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わしわしと頭をバスタオルで拭きながら、山本くんはリビングに出てきた。
「青さん〜!いいお湯でした」
「あいあい、それはなにより」
QuizKnockの後輩である山本くんは、申し訳なさそうにソファの上で小さく体操座りをする。「もっとくつろいでいいよ」と声を掛けても、「青さんの家でそんなことできないです〜、至れり尽くせりなので、これで十分です!」と照れたように笑ってそこに座っている。
私は冷蔵庫からミネラルウォーターとビールをを一本ずつ取り出し山本くんを見る。少し悩んだ後にビールの方を指差した彼に笑いながらそれを渡し、私ももう一つビールを取り出し開ける。ありがとうございます、と小さく頭を下げ乾杯する彼の律儀さにちょっと笑いながら、言葉を紡ぐ。
「でも、本当災難だったね」
「え?」
「…新人が山本くんに盛大にリバース」
「…青さん〜。ほんとあれは笑えない〜」
そう言いながら眉を下げて笑う彼、とんでもなさすぎて大爆笑してしまった先ほどの大惨事を思い出し、また小さく笑う。
「ほんと、介抱付き合わせた上に家まで上げてもらってすみません…」
「いいのいいの、みんなも泥酔した新人放置して帰るのえぐかったよね」
「青さん以外本当無慈悲で笑っちゃったなあ…」
「はは!伊沢も伊沢で泥酔してて福良たち大変そうだったもんね!」
「あれも結構地獄絵図だったな…」
「ほんと、家近くてよかったわ。」
「ありがとうございます…まあでも…今日の服全部ダメになるんだろうな〜…!」
「そうだね〜、望み薄。」
「うう〜」
うなだれる山本くんを見て笑う。
替えの下着までは流石にないが、たまたまメンズでも着られそうな服一式が置いてあったことが救いだった。一応わずかな望みをかけて彼の服は手洗いののち洗濯乾燥に掛けたが、重曹でも振って洗わない限り復活は望み薄だろう。明日適当な服買ってきてやるか、と思いながらソファに座り彼の後頭部を見つめる。
「青さんは、お風呂大丈夫ですか?」
「ん?そうだねえ、ざっとシャワー浴びようかな。とりあえずドライヤーそこに置いてるし髪の毛乾かしときなね。」
「ありがとうございます」
いつものふわふわとした笑顔で見送られ、私は浴室へ向かう。
(ほーんと、どうしてこうなった)
シャワーも適当にすませ、部屋着に着替えて軽く鏡を見る。アイブロータトゥーとマツエクしててよかった、と思いながら髪をわしわしと適当にタオルドライをする。
山本くんはグループでも有名なムードメーカー。律儀で礼儀正しいし、老若男女問わず好かれる男の子だ。
福良河村と同じラインの私からすれば、とても仲がいい弟のような存在…とはいえ、視線や態度、些細な心配りに男女を意識する瞬間が過去になかったとはいえない。
(多分お互い、悪い気はしてない、んだろうけども)
流石に見て見ぬ振りのできない状況だったとはいえ、あっさりとお互い(おそらく)気のある年下の男の子を家に上げてしまった後ろめたさはある。しかしまあ、こんなイレギュラーな状況の上時間も時間だ、今日は仕方ない。泊まっていくにしろ、あとは私が大人な対応をすれば大丈夫だろう。
「…山本くん?」
そんなことを考えつつ、適当に支度をしてリビングに出ると、ドライヤーも済んだ山本くんがすやすやとソファに横になって寝ている。
「そりゃあお疲れだよね」
いつも以上にあどけない顔で眠る山本くんに、思わず笑みがこぼれる。
「ン…、あ…僕寝て…!…すいません」
ゆっくりと寝返りを打ち、瞼をこすって私を見る。なぜか私を見た後少しバツの悪そうな顔をしていたから、私はおどけたように笑った。
「疲れてるもん、仕方ない。ベッド使いなよ、私はソファで寝るから」
「いや!それはダメ!」
頭を軽く振り、目を覚ました山本くんが体を起こす。空いたスペースに腰をかけると、山本くんは私とほんの少し距離を取る。(どうした?)そう思いながらも話を続ける。
