと反省してください!)
(とっととくっ付かねー2人が悪い)
(伊沢さんってば!!!)