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「…福良さんみたいに飄々とした男が、私は一番嫌い」
限りなく金に近い明るい髪色、ウルフヘアに派手な服とメイク。
まるで俺と正反対の彼女は、鋭い目つきで吐き捨てるようにそう言ってオフィスを出た。
ー
「ファルコン、2人じゃきつい。もう2人ぐらいテストプレイとデバッグさせたい。」
「青さん、なんでキレてるんですか。」
「…うるさいな」
所謂「ギャル」の見た目をした彼女は、最近新しく入ってきたプログラマー。
派手な風貌と取っ付きづらさから、裏では狼さん、なんて呼ばれているらしい。
その上男を取っ替え引っ替えしている、毎晩クラブにいる。なんていう根も葉もない噂まで社内に回る始末。
(そんな筈ないと思うんだけどな)
彼女自身もおそらく、人とのコミュニケーションが苦手なのだろう、隅の方や、ひどい時はベランダでも作業をしているからあまり気づかれていないようだが、いつオフィスに来てもコーディング画面とにらめっこをして、誰よりも早く来て誰よりも遅くまで作業している。
何より、彼女を連れてきたのはトップの伊沢だと言うことが全てを物語っているし、もちろん俺もそんな努力家な彼女のことをとても評価している
(、だけど)
ぱっと目があったファルコンが申し訳なさそうに俺に声をかけた。
「福良さ…「福良さんはいい。」
どうも、僕は彼女に嫌われているらしい。
ある日オフィスに着いた途端、彼女に吐かれたのが冒頭の台詞だった。
「もー、青。落ち着いて。」
少し困って笑う俺を見かねた伊沢が仲裁に入る。
山本、こうちゃん。と2人を呼び、ファルコンの元へと連れて行く。
「…悪いやつじゃねんだけどね」
ごめん、と短くこぼした伊沢を見て、俺はもう一度困ったように笑った。
ー
そこから暫く経ってからだった。
その日はアプリのリリース直前で、プログラマはじめコアメンバーがオフィスに泊まりがけで作業をしていた。少し早めに仮眠を取っていた俺は深夜3時、大体のメンバーが眠ったのを見計らい、執務室で引き続き編集作業を行なっていた。
コンコン、と扉をノックされる。
誰か起きてきたのだろう、と思いどうぞ、と短く声をかけると、意外な人の声がした。
「…福良さん」
「青、さん。」
相変わらずの鋭い目つきでこちらを見る彼女、ほんの少しヨレたメイクを見るところ、寝ずに作業していたらしい。
「テストプレイ、…一緒にしてくれませんか?」
ー
「なるほど、かなり快適に動くようになってる」
彼女は真剣な眼差しのまま、アプリの修正点やUIでのこだわりなどを事細かに話しながら俺とテストプレイを繰り返す。
「あれ、」
「…」
俺が提案したけれど、プログラムの複雑さから除外されたはずの機能がそこにはあって。
「これ…」
「そう、福良さんが提案したやつ。」
彼女は画面に視線を落としたまま、さも当たり前のように言葉を紡ぐ。
「え、すご…これ、1人で…?」
「…ファルコンとか、みんなの手伝いもありましたけど、」
ぶっきらぼうな言葉で返されて、思わず苦笑い。
「…謝らなくちゃ、いけないことがあって。」
暫くすると、突然そんな言葉を掛けられて俺は顔を上げた。
凛々しい表情で、なのに、今にも泣き出しそうな雰囲気のある彼女が俺を見ていた。
「あの日、」
私が福良さんを嫌いだ、って言った日。彼女は小さな声で言葉を続けた。
「あの日の、ちょっと前。聞いてたんです。」
その日、俺と伊沢と河村で、オフィスに来た母体会社の重役にアプリの提案を行っていた。
大枠はゴーサインが出たが、俺の提案したこの機能だけはどうしても期間や費用対効果を考えると厳しい、という返答だった。
伊沢も河村も食い下がってくれたが、そこだけはどうしても通らなくて。
「私、基本的にずっとオフィスで作業してたから、福良さんが企画編集の合間縫って、毎晩アプリのこと考えてくれてるの、知ってて。」
よく見てるね、なんて誤魔化すように笑っても、彼女は至って真面目な表情で。
「なのに、…そうですよね、厳しいですよね。なんて簡単に引いちゃって。」
少なくとも私は、最高の機能だと思ったんです。彼女は独り言ちるように言う。
