大きなあなたと
あなたの名前は?
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れい君が戻ってくるのをリビングでテレビを見ながら待っていた。
テレビを見ているとは言ったが、内容はほとんど頭に入ってきていない。
私の頭の中を占めるのは、れい君が再びここにやってきたのはどうしてなのか、ということだった。
ただいくら考えたところで私の中で「これだ!」という答えは見つからなかった。
いや、別の世界からやってくるってそもそも意味が分からないからね?
逢えたのは嬉しいけど、そう何度も行ったり来たりするもんじゃないよね?
れい君が自分の意思で来てるんならいいけど、そうじゃないから心配になってしまう。
ふう、と息を吐いて、テーブルに乗せていたお茶を飲む。
「………ぬる」
随分と考え込んでいたようで、お茶はとっくに冷めてしまっていた。
テレビもいつの間にか別の番組になっている。
時計を見ると、れい君がお風呂に入りに行ってから1時間が経とうとしていた。
「……れい君、遅くない?」
これまでの経験上、こんなに長風呂だったことなかった。
急に心配になり、悪いことばかりが頭の中をよぎる。
まさか、溺れてたりしないよね…!?
やっぱり一緒に入ればよかったかな!?
こうなったら確かめないわけにはいかない。
小走りで脱衣場の扉の前までいき、扉にぴったりと耳をつけてみる。
……ドライヤーとか使ってる様子もない。
ドア越しでは聞き取りにくいが、シャワーとかの水音もしていないような気がする。
「れい君?」
返事が、ない。
一気に血の気が引いてきた。
ああ、れい君に何かあったらどうしよう!
私は、ノックするのも忘れ、勢いよく脱衣場の扉を開けて中に飛び込んだ。
「れい君!
死なないでぇぇぇぇぇっ!!」
「っ!?」
「いったぁ!?」
脱衣場から浴室に猛ダッシュしたつもりが、浴室の扉へはたどり着けなかった。
途中で何かにぶつかった。
びくともしなかったそれとは反対に私は自分の勢いの反動で後ろに倒れそうになる。
何にぶつかったかわからないが、鼻痛い!
そして後ろに倒れる感覚が分かり、お尻も絶対痛くなるな、これ…とどこか冷静な私が頭の中で呟いた。
綺麗な受け身が取れたらいいのに、なんてできもしないことを考えながら痛みに耐え、目をきつく閉じた。
「…………?」
「……大丈夫ですか…権兵衛さん」
いつまで経っても、予想していた痛みは来なかった。
それどころか、なんか………支えられてる?
しかも、喋った。
え、誰。
私は、そっと目を開けてみる。
目を開けた私の目の前には……イケメンが居た。
驚いたような困ったような顔をしたイケメンお兄さんにどうやら支えられたことで倒れなかったらしい。
私はこれでもかってくらい目を見開いてしまった。
何のご褒美タイムですか?
しかし、今はご褒美を堪能している場合じゃない!
れい君の安否を確かめねば!
取り敢えず助けてくれたイケメンお兄さんの腕から抜け出ると、浴室の扉をばんっと開ける。
「れい君!
……………あれ………れい君?」
風呂場には誰もいなかった。
浴槽の中も覗いてみるが、れい君の姿は何処にもなかった。
どうなってるの?
意味が分からなくて呆然としていると、後ろから声をかけられた。
さっきのイケメンお兄さんだ。
いや、イケメンなお兄さんだが……何で私の家の脱衣場にいるのでしょうか。
恐る恐る振り返ってみて、さらに私は驚くことになった。
さっきは慌てていたため、イケメンだってことしか気付けなかったが、今、その存在を認識した。
めっちゃくちゃ安室さんに似てる…!
声もめっちゃ安室さんなんですけど…!
しかも……タオル一枚の裸体とはどういう……引き締まった体がたまらんです。
あまりにもガン見し過ぎてしまったせいか、安室さん似のイケメンお兄さんは居心地が悪そうだった。
「あの、権兵衛さん」
「………ど……どどどちらさまですか…!?」
「落ち着いて…と言われて落ち着けるかわかりませんが、怪しいものではありません」
「え………」
「今、怪しすぎるって思いました?」
「あ、はい」
「僕もそう思います」
思わず素直な返事が出てしまったが、お兄さん自身も複雑そうで苦笑していた。
ふっと、その表情がれい君と被る。
目の前にいる人は完全に大人であるが、髪や目、肌の色、それに表情や仕草、言葉のニュアンスが、れい君と被る。
でも、そんな馬鹿なことが……と思ったが、そもそも別の世界からやってくるなんてこと自体が、信じられない話だ。
急に成長しても不思議じゃないのかもしれない。
そう言えば、れい君は自分は大人だって前も言っていたな。
…今日来た時も、服装は大人の服を着ていた。
「…………もしかして……れい君?」
「……どうして、そう思いますか?」
「…女の勘?あ、母の勘」
「お母さん、とは呼ばないって言ったじゃないですか」
あ、これはやっぱりれい君だな。
うちの子こんなに大きくなって……ああ、溺れたとかじゃなくて良かった。
安心したら急に力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
大きくなったれい君は、そんな私に慌てたようで、視線を合わせるようにしゃがんだ。
「権兵衛さん!大丈夫ですか?」
「あはは………あんまり出てこないから、れい君、溺れたんじゃないかと思って…。
良かった……大きくなっただけで…」
「……すみません」
「ううん、れい君のせいじゃないから大丈夫よ」
「……頭撫でなくていいです」
「あ、ごめんね、つい」
ああ、れい君って背が高いなぁ、なんて思いながら、心配そうな顔をするれい君の頭に手を伸ばした。
急に大きくなって驚いたけれど、れい君はれい君だね。
「あ、そういえば、さっきは受け止めてくれてありがとう」
「いえ、まさか突進してくるとは思いませんでしたけどね」
「それだけ心配したってことー」
後から思えば、かなりパニックになってたんだな、自分。
それにしても、目の前のれい君に目をやる。
そろそろ服を着てもらおうかな…目の保養だけど、風邪引いたら大変だ。
「れい君、服着ておいでよ」
「え?あ、そうですね」
「私は…うん、このままお風呂入っちゃうから…リビングで待ってて?」
「え」
「ん?」
「あ、いえ、何でもないです。
ごゆっくりどうぞ」
にっこりと笑ったれい君は、本当に安室さんそのもので。
私は、れい君の本当の名前を知らない。
れい君が居た世界の事もほとんど知らない。
前に一度、『名探偵コナン』の事について聞かれたことがあった。
もしかして、れい君は…。
ああ、やめよう。
必要なことならきっと本人から話があるだろう。
私が踏みいっていい話じゃないかもしれない。
というか、これ以上は、キャパオーバーです。