ブルーアワーに魅せられて
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細く開けていた窓がかたりと鳴って、湿った空気が部屋の中に流れ込む。降ってきたねと小さな声で呟くと、隣に腰かけていた男が手にしていた書類から目を離し私の方へ視線を向けた。
「……よく、気がついたな」
「この辺りは街路樹が多いでしょう?」
花壇の土が湿るから、雨の匂いがよくわかるの
「匂い、ねぇ……」
オレにはさっぱりわからんが
感心半分、呆れ半分の声を漏らすキースに軽く微笑んでソファから立ち上がり、風を入れるために開けていた窓に手を掛ける。滑り出し窓のハンドルは私の手には少し固く、なかなか閉まらない窓をがたがたと鳴らして悪戦苦闘していると背後から大きな手のひらがハンドルを握る私の指を柔らかく解いた。
──指、挟むぞ
低い音が耳元で優しく囁く。片方の掌が私の両手をひとつに纏めて、覆い被さるような体勢でもう一方の手だけを使って器用に窓を閉めてしまうとそのまま私の腹まで降りてきゅう、と緩く抱き締められた。ぱたぱた、大粒の雨が硝子を叩く音が静かな部屋に大きく響く。厚い雲が空を覆って薄暗い窓の外とは対照的に、LEDライトの明かりが照らす室内はやけに白くて目に眩しく、窓硝子に反射した男女の影が鮮明に映った。私の腰を抱いたキースが耳の縁に唇を寄せる表情が鏡写しにはっきりと伺える。表情が見えてしまうことで耳の裏と縁をなぞって登る、甘ったるいリップ音がいつもよりも鮮明で思わず視線を俯けた。照れてるのか?揶揄うような男の声が耳朶に直接吹き込まれる。……いじわる。小さな声で返した言葉を聞いて満足そうにキースは笑った。
ざぁ、と強い雨の音が締め切った窓の外から薄く聞こえる。
耳の縁をなぞっていた唇がゆっくり、音を立てながら首元まで落ちてくる。腹をゆるりと這い登った男の指が私のブラウスの釦を上からふたつ、外す音が静かな部屋にやけに大きく、響いた。襟を抜かれて顕になった首に引き攣れた、柔らかい痛みが走る。
「………っ」
息を詰め、痛みをやり過ごそうと窓の桟に手を掛けた私の頭上でブラインドのカーテンが閉まる擦れた音が聞こえた。ボタンを外した長い指が私の腰を掴んで抱き上げる。中途半端に浮かんだつま先が、伴う快感を逃しきれずにピンと伸びた。腿を這い、ストッキングを引っ掻くキースの指を手のひらで抑えてのろのろと首を相手の方に傾ける。昏い、橄欖石の色をした瞳が部屋の照明を反射してぎらりと獣の熱を湛えて跳ねた。指を伸ばして男の肩に触れ、首の付け根に軽く唇を這わせる。キースの喉が微かに震えて形のいい眉が一瞬苦しそうに歪み、男の声が私の名前を低く囁く。
腰を支える手のひらが、火照ったように熱くてお腹の奥にじわりと甘い痺れが走る。
──雨の、聞こえる部屋がいいの
腕を絡めた首元で、ぽつりと零した私の声に、キースは静かに頷いた。
────────
雨の音が静かな部屋に大きく響く。
ゆっくりと身体を持ち上げカーテンの隙間から外を伺う、真っ白いシーツが肌から滑り落ちて裸の肩が少しだけ、寒い。ぐったりと重い腕を動かして、脱ぎ捨てられた自分のものではないシャツを頭から被り緩慢な動作でベッドから足を下ろそうとしたところで背中越し、眠っていた筈の恋人にぼやけた声をかけられた。
「……帰るのか」
背後から衣擦れの音が聞こえる。私のお腹に腕を回して、甘える仕草で首元に額を押し当てるキースの髪をかき混ぜるように指を絡ませると気持ちの良さそうな唸り声のあげた後、もう一度、帰ってしまうのかと問いかけられた。薄暗く、ぽつぽつと街灯の灯りはじめた窓の外に視線を移す。ぱちぱち、音を立てて窓にぶつかる雨の粒が夕刻の街灯をじわりと赤橙色に滲ませた。止む気配のしない雨は深夜、未明まで降り続くだろうと朝のラジオが告げていたのを思い出す。少しだけ、考える素振りをしてキースの方は振り向かずに私はゆっくりを口を開いた。
「……傘を」
「傘を、忘れてきたの」
だから……まだ、帰れないね
子供みたいな私の言葉に、傘を貸そうか、と彼は言わない。首のあたりに顔を埋めたまま、そうかとひとこと呟いて、私の腹から腕を離すとキースは私の隣で猫のように身体を伸ばした。──私が傘を貸してと言ったらきっとキースは「明日の俺が濡れ鼠で出勤する羽目になる」そう言って、笑うのだ。帰したくないも帰りたくないも、言って困る関係ではない筈なのに私と彼はいつも何処かで一緒にいる言い訳を探している。私に先程まで着ていた服を取られたキースが雑に頭を掻きながら、クローゼットのシャツを引っ張り出すのをぼんやりと視線で追いかける。首から下がる細い鎖が室内灯を反射して鈍く光るのが目に入り反射的に自分の胸を服の上からそっと、撫でた。
大ぶりなシャツの中で、彼に贈られた揃いの指輪がちりりと囀る。
