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まただ。
吐き気を催すほどの嫌悪感と恐怖に、思わず目を瞑る。
ゆっくりと、何かを確認するように撫で回す掌を避けるように身を捩るが、やはり離れてはくれない。
東京大学に通うようになって、2年目から下宿を始めた。その頃から殆ど毎日のようにあう痴漢。服装の雰囲気や車両、時間を変えてもどうにも変化がない。
たしかに小柄で気は小さいが、こんなにも狙われるものなんだろうか。今日もわずかな抵抗を諦めて、震える手で祈るように吊革を掴み、ため息を押し殺した時だった。
「あれ、この前の飲み会で一緒だった、よね?」
頭上右側から通る声がして、はっとそちらを向く。私と同じく両の手でつり革を掴んだ背の高い男性。こちらに向けられた眼差しから、先程の問いかけが私に対してだということが分かる…が、見覚えのない顔。
「え…?」
そもそも私は最近飲み会らしい飲み会をしていない。人違いです、そう言おうとしたけれど彼は間髪入れず言葉を紡ぐ。
「いや!絶対そう!ほら、この時の!」
声を掛けてきた男性はぐっと私の隣に寄り添うように移動してきた。満員電車の中でもここまで大きいとパワーで動けるのか、と感心してしまう。その分の圧も強いが…。
ぐっと身を寄せられ、思わず身体が強張る。瞬間にお尻の辺りを弄っていた手が離れた。
声の男性は、わたしにだけ見えるように携帯の画面を向けてくれた。
「ホラ!これが俺で〜、ここ!ここに座ってるの君だよね?席遠くてちょっとしか喋れなかったけど〜…」
しかし、彼が私に向けた画面はただのメモ帳で。
『ごめんなさい、
痴漢されているように見えたので声かけさせてもらいました。もしそうならこのまま話を合わせて貰えれば側にいます。
勘違いなら適当に俺のことあしらってください!』
「画質わり〜なこれ…みえる?」
呆気にとられていると、声をかけられてハッと我にかえる。私よりずいぶん高い位置にある彼を見上げると、白い歯を見せて笑った。
ここまでくれば藁をもすがる思いだ。この人がいい人なんて保証はない、けど、悪い人という保証もないのなら。
「...ほん、と、ですね。前の、金曜日だったかな」
「…だよな?!よかった〜、そっくりさんだったら恥ずかしいなあって声掛けてから思っちゃったわ!」
その人はまた白い歯を見せてニッコリ笑って、さりげなく私の後ろに回った。
「にしてもこの時間相変わらず混んでんな〜…?って顔色悪くない?大丈夫?」
ぐっと私の顔を覗き込んだ彼は、心配そうに私の肩を抱いた。
「人多いもんなー…次、降りよっか。あ、ゼミに遅刻の連絡するからちょっと待って。」
彼は慣れた手つきで先程のメモ帳に追記する
『ごめん、人が多すぎて流石に犯人がどれかまでは掴めなかったです。ただマジで顔色悪そうなので時間があるなら一旦降りましょう』
ふと見上げると、彼は小さく笑いかけてくれて。
この人の眼差しには、この人の手の温もりには、どうも悪意は感じられない。不安な気持ちを溶かすように私は素直に彼に従った。
「ほい、お水」
「あ、りがとうございます…」
彼…もとい、須貝駿貴さんは柔らかく笑いながら私の向かいの席に腰掛けた。
「…落ち着いた?」
あの後、須貝さんはまだすこし怯えている私を見兼ねて、学生証と連絡先を私に見せてくれた。マジで怪しいモンじゃないから!なんてホームで大声でいう物だから、周りは怪訝な顔をしていたけれど、同じ大学の先輩ということも分かり、安心した私は改めてお礼を伝えた。
すっかり授業にいく気力も無くしてしまった私を見兼ねてか、
「このまま帰ったらどうせなんも食わずに寝ちゃうんじゃない?なんか食べて元気ださん?」と誘ってくれて…近くの喫茶店でお茶をご馳走になっている。
「すみません、ここまでしていただいて…」
「いーのいーの!俺の方こそごめんね?付き合わせちゃって。」
「あ、大丈夫です。まだ欠席したことのない授業だし、今日は2限で終わりなので…」
「ならよかった!じゃ、ナイスガイとケーキ食って元気出そうな!」
「ふふ、」
出会った瞬間から感じる根明な彼の一挙手一投足に、少しずつこわばっていた心も解けて、思わず小さく笑ってしまった。
「…やーっと笑った。」
須貝さんはほんの少し驚いた顔をした後、またにっとわらった。
