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「…やっば!」
思わず声に出してしまう。時刻は夜の22時…5分前。
「どうしたの山本、大声出して。」
「や、あの、あれ、やば…ちょ、帰っていいですか」
「…日本語喋ってくれる?」
近くにいた福良さんと河村さんは僕の焦りようを見て呆れた様に笑う。
今日は彼女も帰りが遅いと言っていたし、21時ごろに出れば間に合うな、なんて思っていたけれど…記事の編集に気を取られすぎて気づけばこんな時刻。
「明日、青ちゃんの誕生日なんです!」
ー
僕の焦りようを見て笑っていたはずのみんなは、その言葉を聞いてすぐ形相を変えて「なにそんな大切な日にこんな時間まで残業してるの!?帰りな!?」と半ば追い出す様に送り出してくれて。
予約していた花屋さんに慌てて電話して、営業時間外ながらも何度も頭を下げてなんとか受け取りを済ます。
ケーキは自分の家の冷蔵庫。取りに戻って青ちゃんの家に向かえば23時台には家につくはずだ。彼女からの「いつ頃お家来るの?」という簡素なメッセージの到着時間は21時すぎ。今更ながらも「ごめん!なるべく早く向かう!」とこれまた簡素なメッセージを返して予定のルートを必死に辿る。
彼女の好きなラベンダー色の花束、二人でも食べきれるサイズのイチゴのホールケーキ。彼女の新しい歳は、きちんと二人で祝いたい。
肩で息をしながら彼女の家のエントランスでチャイムを鳴らす。しかし返事はない。
「っれ…?」
怒らせてしまっただろうか、メッセージアプリも既読すら付いておらず、僕は急に不安に駆られる。
「ど、うしよ」
ボトムの左側に入った小さな小箱を撫でて、呟く。そして右側に入った、一応預かっていた合鍵をポケットの中で弄ぶ。連絡なしに使うのはなんとなくご法度だと思っていたが、今日だけは。僕は自分に許しを請う様にキーを挿した。
玄関前でもう一度チャイムを鳴らす、が相変わらず返事はない。
念の為携帯を鳴らすが、それも応答なし。手元のケーキ、保冷剤はそんなに入れていない。
「…ごめん」
仕方がない、僕はごくりと唾を飲んで、そのドアをゆっくりと開けた。
ー
部屋の中は明るい、思わず息を飲む。
もしかして、誰かと?身体が強張る。…いや、玄関の靴は彼女のものだけだった。
ダイニングテーブルの上にケーキと花束を置き、辺りを見渡す。
「青、ちゃん?」
ほのかな明かりが漏れるのは彼女の寝室。恐る恐るその扉を開く。
「…」
僕用の部屋着を抱きしめて、小さくなって眠る彼女の姿がそこにはあって。
一瞬で身体の力が抜けて、思わず笑みがこぼれる。待たせてしまったという申し訳なさと、そのあどけない寝顔に胸がぎゅっと締め付けられて(、この子は本当に、もう!)
「…遅くなって、ごめんね」
緩む頬もそのままにしゃがみ込んで、彼女の前髪をゆるく撫でると、ん。と小さなうめき声がして彼女がゆっくりと目を開いた。
「え、よ…祥彰?!」
彼女は飛び起きると枕元にあった携帯を見て、ごめん!寝てた!と顔の前で両手を合わせた。
「僕こそ…合鍵つかっちゃった。ごめん」
「や、全然いいのいいの!ほんっと、あー…!まさか寝るとは…」
「ううん、僕が遅くなっちゃったのが悪いから。」
「や、私も仕事で帰ってきたのさっきだし…」
「で、あの、それ…」
「…あ」
握りっぱなしの僕のパーカーを指差すと彼女はバツの悪そうな顔をしてから、照れた様に笑う。
「や、その…えーと」
「…ふふ、ごめん。意地悪しちゃった」
僕は彼女の返事よりも先に、彼女を胸の中に収める。
「ほんと、僕の匂い好きだねえ」
「…うるさい」
うるさい、なんていいながら、その細い腕をしっかりと僕の体に回す。ああ、なんて愛おしいんだろう。
「おかえり、祥彰」
耳元で優しく囁く僕の名前が、一瞬で煌めくから不思議だ。もう一度力を込めて彼女を抱きしめて、その甘い香りを胸いっぱいに吸い込む。
「あ、」
しばらくゆるく抱き合っていた僕ら。けれど彼女越しに見える、枕元に置きっぱなしの彼女の携帯は23時半を過ぎていて。
「ね、青ちゃん」
「なに?」
「お誕生日。ケーキとお花買ってきたから、準備しよっか」
「え、ほんと!?」
「当たり前!」
遅くなっちゃったけど、とくっついたまま笑うと、心まであったかくなる様な感じがして。
(ああ、この人が笑って歳を重ねていく様を、やっぱりずっと隣で見ていたい。)
花束を渡し、ケーキにろうそくを挿し、火を付ける。
彼女が生まれてきた日を、一番にお祝いする準備。
「祥彰、いくよ?」
「ん、一緒にカウントダウンしよっか」
「ご、よん、さん、に、いち…」
ぜろ。
触れるだけのキスをして、小さく微笑み合う。ほんの少しの特別を二人で彩るように。
# HappyBirthday
(ボトムの左のポケットに手を入れて、その小箱の感触を確かめた。…ひとまずは、右手の薬指で。)