「…努力を隠して、飄々と振る舞う人が嫌いっていうのは本当です。」
でも、と彼女は画面をタップしながら続ける。
「福良さんの努力は、全部知ってますし、尊敬しているので…勘違い、されてたら謝ります。」
素直じゃない言葉の後、すみませんでした、と小さく頭を下げて、やっと彼女は俺の目を捉えた。
「…ふふ」
意地らしい、けれど真っ直ぐな彼女の言葉に、つい笑みがこぼれる。
「…なんですか」
「青さん、可愛いなと思って。」
「…」
あからさまに不機嫌そうな顔になって、けれど。
「顔、赤いよ」
「!」
ふい、と目をそらす。耳まで赤いことは黙っておいてあげよう。
「…それだけです。」
明日、伊沢さんにも確認します。彼女は短くそう言って執務室を出ようとした。
「青さん」
「…なんですか」
「…ありがとう。」
彼女はムッとした顔をして、どうも。と短く呟いて部屋を出た。
相変わらず、耳を赤く染めたまま。
ー
ー
「おはよ、ってあれ。青さんは?」
「撮影部屋っぽい~…。」
朝9時ごろ、仮眠を終えてみんなの元へ向かうと、それぞれもう作業に入っていて。
寝起きの伊沢に声をかけると、気だるげにそう返事されて。
「青さん」
コンコン、とノックしても返事はなくて、ゆっくり扉を開ける。
「…あらら」
ソファで横になった彼女、お腹の上に開いたままのノートパソコンがあるあたり、どうやら作業中に寝落ちしてしまったらしい。
メイクもボロボロだけれど、少しすっきりとした表情にも見える綺麗な寝顔を見て小さく笑う。
そっとパソコンを彼女から下ろして、羽織っていたカーディガンを彼女にかける。
「…ちょっとだけ。」
誰かに許しを請うように囁いてから、乱れた前髪を治すように、そっと頭を撫でる。
「…俺はやっぱり、青さんのこと好きだな。」
ん、と小さく唸った彼女はそのまま寝返りを打って、ソファの背に顔を向けるような体制になる。
揺れた髪の隙間から見えた耳が赤く染まっている、なんて、俺の思い込みだろうか。
# 俺を嫌いな好きな人
(あ、青さんおはよ…ってなんで無視するの)
(べ、別に…)
(福良さんと青さん、仲良くなってる…?)
「…福良さんみたいに飄々とした男が、私は一番嫌い」
限りなく金に近い明るい髪色、ウルフヘアに派手な服とメイク。
まるで俺と正反対の彼女は、鋭い目つきで吐き捨てるようにそう言ってオフィスを出た。
ー
「ファルコン、2人じゃきつい。もう2人ぐらいテストプレイとデバッグさせたい。」
「青さん、なんでキレてるんですか。」
「…うるさいな」
所謂「ギャル」の見た目をした彼女は、最近新しく入ってきたプログラマー。
派手な風貌と取っ付きづらさから、裏では狼さん、なんて呼ばれているらしい。
その上男を取っ替え引っ替えしている、毎晩クラブにいる。なんていう根も葉もない噂まで社内に回る始末。
(そんな筈ないと思うんだけどな)
彼女自身もおそらく、人とのコミュニケーションが苦手なのだろう、隅の方や、ひどい時はベランダでも作業をしているからあまり気づかれていないようだが、いつオフィスに来てもコーディング画面とにらめっこをして、誰よりも早く来て誰よりも遅くまで作業している。
何より、彼女を連れてきたのはトップの伊沢だと言うことが全てを物語っているし、もちろん俺もそんな努力家な彼女のことをとても評価している
(、だけど)
ぱっと目があったファルコンが申し訳なさそうに俺に声をかけた。
「福良さ…「福良さんはいい。」
どうも、僕は彼女に嫌われているらしい。
ある日オフィスに着いた途端、彼女に吐かれたのが冒頭の台詞だった。
「もー、青。落ち着いて。」
少し困って笑う俺を見かねた伊沢が仲裁に入る。
山本、こうちゃん。と2人を呼び、ファルコンの元へと連れて行く。
「…悪いやつじゃねんだけどね」
ごめん、と短くこぼした伊沢を見て、俺はもう一度困ったように笑った。
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そこから暫く経ってからだった。
その日はアプリのリリース直前で、プログラマはじめコアメンバーがオフィスに泊まりがけで作業をしていた。少し早めに仮眠を取っていた俺は深夜3時、大体のメンバーが眠ったのを見計らい、執務室で引き続き編集作業を行なっていた。