その言葉と、優しい笑顔に思わずはっとする。この人は、ずっと私のために。
「…ああいうの、男側じゃ完全に理解は出来ないけど、絶対怖いよな。ほんと、なんもしてやれなくてごめん。」
須貝さんは真面目な顔で、私に深々と頭を下げた。
ちゃんと捕まえられたらよかったんだけどなー…!と悔しがる須貝さんが優しくて、かっこよくて、思わず
「...青ちゃん、泣いてる?!」
須貝さんはごめんごめん!と慌てふためいて、新しいおしぼりを店員さんから貰ってくれた。
「いえ、違くて」
「え、なに?思い出しちゃった?」
「…あ、ありがたくて、うれしくて」
私は受け取ったおしぼりできゅっと目元を押さえて、大きく深呼吸した後にもう一度笑った。
「須貝さんみたいな、素敵な人が助けてくれて、本当に良かったです。ありがとうございます。」
-
「青ちゃん!」
「わ、須貝さん」
「おーはよ」
あの後、連絡先を交換した私たち。
須貝さんは「まだまだ心配だから!」と私と時間を合わせて通学してくれるようになって。
私のために明るく振る舞ってくれていた、というよりかはどうも本当に根明らしく。人気者の彼のおかげで学内の友人知人まで増える程、日々は新しいものとなった。
「ひゃー、今日もすげえや。あ、青ちゃんはこっちね」
ぎゅうぎゅうの電車の中でも、私を守るように立ってくれる須貝さん。
「すみませんいつもいつも…」
「いーのいーの、あれからはもう平気?」
「はい、おかげさまで!」
須貝さんと通学するようになってからは痴漢されることも殆どなくなって、でも
「でも、彼女でもなんでもないのにこんなによくしてもらって…なんだか申し訳ないです」
がたん、と音がして電車が動き出す。
「…じゃ、俺と付き合う?」
「え?」
「なーんちゃって」
須貝さんはしてやったりな顔をして、私を覗き込む。
「…もう」
一瞬で飛び跳ねた心臓を誤魔化すように須貝さんを睨む。
「…大丈夫、降りたらちゃんと言うから。」
ぽん、と私の頭を撫でて須貝さんが呟いた言葉は、アナウンスにかき消されてよく聞こえなかったけれど、この胸の高鳴りがバレないように、私は小さく微笑んで、須貝さんの胸に体を預けた。
○○---午前9時、君に包まれながら---○○
吐き気を催すほどの嫌悪感と恐怖に、思わず目を瞑る。
ゆっくりと、何かを確認するように撫で回す掌を避けるように身を捩るが、やはり離れてはくれない。
東京大学に通うようになって、2年目から下宿を始めた。その頃から殆ど毎日のようにあう痴漢。服装の雰囲気や車両、時間を変えてもどうにも変化がない。
たしかに小柄で気は小さいが、こんなにも狙われるものなんだろうか。今日もわずかな抵抗を諦めて、震える手で祈るように吊革を掴み、ため息を押し殺した時だった。
「あれ、この前の飲み会で一緒だった、よね?」
頭上右側から通る声がして、はっとそちらを向く。私と同じく両の手でつり革を掴んだ背の高い男性。こちらに向けられた眼差しから、先程の問いかけが私に対してだということが分かる…が、見覚えのない顔。
「え…?」
そもそも私は最近飲み会らしい飲み会をしていない。人違いです、そう言おうとしたけれど彼は間髪入れず言葉を紡ぐ。
「いや!絶対そう!ほら、この時の!」
声を掛けてきた男性はぐっと私の隣に寄り添うように移動してきた。満員電車の中でもここまで大きいとパワーで動けるのか、と感心してしまう。その分の圧も強いが…。
ぐっと身を寄せられ、思わず身体が強張る。瞬間にお尻の辺りを弄っていた手が離れた。
声の男性は、わたしにだけ見えるように携帯の画面を向けてくれた。
「ホラ!これが俺で〜、ここ!ここに座ってるの君だよね?席遠くてちょっとしか喋れなかったけど〜…」
しかし、彼が私に向けた画面はただのメモ帳で。
『ごめんなさい、
痴漢されているように見えたので声かけさせてもらいました。もしそうならこのまま話を合わせて貰えれば側にいます。
勘違いなら適当に俺のことあしらってください!』
「画質わり〜なこれ…みえる?」
呆気にとられていると、声をかけられてハッと我にかえる。私よりずいぶん高い位置にある彼を見上げると、白い歯を見せて笑った。
ここまでくれば藁をもすがる思いだ。この人がいい人なんて保証はない、けど、悪い人という保証もないのなら。
「...ほん、と、ですね。前の、金曜日だったかな」
「…だよな?!よかった〜、そっくりさんだったら恥ずかしいなあって声掛けてから思っちゃったわ!」
