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昼過ぎごろ、「仕事終わりに家に行く」とだけ連絡が入った。
彼女がやってきたのは紅掛空色が映える夕方過ぎ。
「…お邪魔します」
オフィスカジュアルを身にまとった彼女を、パーカーの俺が出迎える。
いつ見てもアンバランスで、いつ見ても不釣り合いだ。
ここのところ喧嘩ばかりだったこともあり、彼女の顔は浮かないまま。この後発される言葉も大体予想がついている。俺たちの終わりは近い。
「拓司、あのね」
「玄関で話すのは嫌、っていつも言ってるでしょ」
振り絞るような声の彼女に気づかないふりをして部屋の中へ向かう。
言い返せないらしい彼女は少しのためらいの後、靴を脱いだ。
なんてことない1日になるように、適度に片付いた部屋にして、キッチンへ向かい彼女の好きなコーラをコップに入れる。いつもの流れだ。
けれど、彼女はジャケットも脱がずに…そして、ソファではなくダイニングに座る。
「拓司」
「お仕事、お疲れ様」
仕事終わりは甘い炭酸がいい、と何時も言う彼女にコーラを手渡し、俺は向かいの席に座る。
いつもの部屋、いつもの始まりを演出したいのに、彼女の痛々しいほど切ない顔が全てを物語る。
そして、
「…別れ、たい」
振り絞るような小さな声をこぼした後、彼女は自分の手元に視線を落とした。
「…それで?」
「…え?」
俺の予想外の返事に、彼女の瞳は小さく揺れる。
俺もそこまで愚かではない。
特殊な仕事をしているから、どれだけ頑張っても彼女と会える時間は少なかった。俺も頑張ったし、彼女も努力をしていた、お互いの歩み寄りは間違いなく俺たちの関係を良好に、強固にしていた。
(けれど、)
限界だ、ということは薄々感づいていた。
元々の考え方が違いすぎること、積み重なったすれ違いがもう元に戻らないこと。
(そして)
彼女の後ろにはもう、俺の知らない誰かがいるだろう、ということ。
「だから、もう…その…」
別れたい。その言葉以上のものはないということはわかった俺の意地悪な質問に、適切な解を探す彼女。考え事をする時は左下を見て、唇を触る。その癖が好きだった。
「ごめん、わかった。」
「…こっちこそ、ごめん」
「青がそういうなら、仕方ない。」
「拓司…」
「だから、泊まっていきなよ、最後に。」
いつもの笑顔で、俺はそう告げた。
--
別れた恋人の家に泊まることは間違っているのか?何れにせよ今別れたばかりのあなたに何か後ろめたさがあるわけでもないでしょう?
そんな適当な理由をつけて、彼女を言いくるめる。
(俺のことが嫌いになったわけでもないでしょ。)
ただ、真面目な君は犯した罪に耐えられないだけなんだろう。
適当な食事をして、シャワーを浴びて、同じベッドに入る。
きちんと壁際の方を向き、俺と距離を取る彼女がいじらしくて、じわりと距離を詰めて、抱きしめる。
彼女の髪から香るほのかなムスクは、俺の家のシャンプーの匂い。
「この匂いが好きで、私もシャンプー変える、っつってたよな」
「そうだった、っけ」
「嗅ぐたび思い出すんじゃない?いろんなこと」
抱きしめる力がこもる、彼女が拒絶しないのは、情なのか、罪悪感なのか。
(けれどもう、振り返ってはくれないなら)
首筋に唇を落とすと、ぴくりと震える肩。
「最後に、抱かせて」
「…いうと思った。」
彼女は今日、初めてふふ、と小さく笑って、俺の方へ体を向けた。
いつものいたずらな笑みではなく、今にも泣き出しそうな、切ない笑みを浮かべて。
「…拓司」
「青、」
彼女に名を呼ばれ、俺は噛みつくように唇を奪う。
その細い身体を、甘い声を、俺を見る瞳を脳裏に焼き付けるように。
好きとか嫌いとか、そう言うことに言及するのは今日はもうやめて、ただ求め合いたい。
まるでいつもの日々の一つのように、なんてことない1日のように過ごさせて。
本当は心が壊れそうなぐらい切ないことなんて、君には伝わらなくていいから。
(明日の朝、目が覚めた時君がいなくなっているぐらいがちょうどいい。)
# stay
(俺が弱い男だってことは、知らないで去っていってほしいから)
