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「すみません、拓朗いてますか?」
オフィスの扉を開けた先に立つのは、揺蕩う艶のある長い黒髪、小柄だが凛とした顔つきの女性。そして耳に残るキツい関西弁。
彼女への第一印象は、美しい。ただそれだけだった。
-
「川上、お客さん」
「ん、誰ですか?」
「黒髪ロングの美人」
「た〜く〜ろ〜う〜」
「うわ」
「うわ!やないねん」
その美人は僕の肩越しに、玄関口まで出てきた川上をものすごい剣幕で睨み付けていた。
「まーた拓朗がおばちゃんからの連絡無視するから私んところに荷物きとったで?!どこまで親不孝なん!」
「あーもーごめんて…俺から連絡いれるから…」
「毎回毎回青ちゃんへ、て手紙と私の分まで添えてくれてる。めちゃくちゃ申し訳ないやんか!」
彼女は両手いっぱいの紙袋をドン、とデスクに置いた。
「アンタ、どーせ取りにこおへんから持ってきたったわ。いらんならこの辺の人らにでも分け。おばちゃんにはかっっならずお礼の連絡するように!!」
とんでもない早口でそれだけまくし立てると、彼女は僕の顔を見て、ほんの少し驚いたような顔をしてから「...すみません、お邪魔しました。」と一言添えて、丁寧に頭を下げて出て行った。
(川上に怒鳴ることで頭いっぱいで、僕のこと見えてなかったっぽいな〜)
玄関口に取り残された僕と川上は、思わず目を合わせて笑った。
「...嵐のようだったね」
「すみません…」
「…彼女?」
「ちゃいますちゃいます!腐れ縁っていうか」
彼女にあてられてすっかり関西弁の川上ははあ、とため息をついて置いて行った紙袋を見た。
「中学からの知り合いなんです、アイツ。」
「あら、長いお友達で」
「はい。塾一緒で仲良くなって、中高はちゃうんですけどそのまま同じ東大きて…親も知り合いなんでこんな感じで…」
川上は、ほんまうるさいだけの女ですよ。と深いため息をつく。
「すごいね、川上が超関西弁になってる」
「あ、すみません」
「いいのいいの。」
玄関に置かれた紙袋を2人で持ってデスクに戻って、声だけ聞こえていたらしいメンバーに事情を説明して。
(...なんとなく、綺麗な子だっていうことは伏せたままにして。)
-
「…青のこと?」
数日後、たまたま川上と2人きりの時間があって、それとなく彼女の話を振ったらめちゃくちゃに驚いた顔をされて
「そうだけど…すごい顔するね」
「はあ、まあ」
「やっぱり実は付き合ってる、とか?」
「まさか!キツい女の子は好みじゃないです」
この顔はどうも嘘ではなさそうだ。あんな綺麗な子がずっと友達のままなんて、川上は凄いやつだ。
「にしても…めちゃくちゃ綺麗な子だったよね、僕びっくりしちゃって。」
「そうですか?」
「そうでしかないでしょ?あんな美人が幼馴染なんて漫画じゃん。川上ほんとに目ついてる?」
相変わらずちょっと驚いた顔の川上に冗談めいてそんなことを言っていると
「…福良さん、そんなに気になってるなら紹介しましょうか?」
「え」
「あんなやつ貰い手いないし逆にお願いします」
川上は彼女に確認も取らず、あれよあれよという間に彼女の連絡先を僕に渡してきた。
「幸せにしたってください」
「さすがに話が飛びすぎじゃない?」
「あいつの恋愛に関してなんて考えたことなかったんですけど、言われてみたら青には福良さんみたいなおおらかな人があってるなって」
ほんの少し関西弁混じりで優しく微笑む顔を見るに、彼女のことは気にかけているのだろうと思う。果たしてこんな形で連絡していいのかはわからないけれど。
-
-ふくらさん!?
-そう、知ってくれてたの?
