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仕事終わり、適当に甘いものと炭酸水を買って家に帰ってきた。
クーラーとテレビの電源を入れて、週末に作った常備菜と適当な残り物で晩御飯を作る。
茹で上がったパスタを、適当に作ったソースにフライパンの上で絡めている時、ピンポン。エントランスのインターホンが聞こえた。
火を止めて、玄関に続く廊下にある応答のボタンを押すと
「ハーイ」
ふざけて右手を上げる、黒いマスクと伊達眼鏡の男。センター分けされた前髪から見える凛々しい眉と優しい眼差しは、彼以外の誰でもなくて。
「…合言葉は?」
「青さんの晩御飯」
「なるほど」
ぴ、と解錠のボタンを押すと画面は途絶えた。
準備した晩御飯とは別に、もう一人分の用意を始める、お皿に盛り付け終わる直前にもう一度インターホンが鳴り、私は玄関へ向かった。
「こんばんは、青さん。」
マスクを外した彼が、にっこりと笑みを浮かべる
「お仕事は順調?」
「…さすが、来た理由を察するのが早い」
眉を下げて笑った拓司くんはするりと私の部屋に上がり込んだ。
仕事の関係で友人が紹介してくれた彼。尋常ではない知識量と聡明さを持ちながらも、人懐こさと愛らしさも兼ね揃えていて。その懐へ飛び込む巧さから、仕事の垣根を超えすっかり弟の様な存在となった。
最初はたまにご飯を食べたり、飲んだり、遊んだり。けれど、仕事が行き詰まる時はこうして私の家に遊びに来る様になって。
「お、いい匂い。パスタ?」
「拓司くんはね、私はこっち。」
冷蔵庫にあった生ハムとオリーブを適当に盛り付けた皿を指差す。
「あ、もしかして俺が奪った感じ?」
「いや、私今日は食欲ないから。」
「だーめ、シェアしよ」
適当な嘘はすぐに見抜かれる。彼は私の許可なくキッチンへ入り、小さな小皿とシルバーをもうワンセット取ってきた。
くるくるとパスタを巻きつけ、小皿に取り分けて私の方へ寄せる。
そして、私用に盛り付けた生ハムとオリーブを机の真ん中に置くと、満足そうな顔をした彼。愛らしくて、私は頬杖をついて笑った。
「いただきます。」
私はウイスキーの水割りを、彼はビールを。
軽くグラスをぶつけて、2人でゆったりと笑った。
彼とは、何度か身体を重ねた。
弟の様に可愛がっていたはずなのに、気づけば。
初めて押し倒された時は、なるほどそういうタイプだったか。と冷静に受け入れて、家に来る連絡があるたびそれなりの用意をしていたが、彼が私を抱くのは気まぐれだった。
ご飯を食べて帰る日もあれば、ふらと街へ買い物に連れて行かれたり、カフェに寄っておしゃべりをして解散する日もあって。弟なのか、遊びなのか、最初は全然わからなかった。
調子が狂う、と思っていたけれど、今ではその気ままささえも楽しい。
彼は、あまりにもまっすぐで、真面目で、変わり者で
…寂しがりで、繊細で。
「分けちゃうとあっという間だったね」
「でも美味しかった、ちょー満足。ごちそーさまです。」
ソファーからキッチンに立つ私を見つめ、嬉しそうに笑う彼につられる様に笑う。
「アイス、食べる?」
「…お、食べる」
アイス、という言葉でキラキラと目を輝かせる彼に、冷凍庫から取り出したそれを渡す。
「チョコのやつだ」
「好き?」
「ん」
バニラにチョコがコーティングされた棒付きのアイスを嬉しそうに食べる拓司くん。
彼の横に腰掛け、2人並んでテレビを見る。
時折、この画面の中で笑っている彼を見掛ける。
白い歯を見せて、クイズの強い男として、礼儀正しくそこで笑っている彼を。
けれど結局は一人の人間であるらしい。といっても、何か深い話を彼自身の口から聞いたわけではなかったが、隣にいると汲み取れることは多くなる。
なにより、出会った頃よりも嫌に上手くなったその笑顔がきっとそれを物語っている。と、思う。
テレビを見る彼の横顔を盗み見る。今日はきっと、塞ぎ込んでいる。
「拓司くん、」
「ん?」
「今日は、しないの?」