──早く、この人のモノになれればいいのに
恋人に、対する感情としてはやけにどろりと粘ついた感情が可笑しくて、喉からため息とも嘲笑ともつかない吐息がほろりと溢れた。
「……よく、気がついたな」
「この辺りは街路樹が多いでしょう?」
花壇の土が湿るから、雨の匂いがよくわかるの
「匂い、ねぇ……」
オレにはさっぱりわからんが
感心半分、呆れ半分の声を漏らすキースに軽く微笑んでソファから立ち上がり、風を入れるために開けていた窓に手を掛ける。滑り出し窓のハンドルは私の手には少し固く、なかなか閉まらない窓をがたがたと鳴らして悪戦苦闘していると背後から大きな手のひらがハンドルを握る私の指を柔らかく解いた。
──指、挟むぞ
低い音が耳元で優しく囁く。片方の掌が私の両手をひとつに纏めて、覆い被さるような体勢でもう一方の手だけを使って器用に窓を閉めてしまうとそのまま私の腹まで降りてきゅう、と緩く抱き締められた。ぱたぱた、大粒の雨が硝子を叩く音が静かな部屋に大きく響く。厚い雲が空を覆って薄暗い窓の外とは対照的に、LEDライトの明かりが照らす室内はやけに白くて目に眩しく、窓硝子に反射した男女の影が鮮明に映った。私の腰を抱いたキースが耳の縁に唇を寄せる表情が鏡写しにはっきりと伺える。表情が見えてしまうことで耳の裏と縁をなぞって登る、甘ったるいリップ音がいつもよりも鮮明で思わず視線を俯けた。照れてるのか?揶揄うような男の声が耳朶に直接吹き込まれる。……いじわる。小さな声で返した言葉を聞いて満足そうにキースは笑った。
ざぁ、と強い雨の音が締め切った窓の外から薄く聞こえる。
耳の縁をなぞっていた唇がゆっくり、音を立てながら首元まで落ちてくる。腹をゆるりと這い登った男の指が私のブラウスの釦を上からふたつ、外す音が静かな部屋にやけに大きく、響いた。襟を抜かれて顕になった首に引き攣れた、柔らかい痛みが走る。
「………っ」
息を詰め、痛みをやり過ごそうと窓の桟に手を掛けた私の頭上でブラインドのカーテンが閉まる擦れた音が聞こえた。ボタンを外した長い指が私の腰を掴んで抱き上げる。中途半端に浮かんだつま先が、伴う快感を逃しきれずにピンと伸びた。腿を這い、ストッキングを引っ掻くキースの指を手のひらで抑えてのろのろと首を相手の方に傾ける。昏い、橄欖石の色をした瞳が部屋の照明を反射してぎらりと獣の熱を湛えて跳ねた。指を伸ばして男の肩に触れ、首の付け根に軽く唇を這わせる。キースの喉が微かに震えて形のいい眉が一瞬苦しそうに歪み、男の声が私の名前を低く囁く。
腰を支える手のひらが、火照ったように熱くてお腹の奥にじわりと甘い痺れが走る。
──雨の、聞こえる部屋がいいの
腕を絡めた首元で、ぽつりと零した私の声に、キースは静かに頷いた。
────────
雨の音が静かな部屋に大きく響く。
ゆっくりと身体を持ち上げカーテンの隙間から外を伺う、真っ白いシーツが肌から滑り落ちて裸の肩が少しだけ、寒い。ぐったりと重い腕を動かして、脱ぎ捨てられた自分のものではないシャツを頭から被り緩慢な動作でベッドから足を下ろそうとしたところで背中越し、眠っていた筈の恋人にぼやけた声をかけられた。
「……帰るのか」
背後から衣擦れの音が聞こえる。私のお腹に腕を回して、甘える仕草で首元に額を押し当てるキースの髪をかき混ぜるように指を絡ませると気持ちの良さそうな唸り声のあげた後、もう一度、帰ってしまうのかと問いかけられた。薄暗く、ぽつぽつと街灯の灯りはじめた窓の外に視線を移す。ぱちぱち、音を立てて窓にぶつかる雨の粒が夕刻の街灯をじわりと赤橙色に滲ませた。止む気配のしない雨は深夜、未明まで降り続くだろうと朝のラジオが告げていたのを思い出す。少しだけ、考える素振りをしてキースの方は振り向かずに私はゆっくりを口を開いた。
「……傘を」
「傘を、忘れてきたの」
だから……まだ、帰れないね
子供みたいな私の言葉に、傘を貸そうか、と彼は言わない。首のあたりに顔を埋めたまま、そうかとひとこと呟いて、私の腹から腕を離すとキースは私の隣で猫のように身体を伸ばした。──私が傘を貸してと言ったらきっとキースは「明日の俺が濡れ鼠で出勤する羽目になる」そう言って、笑うのだ。帰したくないも帰りたくないも、言って困る関係ではない筈なのに私と彼はいつも何処かで一緒にいる言い訳を探している。私に先程まで着ていた服を取られたキースが雑に頭を掻きながら、クローゼットのシャツを引っ張り出すのをぼんやりと視線で追いかける。首から下がる細い鎖が室内灯を反射して鈍く光るのが目に入り反射的に自分の胸を服の上からそっと、撫でた。
大ぶりなシャツの中で、彼に贈られた揃いの指輪がちりりと囀る。
──早く、この人のモノになれればいいのに
恋人に、対する感情としてはやけにどろりと粘ついた感情が可笑しくて、喉からため息とも嘲笑ともつかない吐息がほろりと溢れた。