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「青ちゃんてさ、彼氏いんの?」
何の気なしに須貝さんが発した瞬間、僅かに空気が張り詰めるのを感じた。
「ううん、居ないよ」
彼女はなんてことないように、いつも通りの笑顔でそう言った。
ー
「そっか、須貝さんは知らないのか」
「ていうか俺ぐらいじゃない?知ってるの」
「そりゃあそうか」
買い出しを任された俺たちは、コーヒー味のパピコを咥えながらだらだらと歩く。
「特定の彼氏作らないの、そんなに問題?」
「心のどこかでそう思ってるからしれっと”居ないよ”なんて答えるんじゃない?」
「…そりゃあ、そうだね」
ははは、となんてことないように笑う彼女を見ながら、まだ溶けきらず食べづらいそれをぎゅっと押す。
「いないだけならまだしも、ねえ」
「あー、またお母さん発動してる」
「ギリ発動してません」
「どうだか?」
パピコを咥えたまま、歯を見せて笑う。左側の八重歯が顔を出し、彼女と喋っているんだな、なんてことを再確認したりする。
いないだけならまだしも、彼女にはそういう”お友達”は絶えず近くに居る。ということ。きっと須貝さんや山本、こうちゃんなんかが知ったら卒倒するだろう。
「最近はどうなの?」
「んー、まあ、それなり?」
「僕には基準値がわからないから愚問だったね」
「たしかに」
上手に溶かしながら食べていたのか、すっかり柔らかさを取り戻したそれをぎゅっと押し込み最後の一口を味わった彼女は、僕が手に持っていた空のコンビニ袋にそれを小気味よく投げ入れた。
僕の手元のそれは、まだまだ硬いまま半分近くが残っており、ほんの少し煩わしささえ覚えるというのに。彼女はいつもこうして、僕の数歩先を行ってしまう。
「福良もいつでも友達から”お友達”になってもいいんだよ?」
「その手の冗談は嫌いだって言ってるでしょ」
「お母さんだなあ〜」
曰く、寂しい瞬間をなくしたいこと、誰か一人に依存したくないこと、自分の深い部分を知られたくないこと。この3つを満たせるのが今のやり方だという。
「ま、福良にはそんなやり方して欲しくないけど」
「めちゃくちゃ自分のこと棚にあげるじゃん」
「自分のことがあるから」
まるで昨日のドラマの話でもするみたいにケラケラと笑う彼女の瞳の奥は、俺にはわからない。
「福良には、幸せになって欲しいよ」
「俺はね、幸せになるよ」
「そういうとこ好きだよ」
「だからさ」
やっと溶け出したそれをぎゅっと握る。口の中に広がるほろ苦いミルクコーヒー味。
「俺が青ちゃんを幸せにする、って言ったら?」
ほんの少し驚いた顔をして、すぐにいつものいたずらな笑顔の仮面をかぶる。
「やな冗談」
「依存されても、青ちゃんの奥深い部分が露呈されても、絶対に手放さない。寂しい思いも、させない」
やっと最後の一口を口の中に流し込む、やっと、追いついたような気がした。
なのに
「…絶対なんて、ないよ」
その仮面は、まだ剥がれない。
「さ、みんな待ってる。早くオフィス戻ろ。」
福良一人じゃ迷子になっちゃうでしょ?と笑う彼女が俺の手首を掴む。その手は先ほどのアイスのせいか、ひんやりと冷たいままだった。
一歩先をゆく彼女を斜め後ろから見つめる。大丈夫、いつか、必ず君を幸せにしてあげるから。
そんな気持ちを乗せて、手首を掴む手を柔らかく解き、もう一度指を絡めるよう握り直すと、長いまつ毛がふるりと一度だけ震えた、ような気がした。
# persona
(本当は、ずっと君を愛したいんだ)