「家主の言うことが聞けんのかきさまは」
「レディーファーストです!」
「先輩の言うことが聞けんのか」
「青さんだからこそなの!」
「は〜ん。今度の提出企画ボツされてもいいんだ。」
「それは、まあ、困りますけど〜…」
うーん、と山本くんは唸って私を見る。少し口をパクパクさせた後、消え入りそうな声で一言。
「…じゃあ、一緒に、寝ます?」
「…は?」
「な、なーんて、ハハ!冗談です冗談!」
あわあわと手を振り否定する山本くん。なるほどそんな顔をされてはいたずら心が芽生えると言うもので。
「…いいけど?」
「えっ」
ベッド行こ、と彼の肘を掴み寝室へ向かう。その間もえ?え?と声を漏らす山本くんに思わず笑みがこぼれる。
「そーれ!」
「わ!」
そのままぽいと山本くんをベッドに放り投げると、まだまだ驚いた顔の彼が私を見る。
「な、青さん…!?」
「…というわけで、私はソファで寝ます。おやすみ!」
ここはやはり先輩と後輩という関係を一番に考えなければ。『大人の振る舞い』の模範解答を実行し、リビングに戻ろうとする。
「あっ!!」
やられた!という顔をした山本くんが慌てて私の腕を掴む。
「それはずるいです〜」
「あ〜もう引っかかったのはそっちでしょ!早く寝る」
じゃれ合うように問答して、きゃっきゃと笑い声を上げる、そろそろ切り上げてソファに向かおうとした時だった。
「わ!?」
山本くんは急に後ろから私を抱きすくめ、そのまま倒れるようにベッドに沈んだ。
「ちょ、何して」
「もうダメです」
「な、にが」
「…青さんが、悪いんですからね」
耳元、低い声で名前を呼ばれて、鼓動が早くなる。
「一緒に寝てくれる、んですよね?…」
甘い声が耳元で響く。『大人の振る舞い』を考えなくちゃいけないのに、突然の出来事に動揺を隠しきれない。
「ちょ、山本くん。悪い冗談は辞めな…」
おどけてそう言い切る前に、ぐるんと体制を変えて押し倒されるような形になって。
「…嫌、ですか?」
眉尻を少し下げた、困った顔。ほんの少し隠しきれていない、男の欲が滲んだ瞳。熱いまなざしに思わず言葉を失い、目を逸らす。
「青さん、こっち見て、ください」
山本くんは私の視線を捉えるようにぐっと顔を寄せる。
「青さんが、そんな、無防備な格好であんなこと言うから悪いんですよ」
先ほどの視線、バツの悪そうな顔、不自然な距離感。
彼も後輩としての距離感を保とうと必死だったことに気づく。そんなことを考えていると、頬、瞼、額…いろんなところに優しく唇が降る。熱っぽい吐息が顔にかかっても、唇にだけは重ねない。どうも私のイエスがない限りは、これ以上は進まないと決めているらしい。そんな彼のギリギリの理性に、少し笑って。
「山本くん」
「なんですか」
「…もう、手、解いて」
「……、」
ベッドに押さえつけるようにされていた両手が解放される。少し諦めたような、切ない顔をした山本くんが、体を起こそうとする。
私はそれを遮るように彼の首に両腕を回し、唇を重ねた。
「っ…!」
「…一緒に寝るん、でしょ?」
ほんの少し驚いて、はあ、と切ないため息を吐いた後、ゆっくりと私と一緒にベッドになだれ込む山本くん。
「いい、の?」
まだ困惑した様子の山本くんが、敬語も忘れて私に問いかける。答えることなく小さく微笑み、首に回した腕を少し強めると、彼は優しく笑って深く私に口付けた。
「青さん、本当に、ずるい」
大人の振る舞い、なんてつまらないこと今日は忘れて、熱に溺れる。
彼もすっかり後輩の顔を忘れて、貪るように、でも優しく私の唇に、体に溶けていく。
ずるい、そう言いながら甘いまなざして私を愛するあなたの方が、よっぽど魅惑的でずるいことは、まだ内緒にしておこう。
# 大人の振る舞い
(もー、ほんと、ずっと…好きだったんですよ、青さん)
(まだ、敬語つかうの?青さんはさみしいなあ。)
(…もう、青さん、意地悪だけど、ほんっとーに、大好き!)