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コンビニでタバコを買おうと思って千円札を出した時、ひらりと何かが落ちるのが見えて。
「あ、すいませ、っ」
慌ててそれを取り、財布に戻そうとしたのだが。
「…すみません、やっぱりタバコ、8番で」
-
「なにそれ、…切符?」
オフィスでぼんやりそれを眺めていると、山本くんは私の肩越しにひょっこりと顔を出した。
「わ、なになに」
慌ててそれをボトムのポケットに戻し、右肩に乗った山本くんの頬を抓る
「…青しゃん、いひゃい」
「突然覗き込まないの」
QuizKnockのライターになってから出会った彼は、天真爛漫で愛くるしい男の子。そんでもって私のことが好き、らしい。
「なんで隠すのさあ!見せてよ!」
「あーもーはいはいうるさい仕事に戻る!」
ぎゃあぎゃあと言い合う私たちを見かねた福良さんが苛立ちを孕んだ笑顔で私たちの前にやってきた。
「2人とも。」
「…すみません」
-
何本か記事を書いて、ベランダに出てタバコを吸う。
(まだ、持ってたのか)
昔の恋人に、最後に会いに行った時の切符。
過去の私は女々しいなあ、なんて笑いながらぼんやりそれを見つめる。まだまだ、苦しいと思ってしまうのだから。
「青さんっ」
「…ほんと、鼻が効くね」
「犬みたいな言い方しないでよ!」
けらけらと笑う山本くんは、当たり前のように私の隣にやってきた。
「あれ、」
彼は座るや否や、不思議そうな顔をして私の方をみる。
「いつもとタバコ、違う?」
「…やっぱ犬じゃん」
山本くんはもう!なんて言いながら予想が当たったのが嬉しかったらしく、ご満悦の表情。
「…なんかあったの?」
今度はいつもと違う表情であることまで読み取ったらしい彼が、私の顔を覗き込む。
「いんや、昔のこと思い出してね」
ふう、息を吐くとあの時の香りがして、柔らかく胸が痛む。
もう片方に持った、くしゃくしゃになった一枚の切符。
「…さっきの」
「…ま、もう要らないんだけど」
ぽい、と適当に地面に投げた、もうどこにもいけない切符。本当にそれがちっぽけなものに見えて。
「青さん、hiraethって言葉知ってる?」
「…なにそれ?」
ずるずると私の隣に腰掛ける山本くん。
「もう帰れないところに、帰りたいと思う気持ちのこと」
いつもより大人っぽい顔で笑い、私が投げた切符を拾い上げる。
「僕、それごと青さんのこと愛せる自信あるけどな」
「…またまた」
はぐらかそうとして、タバコの火を消す。
「寒いよね、中戻ろう…」
「青さん」
大きな瞳が私をしっかりと捉える。
「僕、ずっと本気なの。青さんの中に、消えない人がいても」
ずっと言い寄ってくる彼に揺らぐ自分が怖くて、酔った勢いでしたのは交通事故で亡くなった前の恋人の話。それでも彼の目は濁ることなく私を見つめ続けて。
(だからこそ、こわい)
「…やだよ」
「なんで」
「山本くんが、帰れないところになったら、私はどうしたらいいの。」
笑って告げるつもりだったそれは、思った以上にか細い声になる。
「…ならないよ、絶対。」
ならないから。柔らかく笑ってそう言うのとは裏腹、強く強く抱きしめる彼を、今日はゆるやかに抱きしめ返しても、許されるだろうか。
# hiraeth
(「大丈夫、僕は絶対にいなくならない。」そんな夢みたいな言葉を、もう一度信じてもいいだろうか)