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「青ちゃん、悲しいお知らせ」
「なんですか」
「終電、あと3分」
「は?え?!」
「あ、…あれ?!みなさんは?!」
「もうとっくの昔に帰ってる」
コーディングに夢中になっていたらしい私は、福良さんのその一言に唖然とする。どうも私は4時間ぐらい夢中でソースの修正をしていた、らしい。
自分の無駄に高い集中力と、時間管理能力のなさに深い溜息をつく。
「俺は家近いからいいけど、青ちゃん結構遠かったよね?」
「う、はい…」
「女の子1人残すのも不安だし、僕も一緒にオフィス泊しちゃお」
「え、それは…悪いですし…」
善意に満ちた、ような眼差し。
鈍感な私には見えない悪巧みも含まれているのかもしれないが、その優しい目つきのせいで「むしろ男女2人で泊まる方が危なくないですか?」とは言えなくて。私は黙ってその柔和な微笑みをじっと見つめた。
「そんな熱い視線向けないでよ〜」
「…普通の顔ですけど。」
相変わらず周りと馴染めないままの私だが、アプリ開発を経てから福良さんとはすっかり親しくなって。
「ま、2人だけなら適当に空いてる部屋で別々に眠れるし、眠たくなるまで作業する?」
「まあ、はい…」
結局彼の優しさに甘えてしまう自分。こんな形で迷惑を掛けてしまうなんて、そんな情けなさに2度目の深い溜息を吐くと、福良さんは眉を下げてまた柔らかく微笑んだ。
「もー、気にしないで。なんか飲み物入れてきてあげる。コーヒー…は目が冴えちゃうし、お茶とかでいい?」
「あ、いや、お気遣いなく」
「いいのいいの、俺がしたいだけだから」
キッチンへ立つ福良さんの背中を見つめる。その向こう側に見えるカレンダーに、今日が何日だったかとふと考える。
8月、7日。
「…あれ?」
「ん?どうしたの?」
手際良く二つのグラスに麦茶を注ぎながら、福良さんが返事をする。
「今日、福良さん…誕生日じゃ…」
「え?あー、本当だ!…っていうか、覚えててくれてたんだ〜」
ふにゃり、そんな擬音が似合いそうな微笑みと共にこちらにやってくる。
「や、別に…その、連絡先交換した時に登録されてたから…カレンダーに自動反映されてて…」
「ふふ、そんな言い訳しなくても」
ことんと小さな音を立てて私たちの前にグラスを置いたあと、ゆったりと私の右側に腰掛け頬杖をついて楽しそうにこちらを見つめる彼。
9割の悔しさと1割の恥ずかしさを込めた眼差しで小さく睨むと、
「まーた耳赤い」
わかりやすいんだから、と笑う福良さん。
可愛いなあ、なんて言われてしまえばもうなにも言えやしない。いつもこうしてこの人のペースに巻き込まれてしまうのが悔しいけれど、私ではなにも切り返せなくて。
「ね、おめでとうは?言ってくれないの?」
「…なんか、言いたくなくなりました」
「えー、意地悪」
どっちが、と言いたい気持ちをぐっと堪えて、相変わらず楽しそうな福良さんをちらと横目で見る。
「ていうか、」
不意に私の方に身を寄せた福良さんが、するりと私の顔を覗き込む。
「もし、僕が1番に青ちゃんに祝われたくて、終電逃させた、って言ったらどうする?」
柔らかく、けれど男の人特有の甘い色がほんのりと宿った眼差しに小さく肩を揺らすと、福良さんは満足げに笑ってゆっくりと身を引いた。
「なーんてね、…でも、早くおめでとうって言われたいな〜」
「ぜ、…ったい言いません」
「もー、強情なんだから。まあ、始発まではあと5時間あるからねえ。どっちが折れるのが先かなぁ」
とんでもないことを言いつつ心の底から楽しそうな福良さんと、先程の妙な視線のせいで変にドキドキしてしまった私。
「あーあ、青ちゃんにおめでとうって言われたいだけなのに〜」
だらだらとラップトップ開いて、作業を始めようとする福良さんをちらりと見て、私は大きく息を付いた。
隣に置いた鞄の中を適当に漁れば、今朝買った小包のチョコレートが一つ。
「福良さん」
「んー?」
画面を見たまま、彼の方にそっとそれを置く。
「…青、ちゃん?」
横顔に刺さる視線に気づかないフリをして、私はぶっきらぼうに呟いた。
「生まれてきてくれて…ありがとう、ございます」
じゃ、作業するんで!
そう言ってカナル式のイヤホンを両耳に勢いよく突っ込んだ。
3秒の間をあけて、隣で大笑いする福良さんが憎くて憎くて。私は修正の必要のないコードと睨めっこを始めた。
「青ちゃん」
「…なんです」
「、ありがとう」
蕩けるように甘い声に驚いて、つい彼の方を向いてしまう。
その甘い眼差しは、私の心を捉えて離さない。
それが本当に悔しくて、悔しくて、…好きすぎるから堪らない。
# おめでとうなんて言ってやんない
(にしてもこうなると困っちゃうな)
(何がです)
(あと5時間も2人きり…なんにもせずに朝迎えられるかな?)
(は?!な、に言って…!)
(ふふ、かーわいい)