コンコン、と扉をノックされる。
誰か起きてきたのだろう、と思いどうぞ、と短く声をかけると、意外な人の声がした。
「…福良さん」
「青、さん。」
相変わらずの鋭い目つきでこちらを見る彼女、ほんの少しヨレたメイクを見るところ、寝ずに作業していたらしい。
「テストプレイ、…一緒にしてくれませんか?」
ー
「なるほど、かなり快適に動くようになってる」
彼女は真剣な眼差しのまま、アプリの修正点やUIでのこだわりなどを事細かに話しながら俺とテストプレイを繰り返す。
「あれ、」
「…」
俺が提案したけれど、プログラムの複雑さから除外されたはずの機能がそこにはあって。
「これ…」
「そう、福良さんが提案したやつ。」
彼女は画面に視線を落としたまま、さも当たり前のように言葉を紡ぐ。
「え、すご…これ、1人で…?」
「…ファルコンとか、みんなの手伝いもありましたけど、」
ぶっきらぼうな言葉で返されて、思わず苦笑い。
「…謝らなくちゃ、いけないことがあって。」
暫くすると、突然そんな言葉を掛けられて俺は顔を上げた。
凛々しい表情で、なのに、今にも泣き出しそうな雰囲気のある彼女が俺を見ていた。
「あの日、」
私が福良さんを嫌いだ、って言った日。彼女は小さな声で言葉を続けた。
「あの日の、ちょっと前。聞いてたんです。」
その日、俺と伊沢と河村で、オフィスに来た母体会社の重役にアプリの提案を行っていた。
大枠はゴーサインが出たが、俺の提案したこの機能だけはどうしても期間や費用対効果を考えると厳しい、という返答だった。
伊沢も河村も食い下がってくれたが、そこだけはどうしても通らなくて。
「私、基本的にずっとオフィスで作業してたから、福良さんが企画編集の合間縫って、毎晩アプリのこと考えてくれてるの、知ってて。」
よく見てるね、なんて誤魔化すように笑っても、彼女は至って真面目な表情で。
「なのに、…そうですよね、厳しいですよね。なんて簡単に引いちゃって。」
少なくとも私は、最高の機能だと思ったんです。彼女は独り言ちるように言う。
「…努力を隠して、飄々と振る舞う人が嫌いっていうのは本当です。」
でも、と彼女は画面をタップしながら続ける。
「福良さんの努力は、全部知ってますし、尊敬しているので…勘違い、されてたら謝ります。」
素直じゃない言葉の後、すみませんでした、と小さく頭を下げて、やっと彼女は俺の目を捉えた。
「…ふふ」
意地らしい、けれど真っ直ぐな彼女の言葉に、つい笑みがこぼれる。
「…なんですか」
「青さん、可愛いなと思って。」
「…」
あからさまに不機嫌そうな顔になって、けれど。
「顔、赤いよ」
「!」
ふい、と目をそらす。耳まで赤いことは黙っておいてあげよう。
「…それだけです。」
明日、伊沢さんにも確認します。彼女は短くそう言って執務室を出ようとした。
「青さん」
「…なんですか」
「…ありがとう。」
彼女はムッとした顔をして、どうも。と短く呟いて部屋を出た。
相変わらず、耳を赤く染めたまま。
ー
ー
「おはよ、ってあれ。青さんは?」
「撮影部屋っぽい~…。」
朝9時ごろ、仮眠を終えてみんなの元へ向かうと、それぞれもう作業に入っていて。
寝起きの伊沢に声をかけると、気だるげにそう返事されて。
「青さん」
コンコン、とノックしても返事はなくて、ゆっくり扉を開ける。
「…あらら」
ソファで横になった彼女、お腹の上に開いたままのノートパソコンがあるあたり、どうやら作業中に寝落ちしてしまったらしい。
メイクもボロボロだけれど、少しすっきりとした表情にも見える綺麗な寝顔を見て小さく笑う。
そっとパソコンを彼女から下ろして、羽織っていたカーディガンを彼女にかける。
「…ちょっとだけ。」
誰かに許しを請うように囁いてから、乱れた前髪を治すように、そっと頭を撫でる。
「…俺はやっぱり、青さんのこと好きだな。」
ん、と小さく唸った彼女はそのまま寝返りを打って、ソファの背に顔を向けるような体制になる。
揺れた髪の隙間から見えた耳が赤く染まっている、なんて、俺の思い込みだろうか。
# 俺を嫌いな好きな人
(あ、青さんおはよ…ってなんで無視するの)
(べ、別に…)
(福良さんと青さん、仲良くなってる…?)