昼過ぎごろ、「仕事終わりに家に行く」とだけ連絡が入った。
彼女がやってきたのは紅掛空色が映える夕方過ぎ。
「…お邪魔します」
オフィスカジュアルを身にまとった彼女を、パーカーの俺が出迎える。
いつ見てもアンバランスで、いつ見ても不釣り合いだ。
ここのところ喧嘩ばかりだったこともあり、彼女の顔は浮かないまま。この後発される言葉も大体予想がついている。俺たちの終わりは近い。
「拓司、あのね」
「玄関で話すのは嫌、っていつも言ってるでしょ」
振り絞るような声の彼女に気づかないふりをして部屋の中へ向かう。
言い返せないらしい彼女は少しのためらいの後、靴を脱いだ。
なんてことない1日になるように、適度に片付いた部屋にして、キッチンへ向かい彼女の好きなコーラをコップに入れる。いつもの流れだ。
けれど、彼女はジャケットも脱がずに…そして、ソファではなくダイニングに座る。
「拓司」
「お仕事、お疲れ様」
仕事終わりは甘い炭酸がいい、と何時も言う彼女にコーラを手渡し、俺は向かいの席に座る。
いつもの部屋、いつもの始まりを演出したいのに、彼女の痛々しいほど切ない顔が全てを物語る。
そして、
「…別れ、たい」
振り絞るような小さな声をこぼした後、彼女は自分の手元に視線を落とした。
「…それで?」
「…え?」
俺の予想外の返事に、彼女の瞳は小さく揺れる。
俺もそこまで愚かではない。
特殊な仕事をしているから、どれだけ頑張っても彼女と会える時間は少なかった。俺も頑張ったし、彼女も努力をしていた、お互いの歩み寄りは間違いなく俺たちの関係を良好に、強固にしていた。
(けれど、)
限界だ、ということは薄々感づいていた。
元々の考え方が違いすぎること、積み重なったすれ違いがもう元に戻らないこと。
(そして)
彼女の後ろにはもう、俺の知らない誰かがいるだろう、ということ。
「だから、もう…その…」
別れたい。その言葉以上のものはないということはわかった俺の意地悪な質問に、適切な解を探す彼女。考え事をする時は左下を見て、唇を触る。その癖が好きだった。
「ごめん、わかった。」
「…こっちこそ、ごめん」
「青がそういうなら、仕方ない。」
「拓司…」
「だから、泊まっていきなよ、最後に。」
いつもの笑顔で、俺はそう告げた。
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別れた恋人の家に泊まることは間違っているのか?何れにせよ今別れたばかりのあなたに何か後ろめたさがあるわけでもないでしょう?
そんな適当な理由をつけて、彼女を言いくるめる。
(俺のことが嫌いになったわけでもないでしょ。)
ただ、真面目な君は犯した罪に耐えられないだけなんだろう。
適当な食事をして、シャワーを浴びて、同じベッドに入る。
きちんと壁際の方を向き、俺と距離を取る彼女がいじらしくて、じわりと距離を詰めて、抱きしめる。
彼女の髪から香るほのかなムスクは、俺の家のシャンプーの匂い。
「この匂いが好きで、私もシャンプー変える、っつってたよな」
「そうだった、っけ」
「嗅ぐたび思い出すんじゃない?いろんなこと」
抱きしめる力がこもる、彼女が拒絶しないのは、情なのか、罪悪感なのか。
(けれどもう、振り返ってはくれないなら)
首筋に唇を落とすと、ぴくりと震える肩。
「最後に、抱かせて」
「…いうと思った。」
彼女は今日、初めてふふ、と小さく笑って、俺の方へ体を向けた。
いつものいたずらな笑みではなく、今にも泣き出しそうな、切ない笑みを浮かべて。
「…拓司」
「青、」
彼女に名を呼ばれ、俺は噛みつくように唇を奪う。
その細い身体を、甘い声を、俺を見る瞳を脳裏に焼き付けるように。
好きとか嫌いとか、そう言うことに言及するのは今日はもうやめて、ただ求め合いたい。
まるでいつもの日々の一つのように、なんてことない1日のように過ごさせて。
本当は心が壊れそうなぐらい切ないことなんて、君には伝わらなくていいから。
(明日の朝、目が覚めた時君がいなくなっているぐらいがちょうどいい。)
# stay
(俺が弱い男だってことは、知らないで去っていってほしいから)