-拓朗から聞いてるのと、前お会いしたから…
-ああ、紙袋持ってきてくれた日ね?覚えててくれてたんだ、ありがとう
-それで、突然なんだけど…。
川上から、と告げただけですんなり食事の誘いをOKしてくれた彼女には驚いたが、ここまで勢いで来てしまったのだから。と気合を入れてちょっとオシャレな居酒屋にしたりして。
「…あの日、ほんまにすいませんでした。」
「いーのいーの、川上が悪いんだし」
「まあ、そう…ですね」
どうも歯切れの悪い会話。
「やっぱり、突然のご飯のお誘い…びっくりさせちゃった、よね?」
見れば割といいペースでお酒を飲んでいるようで、ちょっと心配になる。
「あ!いや!びっくりはしたんですけど…ほんま、拓朗が何かしたんかなって…」
「いやいや、そんなことで青ちゃん呼び出したりしないよ。本当に仲がいいんだね」
「ただの腐れ縁です!」
食い気味に言われてしまい、少したじろいだ後笑った。
「び…っくりした、ごめんごめん。」
「あ、すいませ、でも、ほんまに、ほんまに拓朗とはただの友達で、全然そーいうことはないんで…!」
万華鏡のようにくるくる変わる表情に思わず頬が緩む。
「なんか、内面は意外と可愛い感じなんだね。」
なんの気無しにそういうと、彼女は完全にフリーズした後、見る見るうちに赤くなっていって。
「あ、あは!嫌やわあ福良さん、そんなことないです!」
何杯目かのハイボールをぎゅっと両手で握り、勢いよく飲み干す。おかわりを頼もうとする彼女を制して、一度お水を頼んだ。
「結構飲んじゃった?」
「あ、そこそこ強いので!大丈夫です!…可愛いとか、言われ慣れてないから、ちょっと、どないしたらいいかわからんくて…」
ふにゃりと笑う顔。ギャップがどうのこうのといつも煩い伊沢の気持ちが分かってしまいほんの少し悔しい気もしたが、これは認めざるを得ないな。なんて思いながら、楽しそうに話す彼女の瞳を見ていた。
-
「今日は、ありがとうございました。」
なんだかんだで最後の方は会話も弾んでよかった。お酒のせいかほんの少し呂律の回っていない彼女が勢いよく頭を下げる。
「しかもお手洗い行ってるうちにお会計してもらってたみたいやし…ほんまにすいません」
「いいえ。なんだかんだ僕も結構飲んじゃったからね。懲りずにまた遊んでくれたら嬉しいな?」
青ちゃんははい!と勢いよく返事しそうな顔をしたのに、我に返ってぐっと堪えた後…イエスともノーとも取れる曖昧な照れ笑いを浮かべてもう一度僕に頭をさげた。顔に出やすい子だ。
腕時計を見ると23時を過ぎていて、駅まで送るよ。というと彼女は困ったように笑ってほんの少し考えた後、お言葉に甘えて…と僕の隣に並んだ。
人気の少ない路地をゆっくり、2人肩を並べて歩く。
「にしても、拓朗…ほんまになんて言うたんですか?」
青ちゃんは、お酒のせいか幾らか柔らかい表情で僕の顔を覗き込んだ
「ん?どういうこと?」
「まだドッキリかもしれんって思ってるんですけど」
「...なんの話?」
「...拓朗、ほんまになんもゆうてないんですか?」
「青ちゃんのこと?中学からの友達だってことくらいしか聞いてないけど…」
「ほんまですか?」
「ほんとだよ?」
ぐっと寄せられた顔に少しどきりとしつつ、冷静を装い言葉を返す。
「じゃあ、いいです」
むう、と小さく唸ったあと青ちゃんは元の体勢に戻った。
「そこまで言われたら気になるんだけど…」
「き、気にしないでください」
「え〜」
耳まで真っ赤に染まった彼女、初対面だけど少しはお酒の勢いってことにしていいかな。なんて悪いことを考えて、数歩先を歩く彼女の手を柔らかく握った。
「ね、教えて?」
「...絶対、聞いてるでしょ…」
青ちゃんは真っ赤な顔で僕と掴んだ手の両方を見て。
「だから何を?」
そんな姿も可愛くて、手を握ったまま微笑むと、観念したように青ちゃんは深いため息をついた。
「ゆうてたんです」
「?」
「拓朗に届け物しにオフィス行って…初めて見た時から、あのメガネの人がカッコ良かったって、拓郎にゆうてたんです」
泣き出すんじゃないか、ってくらい潤んだ瞳が揺れる。
「拓朗にあんなガミガミ言うとこ見られてもーたから、もう連絡先とか聞けへんわあって、」
さっきまでの鋭い眼差しが嘘のように、少女の顔になる。
「やから、みんなグルで私のことからかってるんちゃうんかなって、おもて」
彼女が言葉を言い切る前に、僕は思わず吹き出して。
「な、なに笑ってるんですか?!もーやや、手え離してください!」
「ごめんごめん、青ちゃん」
「なんですか…?!」
「抱きしめて、いい?」
「え」
「…いいって顔してる」
答えも聞かずにゆっくりと彼女を胸に抱きしめる。
「もー、どうしてくれるの」
「ふ、くらさ…?」
「川上のやつ、そんないい話全然教えてくれなかったよ」
「ええ…?」
「より一層、気になっちゃうじゃん。青ちゃんのこと。」
「な、」
「僕も、初めて見たときにびびっときちゃったの」
同じだね?って笑ったら、彼女は照れたように笑って。
「夢みたい、や」
なんて蕩けた顔をするから。
「もー、青ちゃんが悪いんだからね」
僕は少し身をかがめて、彼女の頬に触れるだけのキスをした。
「え、え、えええ…!?」
「今日はこれくらいにしないと僕の心も持たないや。ゆっくり、お互いのこと知っていこう?」
「っ、はい!」
漫画みたいな急展開に驚きながらも、僕も彼女も満更でもない顔をして柔らかくうなずいた。
その手は繋いだままで。
-運命的な偶然に-
(拓朗!どういうことなん!)
(その顔は上手くいった顔やな、おめでとう)
(なんやねんうるさいどつくぞ)
(おー怖い怖い)