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ちょっと換気しようか、なんて誰かが声をかけたから、久しぶりにオフィスのブラインドを開けると、窓の外…遠くに僅かに桃色が見えて。
「わ」
「あれ、青ちゃん、どうしたの…って…あ!」
近くにいた山本くんと2人、思わず小さな声を漏らし、目を合わせた。
「ね、青ちゃん」
山本くんはその目をキラキラさせて、私をじっと見つめた。
-
春の日差しが私たちを優しく包み込む。
「んー…!気持ちいい!」
「本当に大丈夫?伊沢さんに内緒で出てきちゃって…」
「すぐ戻れば大丈夫だって!」
山本くんは悪戯に笑って私の手を引いた。
社内恋愛って、許されると思う?なんて笑いながら
山本くんに告白されたのはまだ冬真っ盛りの12月だった。
(2人で迎える初めての春)
至極当たり前なんだけれど、そんなことすら嬉しくて、私も小さく笑う。
「青ちゃんと桜見れるチャンス、逃したくないじゃん?」
大きな瞳をこちらに向けて、首を傾げて笑う彼。繋いだ手にきゅっと力が込められた。
ここの所は新年度に向けての編成改革などでばたついていたのもあるし、これぐらいなら許されるかな。念のためにちょっとした差し入れでも買ってもどろう…と思っていると、はらり、一枚の薄桃が目の前を通った。見上げると、空を埋め尽くす程の桜。
「…綺麗、」
「だねえ」
ゆるゆると歩いてやってきたオフィス近くの河川敷には、満開の桜が所狭しと並んでいて。
ふと隣の山本くんを見ると、目を細めてその木々を見上げていた。長い睫毛が綺麗で、その優しい表情のせいかいつもよりも男らしく見える。春の日差しがよく似合う、柔らかい横顔。
「ね、青ちゃん、知ってる?」
山本くんは何かを思い出したように私の方を見た。
「舞い落ちる桜の花びらをね、地面に落ちるまでに掴めたら願いが叶うってやつ!」
先ほどの表情はどこへやら、彼は楽しそうに繋いでいない方の手を空へ伸ばした。
「あ、なんか、聞いたことはあるかも」
「よーし、じゃあ…どっちが先に取れるか勝負だ!」
私の返事を聞くより先に、山本くんは繋いだ手をするりと離し舞い落ちる桜を追った。
「あ、ずるい!」
私も彼に負けじと桜を掴もうと両手を伸ばす。日差しが暖かい、午後2時。
しかし、花吹雪…というほどではないが、それなりに舞っているのにも関わらずなかなか上手く掴めなくて
「青ちゃん下手だね〜?」
「山本くんも掴めてないくせ、に!」
けらけらと2人笑いあいながら、桜の下で踊るように花びらを追いかける。
「わ、」
その時、ひらり、一枚の花びらが舞い、ゆっくりと私の手に落ちてきた。
「つーかまえた!」
山本くんの左手にも、桃色が触れる。
「これ、どっちが先かな?」
「…同時?」
「じゃ、そういうことにしといてあげる」
「や、青ちゃん上からだね〜」
嬉しそうに、けれど優しくその左手で花びらを包み込む彼が愛おしくて、思わず小さく微笑んだ。
-
「…ね、なにをお願いしたの?」
みんなへの差し入れに飲み物とお菓子を買って、また2人で桜並木の下をゆっくりと歩いてオフィスへ戻る。
悪戯に私の顔を覗き込む山本くんの目はキラキラしていて。
「…あ、忘れてた」
「ええ!?」
山本くんより先に掴まなくちゃ、という気持ちが先走りすぎて、肝心のお願い事を忘れていたと言う私をみて、彼はけらけらと笑った。
「そーいう山本くんはなにお願いしたの?」
ちょっぴり恥ずかしくなって、そう聞き返すと、山本くんは「聞きたい?」なんて意味ありげに笑う。
「ちょっとだけ、気になるかも」
「ちょっとだけなのー?」
「上からだなー」
ま、教えてあげないこともないけど?なんて冗談めいて笑う彼に合わせて「やっぱりとっても気になります」なんて笑って返す。
「僕のお願いはね」
その瞬間、強い風が吹いてあたり一面に桜が舞う。
「来年も、再来年も、その先もずーっと、青ちゃんと一緒に桜を見られますように、って。」
桃色の嵐の中、柔らかく目を細めて笑う彼に、私はゆっくりとまた、恋に落ちた。
-春の嵐-
(願い事を忘れていたなんて嘘。私も、あなたとおんなじ気持ち)