その人はまた白い歯を見せてニッコリ笑って、さりげなく私の後ろに回った。
「にしてもこの時間相変わらず混んでんな〜…?って顔色悪くない?大丈夫?」
ぐっと私の顔を覗き込んだ彼は、心配そうに私の肩を抱いた。
「人多いもんなー…次、降りよっか。あ、ゼミに遅刻の連絡するからちょっと待って。」
彼は慣れた手つきで先程のメモ帳に追記する
『ごめん、人が多すぎて流石に犯人がどれかまでは掴めなかったです。ただマジで顔色悪そうなので時間があるなら一旦降りましょう』
ふと見上げると、彼は小さく笑いかけてくれて。
この人の眼差しには、この人の手の温もりには、どうも悪意は感じられない。不安な気持ちを溶かすように私は素直に彼に従った。
「ほい、お水」
「あ、りがとうございます…」
彼…もとい、須貝駿貴さんは柔らかく笑いながら私の向かいの席に腰掛けた。
「…落ち着いた?」
あの後、須貝さんはまだすこし怯えている私を見兼ねて、学生証と連絡先を私に見せてくれた。マジで怪しいモンじゃないから!なんてホームで大声でいう物だから、周りは怪訝な顔をしていたけれど、同じ大学の先輩ということも分かり、安心した私は改めてお礼を伝えた。
すっかり授業にいく気力も無くしてしまった私を見兼ねてか、
「このまま帰ったらどうせなんも食わずに寝ちゃうんじゃない?なんか食べて元気ださん?」と誘ってくれて…近くの喫茶店でお茶をご馳走になっている。
「すみません、ここまでしていただいて…」
「いーのいーの!俺の方こそごめんね?付き合わせちゃって。」
「あ、大丈夫です。まだ欠席したことのない授業だし、今日は2限で終わりなので…」
「ならよかった!じゃ、ナイスガイとケーキ食って元気出そうな!」
「ふふ、」
出会った瞬間から感じる根明な彼の一挙手一投足に、少しずつこわばっていた心も解けて、思わず小さく笑ってしまった。
「…やーっと笑った。」
須貝さんはほんの少し驚いた顔をした後、またにっとわらった。
その言葉と、優しい笑顔に思わずはっとする。この人は、ずっと私のために。
「…ああいうの、男側じゃ完全に理解は出来ないけど、絶対怖いよな。ほんと、なんもしてやれなくてごめん。」
須貝さんは真面目な顔で、私に深々と頭を下げた。
ちゃんと捕まえられたらよかったんだけどなー…!と悔しがる須貝さんが優しくて、かっこよくて、思わず
「...青ちゃん、泣いてる?!」
須貝さんはごめんごめん!と慌てふためいて、新しいおしぼりを店員さんから貰ってくれた。
「いえ、違くて」
「え、なに?思い出しちゃった?」
「…あ、ありがたくて、うれしくて」
私は受け取ったおしぼりできゅっと目元を押さえて、大きく深呼吸した後にもう一度笑った。
「須貝さんみたいな、素敵な人が助けてくれて、本当に良かったです。ありがとうございます。」
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「青ちゃん!」
「わ、須貝さん」
「おーはよ」
あの後、連絡先を交換した私たち。
須貝さんは「まだまだ心配だから!」と私と時間を合わせて通学してくれるようになって。
私のために明るく振る舞ってくれていた、というよりかはどうも本当に根明らしく。人気者の彼のおかげで学内の友人知人まで増える程、日々は新しいものとなった。
「ひゃー、今日もすげえや。あ、青ちゃんはこっちね」
ぎゅうぎゅうの電車の中でも、私を守るように立ってくれる須貝さん。
「すみませんいつもいつも…」
「いーのいーの、あれからはもう平気?」
「はい、おかげさまで!」
須貝さんと通学するようになってからは痴漢されることも殆どなくなって、でも
「でも、彼女でもなんでもないのにこんなによくしてもらって…なんだか申し訳ないです」
がたん、と音がして電車が動き出す。
「…じゃ、俺と付き合う?」
「え?」
「なーんちゃって」
須貝さんはしてやったりな顔をして、私を覗き込む。
「…もう」
一瞬で飛び跳ねた心臓を誤魔化すように須貝さんを睨む。
「…大丈夫、降りたらちゃんと言うから。」
ぽん、と私の頭を撫でて須貝さんが呟いた言葉は、アナウンスにかき消されてよく聞こえなかったけれど、この胸の高鳴りがバレないように、私は小さく微笑んで、須貝さんの胸に体を預けた。
○○---午前9時、君に包まれながら---○○