私がそう問いかけると、拓司くんは驚いた顔で私の方を見た。
そのまま固まる拓司くんの右手、食べかけのアイスからとろりと溶けたバニラが手を伝いそうになる。
「…え、何?どうしたの?」
困った様に、けれどいつも通り白い歯を見せて笑い、垂れてしまいそうなアイスを慌てて食べる。
それもそうだ。そういう関係になってから、私から誘ったことは一度もなかった。
私は多分、彼にとっての向かう先でも、帰る場所でもなく、ふらと立ち寄るところだろうからと、私から彼を引き止めることはしたくなかった。
でも、今日は違う。
「今日、今までで一番悲しい顔してたから」
付き合いはそんなに長くないけれど、たくさん話をしたり、ご飯を食べたり、身体を重ねると、厄介なことまで見えてきてしまうもので。
「…」
彼は、口元に曖昧な微笑みを称えたまま、食べきったアイスの棒を見つめていた。
私はひょいとそれを奪うと、自分の最後の一口を食べながらキッチンへ向かい、それらをダストボックスにぽいと投げ入れた。
口の中が切ないぐらい甘い。もう一度彼の隣に腰掛けても、彼は遠くを見つめたままで。
「…別に、私は」
彼の横顔に語りかける。
「消えて無くなったり、しないよ」
それでも、私の方を向かない彼の顔を覗き込み、優しく唇を重ねる。
「して欲しいんじゃなくて。拓司くんの好きにしたらいいよ、ってこと。」
そこまで言って、元の位置に戻ると、やっと彼の瞳は私の方を捉えて。
「そんなん、俺はいやだ」
画面の中の彼なら絶対に零さないような、泣き出しそうな声で言う。
「求めて、欲しい」
彼は私を抱き寄せ、ゆっくりと唇を重ねた。
そのまま何度も角度を変えて、私の存在を、彼自身の存在を確認する様に。
(失うのは怖いけど、求めて欲しいなんて、わがままだね。)
居なくならないということを、あなたを愛しているということを伝える様に、私もゆっくりと、だけど、強く、彼を抱きしめた。
# 君が大人になるまで
(それまでは、何度だって付き合ってあげる。)
(君が大人になって、愛を伝える勇気ができた時、たとえ、隣にいるのが私じゃなくても。)
クーラーとテレビの電源を入れて、週末に作った常備菜と適当な残り物で晩御飯を作る。
茹で上がったパスタを、適当に作ったソースにフライパンの上で絡めている時、ピンポン。エントランスのインターホンが聞こえた。
火を止めて、玄関に続く廊下にある応答のボタンを押すと
「ハーイ」
ふざけて右手を上げる、黒いマスクと伊達眼鏡の男。センター分けされた前髪から見える凛々しい眉と優しい眼差しは、彼以外の誰でもなくて。
「…合言葉は?」
「青さんの晩御飯」
「なるほど」
ぴ、と解錠のボタンを押すと画面は途絶えた。
準備した晩御飯とは別に、もう一人分の用意を始める、お皿に盛り付け終わる直前にもう一度インターホンが鳴り、私は玄関へ向かった。
「こんばんは、青さん。」
マスクを外した彼が、にっこりと笑みを浮かべる
「お仕事は順調?」
「…さすが、来た理由を察するのが早い」
眉を下げて笑った拓司くんはするりと私の部屋に上がり込んだ。
仕事の関係で友人が紹介してくれた彼。尋常ではない知識量と聡明さを持ちながらも、人懐こさと愛らしさも兼ね揃えていて。その懐へ飛び込む巧さから、仕事の垣根を超えすっかり弟の様な存在となった。
最初はたまにご飯を食べたり、飲んだり、遊んだり。けれど、仕事が行き詰まる時はこうして私の家に遊びに来る様になって。
「お、いい匂い。パスタ?」
「拓司くんはね、私はこっち。」
冷蔵庫にあった生ハムとオリーブを適当に盛り付けた皿を指差す。
「あ、もしかして俺が奪った感じ?」
「いや、私今日は食欲ないから。」
「だーめ、シェアしよ」
適当な嘘はすぐに見抜かれる。彼は私の許可なくキッチンへ入り、小さな小皿とシルバーをもうワンセット取ってきた。
くるくるとパスタを巻きつけ、小皿に取り分けて私の方へ寄せる。
そして、私用に盛り付けた生ハムとオリーブを机の真ん中に置くと、満足そうな顔をした彼。愛らしくて、私は頬杖をついて笑った。
