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「私、福良くん気になるかも」
「あー、…あー?」
ミクはそのまん丸な目をウルウルと揺らしながら笑った。
「はあ?」
「はあ?って、かっこよくない?」
知的で優しそうで、あ、背も高くてさあ。と綺麗に彩られたネイルで柔らかそうな毛先をくるくると弄ぶ彼女。
サイダーのようなキラキラとした表情をこちらに向けられて、慌ててぎこちない笑みを作る。
同性の私から見ても、文句なしに可愛い女の子。
その上ファッションやメイク、頭のてっぺんからつま先まで仕上がっている彼女に敵うところなんて一つもない。そんな彼女が。
「福良、が…?」
「うん、青の会社の、ふくらくん!」
私に言い聞かせるように、はっきりとその名前を言う彼女の目をじっと見る。ラメの散る瞼が綺麗だ…なんて呑気に考えている場合ではなく。
「福良、ねえ」
「そ、だからさ、連絡先とか…教えてもらえないかなあ?」
お願い!とその白い手が彼女の顔の前で合わさる。きっと男だったらイチコロのそれ、私もちょっと揺らいだけれど、彼の許可を取っていないから…なんてらしい言い訳を心の中で独りごちてぐっとこらえる。
「まあ、聞いて、みる」
「ほんと?ありがと〜!」
目を細めて笑う彼女の長い睫毛が揺れる。弧を描くピンクのリップも、その奥に見える白い歯も、ため息が出るほど綺麗だった。
-
なるほど、パッとしない私なんかと近頃妙に親しくしてくれる理由はそれか、と合点がいったのはQuizKnockのオフィスに向かう道すがら、ショーウィンドウに映る自分を見た時だった。
真っ黒なリュック、飾り気のない真っ白なロングTシャツに、黒のスキニー、ヒールは疲れるからといつもスニーカー。気の抜けた炭酸のようなぼんやりとした女は、間違いなく彼女の隣に並ぶにはふさわしくない。
こういう人間の心を読む力が低いこと、最近河村に心配されたっけ。確かに私は気の小ささもあいまって、ほいほい壺とか水とか買わされてしまうタイプなのだろう。どこまでも情けない話しだ。
「どうしたの青ちゃん、浮かない顔して」
「あ、山本。おはよ」
「おはようございます。って同時にため息つかないでよお」
オフィスに着いて直ぐ声を掛けてくれた元気一杯の山本。こっちまで悲しくなるじゃん!と大きな目で訴えられて、思わず曖昧な笑みを浮かべてしまう。その向こう、執務室には福良と河村がいつも通り真面目な顔で企画を練っていて。
よりによってなんで福良なんだろう、ミクみたいなかわいい子はそれこそ伊沢や山本みたいな…私たちの中でも派手なタイプの方が好きじゃないのか。バリバリの理系で、野菜が全然食べられなくて、妙なことにばっかり詳しい男なんかよりもっとお似合いの男がいるはずなのに。
「お、青ちゃんおはよ」
「ああ、おはよう」
私のじっとりと湿った視線に気がついたらしい二人は爽やかな笑みをこちらに向けた。
「…ほんと、伊沢ならまだわかるんだけど」
「何の話してる?」
「こっちのはなし。河村、隣お邪魔します」
どか、と大きな音を立てて河村の隣に座ると、彼越しに福良がこちらを見ていて
「なーんか、浮かない顔だ」
「うるせ〜」
「わ、怖い怖い」
メガネの奥のその綺麗な瞳は、これからの人生でどんな素敵な女の子に愛を注ぐんだろう、なんて情けないことばかりが頭の中を過ぎる。けれど、私はそんな気持ちを殺すようにぎゅっと耳の奥までイヤホンを押し込んだ。
(きっと私も、彼には相応しくない。)
ー
そうして暫く作業に集中していると、誰かに肩を叩かれて振り返る。
「集中しすぎ」
「わ、え?」
福良の向こう側に見えるのは、がらんと人気のないオフィス。
「みんなコンビニ行ったよ?なんかいるなら山本にLINEして、って」
先ほどまで河村が座っていた席に腰掛ける福良に、胸がどきりと跳ねる。
「で、…なにがあったの」
優しい声が二人きりの執務室に響く。
「…逆に福良は心が読めすぎる」
「なに急に」
頬杖をついて体ごとゆったりとこちらに向いた福良は笑っているけれどどこか心配そうで。
「なんかね」
「うん」
「私の友達が、福良のこと気になるらしくって」
ふとミクの顔が過ぎる。ここ最近出会った人の中で、1、2を争う可愛い女の子。悲しいけれど福良もきっと気に入るだろう、可愛い、おんなのこ。
「おお、ありがたい」
「で、福良の…連絡先、知りたいって」
本当は、こんなこと言いたくないんだけど!なんて冗談でも言えたらいいのに。ぎゅっと胸が痛むのを隠すように、なんとか笑う。
けれど、福良は別段興味のなさそうな顔で。
「へえ」
「へえ、って」
「や、教える気はないなあ」
「…でも、超かわいい子よ?」
「ふうん」
今度はどこかがっかりした表情を浮かべて、福良はその体をデスクに向けた。
「ほら、この子」
彼女のinstagramを開いて福良の方に向けると、彼はひょいと私の携帯を奪った。
やっぱり顔は気になるだろう、そう思ったのだが彼はすぐに電源ボタンを押してその画面をデスクに伏せた。
「…気に、いらなかった?」
「や、見てすらないけど興味ない」
いつもの微笑みなのに、どこか苛立ちを孕んだ声に少し体が強張る。
「なんか、ごめん」
「…や、ううん。俺もごめん」
ちらと隣を覗き見ると、伏せた携帯を見つめて笑う横顔。
「…うーん、もどかしいな」
「…何が?」
「何が、って」
机に置かれた私の右手に、彼の暖かい手が重なる。言葉のない数秒間にどんどんと鼓動は早くなって。
「でも、もどかしくしてたのは俺の方かもね」
恐る恐る顔を上げると、いつになく真剣な表情の福良がそこにいて。
「ね、…だめ、かな?」
何が、と聞くのも憚られるほどの熱いまなざしに、言葉も出ない。
ミクのように愛くるしい容姿でもないし、地味だし、色気だって全然ない。可愛く笑うこともできないし、福良にだって、悪態ついてばっかりなのに。
そんな私の胸中を見透かすように彼は小さく笑った。
「俺は、青ちゃんじゃないと、嫌なんだけどな。」
そう笑って、甘い声で囁く彼の瞳には、確かに私が写っていて。
どうしようもなくなって目を閉じた私がその後感じたのは、彼の唇の柔らかさと、愛の滲む熱だけだった。
# 逆さまのサイダー
(ただいま〜、わ、青ちゃん顔真っ赤じゃん?!部屋暑い?クーラーいれる?)
(だいじょうぶ、よ)
(お、…福良、やるね〜)
(アハハ、河村、今はまだだめだよ)
(こ、心が追いつかない…)