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果たしてこれは正解なのか。
胸元まであった髪を肩あたりまでバッサリと切った。今の流行は外はねセットですよ、と美容師さんに言われた言葉を信じて、濡れ髪っぽくオイルで艶を出し…"抜け感"がどうたらこうたら。
はたちになったんだから、とちょっといい美容室でお任せのヘアスタイルにしてみたけれど…まだまだ鏡の中の私に自信が持てなくて。
「うーん…」
ぴぴ、と可愛らしい音で携帯が10時を知らせる。今日はQuizKnockの撮影のお手伝いの日だ。私は準備していた鞄をひったくるように取って、玄関の前でもう一度姿見をみた。あの人に釣り合う大人っぽさは、出せているだろうか。
「ううん、」
まつげにゆっくりと触れる。慣れないことしちゃってるなあ。耳元には大振りのピアスもつけて、リップはテラコッタ。
大人っぽさ、というのはなんて曖昧なんだろう。クイズみたいに丸かバツか鏡に写ったらいいのに。なんて思いながら、スヌーズが掛かる前にアラームを消して家を飛び出した。あの人は、気づいてくれるかな。
「あーれ!青ちゃん、今日なんかめっちゃ大人っぽいじゃん!」
オフィスの玄関に入って開口一番、私を褒めてくれたのはたまたまそこに居合わせたらしい伊沢さんだった。本当にこの人はよく見ている。
「え、えへ…わかります?」
改めて言われると、なんだかむず痒くて照れ笑い。
「わかるわかる〜!髪型と…リップもだ!」
ぐっと顔を覗き込むその距離の近さに思わずたじろぐ。
「ピアス…も天然石?みたいので可愛いね」
伊沢さんの大声で玄関口まで来た山本さんが、そんなピアス付けてるとこ初めて見たぁ。なんて伊沢さんの肩越しにひょっこり顔を出す。
「そうです、新しいの買って…」
「え〜、僕もみたいからそんなところで止めないでよ〜!取り敢えず早く中入らせてあげなって」
福良さんが開けっ放しの廊下のドアから笑いかけてくれた。
「…ほんまや、今日雰囲気違うね。」
リビングで記事の校正をしていたらしい川上さんまで珍しく声を掛けてくれて、思わず軽く頭を下げた。
「えへへ、なんか、照れちゃいます」
「ええやん、素敵と思うよ。」
少し驚いた顔だった川上さんはすっと微笑んで作業に戻った、このナチュラルさ、そりゃあモテるよね…!
(でも…河村、さんは)
奥のソファでなにやら小難しそうな本を読む河村さんをちらと見るも、やっぱり読書にお熱の様子で。
(...ですよ、ねー)
私は適当なデスクに腰掛けて、今日のお手伝いの内容を伊沢さんに確認した。
「はーい、今日の撮影終了!」
ふくらさんのお疲れ様でした、の声に合わせて頭を下げる。今日のお仕事はこれで終わりだ。
「じゃあ、私まだ今期の課題進捗ヤバめなので…早めに帰らせてもらいますね。」
別にそんなことはないんだけれど、なんだか気合を入れてしまった自分が…好きな人に気づかれなかったことが本当に恥ずかしくて、早めに帰る旨を誰というわけでなく、フロアに向かって言う。
「あら、もしかして誰かとデート?」
伊沢さんがニヤニヤと笑って私を見下ろす。
「だったらよかったんですけどね〜」
冗談めいて笑うだけで、ちょっぴり胸が痛む。
(ただの片想いですよー、だ。)
悪意のないその言葉に、胸の中で軽く悪態をつく。
「では、お先に失礼いたします。」
ぺこりと頭を下げると、いろんな方からお疲れ様、の声が聞こえる。頭を上げた先の河村さんは、今はラップトップに向かったまま難しい顔。きっと忙しいんだろう。彼女でもなんでもない、ただの仕事仲間の私のことなんか眼中にもないみたいで、でもやっぱり切なくて.すっと玄関に向かう。
編み上げのショートブーツを履き、ゆっくりと紐を結ぶ。
「はーあ」
「よくないため息ですね」
「あわっ?!」
今日一番聴きたかった声が、頭の上から降ってきて。思わず可愛げのない声を上げる。
「びっくりさせちゃいました?」
「し、し、しました…」
バクバクとうるさい心臓が、思わず口から出ちゃいそうなぐらいで。
そんな私のことなんてまるで知らない河村さんは、私と視線を合わせるようにしゃがんだ。
「髪型も、リップも、ピアスも…先を越されてしまいましたので」
「...?」
「青さん、」
ちょいちょい、と手招きをされて従うと、耳元に寄せられた唇。
(ブラウンのまつげも、とっても素敵です。)
ぼっと音が鳴ったんじゃないかというぐらい頬が熱くなって、思わず身体を離す。
「いつも素敵ですけど、今日は特別に…可愛いです」
柔らかい微笑みと共にぽん、と頭に置かれた掌。
「じゃ、また明日。」
河村さんはまるでなんでもないように立ち上がって、ひらひらと手を振りリビングに戻っていった。
「な、な…なん…」
(なんて、ずるいんだ!)
すっかり蕩け切って語彙の無くなった心の中で叫ぶ。すっかり緩んでしまった頬は、私がまだまだ子供の証。
抜け感のブラウン
(もー。河村さんが褒めないから青ちゃん拗ねて帰っちゃったじゃん)
(...気づかなかった伊沢には言われたくないね)
(なんのこと?!)