「いただきます。」
私はウイスキーの水割りを、彼はビールを。
軽くグラスをぶつけて、2人でゆったりと笑った。
彼とは、何度か身体を重ねた。
弟の様に可愛がっていたはずなのに、気づけば。
初めて押し倒された時は、なるほどそういうタイプだったか。と冷静に受け入れて、家に来る連絡があるたびそれなりの用意をしていたが、彼が私を抱くのは気まぐれだった。
ご飯を食べて帰る日もあれば、ふらと街へ買い物に連れて行かれたり、カフェに寄っておしゃべりをして解散する日もあって。弟なのか、遊びなのか、最初は全然わからなかった。
調子が狂う、と思っていたけれど、今ではその気ままささえも楽しい。
彼は、あまりにもまっすぐで、真面目で、変わり者で
…寂しがりで、繊細で。
「分けちゃうとあっという間だったね」
「でも美味しかった、ちょー満足。ごちそーさまです。」
ソファーからキッチンに立つ私を見つめ、嬉しそうに笑う彼につられる様に笑う。
「アイス、食べる?」
「…お、食べる」
アイス、という言葉でキラキラと目を輝かせる彼に、冷凍庫から取り出したそれを渡す。
「チョコのやつだ」
「好き?」
「ん」
バニラにチョコがコーティングされた棒付きのアイスを嬉しそうに食べる拓司くん。
彼の横に腰掛け、2人並んでテレビを見る。
時折、この画面の中で笑っている彼を見掛ける。
白い歯を見せて、クイズの強い男として、礼儀正しくそこで笑っている彼を。
けれど結局は一人の人間であるらしい。といっても、何か深い話を彼自身の口から聞いたわけではなかったが、隣にいると汲み取れることは多くなる。
なにより、出会った頃よりも嫌に上手くなったその笑顔がきっとそれを物語っている。と、思う。
テレビを見る彼の横顔を盗み見る。今日はきっと、塞ぎ込んでいる。
「拓司くん、」
「ん?」
「今日は、しないの?」
私がそう問いかけると、拓司くんは驚いた顔で私の方を見た。
そのまま固まる拓司くんの右手、食べかけのアイスからとろりと溶けたバニラが手を伝いそうになる。
「…え、何?どうしたの?」
困った様に、けれどいつも通り白い歯を見せて笑い、垂れてしまいそうなアイスを慌てて食べる。
それもそうだ。そういう関係になってから、私から誘ったことは一度もなかった。
私は多分、彼にとっての向かう先でも、帰る場所でもなく、ふらと立ち寄るところだろうからと、私から彼を引き止めることはしたくなかった。
でも、今日は違う。
「今日、今までで一番悲しい顔してたから」
付き合いはそんなに長くないけれど、たくさん話をしたり、ご飯を食べたり、身体を重ねると、厄介なことまで見えてきてしまうもので。
「…」
彼は、口元に曖昧な微笑みを称えたまま、食べきったアイスの棒を見つめていた。
私はひょいとそれを奪うと、自分の最後の一口を食べながらキッチンへ向かい、それらをダストボックスにぽいと投げ入れた。
口の中が切ないぐらい甘い。もう一度彼の隣に腰掛けても、彼は遠くを見つめたままで。
「…別に、私は」
彼の横顔に語りかける。
「消えて無くなったり、しないよ」
それでも、私の方を向かない彼の顔を覗き込み、優しく唇を重ねる。
「して欲しいんじゃなくて。拓司くんの好きにしたらいいよ、ってこと。」
そこまで言って、元の位置に戻ると、やっと彼の瞳は私の方を捉えて。
「そんなん、俺はいやだ」
画面の中の彼なら絶対に零さないような、泣き出しそうな声で言う。
「求めて、欲しい」
彼は私を抱き寄せ、ゆっくりと唇を重ねた。
そのまま何度も角度を変えて、私の存在を、彼自身の存在を確認する様に。
(失うのは怖いけど、求めて欲しいなんて、わがままだね。)
居なくならないということを、あなたを愛しているということを伝える様に、私もゆっくりと、だけど、強く、彼を抱きしめた。
# 君が大人になるまで
(それまでは、何度だって付き合ってあげる。)
(君が大人になって、愛を伝える勇気ができた時、たとえ、隣にいるのが私じゃなくても。)